俺の恋人、メンヘラインキュバスなんだが? 作:キージェンエグゼ
俺の肌という肌から、ぶわっと冷や汗が吹き出す。
なんでリヴィが隣にいる!? しかも、しかも恋人ってどういうことだ!
「な、なんでリヴィが!?」
リヴィはにこっと笑って、俺の手をぎゅっと握った。あったかい……。
「混乱してるのも分かる。でも、これは運命だから」
お前が言い出したくせに「うんうん」って頷いてるんじゃねぇ!
運命ってなんだよ! 頭が追いつかねぇよ!
リヴィは指を立ててベッドの脇を指差した。俺もつられて目をやる。
……そこには、使用済みのゴム。
「えっ」
まさか……まさかこれは……。ヤっちゃったって……こと?
俺、DT卒業してる……!? でも、ま、待てよ。
リヴィって、たしか……男だよな?
ってことは……ヤったんじゃなくて、ヤられた……?
俺の脳内に警報が鳴り響く。
「もう……婿に行けない……!」
思わず、両手で顔を覆った。リヴィはポカンとした顔で俺を見て、
「大丈夫だよ、挿れたのは君の方だから」
……。
「……って俺なにしてんだ昨晩の俺──ーッ!!?」
リヴィはそんな俺を見て、くすくすと笑う。頭を撫でてきた。なにその慈愛の手。
「ふふ、かわいいね。ユウヤくん」
「なんで俺の名前知ってんの!?!?」
「ヨシミ ユウヤ、20歳、血液型B型、日本国調査局第立川駐屯地所属──」
リヴィは俺のドッグタグを見ながらスラスラと読み上げた。
ああああ! しまった! 酔っててもタグは外しとけよ俺ぇぇぇ!
「君、調査局なんだ。へぇ……」
リヴィはタバコを取り出して火をつける。どこか楽しげな顔。
俺はというと、もう放心状態だった。自分の人生がエンタメ化してる気すらしてくる。
「吸う? 一服したら、少しは落ち着くかもよ?」
火のついたタバコを差し出される。リヴィの口に触れたやつだ。
人生初タバコが、こんなシュールなシチュエーションでいいのか?
「……一本だけな」
俺は意を決して吸い込んだ。肺に入れた瞬間、強烈な甘さとむせ返るような煙が襲ってくる。
「ゲホッ! なにこれ、あっま!?」
リヴィは俺の咳き込む様子を見て、けらけらと笑った。
「あはは、やっぱ初心者だとそうなるか~。それね、ラズベリーとバニラとミント混ざってるやつ。美味しいでしょ?」
確かに味は……甘かった。というかスイーツかよ。
「これ、日本じゃ売ってないから個人輸入してるんだ。一本3000円。高級嗜好品ってやつね」
「……たっっか!」
「まぁ、気分落ちてる時でも、これ吸えばなんとなくマシになるんだよね。貴族の余裕、ってやつ?」
確信した。リヴィ、絶対ただ者じゃない。
「ここ、どこなんだ……?」
恐る恐る聞くと、リヴィはあっさり言った。
「俺のマンション」
「え、部屋じゃなくて……?」
「マンション“全体”が、俺の」
「は? (停止)」
俺の手が、タバコを持ったままフリーズした。
「自分で言うのもあれだけど、俺、けっこう金持ちなんだよね。親がアメリカの半導体企業の社長で~。あ、あと俺、ビリオネアでもあるし」
テンション軽っ! 内容重っ!
リヴィは俺の手を取って、目をじっと見つめて言った。
「それを加味して──俺と、ちゃんと付き合わない?」
俺の脳みそは完全にキャパオーバーで沈黙した。
ただ一つ、心の奥で確信だけがこだましていた。
──とんでもないモノに、手を出しちまったかもしれない。