俺の恋人、メンヘラインキュバスなんだが?   作:キージェンエグゼ

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悪くない

「う、あ……」

 

 ベッドの上で目覚めた。昨晩の余韻が体に残っていて、ぼんやりとした意識が徐々に現実に引き戻されていく。隣には、リヴィが寝息を立てながら寝ていた。毛布から少しだけ覗く整った横顔。やっぱり、顔は超がつくほどの美形だ。こうして寝ている姿すら画になるのが、なんだか悔しい。

 

 ……やっちまったな、俺。

 

「ん、起きたんだ」

 

 タイミングを計ったように、リヴィが目を覚ます。寝ぼけ眼でこちらを見つめてきた。ぼさっとした寝癖と、擦りながら開く目がいつもより幼く見える。

 

 目が合わせられない。合わせたら、昨晩のことを思い出してしまいそうで。恥ずかしさが込み上げてくる。……でも、俺とリヴィは恋人——なんだよな? だったら、こんなふうに照れてるのも変な話か?

 

「あぁ……おはよう」

 

 声がうわずってしまう。やばい、こういうの本当に慣れてない。どうすればいいんだ。クソ、まるでDTみたいじゃないか。いや、実際つい最近までDTだったし、むしろこれは当然の反応か……?

 

「シ、シャワー浴びてくる」

 

 逃げるようにベッドを降り、浴室に向かう。浴びるようにお湯を浴びながら、昨晩のことや、今後のことを考えた。

 

 俺たち、互いのことをまだよく知らない。名前と仕事と、少しの過去。それだけだ。それなのに、こうして身体の関係を持ってしまった……。いや、後悔はしていない。してないけど、何かが足りない気がする。

 

 リヴィのこと、俺は受け入れ始めてるんだろうか。あのストーカー気質で、束縛の激しい変態を?

 

 鏡を見る。湿った髪をかき上げると、うっすらと浮かぶ淫紋が見えた。リヴィに刻まれた呪印のようなそれは、まだくっきりと残っている。これがある限り、俺はリヴィの言いなり。従わせるための証。それを、なぜか——「悪くない」と思ってしまっている自分がいる。

 

 この印の存在にすら、ある種の安心感を覚えているなんて。……やばいな、俺。

 

 そんな思考を断ち切るように、浴室の扉が勢いよく開いた。

 

「あ、もう上がったんだ」

 

「ひゃっ」

 

 突然の声に情けない声が漏れてしまう。タオルで体を拭いていた手が止まり、視線がリヴィに向いた。

 

 リヴィは俺の体をじっと見つめてから、ぽつりと呟いた。

 

「いい体……」

 

 俺の顔が一気に熱を帯びる。シャワーで温まっていたのもあるが、それ以上に、純粋な視線と褒め言葉が恥ずかしかった。

 

 努力して鍛えた体ではある。無駄な筋肉はつけず、動ける体を意識して作ってきた。でも、こんなふうに真剣な顔で褒められると、やっぱり悪い気はしない。

 

「ねえ、触っていい?」

 

「……いいよ」

 

 口が勝手にそう答えていた。

 

 リヴィはそっと俺の背中に手を伸ばし、指先でゆっくり撫でた。その感触にくすぐったさと、妙な心地よさが混ざって、体が少しだけ震える。

 

「すっご、ムキムキじゃん……ああ、やっぱこういうの好きかも」

 

 好きかも、ってなんだよ……。いや、嬉しいけどさ。

 

「……あんま触ってないで早くシャワー浴びろよ」

 

「わかったぁ」

 

 意外と素直に返事をしてバスルームに入っていくリヴィの後ろ姿を見ながら、俺は胸を撫で下ろした。少しほっとしたような、物足りないような、なんとも言えない感情が胸に残った。

 

 リヴィが風呂に入っている間、俺は朝ごはんを用意することにした。といっても、冷蔵庫にあるもので簡単に作れるものだけだ。目玉焼き、ウィンナー、千切りキャベツ。それと、コーヒーを淹れる。パンは、リヴィが風呂から出てから焼こう。焼き立てじゃないと美味しくないしな。

 

 しばらくしてリヴィが上がってくると、バスタオルを髪に巻いたまま、台所の様子を見て目を輝かせた。

 

「作ってくれたの!」

 

「まあ……そんなに喜ばれても困るけどな」

 

「ううん、とっても嬉しいよ。……まるで、新婚さんみたい」

 

 新婚……って、今の状況がか?

 

 冗談にしてはリアルすぎる一言に、俺は一瞬動きを止めてしまった。笑って返そうとしたけど、喉がうまく動かなかった。

 

 2人で食卓につき、朝ごはんを食べ始める。いつもの何気ないメニューなのに、妙に温かく感じる。誰かとこうして並んで食べるのは、何年ぶりだろうか。

 

「ねえ、ユウヤはどんな女の子がタイプだったの?」

 

 唐突な質問に、少しむせそうになった。

 

「は? いや、そんなの……別に考えたことないけど」

 

「ふーん……。じゃあ、俺のことはどう思ってる?」

 

「……どうって。変態だけど、美人だと思うし……正直、惹かれてる」

 

 俺がそう答えると、リヴィは嬉しそうに微笑んだ。その目には、どこか狂気じみた光が浮かんでいた。

 

「そっか、よかった……じゃあ、もう逃げないでね。ユウヤは、ずっと俺のものだから」

 

 コーヒーカップを持つ手がわずかに震える。だが、不思議と嫌な気持ちはしなかった。

 

 この異常な執着すら、今の俺には「温かさ」の一部のように思えてしまっていた。

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