『三好左京大夫になりましたが先が見えないので朽木と手を結びたい』   作:零戦

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三好家好きなんで、不幸フラグの義継を何とかしたい


前編

 

 

 

 

 

 

 永禄8年(1565年)1月21日。この日、三好軍約1万は二条御所を早朝に包囲しそのまま突入。就寝していた室町幕府第13代将軍足利義輝を捕縛する事に成功するのである。

 

「……何故逃げなかったので? 情報は流していたでしょう?」

「……出たものの、途中で幕臣達に反対されてな。やむを得ず戻ったのだ。三淵や細川、大舘伊予守ら信頼出来る者には事情を話して逃がした」

「成る程。ですが、我々もその方針です」

「何……?」

 

 義輝は目の前にいる男ーー三好孫六郎重存に思わず視線を向ける。視線を向けられた重存は深い溜め息を吐いた。

 

「我々も御所は襲いましたが将軍には逃げてもらう予定です」

「な、何と……」

「何せ、このまま貴方を斬れば三好家の評判は悪くなりますし紀伊に逃げた畠山も勢力を盛り返す可能性もありますからな」

「……結局は貴様らの都合か」

「御意。ですが命は長らえます……上杉にて」

「……上杉は貴様らの謀を知っていたのか?」

「我々が協力を要請しました。関東管領殿も北条征伐の大義名分を得ますのでね」

「……致し方ない。貴様らの謀に乗るか」

「御協力頂き感謝します」

「フン。だが、越後に到着したら三好家征伐を言うかもしれぬぞ?」

「人を動かせますかな? 書状でしか諸大名に働きかける事しか出来ない剣豪将軍が?」

「………………」

「これ以上、長居をすると朝廷にも変の話が行くのも時間の問題です。お早く」

「……朝廷が絡んでいるのか?」

「…………………沈黙は否定では無いとしましょう」

「……そうか……」

 

 そして義輝との話は終わり、義輝は生き残っていた数名の幕臣と共に馬を走らせ京を脱出するのである。

 

「討たなくて宜しかったのですか?」

「三好包囲網が出来るが良いのか?」

「……それは良く有りませぬな」

 

 肩を竦める重存に質問をした三好日向守長逸は納得するように頷く。

 

「しかし、何人かの幕臣は逃げ仰せているようです」

「チッ。勘が良い幕臣もいたようだな」

「全くです」

「さて、平島に行った伯父達は上手くいったかな……?」

 

 そう呟く重存であるが内心は違っていた。

 

(やっと原作とは異なる事になってきた……実休と冬康の伯父はどうも武力中心だからあれは政治の面も鍛えないと駄目だな……つか、早く朽木と同盟を結びたいんだけど!!)

 

 そう心の中では絶叫する重存である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 重存の中の者が、三好孫六郎重存ーー後の三好義継に憑依したと気付いたのは天文22年も12月に入った時だった。男は最初にこの世界に気付いたのは父親が鎧を纏った時であった。その後、他の女中等の話で弘治やら天文やらの年の話が聞こえたので男も漸く戦国時代だと認識し、自身の家系も三好家と分かったのだ。

 

(まさかの三好家……となると俺は実休か一存の息子か……?)

 

 そして男はある話を聞いた。

 

「長逸様の軍勢が近江の朽木に行ったらしい」

「間違って朽木が朝廷に送るつもりだった献上品を奪って謝罪に行っただけだろ」

「それもそうか」

(……………………そんな史実は無いぞォォォォォォォォォォォォ!? てか、そんな聞いた話はあの作品しかねぇよ!!)

 

 男(少年)は廊下で聞いた話に愕然としたが、それは男がまだ現世で生きている時に見た小説や漫画に記載されていたのだ。

 

『朽木家は若狭一国で将軍家を裏切る事など出来ぬ』

 

(竹若丸……まぁ朽木の主人公の言った言葉は他者から見ればある意味で『忠臣』『義侠心』みたいな感じだが俺等展開を知っている者からしたら三好が攻める事は無いと感じての発言だわな……)

 

 そう思う男である。そしてここいらで漸く男も自分自身が誰に憑依したのかも分かったのである。

 

(流石に幼名の熊王丸は分からなかったが……親父が十河一存と分かったから恐らく俺は十河重存……後に三好義継になるな)

 

 三好義継、父は猛将であり三好家随一の武を誇る十河一存の嫡男である。史実では三好長慶の息子である三好義興の死去後に長慶の養子とし、長慶の死後は三好家の家督を継ぐが三好三人衆の離反や足利義昭に降伏したりし、最後は義昭を匿った事で信長に居城若江城を攻められ妻子と共に自害した。

 

(まぁ義興で無い事が良かった点か。義興の死因は黄疸とか言われているから……まぁ健康には留意しよ……)

 

 そう思う男ーー熊王丸であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「澄み酒ですか? あれは作れますよ」

 

 そう言ってしまったのは長慶の居城である飯盛山城での新年(弘治三年)を祝い時の席での事だった。熊王丸は父である一存と共に飯盛山城に呼ばれ宴会に付き合っていた時、一存が酒が無くなった時に「もっと酒があればのぅ」と呟いたのを聞いて咄嗟に答えてしまったのだ。それをたまたま三好長逸と酒を酌み交わしていた長慶の耳にも入ったのだ。

 

「ほぅ……熊王丸、澄み酒を作れると?」

「(ゲッ、聞いてたのか……)は、はい……ただ、聞いた話ではありますが……」

「それはどのような作り方だ?」

「簡単です。濁り酒が入った瓶に竈の灰を入れて一晩待てば澄み酒に変わるようです」

「フム……試していないのは何か理由でもあるのかね?」

「自分はまだ子どもですので酒があるところには行かせてはくれないので。言ってもやってはくれないでしょう」

「ハッハッハ。確かに熊王丸はまだ元服をしておらぬからな。では熊王丸、一つ酒瓶をやろう。それに灰を入れて見事澄み酒になれば良し。ならなければそれもまた一興よ」

「ありがとうございます」

 

 酒の席だったので長慶もやらせる事にしてみた。また、長慶もどうしてそのような事を知っているのか興味が沸いたのだ。

 そして翌日、長慶の前には澄み酒となった酒瓶が目の前にあった。

 

「ほぅ。確かに澄み酒じゃな」

「兄上、俺がこの眼で熊王丸が竈の灰を入れたのをしかと見た。そして酒瓶は澄み酒になっておったわ」

 

 もう味見したのか、一存はガハハハと笑いながら顔を赤くしていた。長慶も一口舐めると確かに味も良く、商人を通して朽木から仕入れた澄み酒と同じであったのだ。

 

「熊王丸、良い事をしてくれた」

「ありがとうございます」

「しかし……何故この事を知っていたのか?」

「ハッ……実は御忍びで城を出て城下町に行った時に酒を売っていた商人からこの事を知りました」

「ほぅ、商人からか?」

「はい。元は近江国高島にいたと」

「高島……朽木か」

「はい。朽木と争い、負け六角の忍びに消されるところを朽木の忍びから救われ居城を捨てて妻子と共に商人になったという事でございます(嘘だけどな)」

 

 熊王丸は頭を下げながらそう言う。熊王丸は嘘八百とばかりにヅケヅケと言うのである。

 

「名は分かるかね?」

「昔の姓は永田としか……今は永山と言っていましたが転々と居住を移動しているので足取りは恐らくは……」

「そうか、それは残念だ」

(何が残念かは知らんけど……)

「その者は何処で澄み酒を知ったのか?」

「高島にいる時に朽木から流れてきた澄み酒を入手して製造方法を調べたらしいです。本人もそこまでしか言わなかったので自分もそれ以上は分かりませぬ」

「まぁ子どもだからと言ったがそれ以上は言わなかったか……なぁ熊王丸、澄み酒を此方も販売するのは手か?」

「兄上ッ」

 

 一存の声に長慶は手で制し熊王丸に視線を向けるが熊王丸は言いにくそうな表情をした。

 

「それは……難しいでしょう」

「それは何故か? 澄み酒という利益を得る宝が目の前にあるのだぞ?」

「澄み酒は元より酒はコメから造られますのでコメを大量に仕入れるところから始まります。加えて我が三好家は内外に敵が多くカネをそちらに回さざるを得ません。ですので売るよりも我々で消費し、朽木から仕入れる澄み酒の量を徐々に減らしていけば余計な出費は抑えられます」

「フム。いきなり全ての澄み酒購入は止めぬのか?」

「はい。いきなり澄み酒の購入を止めれば向こうが怪しむ可能性は有ります」

「成る程……そのように取り図ろう。ご苦労だった熊王丸、下がって良い」

「ハッ」

 

 長慶はそう決断をし熊王丸を下がらせると澄み酒を一口舐める。

 

「一存……どうやら我が三好家にも朽木に劣らぬ麒麟児は生まれていたようだな」

「ガハハハ。そいつは重畳だな兄上」

「あまり飲み過ぎるなよ一存。どうもお前は酒癖が悪い」

「分かってるよ兄上」

「それと……大叔父上、熊王丸の後見人をしてくれぬか?」

「成る程。某のところで鍛える……と?」

「鳶が鷹になれば良い。それに我が息子を支える者が一人でも増えれば良い」

「承知仕りました」

「さて……どのように化けるかな」

 

 長慶は面白そうに目を細めるのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「起きておいでかな?」

 

 ふと、夜中に誰からかそう尋ねられた。熊王丸は就寝中だったがその声に起きたのだ。

 

(隣の部屋には宿直の者がいた筈だけど……)

「宿直の者は寝ており申す」

「ッ」

 

 その言葉に熊王丸は側に置いていた脇差を手に取る。部屋の何処かに人の気配はしていた。

 

「御安心下され。宿直の者は朝になれば眼を覚まし申す」

「それは嬉しいが夜中に何用か? 夜中に押し入るのは俺を討つ為か?」

「御無礼はお許し下され。某、風真信九郎賢久と申します」

「風真……風魔の者か?」

「左様。ですが風魔からの抜け忍でございます」

「フム。その抜け忍が何用だ?」

「は、某の主になって頂きたい」

「主に? それはまたどうしてだ?」

「澄み酒の件でございます。実は某、風魔を事情により抜け忍となり主を求めていました。その時、飯盛山城に忍び込み、屋根裏で澄み酒の事を聞いていたのでございます」

「へぇ、あの時は屋根裏にいたのか」

「申し訳ありませぬ。忍び故……澄み酒の件、量産の件等を聞き、中々の知略をお持ちと思い、そこで某は貴方様を主にして頂こうと思いました」

「知略か。ただの小童かもしれんぞ?」

「その時はその時でございます」

(フム……だが、忍びがいるのなら情報収集や偵察やらはやりやすくはなるな……)

 

 笑う信九郎に熊王丸は興味を得たのだ。そして熊王丸は頷く。

 

「分かった。御主を雇うが暫くは給金だぞ。何せ親父にも御主の事を話すからな」

「無論でございます」

「よし、では朝食を済ませたら親父に報告をするからその時はまた来てくれ」

「御意」

 

 信九郎はそう言って消え、熊王丸は再び寝たのである。その後、朝食を終え一存を訪ね、昨夜の事を伝えた。

 

「成る程。その忍びも面白そうな奴じゃな」

「うん。そこで雇いたいのですが……」

「良かろう。給金の事か?」

「それもあるのですが、此処は信九郎も交えて話をしたいのですが宜しいですか父上?」

「無論じゃ」

「許可が出たぞ信九郎」

「失礼仕ります」

 

 フッと信九郎が現れ、一存と熊王丸に頭を下げる。

 

「御主が信九郎か。儂の息子に仕えたいとは中々面白い奴じゃな」

「恐悦至極に存じます」

「これからの戦は武力は勿論ですが武力を合戦場で発揮する為に情報や偵察は欠かせません」

「ウム。そこで忍びの力が必要……というわけじゃな」

「その通りでございます」

「フム、儂は構わんぞ熊王丸。御主に仕えたいというなら断らん」

「ありがとうございます父上。そこで信九郎の報酬なのですが、500〜1000石相当の領地を与えて頂きたいのです」

「「なッ!?」」

 

 熊王丸の言葉に一存と信九郎は驚きの表情をする。

 

「どういう事だ熊王丸?」

「今は信九郎一人しか忍びはおりませぬが何れは数を増やしていき信九郎を頭領にした忍びの集団を作り六角の甲賀等に負けぬようにしたいのです」

「成る程……信九郎とやら、如何致す?」

「……熊王丸様がそこまで忍びを大事にしたいとは気付きませんでした、申し訳ありませぬ。だからこそ、やらせて頂きたい」

 

 信九郎はそう言って一存と熊王丸に頭を下げ、信九郎を頭領とした忍び集団の創設も決定するのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほぅ、今川が織田に負けて今川義元は敗死したのか」

「はっ。義元を討たれた今川の軍勢は総崩れとなり駿河に戻ったそうです」

 

 永禄三年(1560年)、熊王丸は9歳であり信九郎からの報告を受けていた。

 

「フム……」

「熊王丸殿、何をお考えかな?」

 

 隣にいた長逸はそう問い熊王丸は笑みを浮かべた。

 

「なに、人の募集です」

「と言うと?」

「義元の息子である氏真はどうやら和歌や蹴鞠等を重視するあまり政は苦手な模様です。桶狭間で今川は義元を筆頭に松井宗信、井伊直盛、由比正信等多くの武将も討ち取られており内部は揺らいでいるでしょう。そこで書状を用いて生き残った武将や国人等に揺さぶりをかけ離反するかのような動きをさせます。今川家を固めたい氏真なら恐らくは粛清を行い、軍律を厳しくすると思いますが粛清され生き残った武将の家族や国人の家族はどう思うでしょうか?」

「……氏真を恐れるか、新天地を求めて逃げるかになるかもしれませぬな。しかし上手く行きますかな?」

「失敗するでしょう。生き残った武将や国人はそう簡単に首を縦には振りません。しかし、働きかけた痕跡を氏真に見せれば良いのです。それだけで氏真は疑いをかけ、疑心暗鬼に陥りやがてはやるでしょう」

「……成る程(僅か9歳にてそこまで読むとは……末恐ろしい童じゃな)」

 

 熊王丸の言葉に長逸はそう思うのであった。なお、熊王丸の案は直ぐに実行された。予想通り生き残った武将や国人等は誘いを断るのであるが、誘いがあった痕跡を氏真側が見つけると氏真側は疑心暗鬼に陥り、熊王丸の思惑通りに粛清をしたりするのであった。

 そしてこの粛清によりある国人のところは一人を除きほぼ全滅をしてしまい、残った一人は姿を晦まし原因となった三好熊王丸を必ず殺すと誓ったのである。

 

 

 

 

 

 




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