【完結】空飛ぶ雛と飛べない鳥~ヒナの親友だった少女が狂い彼女の敵になって壊れる話~   作:詠符音黎

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2.偶然からの必然

 ゲヘナ学園に入学し、自己紹介で失敗してからはや一週間と少しが経った。

 ガイダンスも終えざっくりと本格的な授業が始まり、みんな新生活に適応を始めた具合の時期と言えよう。

 そんな中で私は今、絶賛ぼっちロードを邁進中である。

 

「おっしゃ昼だー! 食堂行くぞー!」

「えーでもあそこちょっと味がさぁ……」

「つってもお前も私も金ないだろー」

「私はパスかなー。パン持ってきたし」

 

 お昼時、そんなかしましい話し声を横で聞きながら一人でお弁当を包んだナプキンをほどいているのが私だ。

 最初のあの険悪そうな空気はどこへやら。

 お互いそれぞれの距離を理解したクラスメイト達はわりとすぐに友達グループを作っていって、あっという間に普通の学校のクラスと言える空気感を作っていった。

 本当にあの一触触発みたいな雰囲気はなんだったの……? となるぐらいにみんな笑い合っている。

 いや、これは別にみんなの心変わりが早いとかそういう話ではないのは分かっている。

 つまるところ、友達を作れていない私が異端なのだ。

 最初の威嚇バトルはただの緊張と校風に流されての結果で、一度気が合いそうな同類を見つけて友達になれてしまえばそんな虚勢を張る必要もなくなる。

 それなりに素を出して、それでもある程度は見栄を張って、適度に楽しくやる。

 正しい高校生のあり方にみんな落ち着いたのだ。

 だというのに、私は一週間少し経過した今でも、こうして誰とも話せずに縮こまって手作りの弁当を食べている。

 私が一番大事な最初で間違えたから。

 あそこで間違えたせいで、そこから繋げられるいろんな正解を辿れずに来てしまったから。

 

「うう……やっぱり、私って駄目だなぁ」

 

 自分の情けなさに思わず私は肩を落としてしまう。

 ただ落ち込んでばかりでお昼休みを消化してしまうのはさすがにできないので、自己嫌悪もほどほどに私はお弁当に箸を伸ばす。

 今日のお弁当はご飯に市販のフリかけをかけた冷凍からあげと冷凍きんぴらごぼうである。

 ……手作り弁当というより冷食弁当が正しいんじゃないかというツッコミをついしたくなってしまうが、あえて我慢する。

 だって普通の手作りのお弁当だって全部が全部手作りなんてやってられないし……最近の冷凍食品は下手に作るよりずっと美味しいし……。

 それが手作りだと思えばそれは手作りのお弁当になる。そういうことなのだ。

 

「……ふぅ」

 

 と、私が自分の冷食……じゃなくて手作り弁当をそこそこ食べ進めていると、目の前から軽いため息が聞こえてきた。

 俯いていた顔をふと上げると、そこにいたのはあのヒナという子だった。

 一つ前の席が他の友人と教室外に食べに行ったから彼女を直接見る事ができたけれど、なんというか少し疲れた表情をしているように見えた。

 購買で買いたいモノが先に買われていたのだろうか? と思ったがそうでもないようで、彼女の手には私と同じく手作りのお弁当があった。

 その中身は私の位置から伺い知る事はできないけれど、ナプキンでのお弁当箱の包み方が凄く丁寧で綺麗なのは分かった。

 粗雑に包んだ私の弁当とは大違いだ。

 

「いただきます……」

 

 彼女はちゃんといただきますを手を合わせて言ってから、変わらずちょっとだけ疲れた様子で自分の弁当を口に運び始める。

 なんだか、その僅かな所作を私は妙に目で追ってしまった。

 

「……ごちそうさま」

 

 落ち着いた食事を終えて締めのごちそうさまを言うヒナ。

 お腹いっぱいになっただろうに表情は変わらず物憂げだ。

 チラっと見えたお弁当箱は米粒一つないぐらいに綺麗になっていたから料理を失敗しちゃったわけでもないだろうに、どうしたっていうんだろう。

 私がそんなことを不思議に思っていたら、昼休みを終えるチャイムが学園に鳴り響いた。

 既に慣れたそのチャイムの音ではっとした私は、そこであることに気づく。

 

「あっ……お弁当、食べるの忘れちゃってた!?」

 

 ヒナがお弁当を食べる姿をじっと見ていたせいで、私の箸はそれまでずっと止まっていたのだ。

 結果として、机の上には半端に手がついたお弁当の姿が。

 後で食べるとしても、隙間ができちゃっているこれじゃあしまってまた出したらもうグチャグチャになってしまう可能性が高い。

 既に手がついてしまっているとは言え、それをやると大分悲しい気持ちになるからしたくはない。

 食べ物は大事にするものなのだ。

 

「今日は、慎重に帰らないとなぁ……」

 

 私はとほほと一筋の涙を流しつつ、ご飯を粗末にしないように苦笑しながらお弁当を再びナプキンに包んだのだった。

 

 

   ◇◆◇◆◇

 

 

 それから午後の授業を半端な空腹具合で過ごした私だったが、なんとか授業を終えて家へ帰る。

 この一週間少しで既にルーチンとなった行為であり、これから何度となく繰り返されるであろう行為。

 ただ、それだけをするはずだったのに。

 

「おいおい、随分と舐めた真似してくれたなぁ一年生?」

「かーっこれだから入ったばっかの身の程知らずはさぁ」

「これは上下関係ってもんを教えてやらないとねぇ」

 

 なんで私、三人の先輩達――しかも三年生――に囲まれて詰められる事になってるの……?

 しかも、校門横で堂々と。

 

「えっ、いや、その、私は別に何も……」

 

 私はなんとか声を振り絞って弁解する。

 ただそれでも顔は怖くて見れないので右へ左へとウロウロさせてしまっているけど。

 

「はぁ!? ふざけんじゃねぇぞテメェ!」

「そうだそうだ! お前が私達のペロロ様任侠エディションラバーストラップを見て笑ったのは分かってんだよ!」

「これ手に入れるためにどんだけ苦労したと思ってんだゴラァ!」

「え、えぇ!? 私そんな事してないですよぉ!?」

 

 なんだか気持ち悪いキャラクターのラバーストラップを見せつけながら言ってくる彼女達に私は必死に首を横で振った。

 いや、確かに目に入ったときに少しギョッとした気持ちになったけど笑ってなんかいないよぉ!

 

「いーや笑ったね! あの目はそういう目なんだよ!」

「そうだそうだ! これを手に入れるために私達がどれだけブラックマーケットを練り歩いたか!」

「だ、だから誤解ですよぉ!? というか、そもそもブラックマーケットに行き来して手にれたんですか……? じゃあ怪しい品なのでは……」

「あっやべっ」

 

 うわあ……私……踏み込まなくていいところに踏み込んじゃったみたい……。

 

「それを知ったお前は生かしちゃおけねぇなぁ……」

「とりあえず記憶なくすぐらいボッコボコにしてやるよ」

「ついでにその舐めた態度も矯正してやるから覚悟しろ」

 

 目の前の先輩方はそう言いながら銃をすっと取り出し始めた。

 ショットガンにアサルトライフルにサブマシンガンといったラインナップだ。

 その光景を誰も止めに入る事はない。

 バカで弱い子が強い子の餌食になる日常の一コマ。ここゲヘナ学園では、それが当たり前だと言うかのように。

 

「う……あ……」

 

 私は怖くてプルプルと震えてしまう。

 どうして、私はいっつもこうなんだろう。

 ちょっとした言葉選びとかやり方とかを間違えて、凄い痛い目を見る。

 小学校の頃のクラスメイトの誕生日会でも、中学校の頃の体育祭でも、学校でも日常生活でも、そして高校になった今でも、私はいつだって間違えてばかりで――

 

「――先輩方、そこまでにしてくれませんか?」

 

 と、そんなときだった。

 可愛らしい、しかしはっきりと芯がある声が先輩達の背中の向こうから聞こえてきたのだ。

 この声を、私は知っている。

 あの自己紹介のときから頭に残って忘れたことのない、綺麗な彼女の声だ。

 

「あぁ? なんだぁテメぇは?」

「一年の空崎ヒナです。そこにいる子、地羽クイナさんのクラスメイトです」

 

 振り向いて睨んでくる先輩達に対してヒナは臆するどころか涼しい顔で流して言った。

 むしろ彼女のその堂々とした態度に先輩方が軽く気圧されている感じすらある。

 というか、私の名前覚えていてくれてるんだ……今まで話した事もないのに……。

 

「何があったかは知らないですけれど、彼女の様子を見るに反省していますし、何より三人でよってたかって下級生をいじめるのは先輩としてお世辞にも褒められた行為ではありません」

 

 淡々と述べる彼女の言葉に、先輩達はギリギリと歯を食いしばっているようだった。

 今の彼女達はもう噴火寸前なのだろう。それでも私を脅していたときと違ってすぐに怒らないのは、やはりヒナが放つ言いようのない存在感からだろう。

 上級生である彼女達にもそれが感じられていたのだ。

 

「分かったなら、彼女をこちらに引き渡してくれますか? はっきり言って、迷惑ですから」

「……このっ、一年の癖にっ!」

 

 煽るようなヒナの言葉に、先輩達はついに我慢ならなくなり銃口を彼女に向けた。

 マズい! と私は思った。

 だが、次の瞬間に倒れていたのは、先輩方のようだった。

 

「え……?」

 

 何が起こったか一瞬分からなかった。

 だが、ヒナがいつの間にか構えていた軽機関銃、その銃口から立つ硝煙、そして鳴り響いた電動ノコギリのような発砲音、それらから彼女が一瞬で先輩方を撃ち倒したという事実を少し間をおいてやっと私は理解する事ができた。

 

「な、なんなんだこいつ……」

「私達より早く、軽機関銃を……」

「バケモン、かよ……」

 

 倒れた先輩達が呻きながら言う。

 ただの早撃ちではなく、的確に急所を撃ち抜いた射撃のようだった。

 

「……大丈夫?」

 

 だがヒナはそんな先輩達を軽く一瞥しただけで言葉を返すことなく、私の方に近づいてきて言ってくれた。

 

「え? あ、うん……ありがとう、空崎さん……」

 

 私は未だ呆けてる部分がありながらも彼女に礼を言った。さすがにいきなり呼び捨てはできないから苗字呼びだけど。

 近くで見ると、遠くで見てたとき以上に彼女は可愛らしい、そんな場違いな事を思ってしまった。

 

「良かった……ゲヘナはいいところだけど、上から下まで元気過ぎる生徒が多いのも事実だから、気をつけてね」

 

 いいところ、かなぁ……? いや、私も生まれ育った土地だから愛着はあるけど……。

 私がそんな矛盾した気持ちでいるのを尻目に彼女はそのまま帰っていこうとする。

 やはりその背中はどこか疲れている……というか、寂しさがある印象を受けた。

 

「あ、待って!」

 

 私は、気づいたときには彼女を呼び止めていた。

 今までの私からだとあまりでないぐらいの声量が出て、自分でも驚きだ。

 

「……何?」

 

 ヒナは少しポカンとした顔で私に振り返る。

 私は、その勢いのまま思ったことを言った。

 

「えっと……私とお茶してください!」

「え……? ……お茶?」

 

 ヒナは鳩が豆鉄砲を喰らった顔とはこんな顔を言うんだろうなというぐらいの表情になっていた。

 ああ、私、もしかしてまたやらかしちゃったかな……。

 

「あ……えと、その……ごめんな――」

「――いいわ。一緒にしましょう、お茶」

 

 やからしたという気持ちが強くなってきたので前言撤回しようとしていた私の言葉を遮って、ヒナは少し強めの声で私の誘いに乗ってくれたのだった。

 




 銃は熱いうちに撃てとキヴォトスでは言われているので冒頭部分はさくっと投げておきます。
 ちなみに投稿時間は普段は毎日20~22時くらいの間の10分か40分ぐらいを目処にするつもりです。
 だいたい勢いの産物。
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