夏油傑と小さくなった名探偵 作:蠅頭
夏油傑、前世名■■■■は転生者である。
転生時に彼は幾つかの能力を与えられた。
夏油傑の容姿とその能力。そして呪術廻戦に登場した多数の呪霊を最初から保有した状態での転生だ。
その数は驚異の約一千万。夏油傑が過去編で使役していた呪霊から、羂索が契約していた千万の呪霊を全てその身に取り込んでいる。
正しく一人軍団。呪霊の王とでも言えてしまうかもしれない。
そんな彼が転生後にしたのは、みみっちい宗教による金稼ぎである。
やるのは単純。其処らの一般人に適当に四級呪霊や蠅頭を取りつけさせる。
一週間ぐらい経った後、呪霊操術の能力に呪霊が何処にいるかわかる能力があるのでそれを元に呪霊の被害者の元に赴く。
そして塩顔イケメンスマイルと話術で呪霊被害にあっている事を言い当て神秘さを演出し、付けた呪霊を仕舞う事で体調不良の原因を無くす。
結果、相手はこちらを信じるようになるという訳だ。壮大な術式でみみっちい事をしている。くだらないマッチポンプである。
幸いな事に、夏油傑が転生したこの世界には呪術高専はなく、呪霊の被害も殆ど無かった。
だが蠅頭は数は少ないが存在し、本当に稀だが四級呪霊もまた存在し、人間に対し極稀に被害を出す。被害と言っても精々が肩が重いや気分が悪い程度で人死には至らないが。
それらを解決、解消する事によっても夏油はちまちまと勢力を増していった。
夏油傑はある日まで自身が転生したのが平行世界の日本だと信じて疑わなかった。何故なら呪術高専は無く、ノイズもいないしアインクラッドも無いからだ。
だがある日、夏油傑は江戸川コナンに会う事でここが名探偵コナンの世界だと知った。
そして彼は、こう思った。
せや、どうせなら原作のイベント全部間近で見たろ。
なんという野次馬根性。一言で言えば馬鹿のやる事である。
だがそれが実現できる能力もまた、有していた。
呪力による身体能力の強化は凄まじい。コンクリートを素手で破壊するなんて容易だし、銃の弾丸を見てから回避する事も出来る。十メートル以上跳躍する事だって出来るだろう。
また保有する千万の呪霊が居る。適当に特級呪霊を出してしまえば何処かの国の軍隊だろうと敵には成らない。そもそも呪霊は呪力を持たぬ一般人には視認出来ないし干渉できないので一方的な無双ゲームが展開できる。
呪霊に対する対抗策を碌に持たぬこの世界でなら、雑に千万開放するだけで国の一つや二つ滅ぼす事が可能だろう。つまり夏油傑に危機というのは訪れない。
故にこその慢心油断。転生者である夏油傑はその場のノリと勢いで行動する馬鹿の類であった。
だからこそ、夏油傑は目の前の男に対しどうするか非常に悩んでいた。
「教祖様、どうかしましたか?」
「いやぁ、どうかしたって訳じゃないんだけどね」
心配そうに褐色の肌の男が夏油に話しかける。
褐色金髪というちょっと盛った属性のキャラクターである。
名を安室透──あるいはバーボンもしくは降谷零。
主人公江戸川コナンが黒の組織と称する犯罪結社の幹部の一人である。
だがその実体は降谷零という公安警察の一員であり組織には潜入任務として入っているという。
更に言えば安室透の名で毛利小五郎の弟子として探偵稼業も営んでいるというトリプルフェイスだ。盛りに盛った探偵ものの主人公染みている。
その人物相手に、夏油は考える。何故こいつが接触してきたのか、と。
(うーん。安室透なのかバーボンなのか降谷零なのか、どれで接触してきたのかな?)
盤星教は組織として十万の信者を抱える大組織である。狂信者も多く在籍している為、それこそ教祖の一声でテロの一つや二つ起こせる。無論夏油にする気は無いが。
その為公安警察としてそういった危険性の調査の為に来たのか。あるいは新興宗教として目を付けた黒の組織が来たのかで話は変わる。
まぁ最悪呪霊が居るので何ともでもなるか、と思考を放棄した。
「うちを見たいとの事ですがどうぞ遠慮せず。さぁ園田さん、案内してあげてください」
「わかりました。教祖様」
安室は園田に案内されるがまま、夏油を離れていく。
「さて、私は予定があるので失礼するとするよ」
夏油はひらひらと手を振りながら、最上階の自室に戻っていった。
■
夏油傑は普段盤星教の本拠地である東都の一角で暮らしている。
本拠点でありそのまま信者の集う場所である教会(仮)の上階を私生活用のスペースとし其処で暮らしている。
部屋は広い。
リビングとキッチンが繋がっており、リビングの横にはバスルームの扉が付いている。
リビングには窓があり、外の景色が一望出来る。
自室とする部屋もまた勿論ある。部屋は十二畳という広さを持ち、クローゼットも付いている。
部屋にはパソコンデスクとパソコン、大きなベッドと本棚が二つある。
二つの本棚には小説の類がこれでもかと詰め込まれている。中身は捨象なものではなく、ライトノベルが大半を占めている。そう。転生夏油はオタクであった。
部屋に飾ってあるカレンダーを眺めながら、夏油は考える。
(──原作でのイベントが何時かわからない)
そう。夏油はミーハーなオタクだ。コナンなんて毎年映画をやっているので見に行く程度はするが、原作は碌に見ていない。
正直夏油の記憶では安室透がバーボンバレしたところの記憶なんてない。某百科事典で知った程度である。
故に原作のイベントが何月何日に行われたかをよく知らない。
だが、そんな朧気な記憶でも知っている事が一つある。
「確か、五月のゴールデンウイークにキュラソーが東都遊園地に来るんだよな」
よし、と夏油は行動を開始した。
■
よくある宗教だな、と降谷零、もしくは安室透は感じた。
安室透が今日この盤星教に来たのは公安としての仕事だ。近年瞬く間に勢力を拡大した盤星教の実体を知る為に調べに来たのである。
その立場から見て、盤星教は何かしらの強い思想を持っている訳ではないと今日見た限りでは判断できそうであった。
人は死ななくてはならないだとか、生は苦しみであるとか、奪えば全部だとかの思想は無い。
人の負の感情から悪しきモノが生まれる。故に人は善なる心をもって善行をなして生きるべしというよくわからない教義を掲げているだけだ。
勿論拡大解釈のしようはあるので楽観視は駄目だが、直ぐにテロに繋がるような事をしているようには感じられなかった。
施設の入り口まで戻って来た安室は書類に何を書くか考えながら帰ろうとする。
「おや。もう帰られるんですか?」
其処に声をかけたのは教祖たる夏油傑だ。
「えぇ。実に良い場所でした」
世辞と共に安室はほほ笑む。
自慢ではないが、安室透の顔の作りは良い。充分にイケメンと言える部類だ。顔の良い男の笑みはそれだけで話術となる。
「それはよかった。何かあったら是非うちに来てください。それではまた」
夏油もまた微笑みながら、小さく手を振るのだった。