夏油傑と小さくなった名探偵 作:蠅頭
毛利探偵事務所。
米花町に居を構える探偵事務所だ。
一昔前は有名でも何でもないよくある事務所だったが、ここ最近テレビに出るなどもする有名な探偵事務所になった。
その探偵事務所に、一人の客が訪れていた。
「宗教団体の調査、ですか」
事務所の顔であり、名探偵眠りの小五郎と呼ばれるようにもなった男、毛利小五郎が依頼の内容を口にする。
「はい。母が宗教にはまってしまい、絶対良くないモノだと思うんです、なので毛利さんにはこの宗教の悪事を暴いて欲しいんです!」
まだ高校生ぐらいの年頃の女は、宗教のパンフレットと共に懇願する。
「どれどれ……」
小五郎は渡されたパンフレットをじっくりと見る。
宗教名は盤星教。
掲げる教義は変わった物だ。
曰く、人の負の感情から悪しきモノが生まれる。故に負の感情に囚われることなく、良きことをスベキである。
という、要するに善行を成すべきという宗教だ。
「信者数……十万?! でかい宗教ですなー」
パンフレットには入信者数が大きく書かれており、数字が本当ならば十万人もいることになる。
新興宗教としては結構な組織と言えるだろう。
「はい……母が教祖だという男に声をかけられてから、ハマってしまったんです」
「ほう。教祖が直々に、ですか」
随分とフットワークの軽い宗教だ、と小五郎は思う。
「報酬はこれで……名探偵には少ないかもしれませんが……」
女は封筒を取り出す。
小五郎は一言「失礼」と言ってから袋の中身を確認する。中には万札が五枚入っている。
「わかりました。この事件、この毛利小五郎にお任せください!」
「はい! 母をよろしくお願いします!」
■
「で、態々来たんだ」
「しょうがねぇだろ? 先ずは実際に行ってみないとわからんだろ」
盤星教の本部は米花町に構えられている。
その建物は、白い壁で出来た屋敷のような作りだ。
四角いが、屋根の中央当たりがかまぼこのように丸い。
ここにきているのは、三人の探偵事務所に住んでいるもの。
毛利小五郎とその娘の毛利蘭、そして居候の江戸川コナンだ。
毛利蘭は花の女子高生であり、江戸川コナンは小学一年生である。
「ていうか。別にお前たちまで付いてこなくてよかったんだぞ?」
「だって宗教施設でしょ? 何かお父さん騙されそうで怖いもん」
お前なぁ、という目で小五郎は蘭を見る。
「それより早く中に入らないの?」
コナンはワクワクとした様子で中に入ろうと提案する。
「まだだ。取り合えずこの施設の人に聞き込みでもしてから……」
小五郎がそう言うと丁度良く施設から一人男が出てくる。
特徴的な男だ。
何よりも変わっているのは、黒の僧衣と袈裟だ。
黒い長髪を持ち、特徴的な前髪を持っている。
「おや。貴方名探偵の毛利小五郎さんですよね。いやーこんなところでお会いできるとは」
男は笑顔で毛利小五郎に話しかける。
「ど、どうも。毛利小五郎です。貴方は?」
「私ですか? 私は夏油傑。この施設の所有者である盤星教の教祖なんてやってます」
──いきなり教祖かよ。小五郎とコナンの心の声が被った。
「いやしかし、盤星教とは聞いた話では仏教では無かったはず。袈裟なんて着ていていいのですかな?」
「あぁ。これですか。こういった格好をしていた方が信者の方が喜ぶので着ているだけですよ。所謂パフォーマンスって奴です」
ははは、と夏油は笑う。
「それよりどうです? 今から信者の前でちょっとしたイベントがあるんです。良ければ見ていきませんか?」
■
其処はちょっとしたコンサートホールのような作りの場所だ。
斜めに椅子が置かれていき、壇上がある部屋だ。*1
椅子はその殆どが埋まっており、小五郎達はどうにか座る事が出来ていた。
その壇上で。夏油傑は演説を行う。
その内容はパンフレットに書かれていたのと同じ、負の感情から悪しきモノが生まれる。故に正の感情をもって世を生きて行くべし、というものだ。
「では最後に、私の神通力を」
夏油は両の手を合わせ、祈りのポーズをする。
「破!」
瞬間、小五郎達を風が襲う。
決して強くはない風だが、風と認識できる程度の強さはある風。
室内であるというにも関わらず、風が吹いたことにコナンは訝しむ。
(なんだ、今の悪寒)
それと同時にコナンは自身が感じた悪寒についても考える。
本当に嫌な風だった。一秒ですら触れていたくない生理的嫌悪を感じる風。
(一体何なんだ?)
取り合えず今感じたのはなんだったのか、わからぬまま演説は終わった。
■
それからしばらくして、小五郎は幾つかの聞き込みをした。
結果わかったのは、教祖のカリスマ性等だ。
曰く、教祖たる夏油傑は真なる神通力の持ち主である、と。
空を飛んだ事もあるし、遠くのものを引き寄せたこともある。
だがそういった超常を起こすのではなく、もっと実利に乗った利益があるという。
医者も匙を投げた謎の体調不良を、夏油傑は手を翳すだけで治したというのだ。
余りにも眉唾な事だらけだ。科学全盛の現代社会においては余りにも信じられぬ事である。
だがこの盤星教の者達は信じ込んでしまっている。
だが、誰が何を信じるかは個人の自由だ。そのことについては小五郎もコナンも思う所はあっても口に出すことは無い。
そうした聞き込みをしていると、悲鳴が響き渡った。
「なんだ?!」
小五郎達が居るのは廊下だ。其処に偶々いた人に話を聞いていた小五郎は悲鳴に驚きながら声の方に走る。
走った先に居たのは腰を抜かしている悲鳴を上げたであろう女性。
扉を開け、部屋と扉の狭間あたりで腰を抜かしている。
「どうかしましたか?!」
小五郎が声をかけながら女性に近づく。
「なっ……」
部屋の中に居た──あったのは首を吊り自殺をしている男性の死体だった。
「直ぐに警察に連絡を!」
■
「それで、今この建物に居るのはこの七人という訳ですね?」
警察を呼び、鑑識まで来てもらい自殺者が現れた部屋には小五郎と警察達以外に七人の男女が居た。
一人は教祖たる夏油傑。
もう一人は夏油の秘書をしているという菅田真奈美。
サラリーマンらしき藤田隼人。
妙齢の女性の若田真子。
以下省略。
その後、毛利小五郎もとい江戸川コナン──真名工藤新一の推理によって藤田隼人氏の自殺に見せかけた他殺であるとわかり推理ショーが行われた事によって事件は解決した。
「やぁ、其処の少年」
そして一通り終わった後。夏油傑は江戸川コナンに話しかけた。
「お兄さん、僕に何の用?」
「何。ちょっとしたスカウトだよ。君、成人したら
唐突な勧誘にコナンは驚くも、直ぐに答えを出す。
「うーん。僕そういうのあんまり興味ないんだ、ごめんね」
「そっか。嫌なに、私もちょっと勧誘してみただけだからね。気が変わったらおいで」
話す事はもうないと夏油は手を振り別れる。
別れたのち、夏油は一人呟いた。
「ここコナンの世界かよ」