男の娘がミカのお嫁さんになる話 作:ペロペロさん
トリニティ総合学園学生寮の自室にて、ミカはテンパっていた。
家に連れて来ちゃった。どうしようかなこれ。取り敢えず雨降りそうだし家来ない!?って言ったら普通に着いて来たよこの子。危機感なさすぎないかな?危ないよ?悪い人に家に連れ込まれちゃうよ?と、忙しなく思考しながらL字型のソファで隣り合って座り、お互いに髪を乾かしていた。
ちらり、と件の人物がタオルで髪を拭う仕草を盗み見る。自分が貸したネグリジェと下着がわりの短パンを纏った見目麗しき少年。
そう、少年である。
(本当に男の子なんだよね……?)
先程脱衣所で着替えを渡す際に一矢纏わぬ姿を見てしまっているので疑う余地はない。聖園ミカ、渾身のラッキースケベであったが、同年代の異性の裸など当然初めて見る彼女の動揺たるや、酷いものだった。
当の見られた本人が平然としていたのが救いかもしれない。そうでもないかもしれない。
(肌、白っ!髪、綺麗!)
お風呂で火照った肌は艶かしく、新雪のごとき真っ白な髪は室内の灯りに反射してより煌めいている。どう見ても深層の令嬢が寝る前の身支度をしているようにしか見えない。見てはいけないモノを盗み見ているようで謎の罪悪感と高揚感すら湧いてくる。
正真正銘聖園家の姫君たるミカ自身も似たようなものだが、ここに指摘するものはいない。
因みに今いる部屋は、ミカが3人寝ても問題ない大きさの天蓋付きベッドが鎮座する寝室である。
寝室内に用意されたソファーで髪を乾かしつつ寛いでいる二人。
実は部屋もベッドも有り余っているが、入浴前(つまり、真の性別を知る前)に一緒に寝る事を提案し、遠慮する彼をミカが押し切ったのであった。今思えば遠慮していたのは男女間だからというのもあったのかもしれない。
(一緒に寝ようって言ったのは私だけど、いいのかなこれ本当に)
払わなくて良いのかな、お金とか。
と、悶々としているミカは数時間前の事を思い出していた。
☆☆☆☆☆
未だ名前も知らない不審な生徒を勢いで自室に招き、一悶着(少女だと思っていた相手が少年だった程度の事)あったものの入浴を済ませ、トリニティ総合学園指定の運動着に着替えてもらった後。
内線で用意させた夕食を終えた二人は今更ながらの自己紹介を行う事にした。
「あの、お夕飯までありがとうございます。私、
「あ、うん。私は
トリニティの令嬢達と遜色ない振る舞いで頭を下げる相手に面食らいつつ、無難にキヴォトスでは定番の挨拶を返す事に成功したが、相手が悪かった。
「ご丁寧にありがとうございます。えっと、私は特にどこの学園にも所属しておりません」
「えっ!?」
どこの学園にも所属していないという事は、あらゆる手続きで学生証を必要とするキヴォトスで生活するにあたって致命的である。ヘルメット団やスケバンには縁もゆかりも無さそうな子が何故?
本人はのほほんとしてるけど大丈夫なのだろうか。
詳しく聞いてみると、孤児院で過ごしていたが院長に追いだされ、行き倒れかけていた所を、休暇中の救護騎士団の生徒に拾われて来たとの事だった。追い出されるとは穏やかではないが気になる点はもう一つ。
「救護騎士団に?」
ミカの記憶によれば、救護騎士団はトリニティでも歴史の長い団体だが、学外で生徒を休暇中に連れて帰ってくるほどアグレッシブな連中ではなかったと思われる。容態にもよるだろうが、普通なら応急手当てをして救急車を呼び、近辺の自治区の医療機関に引き継いで終わりだ。
「ええ、ミネさんという方なのですが……」
「あー、あの子かぁ」
そんなアグレッシブな生徒も個人でなら心当たりがあった。高い実力と深い慈愛、そしてあまりにも早い開戦で有名な生徒だ。ゆくゆくは次期団長になるだろうとも噂される少女。ブレーキを失ったダンプカーとも評される彼女であれば、身元不明の行き倒れを連れ帰って来てもおかしくない。途中からもう一人、合流して協力してくれた生徒がいたとの事だ。
着の身着のままにみえる通り、連絡手段を持たないこの子に変わって後でその2人に連絡を入れた方が良さそうに思える。幼馴染なら連絡先も知っているだろうか、と思案する。
「元いた孤児院の院長に見つかると碌なことにならないので、偽名を使って過ごすつもりなのですが、後見人になっても良いと仰ってくれてまして……」
恩人へ頼り切りになっている申し訳なさと、頼る者なき場所での寄る辺を得た事への安堵がないまぜになった顔であった。
どこから来たのかは不明だが、まるで砂漠でも渡ったかのようだった汚れ具合を見るに結構な距離だったと思われる。つまり、その間彼女達と親交を深めていたが故の信頼というわけで……。
一人彷徨っていた中から掬い上げてくれた、あの果断な性格の少女達は、さぞ頼り甲斐があったのだろう。
「……」
つい先ほど出会ったばかりの自分よりも、彼女達の方が親しいのは当然の事ではあるが——少し、不愉快だった。
自分が最初に目をつけたと思ったのに、という小さな憤り。
ミカ生来の気質が恋と合わさって理不尽な顔を覗かせていたが、ここで不機嫌を表に出す程分別が無いわけではない。
「それで、何であんな所に?」
「これ以上、お二人のお世話になり続けるのも悪いですから。せめて寝床だけでも自力で用意しよう、と思いまして……」
「へー、そっかぁ……。? 寝床? 何であんな所に?」
ミカの常識では寝床を探すのに橋の下は不適格だ。自分ならまずホテルを探すように世話係に指示する。まさかあんなところに地下シェルター型ホテルでもあるわけでなし。
「屋根のない所ですと、その、朝露がつらくてですね……」
「この話やめよっか☆」
「? ええと、はい……?」
ガチで橋の下で寝る気だったのか、この子。自分の容姿に無頓着がすぎるのでは? そんなんじゃ、いつか攫われちゃうよ☆ もう攫ってたかいや、私は合意の上、合意の上で来てもらったから。
「寝床を探してるんだよね! それならさぁ〜、もしミコちゃんがよければなんだけど〜!?」
わざとらしいリアクションに、白々しい台詞だがミコトは(ミコちゃん、とは私の事でしょうか……?)と神速でつけられたあだ名に戸惑っていた。
その時少女の脳内は様々な感情で埋め尽くされていた。主にこんな可愛い子放置したら危ないという庇護欲や、他の子に連れてかれちゃうかもという独占欲、一目見た時から持つ執着、ミネに負けられないという焦り。
それら全てがないまぜになった結果出て来た言葉が
「それならうちに住まない!?軽く家事とかしてくれたら助かるし、私が帰って来たらエプロン付けてお帰りなさいって言ってくれればそれでいいんだけどどうかな!?」
という、助かるも何も自分で家事などした事はない彼女の口から出るにはあまりにお粗末な勧誘だった。最後に隠しきれない下心が漏れ出ていたのはご愛嬌。聖園ミカ16才、普段幼馴染をぶん回してるが、今は自らが初恋に振り回されていた。