【完結】空飛ぶ雛と飛べない鳥~ヒナの親友だった少女が狂い彼女の敵になって壊れる話~   作:詠符音黎

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21.開幕第三回、炎上する劇場

 ――一時間ほど前。

 

 私、火宮(ひのみや)チナツはイオリと一緒に夕暮れ時のゲヘナ自治区の街中をパトロールしていました。

 もちろん通常の風紀委員の業務でもありますが、ヒナ委員長と先生がブラックマーケットでクイナ先輩について調査しているので私達はこうして風紀委員会としての仕事を分かりやすく行う事で委員長の不在を誤魔化すのが狙いです。

 アコ行政官の手腕も見事でヒナ委員長不在の情報を見事に隠していました。

 委員長がいないと知れ渡ると問題児達に対処ができなくなってしまうぐらいになる現状の根本を見つめ直したほうがいいんじゃないかとたまに思いますが……まあ今は関係ない事ですね。

 

「……ねえチナツ。クイナ先輩の話、どう思う?」

 

 そんな折、ふと周囲の生徒が少なくなったタイミングでイオリがボソっと聞いてきました。

 彼女の気持ちはよく分かります。あのクイナ先輩があんなことをするなんてと、付き合いが短い私達ですら思った事でしたから。

 

「そうですね……私も事実としては受け止められても心では整理がついていないところがありますね。あの人は誰かを傷つけるような人じゃないというのは確かでしたから」

「だよね……クイナ先輩はあくまで一般生徒だったけれど、時折問題児を諌めているところも見てたし、そこでお礼を言っても『私にはこれぐらしかできないから』っていつも返されてたよ。……だから、逆に良くないものが絡んでるのはハッキリはしているけど」

 

 私は彼女の言葉に「ええ」と言いながら首を縦に振りました。

 多分相当な問題児でもなければゲヘナでクイナ先輩に悪印象を持っている生徒はいなかったでしょう。

 良くも悪くもあの人は我を通すという事がなかったように思います。

 誰かのやりたいことを邪魔はしないけれど、逆に自分からの意見も主張しない。

 私はまだ一年であまり関わっていたわけじゃないけれど、たまにそういう場面を何度か見かけた事がありますし、話したときに受けた印象もそこからズレた事はありませんでした。

 そんなクイナ先輩が今は無差別に人を襲っている。やはりどこか不思議な感覚がする話でした。

 

「気になるところですが、ここはどうしても委員長と先生の調査待ちでしょうね。歯がゆいことですがこればかりは仕方ありません」

「うん。私達にできる事はこうやって委員長がいない事を隠すだけ――」

 

 イオリが言葉を言い切る前に、それは起こりました。

 大きな爆発音と共に、私達が歩いていた大通りを挟んだ斜め前の小さなテナントビルから大きな爆発が起きたのです。

 爆発はビル一階で起き、大量の爆薬で壁と柱を飛ばしたのかビルは通りに倒れていきます。

 

「イオリっ!」

「ああっ!」

 

 私達は逃げる一般人とは反対にビルの方向へと走っていきます。

 どうやらこのテナントビルは中身が空だったらしく、被害者はいないようでそこは一安心しました。

 一瞬この大通りに面しているのにどこのオフィスや店舗も入っていない事を疑問に思いましたが、今はそれどころではありません。

 

「規則違反者め! どこだ! 神妙にお縄につけ!」

 

 いの一番に瓦礫を駆け上がって叫びます。いつもながら勇ましい姿ですけれど、いつも勇ましすぎるんですよね……カバーする身にもなって欲しいです。

 

「んん? あれ? あー発破する位置ちょっと間違えっちゃったなぁ。まあいいか、まだまだ爆薬はあるし」

 

 その場違いに朗らかな声が聞こえてきたとき、私達は凍りつきました。

 私達も幾度か言葉を交わしたことのあるその声は、以前よりもむしろのびのびとした調子で、でも同じ人物なのははっきりとしていて。

 

「がっ!?!?」

 

 直後、轟く発砲音と共にイオリが瓦礫の上から吹き飛ばされました。

 

「イオリっ!?」

 

 私は彼女に駆け寄ります。「つっ……!」と苦痛に顔を歪めながらもまだ意識はあるようで良かったですが、たった一発の射撃であそこまでの威力なのは、やはり間違いないでしょう。

 

「あっ、なんかいたから撃ったけれどイオリちゃんじゃん? それにチナツちゃんも。ごめんねー気づかなかったよ。まあでもそっちは風紀委員会の仕事で来てるんだろうし、遅かれ早かれね?」

 

 日常会話をするかのような話しぶりで近づいてくる彼女に、私は視線を向けます。

 そこには、画像や動画通りの姿……いや、手に持った対戦車ライフル以外にも背中にランチャーを背負ったり腰にサブマシンガンを下ろしていたりと、より武装が増えている姿を彼女は――クイナ先輩は見せて、笑っていました。

 

「ちょっとここで私やることがあってさぁ。手早く終わらせたいから悪いけど見逃してくれない? ねっ? イヒヒヒヒッ!」

 

 今までクイナ先輩が見せたことがない不気味な笑い方に、私はぎゅっと懐の拳銃《サポートポインター》のグリップを握りしめました。

 

 

   ◇◆◇◆◇

 

 

 私は今、全力で車のアクセルを踏んでいた。

 アコから受け取ったゲヘナ自治区でのクイナの出現、そして破壊行為の報告。

 それを聞いた瞬間、私は近くを通りがかっていた車を止めて奪い、ゲヘナ自治区の該当区域へと走らせていた。

 結果的に強盗行為を働いてしまったけれど、今助手席に座っている先生が「後で一緒に謝るから、今は急ごう」と言ってくれた。

 彼女の言葉に私はやはり助けられる気持ちになった。

 ただ車と言えど交通状況によって時間は左右される。なにより、問題が起きている地区へと近づくと交通が麻痺しだしたため、私達はやむなく車を放棄、近くにいた風紀委員会の子に「これ借り物だから」と任せた後、足を使う事にした。

 そうして私達が現場にたどり着いたのはアコから連絡を受けてから一時間ちょっと。

 目の前に広がる光景に、私達は絶句した。

 

「そんな……!?」

 

 多くのビルや店舗が火の手を上げ、夜空に火の粉を空に散らせている。

 状況を解決しようとアコに招集されたであろう風紀委員会の子達が数多く路上に倒れ気を失っていた。

 そしてその中でビルが一つ完全に瓦礫になっており、コンクリートの山を作っている。

 

「先生はここで待ってて」

「っ!? ヒナ!」

 

 私は先生に一言残すと、状況をより正確に確認するためにその瓦礫の山に向かって走った。

 先に戦っていたというチナツもイオリも、そして肝心のクイナの姿も見えない。

 ならば少しでも一帯を観察できる場所に陣取りたかった。

 そして、私の目論見は私が予想していたよりも即座に達せられる。

 

 クイナを、見つけたのだ。気を失い倒れるイオリとそれを庇うように間に血だらけで座り込むチナツの姿と一緒に。

 

 彼女らは地面の更に下、床の抜けた地下室の遥か底にいた。私がいる瓦礫の山からの高低差を考えると五メートル近くあるだろう。

 

「イヒヒッ……さすがイオリちゃんとチナツちゃん、ヒナなしでここまで粘るなんて凄いねぇ。でも、もう終わりだよ」

 

 歯を見せながら笑うクイナは彼女の愛銃である《シアターカーペンター》をチナツの眼前に向けていた。

 一方で内股座りで頭から血を流し、片目を閉じた状態でクイナを睨むチナツ。彼女の片手は背後のイオリに伸びていて、もう片方の手は彼女が普段使っている拳銃のグリップを未だ力強く握っていて未だ心は折れていないのは伝わってくる。

 

「はぁ……! はぁ……!」

 

 しかし、その荒い息は精神力だけでは持ち直せない程のダメージを負っているのが見て取れた。

 そんな状態でクイナの対戦車ライフルの弾をあの至近距離で受けてしまっては……。

 最悪の未来が、私の頭によぎった。

 

「じゃあチナツちゃん。残念だけれど、これもまた――」

「――止めてっ!!!!」

 

 気づけば私は叫んでいた。

 炎と粉塵舞う夜闇の中から、より暗澹とした地の底へと。

 

「え? あっ、ヒナ……?」

「ヒナ委員長……!」

 

 驚いた顔のヒナとチナツ。

 私もまた、随分と険しい表情をしているのが自分でも分かる。

 わずかに、静寂が支配する。

 

「……ヒナ……ああ……ヒナが、ここに…………イヒ……イヒヒヒ……イヒヒヒヒヒヒッ……!」

 

 けれどもその静寂は、クイナの彼女のものとは思えないおぞましい(わら)いが破り裂いた。

 

「ヒナっ! 久しぶりだね! 九日ぶりぐらいかな? ごめんねーしばらく休んじゃって。心配したかな? でも大丈夫、私はこんな風に元気だよ! それに、私すっごく強くなったんだ! だからこれからはヒナとずっと一緒にいられるよ! どうヒナ? 凄いでしょ? 私、頑張ったよ!」

 

 両手を広げて笑って言うクイナの姿に、先程までのチナツとの間で流れていた緊迫感は消えて私だけに感情が向いているのが分かる。

 とっさにチナツがイオリを連れて逃げ去った事にもまったく気づいていないのがその証拠だ。

 それほどにクイナの笑みは満面であった。

 とても嬉しそうに、とても楽しそうに。

 心からの無邪気な言葉だと分かる言葉を、彼女は私に伝えてきた。

 それが嘘じゃないと分かるからこそ、私の心は締め付けられていく。

 あのクイナが、私の大好きなクイナがこんな楽しそうに大勢の人間を傷つけ、ゲヘナをこんな風にしたんだという、つい先程まで心の何処かで目を背けていた現実を理解してしまう。

 

「……どう、して……よ」

 

 涙と共に、声が漏れ出た。

 心の痛みを、抑えることができなかった。

 

「どうして、よ……どうしてよっ! 地羽クイナっ!!!!」

 

 ――どうして、あなたはこんなことをしてしまったの? どうして優しかったあなたがこんな風になってしまったの? どうして、ここまでなってしまう前に、親友の私に……言ってくれなかったの?

 

「……なんで、そんな顔するの?」

 

 だけれど、そんな私の慟哭への答えは、さっきまでの笑みが消えた、真顔での疑問の投げ返しだった。

 

「私は、ヒナのために頑張って“正解”になったんだよ……?」

「……え……え? それ、は……どういう……?」

 

 彼女の言葉の意味が分からなかった。

 私のために? 正解に?

 分からない、私には、何も……。

 

「ヒナ、知ってるでしょ? 私は今まで弱いっていう“間違い”だったんだよ。だからヒナは私を守ろうとしてくれてたんでしょ? だからヒナは私を信じられなかったんでしょ? だから私は”間違い”を直して“正解”になったんだよ? それなのになんで、ヒナは……泣いてるの?」

 

 笑顔の消えた彼女の表情からは、私がさっきまで抱いていた痛みなんかよりもずっと突き刺さるような苦痛が溢れていた。

 そこで、私は気付いた。今更、気付いてしまった。

 

 ――私は、クイナとの友達関係の中で、彼女のネガティブな感情を受けたことがない。

 

 と。

 クイナはいつも私に笑いかけてくれていた。

 いつだって彼女は私の事を応援してくれて、肯定してくれて、私の少し先を歩いてエスコートしてくれた。

 その中で私は彼女から怒りも悲しみも、ぶつけられたことがなかった。

 じゃあ、その裏でクイナは何を思っていた?

 私が彼女に応援してもらっている中で、私は彼女の相談に乗ってあげた事って、なかったんじゃないか? 

 

 ――私は……本当のクイナを、何一つ知らなかったんじゃないの……?

 

「違う、の……わた、しは……」

 

 私は、震えた声でそう言うしかなかった。

 何も反論できないのに、ただ言い訳が口からこぼれていく。

 でも、本当に、違うの……私は、あなたの事を、友達だからと、そう、思って……。

 

「……いいんだよ、ヒナ」

 

 そんな情けなくなってしまった私に返ってきたのは、肯定の言葉だった。

 いつものように、優しい、私を包みこんでくれる、そんな温かい彼女の声。

 

「つまり、まだ私はヒナに認められてないって事なんだよね?」

 

 けれども、そこから続いた言葉に、私は絶望に再び落とされた。

 

「仕方ないよね、風紀委員会をみんな返り討ちにするのにこんなに時間がかかってたらまだまだキヴォトス最強には並べないよ。うん、だったらもっと頑張らないとね! もっともっといろんな人を倒していろんな物を壊して! どんどん強くならないとなんだよね! うんうんそうだね! 私、頑張るよヒナ!」

 

 そういう彼女の顔はとても明るかった。

 SNSに上げられていた画像や先程までも恐怖を感じさせる異常な笑い顔ではなく、いつものクイナのニッコリとした温かな笑顔で言っているのが余計に私には辛かった。

 

「そうじゃない、そうじゃないのよクイナ……」

 

 あまりにもか細い声で言う私は、ついにはその場に膝をついてしまった。立つことすらできない、哀れな姿になってしまう。

 でも、クイナは変わらない。

 そのまま、私に笑みを向け、軽く地下からこの地上まで飛び上がってくる。

 彼女の片手には銀色に輝く金属のバックパックが持たれていた。大きなボンベが二つ並んでいるそれは一目見ると火炎放射器のモノのようだが、そこから伸びている同じく金属製のホースの端は口につけるガスマスクになっていた。

 クイナはそれを軽々と手で揺らしている。あれを片手で持てる子なんてキヴォトスでも少なそうだと言うのに。

 

「大丈夫だよヒナ、私、諦めないからね。……あ、そうだ! せっかくだしちょっと戦ってみない? 私がどんなに強くなったかヒナに見てもらいたいからさ!」

「……お願い……止めて……お願い……」

 

 私はもう彼女に頼み込む事しかできなかった。

 俯いて瓦礫の上に手をついて、涙でコンクリートにわずかな跡を残す事しか。

 

「ねぇヒナ、ヒナったらー! ヒナかまってくれないのー? つまんなーい。……ああ、そうか。なら、ヒナをやる気にさせてあげればいいのかな? イヒヒヒッ……」

 

 そこで、再び私の耳に入り込んでくる、ふざけた嗤い声。

 私が顔を上げると、そこには先程までとは打って変わって、瞳の虹彩がまるごとキュッと小さくなって白目ばかりになって、口元も裂けてしまいそうにつり上がった怪物のような笑みをクイナは浮かべて私を見下ろしていた。

 

「じゃあ宣言するね? 私、地羽クイナは一週間後、このゲヘナ全土をめちゃくちゃにすると誓いますっ! イヒヒヒヒヒヒヒヒッ!」

 

 そしてそんな彼女から出た言葉に、私はもはやまともな言葉を出すこともできなかった。

 

「あ……ああ……」

「ヒナはゲヘナを愛しているからね。それをぜーんぶぶっ壊せば、さすがのヒナも私と戦ってくれるでしょ? そこで私が“正解”になったってのをヒナにも分かってもらうんだ。もう、ヒナに守られるだけの私じゃない、ヒナの隣で笑い合える私になれたんだって!」

「――ヒナっ! クイナっ!」

 

 と、そんなときだった。

 後ろから叫び声が近づいてきた。間違いなく先生の声だ。

 でも私はその声に応えて後ろを向く事はできなかった。一方で、クイナの嬉しそうな声が響く。

 

「あっ先生ぇ! 先生も久しぶり! 見て見て! 私、“正解”になれたでしょ? 凄いでしょ? これ、全部私が一人でやったんだよ? だから先生! 褒めて褒めて! 私、先生の役に立てるぐらいに、強くなれたんだよ!」

「……クイナ。それは違うよ。今のクイナは、間違ってる」

 

 私の少し後ろで、先生が言っているのが聞こえる。

 今の彼女を刺激するような発言で、下手をしたら撃たれるかもしれないのに彼女はそれを迷いなく、確固たる意志の籠もった声で言った。

 

「ふーん、先生も私を否定するんだー……。まあ、いいよ。私がヒナを倒せば、先生だって私の事を認めてくれるだろうし。イヒヒッ……」

 

 しかし、今のクイナに先生の言葉は届かない。

 すっかり顔を上げられなくなった私にも、彼女がとても厭らしい笑みを浮かべて言っているのが分かった。

 

「私はね、二人とずっと一緒にいたいんだ。だから障害は全部全部全部潰すの。ゲヘナだけじゃなく、トリニティもアビドスもミレニアムもレッドウィンターも百鬼夜行も山海経も。私が”正解”だって二人に理解してもらうためなら、私は――ゲホッ! ゲホゲホゲホッ!」

 

 愉しそうに語っていたクイナが、突然咳き込んだ。彼女がその咳と共に吐き出したモノが、私の頭を汚す。

 生暖かく鉄臭いそれを触って見てみると、真っ赤だった。

 彼女は、血を吐き出したのだ。しかも、少しの量なんかではなく、多くの量を瓦礫の上にダラダラとこぼしていた。

 

「ク、クイナっ!?」

「クイナ!!」

 

 そんな彼女の姿を見てやっと私は我に戻り、先生と共に叫んで顔を上げる。

 そこには口を真っ赤に染めて、とても辛そうな顔になっているクイナの顔があった。

 

「あークソ……! まダ、切れダっ……ガス……! やっぱり、この程度の量じゃアぁ……! 時間、短いよぉっ……!」

 

 彼女は歪んだ顔でそう吐き捨てながら、暗い茶色のスタンドカラーコートからあるものを取り出した。

 それは携帯用のガスボンベだった。緑色のボンベから出るガスを吸入器を口に当てて吸っているその姿は、まるで酸素を補給しているアスリートのようでもあった。

 

「すぅ……ふはぁ……。……ああ、やっぱり、これがないとね」

 

 ボンベ丸々一つを吸い込んだ彼女は、それをポイとその場に捨てた。

 そのボンベにはよくよく見ると、かすれているがゲヘナの校章が刻まれていた。

 

「あ……ああ……これ、は……!?」

 

 そこで、私はやっと気付いた。

 彼女がこうなった原因に。その転換点となった、おぞましい存在の憎むべき発明品に。

 

「これは……もしかして、『雷帝の遺産』の……!?」

「ん? あーヒナ、何かこれについて知ってるの? やっぱり私に隠しごとしてたんだね。まあ別にヒナが私の事思ってくれての事だろうからいいんだけどさ」

 

 すっかり調子を取り戻した彼女が再び私に微笑みながら言った。

 やはりどこか不快感を感じる、そんな顔つきだった。

 

「じゃあ、私は見つけるもの見つけて目的も果たしたし新しい目標もできたからここで失礼するね。じゃ、二人共、また来週ねー」

「っ!? クイナ、待っ――」

 

 クイナを引き留めるため立ち上がろうとするも、その瞬間彼女はコートから大量のフラッシュバン、スモークグレネード、更には破片手榴弾やIEDを落としてきたのだ。

 瞬時、私はまずいと思い先生を庇うために掴みかかってそのまま瓦礫の下に倒れ込んだ。

 

 ――直後、さまざまに入り混じった大きな炸裂。

 

「くっ……!?」

「ヒナッ!?」

 

 先生の心配する声が私の耳に響く。私はそんな先生に笑いかけた。

 

「大丈夫よ……これくらい、どうってことないわ……」

 

 そう、どうってことはない。

 今、この胸の奥から流れている流血の痛みに比べれば、ずっとずっと、どうってことはない。

 振り返ると、もうそこには誰もいなかった。

 ただ、街が燃え盛る音だけが静寂に彩りを加えていた。

 

「…………クイ、ナ……私、は……」

 

 私は再び涙を流してしまった。震えて、ただの小娘のように顔を抑えて。

 

「…………」

 

 先生はそんな私の背中を黙って、優しく抱いてくれた。

 

 




なるべく普段通りにしようと頑張りますが木曜ぐらいまでは投稿時間これくらいになるかもです。
あしからず。
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