【完結】空飛ぶ雛と飛べない鳥~ヒナの親友だった少女が狂い彼女の敵になって壊れる話~   作:詠符音黎

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25.劇場の終幕:Destroy the theater

 物心ついた頃の私にとって、世界とは部屋一つ分の広さしかなかった。

 小さい頃はちょっとした事で咳き込んだり熱を出したりととても体が弱く、外に出ることなんてとてもじゃないけれどできなかった。

 だいたいいつもどこか具合が悪くてベッドの上にいてばかり。

 たまに動けてもせいぜい家のリビングか玄関前での一人遊びが関の山。誰かとボール遊びとか鬼ごっことかかくれんぼとかできたこともなかった。

 でも部屋の窓の外からは他の子供達が楽しそうに笑い合う声は聞こえてきて、それがとっても羨ましかった。

 なんで私は誰かとあんな風に笑えないんだろうって、ずっと思ってた。

 体の弱い自分が大嫌いだった。

 たまに外に出ても他の子に話しかけに行く勇気も力もない自分が大嫌いだった。

 そんな大嫌いな自分を少しでも肯定したくて、私は部屋で一人でもできる勉強だけは頑張った。

 勉強と言ってもひらがなカタカナの読み書きの練習とか、りんごを並べての足し算とか、その程度だったんだけれど、それでも幼児用のドリルで答え合わせをしてそれが正しいと嬉しかった。

 “正解”は私を生きてていいんだって勇気づけてくれて、“間違い”があると自分がとことん無価値に思えてしまった。

 でも勉強をするにしたって体調がひどいときはベッドにずっと寝たきりになっちゃうからそれもできない。

 ただ、ベッドの上で窓の外を眺める事しかできなかった。

 窓の外から見る青空、そこに飛んでいく鳥のようになりたいってずっと思っていた。

 大きな親鳥も、小さな小鳥もみんな自由に飛び回って。

 あるとき少し体調が良かった日に見た地面に落ちて飛べなかった雛鳥も、いなくなったと思ったら空にいて。

 あんなふうに、私も自由になれたらって、そう思った。

 強くて、正しくて、自由で……そんな存在になれるのなら、私はとにかく頑張るし、そうなれるために考え続けるって、そう誓ったんだ。

 

 だから、私は……――

 

 

   ◇◆◇◆◆

 

 

「――…………ん、んんっ……」

 

 まどろみから、目が覚める。

 なぜだか夢の中で昔の事を思い出していた。

 無力で弱くて、価値がなかった頃の私の夢を。

 でも、今の私は違う。

 私は強くなった。もう体の弱さで苦しむ事も、無力さに打ちひしがれる事も、誰かに臆する事もない。

 理想の私に私はなれたんだ。

 

「……ゲホッ! ゲホゲホゲホッ!」

 

 突然の咳が私を襲う。私がさっきまで横になっていた地下にある粗野なベッドのシーツに血が散らばる。

 ただシーツは既に散々私の吐血で汚れているから、別にそれがまた上塗りされただけで何も変わらないんだけれど。

 

「ガス……私の、ガス……ッ」

 

 這々の体ですぐそこに置いてあった金属のバックパックの吸引器を片手で口に押し付け、ガスを吸う。

 

「……すぅ、はぁ」

 

 落ち着いてくる。

 安らぎが私を満たしてくれる。

 ある程度吸うと私は一旦吸引器を口から離し、その後バックパックを背負ってまた吸引器を口につける。

 これはいいものだ。

 地下でこれの存在に書かれた資料を見つけていの一番にゲヘナに取りに行った。

 これがあるおかげで私は起きてる間はガス切れに苦しむ事はない。私はずっと強くあれる。

 

「……ヒナ」

 

 あのときの事と一緒に、ヒナの顔が頭に浮かぶ。

 ひどい顔で涙を流していたヒナ。私を認めてくれなかったヒナ。私の一番の親友。辿り着き、乗り越えるべき相手。

 私は懐からスマホを取り出す。

 今の私になれてから一度ゲヘナに戻って回収してきたスマホだ。

 画面はバキバキにひび割れてしまっているが、まだ画面が見えないわけじゃない。

 持ち上げて出てきたロックのメイン画面に映っているのは、私とヒナのツーショット自撮りだ。

 友達になってから最初の一ヶ月足らずのときに、せっかくだし写真でも撮ってみよう、なんて私が提案したときの写真だった。

 あのときは私もヒナも誰かと一緒に写真を撮るなんて経験はなかったからまあまあ苦労した。

 スマホのカメラの反転なんて当たり前のことすらも思い浮かばず、うまく撮れないとか自撮り棒ってのがあればいいのかな? とかだいぶわたわたした記憶がある。

 結果として、撮れたのはぎこちない顔で笑って頭をくっつけている私とヒナの写真。

 画面はそんな私達のちょうど真ん中の当たりに大きく亀裂が入ってしまっていた。でもそんなのどうでもいい。機能はして見れるのだから問題ない。

 

「ああ、ヒナ……あと三日で私、あなたの全部を壊して、あなたと並べるね……イヒヒヒヒッ」

 

 そっと、画面に映るヒナの顔を触る。

 あの日から四日。既にこちらの準備は整いつつある。武器もたくさん用意して、襲撃場所とその順番も練った。あとはもうちょっと準備と作戦を詰めればいつでもゲヘナを攻撃できる。

 これで全部壊して、みんな倒して、私はヒナの横に並ぶんだ。

 もうヒナは私なんか守らなくてもいいって、教えてあげるんだ。

 私は弱くない。むしろ強いからヒナの敵にもなれるんだって、認めさせて、私達はまた親友に戻るんだ。

 

「イヒヒッ……イヒヒヒヒヒッ……」

 

 想像するだけで楽しくなっちゃう。笑いが止まらない。はやくヒナと戦いたいな。ヒナと笑い合いたいな。私が“正解”になれたこと、ちゃんと分かって欲しいな。

 それにヒナだけじゃない。先生にだって分かってもらわないと。

 先生は私の憧れだから。ヒナとは違うけれど、先生ともずっと一緒にいたいから。だから、やっぱり全部壊さないと。戦って戦って戦って、とにかく戦って、私が全部で一番にならないと。

 そうしないと、先生の隣にも並べないよね。

 

「イヒヒ……ヒナ、先生……私、頑張って二人のところに――」

 

 ――この地下にも響く轟音と振動が、私の言葉を途切れさせた。

 

「……これは」

 

 私はスマホをしまい、愛銃の《シアターカーペンター》、そしてありったけのいろんな武器を装備して音の方向に向かう。

 あれは爆発音、しかもこの地下の床をふっ飛ばした音だ。

 私がいるこの地下ラボは地上に近く、二つ階段を上がればもう上の廃墟ビルだ。

 だけれどそれを構わず床をふっ飛ばしたって事は、これは明確にここへの攻撃が目的だろう。

 だとすると、相手は――

 

「――おはよう、クイナ。悪いわね、ちょっと約束より早いけれど先にこちらから来たわ」

 

 吹き飛ばされた天井の先、地上のビルのエントランスの床の上からヒナが私を見下ろし、片手で髪をかきあげ、片手に彼女の機関銃《終幕:デストロイヤー》を持った姿で言った。

 

「ああ……ヒナ、ヒナぁっ……!」

 

 ヒナが、ヒナが向こうから来てくれた! 私に会いに来てくれた!

 こんなに、こんなにも心が踊る事なんてない!

 どうやってこの場所を突き止めたんだろう? まあいいかそんなこと。そんなことより今はヒナが来てくれたんだ、しかもあの姿は、ちゃんと私と戦ってくれる気で!

 

「イヒヒヒヒッ! ヒナァ、ヒナッ……私と、私と戦ってくれるんだね? 嬉しいよぉ、私が強くなったこと、“正解゛になったこと、分かってもらえるんだね……イヒヒヒヒッ……」

「……そうね。じゃあ上がってきなさい。ここじゃお互い、存分にやりあえないでしょ?」

 

 ヒナはそう言うと、私に背を向けて素早くそこから去っていった。

 ああ、追わないと! ヒナが私に気を利かせてくれるなら、私はそれに応えないと!

 

「うん行くよ! 今、行くねっ!」

 

 私は地下から飛び上がって地上一階エントランスに出る。

 すると、その瞬間私は気付いた。

 ビルエントランスにある壁、そしてビルを支える柱、さらには私を囲むように周囲の足下、それらすべてにC4爆弾が設置されているのを。

 

「っ!? まず――」

 

 気づき動き出しそうとしたところで、すべてのC4が爆発した。

 ビルが一瞬で崩れ落ちる。不意をついた爆破は、私を六階建てのビルの瓦礫の下敷きにするには十分な隙を作った。

 

「ぐはっ……!?」

 

 一瞬で私は爆炎と共にコンクリートと鉄骨の下敷きになる。

 普通の生徒ならこれでもうヘイローが壊れてもおかしくない。

 でも、私は生きている。

 だって私は強いから。こんなんじゃ死なない。大怪我はするけどすぐに体は元通りだ。だって私は“正解゛なんだもん。

 

「……ガ、ああッ!!」

 

 私は瓦礫を自慢の腕力でかき分け、地上に出る。粉塵に包まれた周囲の視界は悪かったが、すぐに落ち着いてきて、目の前で私を睨み毅然とした姿で立つヒナの姿を見つけた。

 

「ヒ、ナァ……! やってくれた、ねぇっ……!? これ、一人じゃあないねぇ……!?」

 

 ここにいるのはヒナ一人だが、私がまだ見つけてないだけで他に仲間がいるのを私は察した。

 ヒナは良くも悪くも個人の武力ですべてを解決する子だ。

 なのでこんな用意周到なトラップをしかけて初手で私を嵌めるのは普段のヒナからしたら違和感がある。

 それはつまり、彼女に協力する人間がいるという事に他ならない。

 

「そうね、否定はしないわ。私はあなたを倒し、元に戻すためならなんでもするって決めた。そしてそれにあなたが気づくのも想定内。……さて、ここまで来て一応聞くけれど、大人しく投降するつもりは?」

「投降ゥ!? はっ! するわけないじァん! 私は“正解”なんだヨっ!? それがなんで頭下げなキャなのさっ! 強いやつが“正解”で弱いのが“間違い゛なんだから、私は、悪くなぁいッ!」

「……笑わせないでくれるかしら?」

 

 ヒナは、とても冷たい声と顔で私に言ってきた。

 彼女がこんな態度を私に向けてきた事はなかったので、ついひるんでしまった。

 

「今のあなたは明確に規則違反者よ。多くを傷つけ、壊し、テロを画策する。そのような子を、風紀委員会は絶対許さない。そして……なにより私が、友人としてそんなことさせない」

 

 そこでぎゅっと黒手袋をはめ直すヒナ。

 明確に戦闘への意志を見せる彼女に、私は嬉しくなる。同時に、私を今なお否定する言葉に、苛立ちをも感じる。

 

「イヒヒッ! いいじゃん! だったら徹底的に――っ!?」

 

 こちらも今すぐ戦おうとしたタイミングで私は気づく。

 ヒナの遙か後方のビル屋上に、きらりと光るものが見えた。あれはスコープの反射光だ。つまりスナイパーが私を狙っているのだ。

 

「ちっ!」

 

 私はすぐさま射線から逃れるために右横に跳ねる。

 あの距離からの狙撃なら今の私には別にダメージなど入らない。けれどもビル一つを破壊するぐらいの事をやってきたのだ。ただの射撃と侮るのはいささかリスクが高い、そう思った。

 

「さすがね。気づいてくれると思ったわ」

 

 だが、ヒナのその淡白な言葉の直後、私は横合いから撃たれた。別の狙撃手だ。

 

「なっ!?」

 

 正確には、撃たれたの私ではなかった。私がつけているバックパックと吸引器を結ぶ金属のガスホースの根元部分、それが撃たれたのだ。

 本来ならばこのガスホースもただの射撃ぐらいならビクともしない代物だ。背負っているボンベも吸引器も、ちょっとした対物火器の攻撃なら平然と耐えられるし、このガスホースだって大口径のマグナム弾ぐらい平気で弾く。

 だけれど先程のビル崩落、さらには私をまるごと吹き飛ばした爆破によって、既にこのバックパックは相当ダメージが入っていたようでその結果、今の射撃は明確に効果を出してしまった。

 ホースに穴が空いて、ガスが漏れ出したのだ。

 

「そんなっ!? クソクソッ! あァもうッ! そっか……なるほどなるほど……反射光は、囮だったんだねっ……!」

「そうよ。まずビルと共に爆破することによってバックパックの損耗を狙い、かつ判断力を鈍らせる。そして私がこうして会話することによって更に注意を引き、そのタイミングであえてスコープの反射光を見せ、本命のガスホースを狙う……穴が空くかは一か八かの賭けだったけれどね」

「イヒヒヒッ……で、それで私を支えてくれるバックパックを使い物にしなくしたってわけかぁ……随分と悪辣な事してくんじゃん。……そっかそっかぁ、いるんだね、先生も」

 

 ここまでで分かる。

 彼女の背後には先生の指揮がある。

 あの人は魔術師だ。先生が指揮すれば負ける戦いも勝利へと変わり、多くの生徒を導いている。

 そんな先生がヒナと私の知らぬ誰かと共に戦っている。

 私は今とても大きな壁を目の前にしているのだ。

 

「……イヒヒ、イヒヒヒッ……イヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒッ。いいねぇ……いいねぇ!」

 

 つまり、私がこれ以上なく“正解”だと示す事にはちょうどいいってことじゃん。

 

「ヒナも先生も! 私がみんなぶっ倒してやるゥ! 私が誰よりも強い“正解”だってェ! ヒナに! 先生に! 理解させてあげるよォッ!」

 

 これで勝てば私は強い。先生の指揮すら覆せる私は正しい。これで私は一番になって、ヒナと先生と一緒になれる。

 私は背負っていたバックパックを外して投げ捨てた。もうガスが抜けるならこれはただの重しだ。意味はない。重さを感じてたわけじゃないけど、少しでも動けるならそれがいい。

 ならばどんなことだって私は超える! そのためなら、私は!

 

「いいわ……相手をしてあげるクイナ。私とあなたの初めてのケンカをしましょう」

 

 そして、私とヒナはとくに示し合う事なくぶつかり合う。

 お互いに銃を向けて、真正面からの射撃合戦だ。

 私はヒナの射撃をそのまま体で受け止め、一方でヒナは私の射撃を紙一重で避ける。

 互いの現在の能力でこのクローズドコンバットでは小手先の化かし合いなどもはや意味がない。

 とにかくお互いに当てて、倒れるまで戦う。それしかないのだ。

 それにこうして戦っていれば他の邪魔者も先生の指揮も意味はない。

 ただ純粋にお互いの力比べに持ち込める。ヒナさえ倒せば、あとは物の数ではない。

 

「イヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ! さすが強いねぇ! 頑丈だねぇ! でも私がそれを上回るゥ! これで私はッ! 弱くないもんっ! あなたと一緒にィッ!」

「……ええ、確かに私はあなたに力がないと私は侮っていた。蔑ろにしていた。それは認めるわ」

「イヒヒッ! だよねぇ!? 私弱かったもんねぇ!? でももう大丈夫だもん! ヒナァ! 私だってもう立派だもん!」

 

 私はヒナに一気に接近し、左手に持ったサブマシンガンをバラ撒く。ヒナがそのまま私の右手の《シアターカーペンター》からは狙いづらい左側面に飛んでいく。

 だけどそれは私の狙い通り。

 背中の大きく広まった翼で私は彼女を(はた)く。だが初見の攻撃のそれを彼女は逆に空中で蹴飛ばし、逆に私の体勢を崩した。

 

「ぐっ!?」

「悪いけど、私はあなたの強さなんて興味ない」

 

 ヒナはそのまま空中で私に弾幕を浴びせかける。

 

「なっ……!? 興味、ないっ……!?」

「あなたがいくら強くなろうなんて私にはどうでもいいの。私にとってはあなたはいてくれればよかった。ただあなたが隣にいてくれればよかった」

 

 どうでもいい? 私がずっと思い悩んでた事が、どうでもいい? ああ……アアッ……!

 

「……ふざけるな、ふざけるなふざけるなふざけるなッ! 私がどんな思いでずっといたかわからないくせにっ!」

 

 背中から対戦車火器のRPG-7を取り出し、彼女の足下に向けて発射する。

 ブラストダメージならばある程度の効果は見込めるからだ。距離としては私もタダではすまないが今のこの体の治癒能力にはあってないようなものだ。

 だがヒナには大きなダメージになる――はずだった。

 

「ええ……分からないわよっ!!!!!」

 

 直後、ヒナが爆炎を越えて私に向かってきた。体から血を流し、叫びながら。

 

「そんなの言ってくれないと分かるわけじゃない!? 確かに私だって悪かった! あなたを無責任に信頼してた! でもっ! あなたは私を信じてくれたことあったの!?」

 

 彼女の《終幕:デストロイヤー》は私に向かって高火力の弾幕を浴びせかける。

 いくら私の体が頑丈になって治癒能力が高くても、その勢いに私は身動きを封じられる。

 

「うぐっ、がっ……!?」

「あなたの気持ちを、私に話してほしかった! 私の事、もっと信頼して欲しかった! あなたからの不満を! 愚痴を! 怒りを受けたって! 私はあなたを嫌いになったりなんかしなかった!」

 

 弾幕だけじゃなく、彼女の慟哭で動きができなくなる。

 こんな必死な顔で感情をぶつけてくるヒナを、私は知らない。

 

「で、でも……!」

「でもじゃない! 私が信頼過ぎたのなら、あなたは信じなさ過ぎたッ! お互いもっと腹を割って話すべきだったのよっ! それをそれぞれ勝手に思い込んでバカみたいっ!」

「ぐ……でも、それでも、私はっ……!」

 

 強くなりたいの。“正解”になりたいの。

 この青空を、あなたのように自由に飛びたいのよ……。

 手に持つグレネードと爆薬をありったけ自分の足下にばらまいて自爆する。己を傷つけ、彼女を近寄らせないために。

 でもヒナはそんな私の拒絶を越えて、私に寄ってくる。

 

「私はあなたとずっと親友でいたい! 学校を卒業しても大人になっておばあちゃんになっても! 永遠にあなたと一緒に友達でいたいっ!」

 

 私の今の力はヒナに匹敵しているはずだ。なんなら治癒能力などを含めれば、私が上回っているまであったはずなんだ。でも、今の私は防戦一方でついにチェックがかかりそうになっている。

 なんで……なんで私は、条件が揃っているのに、彼女に……!

 

「……これで終わりよ」

 

 静かに呟き、ヒナは私に銃口をくっつける。

 直後、そこから放たれる紫色の閃光。これにより、私は大きく吹き飛ばされた。

 

「かっ……はっ……!?」

 

 そのまま私は他の廃ビルに叩きつけられ、体が壁を突き破る。

 電気が通っていない暗い室内の中、瓦礫を背にして私は立ち上がろうとする。

 だけれども――

 

「――オッ、オオオオオエエエッ……!? ゲホゲホゲホッ……! ガ、ガス、がアッ……!?」

 

 私を“正解゛にしてくれるガスが切れた。バックパックに詰めてて、懐にもガスボンベがない。

 戻らないと、もはや私は“正解”であれない。

 

「ガス……わた、し……“間違い”に……」

「……あなたは間違いなんかじゃない」

 

 すると、ヒナがそんなことを言って壊れたビルの壁の向こうから、光をもたらす青空を背にやってくる。

 彼女の手にはリボルバー拳銃が。ヒナはそれを向け、躊躇なく引き金を引いた。

 

「ガッ……!? アアアアッ……!?」

 

 私は膝をつき、体を震わせる。

 一瞬訪れた寒さの直後、どんどんと頭も体も、元に戻っていくのを実感していく。

 

「オッ、エエエエエエエエエッ……!」

 

 口から再び嘔吐したのは血ではなく吐瀉物。体を変えてから今日までロクに食事をしていなかったため、出てくるのはただの胃酸、そして緑色の液体。多分体内に残っていたガスをこうして今全部出したんだと思う。

 

「…………あ、ああ……私……私……」

 

 私は、戻った。

 “元の地羽クイナ”に還った。そんな私を、そっとヒナがそっと(いだ)いてくる。

 

「ごめんね、クイナ……私……あなたを一人にしてた……でも、もう大丈夫……私はあなたの、友達として頑張るから……」

 

 ヒナの温もりが、鼓動が伝わってくる。

 彼女のすすり泣く声が、頬を重ね合わせている耳元で聞こえてくる。

 

「……そっか……そう、か……」

 

 ――私は、結局また“間違い”を犯したんだ。

 

「分かった……分かったよ、ヒナ」

 

 私は、彼女に答え、力なく抱き返した。

 




次回、最終回です。
時間帯は諸事情でまたブレるかもしれませんができるだけ明日の20時台に投げるつもりです。
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