エースたちスペード海賊団のそれぞれの三日間があっという間に過ぎる。
そして三日目……間もなく船のコーティングが終わろうとしていた。
初日以来、イスカの姿を見ることはなかった。
休暇が終わり帰ったのか。いや、恐らく部下を引き連れてまた出てくるはずだ。
そう考えると、出航するのが憂鬱な気分にデュースはなっていた。
エースは食べ歩きを続けていて、ネミットとたしぎが言っていた“グラせん”を特に気に入ったようで、両脇に抱えるほど買い込んでいた。
バリバリと小気味よい音を立てながら消費していくグラせん。
本来はお土産用として箱詰めされているグラせんが、買ったその場で開封されて貪り食われていった。
「何箱食うんだ……」
デュースは呆れた声を上げながらエースを見る。
「もっと買っときゃよかった……これじゃ腹がいっぱいにならねぇ」
すでに飽きるほど食べているように思えるが、エースは不満そうだ。
それというのも、グラせんを買っている最中に、エースの首を狙う賞金稼ぎたちの邪魔が入ったからだ。
突然の乱入により、逃げるように会計を済ませたエースたちであったが、そんなこともありエースとしては買いたりないようだ。
「火拳ちゃーん!! あーそびまーしょう!! ぎゃあ!?」
絡んでくる柄の悪い連中をエースは問題なく撃退していった。
そういった連中と揉めるうちに、気づけばエースたちは中心街からスラムのような地域に迷い込んでいた。
活気のある中心街とは打って変わって、陰鬱な雰囲気の場所であった。
辺りにはゴミが散らばり、廃墟のような建物ばかり目に付く。
「腹減ってきた……グラせん売ってねぇかな……」
まだ両手にいくつも抱えてるというのに、エースはそんなことを口にしながら辺りを見渡していた。
ただ、見るからに治安が悪く、間違っても観光客が足を踏み入れないであろうこの場所には、少なくともグラせんを売る店などはありはしないだろう。
店所か人通りもないスラムの一角。
うろついているエースたちは相当目立っていた。
崩れた建物の影には、エースたちの様子を窺う幼い子どもたちの姿があった。
エースは子供たちを手引きする。
恐る恐る近寄る子供たちに、エースはグラせんを手渡していく。
「ありがとう!!」
「おう!腹いっぱい食えよ!」
グラせんを貰った子供たちは笑顔でお礼を言い、エースは陽気な笑みを浮かべた。
子供たちは大事そうにグラせんを抱えて駆けていった。
「いいのか、エース?」
抱え込んでいた全てのグラせんを手渡してしまったエースに、デュースは訪ねる。
「そういえば腹いっぱいだった」
子供たちを見送るエースを見て、デュースは笑みを浮かべる。
少し離れた建物の中では正義と書かれたマントを羽織る男と女がエースたちを監視していた。
「……ゼット大将から見て火拳はどうですか?」
「まだ話してみねぇ事には分からねぇな……イスカ、あいつに話しかけるぞ」
「はい!」
建物の影に隠れて会話する男と女。
男は海軍最高戦力四大将の一人、黒鬼のゼットとエースたちもよく知るイスカであった。
ゼットとイスカは建物の影から出るとエースたちの前まで歩いて行く。
「よおイスカ。そんな所に隠れてどうしたんだ? 確か男なら正々堂々正面から来いじゃなかったか?」
「うるさい! こちらにも理由があるんだ!! それに私は女だ! バカ野郎!!」
エースはゼットたちの視線に気づいていて軽口を言うと、イスカも言い返し、いつもの喧嘩になる。
「ゴホッン!イスカ、そろそろ本題に入ろう」
「……!? すいません。この方は以前話した恩人のゼット大将だ」
ゼットがわざとらしく咳をすると、イスカは申し訳なさそうに謝罪してゼットを紹介する。
「ゼット……大将……イスカが話してた世話になったっていう……って海軍大将だと!?」
「へぇ~凄いんだなアンタ」
海軍最高戦力四大将の一人、黒鬼のゼットの登場に驚きの声を上げるデュースと脳天気にしているエース。
「俺の登場に平静を保ってるとは流石、王下七武海を倒しただけはあるな。火拳、イスカを失望させるなよ」
ゼットはエースに目がけて拳を振るい、衝撃波がエースを襲う。
「いきなり何しやがる……!?」
エースは簡単に攻撃を避けるが近くの建物が破壊される。
破壊された建物の中には子供がいた。
「きゃぁーたすけーて」
「怖いー」
青色の髪の少女と少年がどうやら逃げ遅れていて棒読みで助けを呼ぶ。
「……終わりだ」
ゼットはエースの背後にいる子供を気にせずに容赦なく拳を振るい衝撃波を飛ばす。
「てめえ!!何してやがんだ!?」
慌ててエースは腕をクロスさせ衝撃波を受け止め背後にいる子供を庇った。
「見事だ。火拳のエース」
「これで合格ですね。火拳は……」
怒鳴るエースとは別に拍手するゼットとほっと息を吐くイスカ
「はぁ?どういう事だ?」
「ゼット大将は子供たちを助けたお前を合格と言ったんだ」
困惑しながら問いかけるエースに、子供を助けたエースの行動は正しく、ゼットが認めた事をイスカは伝えた。
「合格だと?子供を巻き込んで何を言ってんだアンタら?」
「私たち海軍がそんな事をするわけがないだろ。バカ野郎が」
デュースはイスカたちの言葉を聞くと呆れていた。イスカは鼻で笑いながらデュースの考えを否定する。
「そろそろネタばらしといくか。アイン!ピンズ!ご苦労だったな!」
「いえ! ゼット先輩の助けになれて私は嬉しいです」
「また照れてるでござるな。アイン」
ゼットが二人の子供の名前を言い労うと、アインと呼ばれた女の子は頬を赤くして嬉しそうにし、そんな女の子を揶揄うピンズと呼ばれた男の子。
「うるさい! モドモド!」
青色の髪の少女が自分と少年に触れると成長……いや、元の姿に戻るアインとピンズ。
「私は海軍大佐。アイン」
「同じくピンズでござる」
建物に置いてあった正義と書かれたマントを羽織ると、名乗りを上げる青色の髪の女性、アインとピンズ。
「私はモドモドの実を食べたモドモド人間。触れた者を12年、若返らせる」
「悪魔の実の能力者。そういうことかよ……合格って何の目的があるんだよ?」
アインは自身の能力を説明する。
アインはモドモドの実を食べ、年齢を若返らせることが出来て、ゼットの指示で能力を使い自分とピンズを若返らせて子供姿に戻っていたようだ。
ゼットはエースが子供を助けるか見捨てるか試験をして試したようだ。
エースは迷いなく子供を助けて、ゼットから認められた。
エースとデュースはイスカたちの言い分に納得すると、イスカたちの目的を問いかけた。
「ゼット大将。私に火拳と話をさせてもらっても良いですか?」
「ああ。任せる」
イスカの問いに頷くゼット。
「喜べ! 火拳! お前にいい話を持ってきた!」
ゼットから許可が下りると、イスカは懐から一通の書簡を取り出し広げてエースたちに見せる。
「し、七武海……!?」
デュースは目の前の文字に我が眼を疑う。
世界政府から発行された書簡。
そこには、世界政府の最高権力者である五老星が、エースを王下七武海に推薦しているという驚きの内容が書かれていたからだ。
王下七武海といえば、偉大なる航路で知らぬ者はいない一大勢力。
海賊でありながらその存在を世界政府に認められた者たち。
他の海賊への抑止力としての意味合いが強い政府公認の海賊。
七武海には、何よりも強さや知名度が求められる。そんな王下七武海に、エースが推薦されたというのだ。
「どうだ、いい話だろう? これなら海賊をやめなくてもすむぞ!」
イスカは嬉しそうにそんなことを言った。
観覧車の中で、エースは海賊をやめるつもりはないとイスカの話を断った。
だが、確かに王下七武海ならば、海賊でありながら政府に与し、海賊とも歩調を合わせられる。
なにせ、王下七武海に加入すれば政府から恩赦が与えられ、指名手配もされず、決められた金額を政府に収め続けてさえいれば海賊であること公に認められるのだ。
しかし……
「七武海か……ごめんだな」
あっさりと、エースは勧誘を断った。即決だった。
「な、何故だ……この提案さえ受けてくれれば海軍に入らなくても追われなくなるんだぞ……」
イスカは驚きを隠せない様子であった。
確かにこれは、イスカの言うように悪い話ではない。
むしろ、七武海の肩書きなど、喉から手が出るほど欲しい者たちだって沢山いるはずだ。
望んでなれるものではない。
それをエースは、躊躇うことなく蹴ったのだ。
「わりぃが、そもそも七武海っつー事態が、どうも気に入らねぇ」
「そんな……っ!」
まさか断られるとは思わなかったのだろう、イスカはあからさまに狼狽えていた。
ゼットはイスカの肩をポンと叩く。
「交渉決別か……奇遇だな。火拳。俺も七武海制度っていうのがどうも気に入らねぇ。どんな海賊だろうと……海賊は悪だ。イスカにはわりいが、火拳……お前はここで捕まえる」
ゼットもエースと考えを共感していた。
父親であるゼファーに恨みを持つ海賊が自身の母親の命を奪ったのも当然あるが、自分が海軍に入った後、海賊たちが何度も市民の平和を乱してきたのを目撃してきたからだ。
「……!? エース!!」
ゼットはエースに襲いかかり、デュースが大声を上げ危険を知らせる。
「ああ! 火拳!! ぐは!?」
エースは迫るゼットに拳から火を放つが簡単に避けられて殴り飛ばされた。
「火の身体のエースにダメージを与えやがった……覇気か……」
「当然よ。ゼット先輩の父親は元海軍大将、黒腕のゼファー。幼い頃から鍛えてきたから覇気については四大将一の実力よ」
デュースは少しだけ驚くが、ゼットが覇気を纏わせた事に気づき、アインがうっとりとした表情をしながらゼットの紹介をする。
「っぺ!覇気か……」
エースは口から血を吐き捨て目の前の強敵を睨み付ける。
「俺もアンタのように使えるぜ。十字火!!」
エースは武装色の覇気を纏わせると指を交差させ、十字架型の炎をゼットに向けて飛ばす。
「黒鬼の絶拳!!」
迫りくる十字架型の炎に拳を振るい粉砕する。
「神火・不知火!!」
エースは粉砕されることは読んでいて、すぐに行動を起こし、武装色の覇気を纏わせて両腕を勢いよく振り抜き、二振りの炎の槍を放つが……
(避けやがった!?)
見聞色の覇気でゼットの気配を読んで炎の槍を放ったはずであるが、ゼットはエースの攻撃を簡単に避ける。
「だったらこいつならどうだ!! 蛍火・火達磨!!」
エースは小さな炎をばら撒き、エースの合図と共に一斉にゼットに襲いかかるが……
(嘘だろ……)
ゼットは自分に迫る多くの炎を簡単に避けた。そう、文字通り簡単にだ。
ゼットはただ歩るいているだけでばらまかれた炎を避けたのだ。
「何故当たらないか? だろう?」
(……!? 俺の考えてる事を読んでやがる!?)
ゼットはエースの考えを読み、心の内を当てられたエースは動揺を隠せない。
「教えてやる。お前も覇気を習得したようだが、所詮付け焼き刃。俺はお前の遙か先までマスターしてる。見聞色の覇気を鍛えれば気配や位置、心を読んだり出来るが……俺のように見聞色の覇気を極めた先にある力には数秒後の未来を見通すことが出来るようになる、その力を未来視と呼ぶ」
「未来視……」
ゼットから説明を受けるとエースは呟く。
「ぐはっ!!」
エースはゼットに攻撃しようと殴りかかるが、未来視の力で行動が知られているので全て避けられてしまい、カウンターを決められて倒れてしまう。
(あのエースが手も足もでねえなんて……)
デュースは目の前の現状に目を疑う。
いつも自信満々に自分たちを引っ張り、圧倒的力で道を示してきた頼れる船長は地面に組み伏せられる。
王下七武海を下す程の力を持っているはずであるのに、大将の前では赤子当然であった。
「エース!!逃げるぞ!!」
「俺は……逃げねえ……」
ボロボロになりながらもなんとか立ち上がるエースに、デュースは近づき撤退を提案するが拒否される。
「どうしてお前はいつも……」
「ここで逃げたら……俺は何かを失う気がする……デュース、お前は逃げろ……後は……俺に任せろ……」
「お前を置いて逃げれるかよ!!」
エースはボロボロの身体に力を入れて目の前を睨みつけながらデュースに逃げるように言うが、デュースは拒否し怒鳴りつけた。
「ええ。貴方たちは逃げる事は出来ないわ」
「モサモサ!!」
話を聞いていたアインが失笑し、ピンズは地面から植物を生やすと蔓でエースとデュースの身体を拘束した。
「こいつも悪魔の実の能力者かよ!?」
「俺はモサモサの実を食べた、モサモサ人間。あらゆる場所から植物生やす事が出来るでござる」
拘束されているデュースは驚きの声を上げ、ピンズは自身の悪魔の実の能力を説明する。
「火拳……頼む。降参してくれ……今ならまだ間に合う……私もゼット大将に謝るから……七武海の話を受けるんだ」
イスカはボロボロになるエースの姿を見て目を背けながら嘆願する。
「イスカ……悪りぃな。俺はアイツを越えなきゃならねえ!! それによ……海賊は自由に海を冒険するから海賊だろうが!!自由を奪われた海賊なんて海賊じゃねえよ」
エースは自身を無事を案じるイスカに謝罪すると自身の心の内を打ち明けた。
「心意気は見事だな。だが圧倒的な力の前には無駄だ。火拳……お前には二つの選択肢がある……一つは七武海を選んで政府の恩恵を受けて海賊を続ける。もう一つは今ここで俺たちに捕まりここで終わる……さあ選べ」
ゼットは指を折り一つずつエースたちの取れる選択肢を説明する。
「いや、もう一つあるぜ……てめえら海軍をぶっ飛ばすって選択肢がな」
ゼットが提示した選択肢を蹴ると、エースは見聞色の覇気を使い周囲の気配を読み、辺りには先程の子供たちや人がいない。自分たちしかいない事を知り不敵な笑みを浮かべた。
「大炎戒・炎帝」
エースの周囲が激しく燃え上がり、エースとデュースを拘束していた草の蔓は焼き払われる。
燃え上がる炎をまとめ上げ、巨大な炎の塊を作り出すとゼットに向けて放った。
「俺はアンタに勝ってこの先の海に行く」
ゼットに迫る巨大な炎の塊。それはまるで巨大な太陽に見える。
「黒腕・大爆発」
自分に迫る巨大な炎の塊……
ゼットは拳に覇気を纏わせて勢いよく駆け出し、拳を振り上げた……
巨大な炎の塊は……粉砕された。
「はぁ、はぁ……まじか……」
エースは息を乱しながら目の前の現状に驚く。
「力を使い果たしたようだな。火拳。お前を捕まえる」
一歩、一歩……エースに迫るゼット。絶体絶命の大ピンチ……
「天の羽場切り!!」
「……!?」
見知った声が聞こえるとゼットは歩みを止め振り下ろされた刀を受け止める。
「ネミット……」
「久しぶり。エース、デュース。後は俺に任せて」
船のコーティング作業をしていたネミットがエースたちを助けに来るのであった。
沢山のアンケートありがとうございました。アンケート結果ですが、
ウタとのデートの話を書きたいと思います。
番外編のアンケート
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1 ウタとのデート回
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2 赤髪海賊団加入
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3 1.2両方
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