夏油傑と小さくなった名探偵   作:蠅頭

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第4話

 

 盤星教本部。夏油の自室にて。

 

「いやー御無事で何より! 心配してたんですよ!」

 

 はっはっはと夏油は笑う。

 それに混乱するのはキュラソーだ。

 

 死を覚悟しての行動に出たら謎の翼の生えた人型の化け物に連れ去られ、宗教施設の部屋に連れ込まれたのだ。混乱するなという方が無理がある。

 

「貴方は……何者なの? 隣にいる継ぎはぎの男は……何なの?」

「あれ、俺が見えてるんだ? 珍しいねー」

 

 キュラソーに見られている事に真人がいえーいと両手にピースしながら喜ぶ。

 

「……なるほど。死の境地から呪力に目覚めたという訳か。ふぅん」

 

 くく、と夏油は笑う。

 

「ああ、自己紹介がまだだったね。最初にした気もするが……私の名は夏油傑。呪霊操術の使い手にして、盤星教の教祖をしている」

「俺は真人。特級……こっちにはそういう等級ないんだっけ。まぁ夏油の言う呪霊の一人? 一体? でーす」

 

 いえーいと真人が自己紹介する。

 この真人は原作の真人である。

 原作渋谷事変終盤の遍殺即霊体を習得している真人だ。原作の渋谷事変までの自我と記憶を持つ真人である。

 

「じゅれい?」

「人の負の感情から生まれ出る存在さ。まぁ言ってしまえば悪霊だとか幽霊だとかの存在だね。ジャンプ漫画で例えるならホロウとかだね」

 

 余談だがこの世界にもジャンプはある。呪術廻戦が連載されていないだけで他の漫画は連載されている。

 

「幽霊……そんなオカルトが居る訳……」

「だが居ないと君が今生きていることに説明が付かないだろう?」

「……」

 

 図星を突かれ、キュラソーは黙る。

 あの状況から自分が生き残る方法など、それこそ超能力者が助けてくれました、でも無いと有り得ないのだ。

 そして夏油は自称その超能力者。否定したくともこれまでの情報がそれをさせてくれない。

 

「……わかったわ。それでその超能力者様が、なんで私を助けたの?」

「え? うーん。何となく」

「は?」

 

 余りにもあんまりな回答にキュラソーは声に怒気を込めた。

 

「いやまぁ、正直助けられそうだからその場のノリと勢いで助けただけで特に深い意味はないんだよね」

 

 夏油傑の精神は常人のそれとは異なる。

 常人ならば顔を顰める……あるいはトラウマになるような事態──例えば目の前で人が死ぬとか車に引かれた人の死体を見るだとかしても夏油の精神は揺らがない。

 その場で見たとしても『おっ死んでる死んでる』と思うだけで恐怖も憐憫も感じない。

 そしてそれは、助けられる人が居たとしてもだ。

 夏油のその力を使えば、例えば被災地に赴き呪霊を繰り出す事で被災者を助け出す事が出来るだろう。

 だが夏油にはその発想自体が無い。確かに言われれば呪霊をそういう風に使えるな、とは思うだろう。だが実際に助けようとは露ほども思わない。

 その中には有名になりたくないだとか俺TUEEは趣味じゃないだとかそんな思考は露ほども無い。単にそう言うの趣味じゃないんだよなですませてしまう。

 

「えぇ……」

 

 あんまりな回答にキュラソーは怒る気も失せる。

 

「はぁ。わかったわ。けど、私を助けたんだから私の面倒は見てもらうわよ」

「あぁ。それは勿論。こう見えて私の顔は広いんだ」

「知ってるわよ。盤星教の教祖、夏油傑。近年勢力を拡大化していった一大宗教。信者には富裕層も多い」

「へぇ……」

 

 事実、夏油は己の呪霊を使って富裕層にも手を出している。

 やり方は簡単だ。適当に株主総会が行われる場所を調べ、その場所に呪霊を向かわせ適当な人間に取りつかせる。それを元に教祖として介入する。

 

 黒の組織にも自身の名が知られていたことに夏油は少し恐怖する。これからは暗殺などにも気を付けないといけないな、と。

 単純な戦闘力ならば夏油を超える者は居ないだろう。表世界最強と名高い格闘家の京極真だろうと敵ではない。

 だがそれは正面切った戦いの場合の話であり、暗殺となると話は別だ。

 毒殺なんて反転術式を使えない今の夏油には対処法が無いし、遠距離からの狙撃だって知っていなければ防ぐことは出来ない。

 無論呪力で強化すれば弾丸をある程度防げるが、一発勝負で何処まで防げるかの実験をする気は夏油には無い。それに常に弾丸が防げる程に呪力強化を回せるほどに呪力がある訳でもないのだ。

 

「取り合えず姿は変えた方がいいんじゃないかな? 君の古巣が君を探すかもしれない」

「そうね……整形でもしようかしら?」

 

 キュラソーの姿は目立つ。

 元が美人であるうえ、オッドアイという特徴的な容姿もある。隠れるには苦労するだろう。

 

「それなら真人に姿を変えて貰うと良い。そうだね……君は日本語も使える訳だから、日本人風にでもしてもらおうか」

「待って、そんな簡単に姿を変えれるの?」

「変えれるよー、ほら」

 

 真人は自身の姿を変化させる。

 真人は一瞬にて黒髪黒目の胸の大きい大和撫子に変形する。

 かと思えば、直ぐに元の継ぎはぎの姿に戻る。

 

「んなっ」

「真人の術式──能力は他者にも及ぶ。他者の姿を変えるぐらい訳ないって訳さ」

「……痛くはないんでしょうね?」

「大丈夫大丈夫、一瞬で終わるから」

 

 真人がキュラソーに触れ、無為転変を発動する。

 

「ぐっ」

 

 キュラソーは何か嫌な感じが一瞬すると同時に、自らの体が変わったのを実感した。

 

「真人……」

 

 夏油が呆れた目で真人を見た。

 

「男の子ってこういうのが好きなんでしょ?」

 

 にや、と真人は笑みを浮かべた。

 

(うーん。ネットミームに触れさせ過ぎたのかもしれない。もう手遅れか?)

 

 自我のある存在を仕舞いっぱなしもある種可哀そうだ、と夏油はある程度真人に自由を与えていた。

 勿論むやみやたらに人を殺さないように縛りを結んだ状態での自由だ。その状態で真人はネット等に触れている。

 その結果がキュラソーの変化だ。

 

 キュラソーは一言で言うならおっぱいのでっかい大和撫子になった。

 

 いや、胸だけではない。尻もまた大きい。

 

 黒髪黒目。髪は腰の少し上までと長い。

 顔つきは外国人から日本人の物へと変わり、おっとり美人と言える程。

 胸も尻も大きい、服を着ても隠せない程に豊満な肉付き。

 背は元から高かったために変わっていない。

 

 夏油は取り合えず近くにあった手鏡を渡し、キュラソーに自分の姿を確認させる。

 

「……これが……私……?」

 

 元の要素等欠片も残っていない、例え誰がどう見たって同一人物とはみられないだろう。

 例え現在の科学を使っても成し得ぬ変身をキュラソーはしたのだ。

 

「……え~と、姿変えます?」

 

 夏油が恐る恐る尋ねる。

 女性にとって、いや人にとって勝手に許可なく男の情欲を誘う姿に変えられるというのはある種喧嘩を売っているも同然だろう。

 

「……いえ。この姿でいいわ。組織に帰れない以上、元の姿とはかけ離れていた方が良いから」

「そうかい? ならよかった……じゃあ新しい姿にちなんで名前も考えないとね」

 

 うーん、と夏油は頭を捻らせる。

 夏油にネーミングセンスの類は無い。ゲームなどで名づけが必要な場合適当にドイツ語とか英語の名前を付けてそれっぽくしている。

 

「どうせ大和撫子っぽいのだから、撫子とかどうかしら?」

「あ、それいいね。名字はどうする?」

 

 そういやアニメか漫画に同じなでしこって名前のキャラ居たしいいだろ、と夏油はそれを受け入れる。

 

「そうね……夏油ってのはどう?」

「……あいにくそういうのに興味は無くてね。そうだね枷場(はさば)ってのはどうだい?」

 

 枷場とは夏油が拾った双子の少女の名字である。

 

「そうね、それでいいかしら。私は今日から枷場撫子よ」

 

 こうしてキュラソー……否、枷場撫子の人生が始まった。

 

 

 

 ■

 

「……調べてみたけど、やはり見つかったのはこれだけだったよ」

 

 とある日。昼過ぎの喫茶ポアロで。店員──アルバイト──たる安室透と客である江戸川コナンが向かい合って席に座り何かを話していた。

 話す内容はつい先日の黒の組織の動きであり──失踪したキュラソーについてだ。

 

 観覧車の軸が破壊され、回転されるという未曽有の災害となる事態を止めたのは、一人の女。

 

 コードネームキュラソー。犯罪組織の幹部にて、少年探偵団と共に過ごした女。

 

 キュラソーが乗っていたクレーン車から見つかったのは、キュラソーに子供たちがあげた元は白かったイルカのキーホルダーだけ。

 そう。キュラソーの遺体は見つかっていない。圧死された死体一つ見つかっていないのだ。

 

 あの状況。コナンが最後に見た犯人追跡メガネによるズーム機能ではクレーン車にキュラソーが乗っていた。

 だが、謎の衝撃と共にクレーン車が突撃する寸前で観覧車が止まっていた。

 その後、幾ら探してもキュラソーは見つからない。黒の組織の方でもキュラソーの捜索の方は断念された。あの状況で生きている訳が無いと判断したのだ。

 勿論、コナン達もキュラソーが生きているとは思えない。だが死体が一切見つからないという不可解さの理由を求めているのだ。

 

 ちりんちりん、とポアロのドアの鐘の音が響いた。

 

 音に連れられ安室とコナンはドアの方に顔を向ける。

 

 入って来たのは二人の男女だ。

 

 一人は長身、百八十後半程度はあるだろう男であり、顔つきも優れている。特徴的な前髪が付いている。

 最も特徴的なのは袈裟を着ている事だ。坊さんのような恰好をしている。

 安室もコナンも知っている謎の宗教団体の教祖、夏油傑だ。

 

 もう一人は見た事の無い女だ。

 黒髪黒目。髪は腰の少し上までと長い。顔つきおっとり美人と言える程。

 胸も尻も大きい、時季外れに着物を着ているが、それでも隠せない程に豊満な肉付き。

 背も夏油よりは小さいが、女としては長身の部類だろう。

 

「二名様ですね。お好きな席にどうぞ!」

 

 夏油と女の二人組にポアロの店員──榎本梓が対応をする。

 

 夏油は入り口近くの空いている四人席に座る。

 女──枷場撫子と名乗るキュラソーもまた夏油と向かい合う様に座る。

 

 コナン達に気づいた枷場が小声で夏油に問いかける。

 

「(ちょっと、ここにあの子いるとか聞いてないんだけど)」

「(奇遇だね。私もそれを知らない)」

 

 いけしゃあしゃあと夏油は微笑み、キュラソーを困惑させる。

 

 夏油は素知らぬ顔でメニュー表を取り、何を頼もうかと考える。

 枷場ももう、と口を尖らせながらもメニュー表を見て注文を決める。

 

 二人は店員を呼び注文を済ませ、品が来るのを待つ。

 

 夏油は奇妙な微笑みを浮かべ、コナンに向かって微笑む。

 するとコナンは小走りで夏油に近づく。

 

「どうしたんだい、コナン君」

「お兄さん、この前観覧車の近くにいたよね?」

 

 確信を持ってコナンは夏油に問いかけた。

 コナンは鋭い目で夏油を見る。

 

「……何のことかな?」

 

 夏油は効果が薄いと悟りながらすっとぼける。

 

「とぼけないで。僕は見たんだ、お兄さんが観覧車の近くに居たのを。そして、お兄さんが手を翳すと観覧車が止まったのを」

 

 うーん。と夏油は唸る。

 ここで答えを教えてもつまらない。夏油の目的は楽しむ事だ。

 

「……そうだね。じゃあ、ちょっと推理といこうか」

「推理?」

「そう、推理ゲーム。このお兄さんの正体を当てて見せてよ」

 

(ま、呪霊使いってとこまで見破られたら正解ってことにするか)

 

「わかった。貴方の謎を必ず推理してみせるよ」

「楽しみにしてるよ、探偵の卵君」

 

 にやり、と夏油は笑うのだった。

 

 

 

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