銀英伝短編集(小ネタあれこれ)   作:高島智明

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「玉座」と「円卓」~建艦こぼれ話~

宇宙暦790年代、帝国暦480年代のあるとき、銀河帝国と自由惑星同盟とで、それぞれ似た様な発想のもと、新たな宇宙戦艦が設計された。

奇しくも、とは言えないかもしれない。

 

「想像を絶する新兵器、などというものはまず実在しない。

互いに敵対する両陣営の一方で発明され実用化された兵器は、いま一方の陣営においても少なくとも理論上は実現している場合がほとんどである」

             (ユリアン・ミンツ編「ヤン・ウェンリー=メモリアル」より抜粋)

 

この場合、帝国の側がその設計思想においてより過激だったこともあり、何らかの情報を得て、その対抗処置がとられた可能性も指摘される………。

 

……。

 

…ともあれ、帝国の側では、同盟語で言うところの「プロジェクトチーム」の「リーダー」としてすでに定評のあった、ブルーノ・フォン・シルヴァーベルヒが専門の設計者たちを率いて、このプロジェクトを進行させていた。

シャフト科学技術総監のあまり技術的ともいえない思惑をかわしつつ。

 

この日も、シルヴァーベルヒとシャフトとの何回目かの折衝が行われていた。

ただし、どちらの思惑か、何人かの軍高官が立ち会っていた。

 

「これは…」

「そうでしょう。この設計は余りにも異端です」

「確かに見慣れぬ艦型でしょう。

しかし、ここで2点ほど原点に返って考えていただきたい。

1つ、従来の戦艦はいかなる設計思想によって見慣れた姿をしているのか。

2つ、本件は「旗艦級戦艦」の設計案です。それでは、艦隊旗艦の求められる役割とは何か」

科学技術総監の返答はこうである。

「それは、いまさら論ずるまでもない。

動力部の許容する限りの大出力ビーム砲を主砲とするために、艦首へ主砲を固定装備する。

敵主砲からの被弾面積を最小とし、エネルギー中和地場の効率を最大とするため、主砲砲身の太さを最大幅とする」

「その通りです。

その為わが軍にしろ叛乱軍にしろ、細長い艦体の一端に主砲を装備し、大きさからはみだすノズル部以外は、主砲の太さに収めるというのが、ほとんどの戦艦の設計でした」

「そうだろう。

それなのにこんな先細りの設計にして、いったいどこに主砲を搭載するというのだ」

「しかし、艦隊旗艦として建造されるという事は最低でも1万数千隻以上の艦艇を率いて戦うという事です。

例え、最強の大艦巨砲であっても、それは1隻分の攻撃力に過ぎません。

旗艦の役割とは、率いる艦隊の攻撃力を向けるべき目標に導く事です。

一方、旗艦であるが故に、集中攻撃は避けられません。

旗艦を狙い、指揮官を倒すのは、艦隊決戦における常套手段でしょう」

後の「バーミリオン会戦」「シヴァ会戦」がいい例である。

「であれば、指揮官が戦い続ける事が、旗艦の設計思想においては個艦としての戦闘力に優先します」

「うむ、しかし、艦隊の戦闘力とは、個艦の戦闘力の総和であって」

「艦隊旗艦はその艦隊に1隻しか必要としません。

でなければこんなコスト無視の設計はしません」

 

「バーミリオン会戦」における「鉄壁ミュラー」は異例というより、異常とすらいえよう。

だからこそ「鉄壁」の二つ名なのだ。

 

結局のところ、この新戦艦の設計思想は、西暦20世紀の戦車や戦艦における『避弾経始』であるといえる。

予想される被弾方向に対して傾けた装甲に斜めに当てた敵弾を斜めに兆弾させる、それも出来るだけ浅い角度で。

「それに、美しいでしょう」

「……」

「わが戦艦は惑星上制圧のための降着機能もあって、火薬式半自動拳銃の様なデザインに成らざるを得ません。

まあ、機能的にも間違っていませんが」(苦笑)

「その点において従来よりは制約が少ないのが本艦のデザインです。

これなら、その役割にふさわしいでしょう。

つまり、本艦はわが帝国においては大将以上の提督に下賜される、その専用艦として建造されるでしょう」

………。

 

……。

 

…そのころ、自由惑星同盟では。

 

同盟軍技術科学本部において「旗艦級戦艦」の設計案について、国防委員の1人が立ち会っての検討会が行われていた。

 

「この艦は「フラッグシップ」にしては、すでにある戦艦に比べてもむしろ小さくないか」

「大艦巨砲が「旗艦級戦艦」の建造目的ではありません。

如何に効率良く、艦隊の指揮を取るかです。

つまり、艦隊司令官と彼を補佐する参謀たちが、戦場の状況を判断し、次に艦隊がとるべき行動を決定し、艦隊に下すべき命令を決断しかつ全艦に伝達する。

これの効率をどうやってあげるかです。

この戦艦は、そうした点において、あれこれと細かい配慮に基づいて設計されています。

例えば、艦体の周囲の幾本もの通信アンテナも、見ての通り通信能力の強化の為です。

もっとも、これは帝国軍の戦艦の様に惑星上への降着を考えていないから出来ることですが」

「その通りだ。

そしてそれは、わが軍の戦略が帝国に比べてより侵略的でないということにも繋がるだろう」

 

「さらに司令官席の背中に参謀スタッフ用の機能デスクを置いたこともです。

すなわち、司令官が椅子を回転するだけで、作戦会議室となるわけです」

「まるで「円卓」だな」

「そう「円卓」です。そして帝国軍の戦艦にあるのは「玉座」です」

「なに?玉座…」

「そうです。

帝国軍では艦隊司令官以上の高級指揮官となれば、貴族である可能性が高いでしょう。

当然の様に、彼らは彼らが搭乗し、「愚民ども」を「討伐」する戦艦に「玉座」を設ける訳です。彼らにとっては、疑問の余地も無い事なのでしょう。

それに対し、本艦の「円卓」はあくまでも指揮官を補佐するスタッフの効率のためです」

 

「それにしても、この艦は戦艦としての戦闘力が高いとはいえないのではないか」

「本艦の設計思想は最低でも1個艦隊、つまり最小でも数千隻の艦隊を率いてこれに命令することを前提としています

この場合、個艦としての戦闘力は所詮、1隻分に過ぎません。

極論すれば、本艦に設けたような施設が搭載できれば、個艦戦闘力は、巡航艦より強ければいいのです。

流石に搭載余裕と艦全体の大きさの関係からこれ以上小さくは出来ませんでした。

セコイようですが、コストと言う問題も考慮しています。

なぜなら現在わが宇宙艦隊は12個艦隊です。旗艦級戦艦は20隻以下しか建造されないでしょう。

駆逐艦まで数えれば10万隻以上もの艦隊の中では極少数派であり、量産効果も期待できません」

 

結果として、ヒューベリオンの同型艦は記録に残っていない。

ブリュンヒルトにしても確認される同型艦はバルバロッサぐらいである。

 

「しかし、そんな特殊きわまる兵器が本当に必要なのかな。

帝国軍が造るにしても彼らには我々と違った彼らだけに通用する理由なのかも知れないが」

そう、彼らの理由は、装甲にあるらしいとの情報もあるらしい。

「自分を選民とでも思う貴族らしいな。

しかし、旗艦というのはそもそもそんなに危険なのか。

だとしたら…こんな特徴のある艦型では簡単に識別されてしまうのではないか」

 

この点ではブリュンヒルトの方がより過激であるだけに、よりその通りだったといえるだろう。

もっとも「奇蹟の魔術師」の場合、これさえペテンのタネに使ったものだが。

 

「この艦は繰り返しますが、最低数千隻の艦隊の中で一番効率良く指揮出来る位置につきます。

わざわざ敵の前面に飛び出すわけではありません」

………。

 

……。

 

…いずれにしろ、帝国、同盟それぞれにおいて「旗艦級戦艦」はそれぞれ建造された。

そして、それぞれの英雄の乗艦として、伝説となる。

そう、それぞれの英雄を乗せるために彼女たちは生まれたといえるであろう。

それゆえに、姉妹を持たぬ孤高の存在をも運命付けられていたのだろうか。

では、英雄たちはなぜこの艦を選んだのだろう。

 

ミューゼル大将(当時)がこの新造戦艦に持った関心はいかにも彼らしいものだったのだ。

「装甲が強靭だという事は、それだけ、俺自身が前に出て戦えるという事だ。

そうだろう、お前とおれは約束したはずだ。

宇宙を奪う。その為には常に陣頭に立って戦う。と」

そう、中世の武王は陣頭に立つためにこそ、全身を甲冑で固めた。

 

一方、ヤン・ウェンリーがその旗艦に座乗したのは、第13艦隊結成時であることは史実である。

では、いかなる理由での選択だったのか。

残念ながら、ユリアン・ミンツですらそれを語り残していない。




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