俺の恋人、メンヘラインキュバスなんだが? 作:キージェンエグゼ
東京都の郊外、そこには喧騒とかけ離れた街の中、一際目を惹く建物がある。それは教会だ。教会の中では懺悔が行われていた。
「シスター・エクスキューショナー、私は誰からも愛されているように感じません。どうすればいいのでしょうか」
一人の男がシスターに悩みを打ち明ける。シスターはにこりと笑い、口を開いた。その姿はまるで、小さな子どもをあやす母親のようだった。
「なにも心配はありません。いいですか、この言葉を心に留めてください……。
『世界があなたを嫌っても、
どうか気を病まないでください」
男の黒く落ちた目は、少しだけ輝きを取り戻す。そして、嗚咽混じりに感謝の言葉を口にする。
「ありがとう、ありがとうございます……」
「さあ、皆さん。祈りましょう。きっと主は私たちに祝福を与えてくれます」
教会にいた人々は胸元で両手を組み、静かに目を瞑った。祈りの声が静かに教会を包み込む。その光景を見て、シスターは優しく祈りの言葉を捧げた。
「主よ、どうか私たちに御加護を……」
やがて祈りが終わり、人々は帰っていく。残されたシスターは静かに教会の奥へと進んだ。重厚な鉄の扉を開けると、そこには地下へと続く石の階段があった。ろうそくの灯りが壁にゆらゆらと影を落とす中、ゆっくりと降りていく。
「気分はいかがですか?」
その先にいたのは、椅子に縛られた一人の女だった。女は衰弱しきっており、悪魔の尻尾が力なく垂れている。魔族の証だ。
「許してください! なんでもしますから!」
女は目を見開き、必死に許しを乞う。だが、シスターは一切表情を変えなかった。
「あなたは今日、罪から解放されます」
その手には巨大な処刑斧。振り上げられたそれが、無慈悲に振り下ろされた。
「やめ、やめてぇ!」
悲鳴は鋼の切断音とともに止む。魔族の首は一瞬で斬り飛ばされ、返り血がシスターの修道服を赤く染めた。
「魔族に生まれる。それは許されない罪なのです……」
そう呟いたシスターは、壁に貼られた一枚の写真を見つめる。その写真には、リヴィの姿が映っていた。
「次はあなたを罪から救わなければ」
シスターは静かに微笑んだ。まるで神の愛を語るように。
「主のみが、人を救ってくださる」
俺はソファに座りながら考えていた。昨日、明らかに何者かの気配を感じた。リヴィは気づいていないようだが、間違いないと確信している。
「どうしたの? なにか考え事?」
俺の膝の上に、当たり前のようにリヴィが座ってくる。本当のことを教えたら面倒なことになりそうだ。だから、適当にごまかす。
「あーいや、明日から仕事だからさ」
「仕事ってどれくらいで帰ってくるの?」
今週は警備任務だ。最低でも1週間は帰れない。
「1週間はいなくなるかも」
「えっ」
リヴィは酷く落ち込んだ顔をする。ああ、そんな顔されると胸が痛む。
「そんなの嫌だよ!」
「でも仕事だからなぁ……」
「俺が養ってあげるからさ、ユウヤは働く必要なくない?」
確かにリヴィは恐ろしいほど金持ちだ。頼れば生きていける。でも、それじゃあ俺は──。
「でも、リヴィに頼りっぱなしになるのが嫌なんだよ。別にリヴィに頼るのが嫌なんじゃないけど……」
正直な気持ちを伝える。するとリヴィは少し納得したようにうなずいた。
「わかったよ。でも次の休みは、絶対にずっと一緒にいようね!」
「……ああ。約束する」
不意に、リヴィがキスをしてきた。不意打ちだったから、少し驚いた。
「ん……ユウヤ、大好き。愛してる」
その言葉が、1週間の任務を後ろ髪引くものに変える。
「……俺もリヴィのこと──」
言いかけた言葉が、喉で詰まる。
「あー、最後まで言ってよ!」
いじけるリヴィを見て、なんとなく安心した。
「帰ってきたら、最後まで言うよ」
俺はリヴィの顔をしばらく見つめていた。どこか、不安を拭いきれないままに。