…伝説が終わり歴史が始まっていた頃…
ユリアン・ミンツは軍事指導者よりも歴史家としてのヤン・ウェンリーの後継者を目指し、ダスティ・アッテンボローはジャーナリストとしての父親を目標としていた頃。
そのアッテンボローが何かの用件でユリアンを訪問していた際の雑談の中で、ふと思い付いて質問してみた事が在った。
「なあユリアン。もしかしてヤン先輩の事だけどな」
「はい。何でしょうか?」
「お前さんにフェザーン行きを勧(すす)めたことが在ったな」
「ええ」今のユリアンには、そんな事までが懐(なつ)かしい。
「確か後で聞かせてもらったが、先輩は「見方が拡がる」みたいな事を言ったと思うが」
「要約したら、そういった意味だったでしょう」
「もしかしたら先輩自身の経験だったんじゃ無いのか?」
アッテンボローの思い付きの根拠を箇条書きにしたら以下の様だろうか。
ヤンの思想は当時の同盟ないしは同盟軍部では間違いなく異端であり、本人も認めていたが、同時に父ヤン・タイロンからの直接の影響あるいは交易商人だった父親の宇宙船で育った環境の影響も認めていた。
しかし同盟の経済社会は、基本的には西暦20世紀のアメリカの様な資本主義社会であり、大航海時代まがいな交易の目的地として考えられるのは、当時のフェザーン自治領だろう。
「フェザーン商人の幼馴染も居たしな」
「子供時代に知り合う機会が在った、と言う事ですね」
血縁の従兄弟ですら同盟とフェザーンに別れては直接に対面した事は無かったとも聞いたのに、ヤンとは悪童仲間だったらしい。
その父タイロンの言動にも、息子ウェンリーが回想する限り、あくまで印象かも知れないが、当時の一般的な同盟人よりもファザーン商人でも言いそうな印象が感じられた。
「ま、こう言ったところかな。何か小さい事でも忘れている気もするが」
ユリアンのパートナーであるカリンから受け取った紅茶のカップを口元に運んで、小さい事を思い出した。
「そうそう、親父さんの趣味は骨董(こっとう)だったな。地球時代の」
「大部分、ニセモノだったそうですけれど」
「だけどな、何処?から入手したんだ。少なくともだまされる程度の出所だったんだろう」
あらためて言われてみれば成程。
「地球…は無いですね」
「そうだ。当時としてはフェザーン経由しか在り得ん」
アッテンボローの思い付きが正しかった場合、実際にフェザーンを訪問した時のユリアンに近い年代のヤン自身がフェザーンを自分の目で見ていた事に成る。
更にはフェザーンを通して帝国を。
「んで。お前さんは聞いた事は無かったのか?あれだけ」
ユリアンが編集しかけていたヤン・ウェンリー=メモリアルの資料や校正原稿を振り返って
「先輩の身近にいて色々と聞かされていて」
「お恥ずかしい限りです」
「あのな。そう言う意味じゃ無いんだ。お前さんの性格での数少ない欠点の1つだな」
今度は笑い顔をつくって
「そんな風に受け取る所が」
「そうですね」
「お前さんたちの子供の御爺ちゃんとか、ひい爺さんの事には違いないだろうけどな」
文中ではダスティに代弁してもらいましたが、全くの思い付きです。
もしかしたら『原作』では書き落としていただけで、
「フェザーンと同盟を往復する交易宇宙船で育てられた」
とか、ヤンとユリアン本人同士は何処かで対話していたかも知れません。
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