銀英伝短編集(小ネタあれこれ)   作:高島智明

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この短編では、以前に投稿しました『リンカネーション~同盟バージョン~』と『流血の宇宙~改変~』の世界線を、あえてゴチャゴチャにしてみました。


リンカネーション~同盟バージョン~改変

皇帝が死んだ。

その情報を私が他者より僅(わず)かながら早く掴むことが出来たのは”あらかじめ知っていて”その積もりで収集のアンテナを張っていたからだった。

 

情報を得た私は、とある人物を訪問した。

イゼルローン要塞への赴任準備に忙殺されているヤン・ウェンリー新大将である。

 

「それで何の御用ですか?」

新任地への赴任準備に忙殺されている筈の高級軍人を、情報交通委員長にして最高評議会評議員が訪問する、その意味を測りかねている様だった。

だがしかし、私の持ってきた情報を受け取ると、流石に態度を変えた。

 

「提督の率直な考えを聞きたい」

ヤンは暫(しばら)く考え込んだ末に、逆に問いかけた。

「皇帝は後継者を指名してから死にましたか」

No、という答えに、ヤンは1つ頷(うなず)いてから続けた。

 

「では間違い無く、後継者を巡って権力闘争が起きます。

場合によっては内乱に発展するかも知れません」

「その時、我が同盟は、どう動くべきかね」

「思い付く手段は幾らでもあります。ですが…」

「勝つことだけ考えていると、際限なく卑しくなるもの、かね。

だがね提督。

これは我々の敵の中に、敵の敵が生まれる其の時かも知れない。

例えば、ローエングラム伯爵はどうかね?」

「それは…」

 

また暫く考えて、ヤンは口を開いた。

「”彼”は下級貴族や平民出身の士官たちを抜擢して、自分の軍閥を築いてきました。

まして、兵士の大部分は平民です。

そもそも彼自身、貴族とは名ばかりの貧家の出身だと聞きます。

彼が、その勢力の基盤としているのは…彼ならば…」

 

「そうだろう、そして今や君は彼に手を差し伸べられる位置に居る」

「もしや、あなたは…」

 

確かに私は、私の政治家としての地位で出来る限りの表の活動と裏の暗躍を続けてきた。

”アムリッツァ会戦”を無いものとし、出兵の代わりに、と言って捕虜交換を推進した。

同盟側の捕虜と交換することの出来る帝国側の捕虜の大部分が、ヤンに因るイゼルローン要塞の陥落と、それに因って後方連絡線を絶たれて降伏せざるを得なかった回廊の同盟側の帝国軍兵士だったことを言い立てて、ヤンをイゼルローン要塞司令官・兼・イゼルローン駐留機動艦隊司令官に押し上げた。

 

その為には、トリューニヒト国防委員長とも談合した。

尤も、その過程でウォルター・アイランズ国防委員を先物買いしておいたが。

 

「それでは、提案します。際限なく卑しい提案を」

ヤンも決意した様だった………。

 

……。

 

…遂に、帝国では内乱が勃発した。

門閥貴族たちの本拠地ガイエスブルク要塞へと進撃するローエングラム最高司令官以下の艦隊には、何と同盟軍のイゼルローン駐留機動艦隊が合流していた………。

 

……。

 

…内乱はローエングラム侯爵の勝利で終わった。

更には、背後の味方であり潜在的な最期の敵だった帝国宰相まで倒し、遂にローエングラム独裁体制が成立した。

 

そして私はイゼルローンを訪問し、帝国から帰還したヤンからの報告を聞いた。

レンテンベルク要塞での決闘、惑星ヴェスターラントの虐殺の阻止、そして戦勝祝賀会。

 

義眼の参謀長の暗躍で特権だった武器を取り上げられた最高司令官の親友に、ヤンが流石に命令系統の違う自分からは取り上げられたなかった自分の銃を貸した。

その結果、復讐者は撃ち倒され、ローエングラム元帥とキルヒアイス提督は生き延びた。

 

ヤンは義眼の参謀長にひと言釘を刺した後、ローエングラム侯爵には

「侯爵の進まれる途が、帝国をより好(よ)き方向の未来へと導く様に、そして其れが我が同盟にとっても好き未来であることを願っています」

そこまで言って、ヤンは踵を返し立ち去った。

 

以上がヤンの報告だった。

 

ラインハルト・フォン・ローエングラムの傍らにジークフリード・キルヒアイスが生き残ったこと。

そして”あの”義眼の参謀長に隔意を抱いただろうことは、これからどう影響するだろうか。

 

間も無くフェザーン自治領経由の情報で、オーベルシュタイン大将が宇宙艦隊総参謀長から左遷されたこと、ヒルデガルド・フォン・マリーンドルフ伯爵令嬢がローエングラム宰相府の首席秘書官に迎えられたこと、同時に中佐待遇でローエングラム元帥府にも迎えられたことを知った。

この情報は、ゴシップじみて伝えられたが、私は「何かが変わる」予感がした………。

 

……。

 

…翌年、イゼルローン回廊に、移動要塞は襲撃して来なかった。

確かに『原作』とは、何かが変わり始めていた。

 

それでも油断は出来ない。

あの「黄金の有翼獅子」が、容易に銀河統一を捨てるとは限らない。

それにローエングラム改革に因って帝国の国力が上昇し、フェザーン自治領のコントロールが効かないと見なされたとき、自治領主と其の背後の地球教が何を企むか、私は”知っていた”のだ。

 

そこで私は、とあるプロジェクトを推進した。

帝国の移動要塞が攻めて来なかったこともあって、私の提案は最初は突飛に受け取られた。

だがしかし、ローエングラム公爵がフェザーン回廊を武力突破してくる可能性について、ヤンの思考を誘導してやると、流石に其の戦略的危険性に思い当たった様だった。

そして、私の提案の戦略的、または戦術的価値にも。

 

こうして、公式にはアイランズ国防委員を責任者として、軍と政府の秘かな協力下にイゼルローン要塞でのプロジェクトが進行して行った………。

 

……。

 

…幼い皇帝を連れて亡命して来た者たちがやって来た。

彼らの処遇を巡って、最高評議会では激論が戦わされた。

 

 だがしかし、亡命政府の樹立を主張する評議員たちがフェザーン自治領からの闇資金を受けていたことが暴露され失脚すると、新たに議長代行と成ったホアン先輩が宣言した。

「人道上、彼らの亡命は認める。だがしかし、亡命政府の類(たぐい)は認めない。

”言論の自由”により、彼らが何を主張するも勝手だが、同盟政府の公認する処ではない」

 

更に、フェザーン自治領主府の策謀が暴露された。

すなわち、帝国に同盟征服の大義名分を与えるための策謀だったと。

 

これに対し、帝国のローエングラム体制側からは、何のリアクションも無かった。

この沈黙が何より雄弁だった。

果たして「黄金の有翼獅子」は、如何なる決断を下すのだろうか………。

 

……。

 

…イゼルローン要塞を、キルヒアイス上級大将を指揮官とする3個艦隊が攻撃してきた。

だがしかし、本命は別にあることを”私”とヤンを含む何人かは知っていた。

 

そして「帝国軍の双璧」を第1陣と第2陣とする帝国軍が、フェザーン自治領を武力侵攻し、ローエングラム元帥が直率する第3陣、そして第4陣、第5陣…と帝国軍が惑星フェザーンに集結した。

彼らが、同盟領への武力侵攻を目論んでいることは明白だった。

 

だがしかし、待ち受ける同盟軍は『原作』にある様な弱体化した軍では無かった。

”アムリッツァ会戦”も”内乱”も起こらず”そこ”で失われていた筈の艦隊や提督たちが健在だった。

その同盟軍が、ビュコック宇宙艦隊司令長官の指揮下に迎撃準備を整えていた。

そして、もう1つの回廊…

 

キルヒアイス帝国軍副司令官はラインハルト陣営でも主君に告ぐ名将とされる。

その彼にして「動かざることイゼルローンの如し」と言う常識(?)には不覚をとった。

 

「全責任は宇宙艦隊司令長官がとる。貴官の判断によって最善と信じる行動をとられたし」

との超光速通信を受けて、ヤンはかねて準備していたイゼルローン”移動”要塞そのものを「箱舟」として旧イゼルローン回廊を脱出した。

 

フォーメーションを組んだ艦隊と単体である為に固有の移動速度を発揮出来る移動要塞の違い、中間補給基地とする筈の拠点を”持ち逃げ”されたことに因る後方の立て直しの為の数日、これらの要因の為、遂にキルヒアイス軍はヤンに振り切られた………。

 

……。

 

…そのキルヒアイス軍を待つこと出来ず、ローエングラム最高司令官が陣頭に立つ帝国軍本隊は、同盟軍本隊と衝突していた。

同盟軍は『原作』の様に弱体化していない。

それが百戦錬磨の司令長官のしぶとい指揮で、しぶとい抵抗を見せていた。

「戦争の天才」以下の名将揃いの帝国軍も、なかなか勝ち切れずに戦闘が続いていた。

 

そこへ、イゼルローン要塞とヤン艦隊が到着した。

ヤンの戦術と副司令官の完璧な艦隊運用で見事な艦隊運動を見せるヤン艦隊が、正面を同盟軍本隊に拘束されている帝国軍の測背をかき乱し、要塞主砲が味方の居ない処を狙って敵艦隊を抹殺する。

流石の名将揃いが指揮する帝国軍も、戦線が乱れ始めた。

 

その混乱の中、ヤン艦隊が帝国軍の総旗艦に迫る。

そう、ヤンは知っていた。同盟軍が勝利する只1つの手段。

今や帝国の掛け替えの無い指導者と成った最高司令官を、戦場で倒すことだと。

 

総旗艦に迫るヤン艦隊から旗艦を守ろうとするローエングラム直属艦隊を、前進して来たイゼルローン要塞まで使った包囲網の中に落とし込み、遂にヤン艦隊は帝国軍の総旗艦を射程距離に捕らえようとしていた。

その時…ヤン艦隊に首都星からの通信が届いた。

 

「私だ、ヤン提督。

敵旗艦との間に通信を繋ぐことは可能か。

ローエングラム公爵と談判することは可能だろうか」

流石に瞬間は驚愕した様だったが、傍らの副官を振り返って、通信回路を繋ぐように言った。

 

「ローエングラム公爵閣下。

閣下は何の為に、いや誰のために戦っているのですか。

誰かとの約束の為ですか。

(この台詞に関しては、少しばかり私からのヤンの思考の誘導を要した)

あなたの友は生きている。そして、あなたの為に戦っている」

 

キルヒアイス艦隊は総旗艦を救うべく強引に転進しようとして、同盟軍の老練に付け込む隙を与えていた。

反撃を受けるキルヒアイス艦隊の苦戦が、総旗艦にも届いていた。

 

「それとも、大事なものを奪われたからですか。

ゴールデンバウム王朝は、実質もう滅びている。

帝国の実態は、既に実質ローエングラム王朝と言って好い」

 

ヤンの言葉は続く。

「そして、何故ローエングラム王朝と民主主義の理念は共存可能と思えないのですか。

我々は、ともにルドルフ・フォン・ゴールデンバウムのアンチテーゼたりうる。

帝国の旧体制という共通の敵を持った、敵の敵に成りうるはずです」

 

ラインハルトは尚も答えない。

その間にも総旗艦のエネルギー中和地場に、ヤン艦隊の砲撃が火花を散らし、そして駆けつけようとして同盟軍本隊に阻まれているキルヒアイス艦隊旗艦も同様であるとの報告も届き続けていた。

 

「…おれはここまでしかこれない男だったのか…」

答えるべき友は、尚も彼を救おうとして苦戦中だった。

「…ヤン提督…私の負けだ…」

帝国軍最高司令官は、同盟軍との停戦と惑星フェザーンまでの撤収に同意した。

 

同名首都、最高評議会議場。

「1段落しましたな」

私は1息をつくと、意識を「これから」に切り換えた。

 

これから、ローエングラム王朝銀河帝国と交渉し、同盟の存続と共存の途を模索しなければならない。

万に1つ、在り得るかも知れない再侵攻に備えることもあるだろう。

 

そして、この銀河の裏には、平和と共存を望まない者も居る。

「トリューニヒト「前」議長。

あなたはフェザーン自治領主と、そして地球教と結託した。

その結託と、地球教団がサイオキシン麻薬の密売組織でもあることを暴露された以上、あなたの様な妖怪でも、もう政治生命は終わりだ」

「前」国家元首と彼が引き入れた地球教徒たちは、シドニー・シトレ統合作戦本部長(”アムリッツァ会戦”が無かった為に健在)が手配した武装MPに連れ出された。

 

帝国領の奥深くに蠢動(しゅんどう)する地球教を、どうしてやるか。

帝国側に、こちらか入手出来た情報を提供してやるか。

それも、共通の敵を増やしてくれるかも知れない。

 

これから”誰も知らない”未来が始まる。

それでも銀河の歴史は、また1ページを進めようとしていた。




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