『三好左京大夫になりましたが先が見えないので朽木と手を結びたい』 作:零戦
基綱と重存は気分を変えようという事で清水山城の櫓に二人で登っていた。櫓からは琵琶湖ーー淡乃海が綺麗な景色として見えていた。
「ほぅ……流石は近江の海とも言うべき事ですな」
「祖父である稙綱もこの景色は美しいと毎日見ています」
「成る程。確かに引きつける良さはありますな」
基綱と重存は他愛もない話をしていたが不意に口を開いたのは基綱だった。
「重存殿、あのホトトギスの意味は……」
「……未だ尾張と三河で燻っている三人は暫くは出てこないでしょうな。桶狭間までは良かったものの、美濃攻めは史実でも10年は掛かりましたからな」
「ッ!?」
重存の言葉に基綱は驚きの表情を浮かべ、ゆっくりと口を開く。
「……俺と同じ……」
「如何にも。まぁ書状に『明治、大正、昭和、平成』と書けば知る者は知っていますからな」
「……憑依者……ですか」
「はい」
基綱宛の書状に重存は基綱と重存しか知らない年号を書いていた。だからこそ基綱は自分の他にも憑依者はいると認識したのだ。
「いつ頃、気付いたので?」
「敬語はいりません。俺の方が年下ですし。長逸殿が朽木谷に3000の兵を率いた時に。まぁその時は終わった直後でしたからね」
「成る程……」
「澄み酒に椎茸、石鹸は戦国時代からしたら希少なモノであり売れるにはこした事はない……戦国時代のSSを書く必需品ですな」
「ハハハ……」
重存の言葉に基綱は苦笑する。
「実は三好の方でもあるモノを作ろうと思いましてな」
「それは?」
「醤油です。醤油を量産して稼ごうと思います」
「な、醤油を!?」
「えぇ。もう試作は作っているので良ければ融通しますよ?」
「ありがとう!! 醤油は此方もあるがたまり醤油の方だからやっぱ醤油と言えばそれだよなッ」
重存の言葉に基綱は嬉しそうに笑うが直ぐに表情を変える。
「重存殿、同盟を結ぼうと言うのはやはり……」
「えぇ……『その後の歴史を知る者』がいれば好都合かと思いまして。それに未来の話も咲かせるでしょ?」
「ハハハ、それは確かにそうだッ」
基綱も未来を知る者がいれば好都合なのは確かでありWin-Winだろう。なので基綱も腹は決まった。
「よし、同盟を結ぼうッ。どうせ北の一向衆は片付けないといけないし畿内に味方は欲しかったところだ」
「まぁ将軍家は襲うつもりですがね。生かしてあるところに放り込みますけど」
「……うちじゃないだろうな?」
「流石に朽木に行かせられませんよ……」
兎も角、二人の腹は決まった。櫓を降りて基綱と重存は同盟を結ぶ事を決断したと稙綱や長逸らに言うと周囲にいた全員が驚愕したのは言うまでもなかった。だがしかし、同盟を結ぶにしてもその後の詰め合わせが必要であり今回は締結の確認だけで終わり、その後重存ら一行は清水山城で一泊するのだが気付けば宴会に変わっていた。
長逸も酔っ払いながらも基綱に酌をし「あの時の童がこのように大きくなり……感動じゃな」と涙を流していたりする。
「ちなみに家臣に島左近と松倉重信もいたりするんです」
「あ、筒井を叡山に追放したからか」
「まぁ筒井の命を助けた事もあったのでウチに来てくれたんですよね」
そんな宴会で次の日は勿論二日酔いだったがその二日酔いが覚める報告が信九郎を通して来たのである。
「殿!!」
「信九郎? どうした?」
「重存殿、そちらは……」
「いや八門がおられるのに申し訳ござらん。うちの忍びの頭領をしている信九郎です」
「殿、挨拶をしている暇はありません!! 一大事であります!!」
「……何かあったのか?」
「……芥川山城にて長慶様と義興様が刺客に斬られ、義興様は死去、長慶様も重体であります!!」
『ッ!?』
信九郎の報告にその場にいた全員が驚愕したのである。
「馬鹿なッ……刺客は誰じゃ!?」
「詳細は未だ不明です!! 時を要するので報告には私が参りましたッ。恐らく二の手、三の手として使い番は来る筈です」
「……大叔父上、此処は一先ず芥川山城に向かいましょう。状況を調べるのはそれからです」
「ウム、そうじゃな」
「……基綱殿、同盟の詳細はまた後日としますので今は……」
「無論です。今は一刻も早く芥川山城にッ」
「はッ」
基綱と重存は頷き合い、重存と長逸ら一行は急いで芥川山城に向かうのである。
「伯父上ッ」
「……重存か……それに大叔父上も……」
重存ら一行が芥川山城に着くと直ぐに長慶が休んでいる部屋に通された。長慶は背中から斬られておりうつ伏せで寝ており顔色は悪かった。
「伯父上、傷の具合は……?」
「大事ない……と言いたいが悪い方だ……」
重存の言葉に長慶はうっすらと笑みを浮かべる。
「一月……一月持てば良いと薬師から言われておる」
「そんな……」
「良いのだ大叔父上。これもまた定め、後は後の者に任せる。のぅ重存?」
「伯父上……」
「深手を負った義興もワシより先に逝ってしまった……実休や冬康では家督を継げても三好家を牽引し三好家の天下を更に深める者ではない……重存、御主しかいないのだ……」
「…………………」
長慶の言葉に重存は即答を避けた。告げ口によって無用な誤解は避けたいし原作における『永禄の変』をどうするかもまだ決まっていなかったのだ。
「それに……下手人は見つかった」
「何と!?」
「……畠山高政だ」
「畠山!?」
「紀伊に逃げた奴がですか!?」
「ウム……ワシの暗殺を依頼された忍びが茶坊主となり密かに討つ機会を待っていたようだ……そして茶会の時、先に義興が斬られたのだ……」
「……畠山……いやまさか伯父上、畠山だとしても畠山を動かしたのは……ッ!?」
「……十中八九、義輝公だろう……もしくはその取り巻きだな……ゴホッゴホッ」
「伯父上ッ」
ゴホゴホと長慶が咳き込む。焦る重存に長慶は手で制する。
「それでも……それでも三好家を御主に頼みたい重存……」
「……前途多難ですな」
重存はゆっくりと深い溜め息を吐いた。重存も覚悟は決めたのである。その様子を見て長慶は満足げに頷く。
「期待……しているぞ……重存………」
数日後、長慶は病床から家督を重存に譲る事を発表し重存は長慶の養子入りとなるのである。無論、怒ったのは実休や冬康らであった。
「重存は四男一存の嫡男ではないか!? 次男である俺の嫡男か冬康の嫡男から養子入りするのが得策であろう!!」
「あぁ……筑前守(義興)様が生きておられたら……」
実休と冬康は何とか再考を願おうとするが病床の長慶はガンとして動く事はなかった。その後、長慶は重存に必要な事を言い終えると永禄七年五月五日、史実よりも二月程早くに長慶はその生涯を終える事になる。
そして遺言通りに重存は十河重存から三好重存として三好家の家督を継ぐ事になる。実休と冬康は尚も反論したが長逸ら三好三人衆、松永兄弟、阿波・讃岐の国人達も重存を支持した事で三好家の当主は重存で決定となるのであった。ちなみに重存への支持工作をしたのが長逸であり長逸は「某が一番、若殿を見ていた。若殿が家督を継ぐのが三好家にとって良い選択であります」と説得していったのである。
「弥五郎、やはり三好家は……」
「あぁ、重存殿が家督を継いだ。彼なら三好家はまだ大丈夫だろうな……万が一の事が起きても重存殿なら乗り切れるさ」
永禄七年八月下旬、清水山城で基綱は稙綱と御茶をしていた。先頃も細川兵部大輔藤孝が基綱への取り成しの為に清水山城に来ていたりと千客万来であったりする。
「では弥五郎、三好と同盟を……」
「うん、結ぶつもりだな……御爺はやっぱり不満?」
「いや。弥五郎がそう決断したのならばワシらも従うまで。皆、御主を信頼しておるからな」
ヒョッヒョッヒョと笑う稙綱に基綱も少し恥ずかしそうにしていたが悪い気はしなかった様子である。
永禄七年九月上旬、丹波にて反三好の動きが活発になり丹波を治めていた三好実休は急いで軍を編成し討伐に向かおうとする。十月中旬、実休は反三好の旗を掲げた波多野秀治を討とうと八上城を包囲するも実休に従っていた国人衆が反乱し実休は討死し三好軍は総崩れとなるのである。
「丹波は一時放棄、内側を固める」
当主に継いたばかりの重存は敵討ちを主張する冬康を制し三好家の統制を優先し、久秀や長逸らも同調するのである。結果としてそれは功を成した。
十一月上旬に紀伊に逃げた畠山高政が再度兵を起こして河内に侵入したが、重存率いる三万の軍勢による攻撃で若江城で討死するのであった。
「一先ず、長慶様の仇を取る事は出来た。これも偏に皆のおかげである」
岸和田城から飯盛山城に移動した重存は居並ぶ家臣達を前に頭を下げるのであった。しかし、まだ情勢は油断は出来なかったのである。
「それは本当か信九郎?」
「御意。暗殺を命じたのは義輝公の取り巻きである御伴衆の大舘陸奥守晴光です」
(大舘ェ……そういや原作も大舘兵部がやらかしていたな……ロクな事をしない一族だな)
信九郎からの報告に重存はそう思いつつもどうするか悩むのである。
「アンタでも悩む事はあるんだね」
「何だ、次郎法師か」
「フン、茶のお代わりだよ」
ムスッとした表情をする次郎法師が新しい茶を持ってきた。
「アンタが悩むのはどうでも良いけどね、排除するならしちまえば良いんだよ」
「あのな次郎法師、排除ったってそう簡単に……」
次郎法師の言葉に重存は言い返そうとした時、動作を止めた。
(排除は難しい……ならずらす…そうか、そうか!!)
「……? どうしたんだ?」
「ずらすんだよ!! 目的をずらしゃあ、変は起きても変じゃないんだ!! ハハハ、そうかそうか。そう考えれば良いんだ」
「ど、どうしたんだ?」
重存の叫び様に次郎法師も驚くが、重存は返答として次郎法師に抱きついた。
「んな!?」
「次郎法師は天才だ!! 流石だ、可愛いなぁ」
「この……馬鹿ァァァ!!」
「あだァァァ!?」
次郎法師は抱きついた重存を倒し顔を真っ赤にして出ていくのである。
(……殿、それは殿が悪いですぞ……)
状況を見ていた信九郎は口には出さなかったがそう思うのであった。
斯くして重存は動き出す、『永禄の変』を作り出す為に……。
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