俺の恋人、メンヘラインキュバスなんだが? 作:キージェンエグゼ
リヴィをなんとか説得して、俺はどうにか帰ることができた。いや、帰してもらえたという方が正しいか。あの様子じゃ、あと一歩遅ければ本当に監禁されていたかもしれない。
マジで洒落にならない。……くそ、調子に乗ってナンパなんかするんじゃなかった。
電車に揺られながら、俺は東京・立川にある駐屯地を目指す。そこには調査局の寮がある。局員向けの共同寮で、住居費無料、設備も悪くない。ちょっと古いけど、調査帰りに眠れるベッドがあるだけでもありがたい。
「……ただいま」
自分の部屋に入り、靴を脱いだところで、ふと異変に気づく。空気の重さ。違和感。何かがいる——というか、誰かがいる。
この部屋は二人部屋だが、ルームメイトは今任務で不在。つまり、今この瞬間、俺以外にいるのはおかしい。
俺は足を止め、視線を室内に巡らせた。
「……誰か、いるのか?」
即座に警戒モードに入る。ここは調査局の寮。民間人どころか、局員ですら許可がないと入れないはず。侵入者なんて、まず——
「じゃじゃーん♪ 俺だよ、ユウヤくーん!」
「はああああああっ!?」
突如、俺のベッドからぬっと現れたのは——見慣れた茶髪のクソ男、リヴィだった。パリッとしたスーツ姿で、俺の布団を勝手にかぶって、まるで自分の家かのように登場しやがった。
あまりの衝撃に、俺はその場で尻もちをつく。
「な、なんでお前がここに……!? どうやって入ったんだよ!」
慌てて立ち上がろうとする俺を、リヴィはにこにこと見下ろしてくる。
「当ててみてよー。どうやって入ったと思う?」
「クイズじゃねえよ!! っていうか通報するからな、今すぐ出て行け!」
スマホを取り出そうとしたその瞬間、リヴィがひらりと手を挙げた。
「うん、無駄だよ。寮の受付、俺が来るって言ったら快く通してくれたし?」
「はああ!? なんでだよ!?」
「んー、そうだなあ……。『もし俺を追い返すなら、調査局への装備提供、全部打ち切るね』って言ったら通してくれたの」
「お前、何言って……」
理解が追いつかない。だが、次の一言で俺は完全に言葉を失った。
「……あれ、言ってなかったっけ? 俺さ、調査局が使ってる銃器とか防具を作ってる《USミリタリーシステムズ》って会社の役員なの」
——え、役員?
いやいや、待て。あの超大手、軍需産業の? 米軍とも取引ある、あの会社の? 嘘だろ……。
「え、なに、どういうこと……まさか、お前……それ、マジで言ってんのか?」
「うん、マジ。嘘ついてどうすんの? 君の部屋に入るために会社の名前使って圧かけるくらい、俺にとっては日常茶飯事だよ?」
「イカれてる……!」
俺は思わず呟いた。こいつ、正真正銘のヤベー奴だ。金も権力もあって、それを全力で個人の恋愛に使ってくるやつ、見たことねぇよ。
「ふふっ、そんなに驚かないでよ。君とちょっとでも一緒にいたいだけなんだからさぁ?」
「ちょっとでも一緒にいたいって、お前……!」
言い返そうとした瞬間、リヴィが俺の肩に手を置いてきた。軽い笑みを浮かべながらも、その瞳は真っ直ぐ俺を捉えていて、不思議と冗談めいた気配はなかった。
「ユウヤ、俺、本気だから」
一瞬、心臓がドクンと跳ねた。その声音は静かで、どこか切実だった。思わず息をのむ。けど
「……で、シャワー借りていい?」
その一言で全部ぶち壊しだ。
「はああああ!? 帰れっつってんだろ!!」
俺の怒鳴り声が寮の廊下にまで響いた。リヴィは全く動じず、スーツの上着を脱ぎ始める。ふざけんな、なんで当然のようにくつろごうとしてるんだよ!
「ほんと君って可愛いなぁ、反応が毎回新鮮で飽きないよ」
「ストーカーのセリフじゃねぇか! 帰れよマジで!」
本気で帰ってくれ、この変態。俺の日常が、静かに崩壊していく気がした——。