「あいつ何処に行きやがった……うん?」
無一文でシャボンディ諸島に下り立った船長の事を仲間たちから頼まれ、デュースが探しに行くと、街中で騒ぎがあった。
騒ぎに目を向けると……
「食い逃げだぁぁぁぁぁ!!」
「そっちに行ったぞ!!」
探していた船長が強面の男の従業員たちに追いかけられていた。
「てめえ!!俺たちに何かする事はねえのか!?」
「あっ?さっきの料理屋のコックたちか?美味しかったぜ。ご馳走様でした」
「……ふざけんな!?金払え!!」
強面の男の従業員たちは鬼の剣幕でエースに詰め寄るが、エースはそんな事を気にしたそぶりも見せずに礼儀正しく頭を下げる。
そんな舐めた態度をするエースの姿にみるみると顔を赤くして怒鳴る強面の男の従業員たち。
「じゃあな!!」
「待ちやがれ!!」
エースは陽気な笑みを浮かべながら片手を上げて逃亡していった。
強面の男従業員たちはエースを追いかけていく。
目の前にはエースの居場所を示すように被害にあった従業員たちの長蛇の列が出来ている。
例えるならエース食い逃げ被害者の会である。
「仕方ねえ……話し合いが必要のようだ……」
デュースは眼光を鋭くすると長蛇の列の最後尾にいた強面の従業員の肩を掴む。
「おい」
強面の従業員が振り返るとデュースは微笑みを浮かべる。
「おいくら……ですか?」
デュースはそのまま強面の男の従業員たちに頭を下げ金を払い、頭を下げ金を払いを繰り返し着実に前に進んでいく。
「やっと見つけた」
エースの姿をもう一度見かけたのは、シャボン玉を使った多くのアトラクションが並ぶ遊園地、シャボンディパークの観覧車の下であった。
どうやらエースは、敷地内にある屋台の匂いに誘われてここまできたようだ。
「すいませんでした!!」
「もう二度と食い逃げなんてすんじゃねえぞ!!」
デュースが最後の一人に頭を下げて謝りお金を払い終わると、やっとエースの元に行ける。
エースは観覧車近くのベンチに座り、あろうことか寝ていた。
口の中に大量の食べ物を詰め込んだまま、気持ちよさそうに眠っていたのだ。
両手には、まだ食べかけの串焼き肉がしっかりと握られていた。
つい先程デュースが払い終わった物だろう。
「メシを食ったら金を払え!!」
デュースはエースに真っ当な説教をしながら手刀を叩き込む
「んぐっ!?」
頬を膨らませたエースが目を覚ました。
寝ぼけ眼であたりをキョロキョロと見回して、口の中の物を一気に飲み込む。
「ぷはっ、食った……食ったし走った。あ、走ったからまた腹減ったな……」
「一体どうなってんだお前の身体は……ほらよ、面倒事、起こすんじゃねえよ」
手に持った串焼き肉を軽々と食べ終え、別の屋台に向かおうとするエースにデュースは財布を投げ渡す。
「俺の財布!……なんか中身減ってねえか?」
「そりゃあ減るだろう」
「……?」
いまいちピンときてない様子のエースを尻目に、デュースはひと息ついた。
子供たちの歓声を聞きながら、なにとはなしに観覧車を見上げる。
真下からみた観覧車は船で見たときより美しく、透明で虹色に輝くゴンドラが優雅にそしてゆっくりと回転しながら陽の光にきらめいていた。
(どんな景色なんだろうか?まあ、大の大人がひとりで乗る物じゃないだろうな……ましてや俺は海賊……)
「乗りてえのか?」
屋台から帰ってきたエースが観覧車を見ていたデュースに問いかける。
「俺がか? 観覧車に? ガキじゃあるまいし……」
デュースは鼻で笑いながら憎まれ口を叩くが本心とは別の言葉である。
「乗ったことあんのか?」
「いや、ねぇけども……」
エースの問いかけに首を横に振るデュース。
「じゃあ良いじゃねえか。せっかくだし乗ってみようぜ!ネミットが観光するならシャボンディパークの観覧車がおすすめって言っててよ。気になってたんだよ」
「へえーあいつがね」
エースは陽気に笑いながらデュースの背中を押す。
デュースは興味なさそうにしているが内心わくわくとしながら乗り物に歩みを進めていく。
「はーい! それではシャボンディ諸島の素敵な景色をお楽しみくださ~い!!」
ニコニコと笑顔を絶やさない係員に誘導されてステップを登ると、シャボン玉を加工して作られたゴンドラがゆっくりと近づいてくる。
係員が扉に手を付けた瞬間……
「ようやく見つけたぞ……火拳!」
凄まじい剣幕でイスカが強引にゴンドラの中へ踏み込んできた。
「うわ、バ、バカ、お前……!」
デュースは壁際に押し込まれる。
「貴様、コソコソと逃げ回って!何で正面から出てこない!!」
「お前がいただろうが」
「なにぃ?それでも正面から来い!男だろ!」
「無茶言うんじゃねえ!」
エースに食ってかかるイスカ。
二人の口論が始まった直後……
ガチャリ……
「んっ……?」
振り返るイスカ。
ゴンドラの扉は音と共にロックされていた。
有無を言わず観覧車は動き出した。
「どうしてこうなった……」
ゴンドラ内は何とも居心地が悪い空間だった。
デュースはゴンドラの壁際に身を縮ませるように座り、隣に座るエースは、のんきに窓の外の景色を楽しんでいる。
「……」
イスカは不機嫌そうに向かい合って座り、外の景色には見向きもせず無言でエースとデュースを睨んでいた。
(降りてぇ……!!何で海軍と海賊が同じ観覧車に乗ってるんだ!?これ乗ってても降りても地獄だろう!?)
デュースは息苦しそうに心の中で叫ぶ。まるで監獄のように感じていた。
幸い狭いゴンドラの空間の中でイスカは揉め事を起こす気はないようで安心はするが、ゴンドラが地上に降りたら自分たちはどうなるのかと心配する。
「へえー地面から出たシャボン玉って、上まで行くと消えるんだな!」
(エースよ、お前は何故そこまで平然としてられるんだ?やつが、イスカがめっちゃ見てるんだぞ……目から光線が出ても可笑しくないぐらい見てるんだぞ)
エースはのんきに空を見上げていた。
そんな様子のエースの姿を見たデュースは心の中でツッコミを入れる。
「……」
エースの様子にイスカの視線が更に厳しくなったのは言うまでもないだろう。
デュースはイスカの眼光から避けるように、何気なくその手元に目をやる。
イスカの手には酷いやけどの痕があり、エースたちが初めて出会った時にも見たやけど痕。改めて見るとずいぶん古い傷のようだ。
「気になるか?」
「……!?」
ふいにイスカが口を開いた。突然のことにデュースは身構える。
ゴンドラ内に沈黙が流れた。
「手のやけど痕がだ、そんなに気になるのかと聞いたんだ」
「ああ……いや、すまん……」
「いいんだ」
ようやく言葉の意図を理解したデュースは気まずそうに謝り、イスカはそんなことを気にせずに微笑んだ。
「この傷は幼い頃のものだ。私の生まれた故郷は海賊に襲われてな。村は瞬く間に火の海にされたんだ。その時の火災に私と両親も巻き込まれ……両親は……亡くなった……」
イスカは目を閉じて自身の過去を思い出しながら話していく。
“火”という単語に、エースが僅かに反応を見せるがそのまま黙って窓の外に視線を向ける。
過去……
「助けてくれ!!」
「逃げろ!!」
「くそ!?海賊の奴ら!!」
人々が笑い平和だった村に海賊が突如襲来する。
海賊に襲われてしまった村はあっという間に火の海となり、人々の悲鳴が村中に鳴り響く。
「お母さん!!お父さん!! 熱い、熱いよ……」
朱色の長い髪の少女ははぐれてしまった両親を必死に呼ぶが返事はない。
少女の周りは炎と煙に巻かれてしまっていた。
「助けて……誰か……助けて……」
少女は身動きがとれなかった。
次第に助けを呼ぶ声も小さくなっていく。
「ああ。ぜってぇ助ける! ……黒鬼の絶拳!!」
少女の小さな声に答えるように大声が聞こえると地面が割れながら衝撃波が飛び、少女を囲んでいた炎と煙を吹き飛ばす。
「もう大丈夫だ」
「あっああ……」
「よく頑張ったな」
助かったことに安堵して涙を流す少女を優しく抱き抱える“正義”と書かれたマントを羽織る海軍の青年。
「この子を頼む!!」
「は、はい!!」
海軍の青年は少女を海兵に預ける。
「貴方は……?」
「俺はゼットだ。またな嬢ちゃん」
海軍の青年、ゼットはそのまま拳を振るい、衝撃波で燃え上がる炎と煙を吹き飛ばしながら逃げ遅れた人を助けて行ったのである。
その後村を襲った海賊たちはゼットやその部下たちに捕らえられた。
現在……
「炎と煙に包まれて身動きが盗れなくなってしまった私は、現場に駆けつけた海軍将校に助けられた。ゼット大佐だ。今では出世されて海軍大将まで上り詰めた。その人に……ゼット大将に憧れて私は海軍に入ったんだ」
話は現代に戻り、イスカの恩人と自身が海軍に入隊した理由を話していた。
「この手を見るたびに幼い頃の自分を思い出す……これ以上、私と同じ思いをする子供を増やしたくない。だから、悪い海賊をみんなこの私が捕まえてやるんだ」
手のやけど痕を見ながら自身の決意を言葉にするのであった。
真剣な表情でエースを見ると……
「火拳……お前……海賊をやめろ」
予想せぬ言葉に息を飲むデュース。
「私には、お前が悪人には思えないんだ……」
ゴンドラ内には、依然としてゆったりとした時間が流れていた。
しかし気づけば、パーク内の子供たちの喧騒は遠いものとなっていた。
ゴンドラが、観覧車の頂点に近づいていたのだ。
エースは黙って外を眺めている。
「な、何言ってんだお前……海賊をやめて、海賊をやめたら俺たちは……どうしろって……」
デュースはまじまじと目の前の女少尉を見ながらしどもろに呟くが声はかき消える。
「居場所がないのなら海兵に来い。私が推薦してやる」
イスカは意思の強い瞳で真っ直ぐにエースを見つめる。
「お前ならきっと海兵の制服も似合うぞ。お前の仲間たちも面倒をみてやる。どうだ?悪い話じゃないだろう?」
(どうかしている……)
デュースは言葉を失っていた。
だが、イスカは本気だった……本気でエースやスペード海賊団を海軍に勧誘したのである。
偉大なる航路に入って以後、行く先々の島でたびたび対立してきた相手。
海軍と海賊は、どう足掻いても追われる者と追いかける者。
どんな神経をしていたら真顔で提案できるのだろうか……
度重なる逃走劇の中で、イスカがエースを海賊としてではなく個人として認めたということなのか。
海賊の所為で両親を失い、海賊を悪だというイスカから見てもエースは悪には見えないのだろう。
エースは沈黙を守っていた。そして……
ガチャリ……
聞き覚えのある音が聞こえる
「なぁ、開いちまったんだが……」
「おま、それ開けちゃ……開いちゃ駄目なやつ!!」
エースは困ったような顔をしてデュースに振り返る。
観覧車のてっぺんで、ゴンドラの扉が全開になっていた。
どうやらずっと外を見ていたエースがゴンドラの扉をいじくり回していたようだ。
「し、閉めろよ!危ねぇから!!」
「いや、腹が減ってきたから、先に降りてる」
「はあっ!?」
デュースの言葉にエースが返すと開いた扉から身を乗り出す。
「待て。まだ返事をもらってないぞ」
イスカは足を組み、座席に腰を落ち着けたまま問いかける。
「海賊をやめて海軍……か……それは出来ねえ相談だな」
エースの瞳は、海の底のような色をたたえていた。すぐに陽気な笑みを浮かべる。
「またな、イスカ」
そう言って外に飛び出していく。
すぐ近くにあった降下するゴンドラの屋根をひと踏み、すると空中で、エースの身体から炎が吹き上がった。
まるで階段を降りるかのように、次々と降下するゴンドラの屋根を蹴って飛んでいた。
やがて地上に着いたエースが片手を上げてそのまま立ち去っていく。
デュースとイスカは無言のまま見送る。
デュースたちが乗っているゴンドラは頂上を通りすぎ、ようやく降下し始める。
「……どうするんだ?」
「どうするって?」
沈黙に負けたデュースが口を開き、言葉の意図が読めないイスカが問いかける。
「エースは海賊をやめねぇ。俺たちスペード海賊団も、そんなエースに着いていく。だからこの先も、エースも俺たちはアンタの敵でしかねぇってわけだ」
「そうなるな……」
デュースの言葉を聞いたイスカは理解すると残念そうに言う。
「このまま……俺を人質にするのか? そうすればエースはきっと助けに来てくれる。あいつはそういう奴だ」
「正義の味方が人質なんてとるか。バカ野郎……そういう奴だから、仲間にしたいんだがな……」
そんな事はしてほしくはないがデュースは気づけば訪ねていた。
イスカは苦笑いを浮かべながら呟く。
「ひとまず出直してこよう。今日のところは見逃してやる。実は今日は休みでな。旅行中だったんだ」
ゴンドラはゆっくりと下降していく。まもなく観覧車の旅が終わろうとしていた。
地上が近づいてくるとイスカはわざとらしくそっぽを向く。
「ああ。知ってた」
デュースは私服のイスカを残して観覧車を後にする。
***
船のコーティングが終わるまでの間、エースは島中を食べ歩いてまわっていた。船には戻らず、束の間の陸での生活を満喫していた。
スペード海賊団の面子も、各々が思い、思いの三日間を過ごす。
ネミットはレイリーと一緒に作業をして夜になると酒場に戻る。
ミハールはコーティング作業の間も船から出てこない。
スカルはコーティングに立ち会っていてネミットと行動する。
これを機に、船の修理や、設備の整備や掃除をする者もいた。
新世界に向けて備品や食料、あるいは武器などの買い物をする者に、コタツとともに一日寝ている者、派手にバカンスを楽しむ者、わざわざ路地裏に行き海賊狩りをする者。
それぞれの三日間はあっという間に過ぎていった……
ちなみにデュースはエースのお財布係として行動しているのであった。
番外編のアンケート
-
1 ウタとのデート回
-
2 赤髪海賊団加入
-
3 1.2両方
-
4 本編を進める