銀英伝短編集(小ネタあれこれ)   作:高島智明

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ある兵士の処遇

帝国宰相にして帝国軍最高司令官である、ラインハルト・フォン・ローエングラム公爵はこの日も多忙だった。

その多忙な公務も、時には途切れる。

そのわずかの時間も何者かが惜しんだ様に、沸いて出た様な用件が面会を求めてきたのである。

 

その用件は、憲兵総監ウルリッヒ・ケスラー大将によってラインハルトの面前まで運ばれた。

ケスラーは先ず、ラインハルトの多忙中の閑をおかした事を詫び、そしてこの件が重要かどうかをあえてラインハルトの判断に委ねる事にしたと告げた。

そして、本題である。

憲兵本来の、例えば民主共和国におけるMPなども行っている、兵士の素行や言動に付いての報告の中にそれがあった。

ある一兵士の言動と進退についてだった。

その兵士は一般兵から下士官を経て、下級士官まで大過なく昇進してきたが、最近、言動や行動に妄想ないしは神経症を疑う兆候が現れ、遂に軍医の診断を受けた後、退役を勧告された。

 

「…それで」

ラインハルトはやや、不審を示した。

「卿は、前言にもかかわらず、私にこの件を持ち込む事にしたというのか。

この兵士について、見過ごせぬ不正でもあったと言うのか」

「ヤー」

しかし、この兵士の退役に関しては、通常の「名誉ある除隊」に伴う一連の手続き、すなわち、現役時に加えて一階級の進級、その階級をもっての恩給、この階級とそれまでの勤続年限に相応の功労賞の授与等々。

それらが一切なく、厄介払いの様に軍を追われていこうとしているのだという。

「成程、確かに不公平があるな。その兵士が断罪されて当然でもない限りはな。それだけか」

ここで、ケスラーはなぜか、ためらいを見せた。それがさらに、軽く不審を加えさせた。

やや微苦笑を交えつつ、先を促す上官に対し、さらに一瞬のためらいの後、先が続けられた。

 

その兵士は、先年、ガイエスブルグ要塞においてある式典が挙行された時、その会場入口において衛兵の現場責任者を務めていた。

「何?!」

その地名が、ラインハルトの記憶中にかすかな痛みを生じさせ、そしてその痛みが連想力を刺激する。

「おそらく、閣下のご想像通りです。件の兵士はそれ以来…」

俗な言い方をすれば「イジメ」を受けてきたのだという。

やれ

「なぜ、提督から武器を取り上げ、暗殺者から取り上げなかった。

お前の任務は逆じゃないのか」

とか、

やれ

「提督の代りにお前が死んでも取り押さえるのが本来の任務だろう」

とか、

あげくには

「それとも、提督を罠にかけて粛清しろとの命令でも誰かから受けていたのか」

だの

「刺客や、あの後に首謀者という事になった前宰相のまさか一味じゃないだろうな」

などという誹謗中傷を受けた、少なくとも本人やその家族はそう思い込み、結果、遂に軍務に耐えられなくなったらしい。

 

遂に金髪の最高司令官は激昂した。

「私が、そんな卑劣な行為を私への追従だと思うというのか!

そして、そんなものを喜ぶ様な愚物だというのか!

そして、罪無き弱きものに自分の罪を押し付けて、自分が友に償うべき罪から逃げる卑怯者だというのか!

そんな、そんな私の身代わりになって「わが友」は―いや、そう思うだけでも「わが友」を汚すだけだ!」

「閣下」ここで初めて秘書官が口を挟んだ。

 

その後、件の兵士については、特に最高司令官が兼務する軍務尚書の名による指示があり「名誉ある除隊」に伴うすべての特典を受けた。

さらに、文書で布告されて曰く

「心無き誹謗中傷については、これを遺憾とする。

もし、意図的になした者があれば、適切な処分を受ける」

義眼の軍務次官(当時)はこう評した。

「公爵の威信は下がることは無く、むしろ人気を上げた。政略的には正しい」

 

だが、宰相秘書官の解釈は異なる。

ほかの誰より、ラインハルト自身がこの処置に救われた。

そう、それがラインハルト・フォン・ローエングラムであった。

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