【完結】空飛ぶ雛と飛べない鳥~ヒナの親友だった少女が狂い彼女の敵になって壊れる話~   作:詠符音黎

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4.友達と初めての……

 ヒナと友達になってから、私の日常はちょっとだけ変わった。

 まずひとつ、朝の挨拶ができるようになった。

 

「おはよう、ヒナ!」

「ええ。おはようクイナ」

 

 私が元気に挨拶をするとヒナはクールに微笑んで返してくれる。

 それから、私かヒナどちらか後に来たほうが相手の机まで移動してたわいのないおしゃべりをする。

 と言っても私はロクに人と喋ったことがない上にこういうときに使える共通の趣味としていい感じのモノを持っていないし、ヒナもヒナで似たような感じらしくて女子高生らしい可愛いトークをするわけじゃない。

 今日や明日のお天気とか、テレビで見たニュースの話とかとりとめのない世間話程度で話題が途切れる事も多い。

 それでも気まずくなる事なんてなかった。

 私達にとってはこうしてとりとめのない話をクラスでするという事自体が楽しく、そして新鮮な行為だったから。

 だから私達は朝は会話になっているか怪しい語らいを続ける。

 そうしているうちにホームルームが近づいてきたら私達は席に戻って、授業の合間合間に軽く話をしていく。

 中身はやっぱりその場限りの大した内容じゃなく、さっきの授業がどうこうとか次の授業の宿題がどうこうという話ぐらいしかしない。

 でも、それはそれで最高に女子高生という感じがして、好きだった。

 そうしてお昼に来るとまた新しくできるようになったことをする。

 一緒にお弁当を食べるのだ。前の席の子はすっかり教室の外で食べるスタイルになったみたいなので、そこにヒナが座って机を突き合わせて食べる。

 そこで分かったのだけれど、ヒナは普通に料理がうまい。

 ちゃんと作られていて、かつ栄養バランスに配慮した綺麗な色合いのお弁当。彼女は栄養が取れればいいと言いながらしっかり咀嚼しながら食べ進めていくけどそれを考えてもとてもよくできた弁当だ。

 結果的に私のお弁当は冷食弁当という事を認めないといけなくなったけれど……まあいいだろう。

 ともかく、私達はこうして一緒にお昼を取れるようになった。こんなの、小学校の頃にクラス内で班分けされたメンバーで食べたとき以来だと思う、中学校の頃は既にみんなが好きに食べられるスタイルになっていて、私は一人を選んでばっかだったから……。

 ともかく、私はヒナと一緒に朝の挨拶そして、お昼を食べて、そして学校が終わったらまた明日って挨拶をする。

 そんな“普通の友達との日常”を送れるようになった。

 言ってしまえばただそれだけの事なんだけれど、それがとても楽しくて、嬉しくて。

 私が望んでいた“普通の日常”はここにあるのだと思えた。

 だけれど、私は忘れていた。

 ここキヴォトスにおいて“普通の日常”にはもう一つ、別の要素がある事を……。

 

 

   ◇◆◇◆◇

 

 

「ねぇヒナ。その……今日は二人で、一緒に放課後、お買い物してみない?」

 

 ヒナと友達になれてからだいたい三週間ないぐらいのその日、私はそんな提案をヒナにしてみた。

 

「一緒に……放課後……お買い物……?」

「何その知らない概念を初めて知ったみたいなリアクションは……」

 

 ヒナと友達付き合いを始めて知った事だけど、彼女は私以上にそういう事に疎い。

 そしてそこはなんというか環境というより本人の気質というか、彼女が好きなゲヘナのために頑張ってきて、結果的にその努力以外の事に疎くなった感じがある。

 そこを詳しく聞いたわけじゃないけれど、それとなく分かる。

 普段は結構「面倒臭い」なんて呟くんだけれど、一度決めた事はやり通すために熱が入りすぎる、そんなきらいがあるように思えた。まだ友達になって長い時間が経ってるわけじゃないけれど。

 

「ご、ごめんなさい……言葉としては聞いたことがあるけれど、まさか現実の出来事とは思っていなくて」

「放課後の買い物をおとぎ話かなにかのカテゴリーに入れてたの?」

 

 まあ、とはいえ私もそういったことをした事はない。

 だからさっきヒナにこの話を提案するのに結構勇気が必要だった。断られたらどうしようとか、無理させたらどうしようとか、そもそも私にエスコートできるのかとか、心配事が多すぎてどうにも臆してしまって。

 思いついてからさっき口にするまで数日かかったぐらいだ。

 

「ま、まあともかく……大丈夫、かな? もし嫌だったら全然断ってもらっても……」

「……いえ、その提案、乗らせてもらうわ。せっかくのクイナの申し出ですもの。私も全力の覚悟を持ってあたらせてもらうわ」

「戦地に赴く決意みたいな言い方だ……」

 

 私は呆れながらも同時に嬉しかった。

 ちょっとした事とはいえ、ヒナがここまで気持ちを作ってくれた事が、なんというか友達なんだなという証拠な気がしたのだ。

 勝手な思い込みと言ったらそうかもしれないけれど、ヒナはきっとそんなごまかしはしないだろう。だってヒナだし。

 

「じゃあ、自治区にあるショッピングモールにでも行こうか。あそこならいろいろお店が固まってるから色々選べるだろうし」

「分かったわ。……私、そういうのに対する知識はまったくないから、先導よろしくねクイナ」

「……う、うん。私も全力で頑張るね」

 

 実は私もまったく経験がない初心者なんですなんて、この気合の入った顔を前にはちょっと言いづらかったが、ともかく私は、友達と初めての放課後ショッピングをする約束を取り付けたのだった。

 

 

 

 こうして私達は放課後、二人で街に出ることになった。

 ゲヘナ自治区は普通に歩いていても絡まれかねないぐらいの治安で私も登下校の際にはそれなりに注意をする。

 でも今日はなんだか普段よりガラの悪い生徒が遠くにいて、いつもより落ち着いて歩けている。

 そして、そんなガラの悪い生徒達はみんな、私の隣にいるヒナを見て怯えた様子を見せていた。

 

「……ねぇヒナ、もしかしてここらへんってよく通る?」

「え? ……ああ、一応学校に通うルートとしてここを通るから。まあ、最初はよく絡まれてて面倒だったけれど、返り討ちにしてたらいつの間にかみんな静かになってくれたわね」

「な、なるほど……」

 

 つまり彼女はここら一帯の問題児をみんな実力で黙らせたという事なのだ。

 初めて会ったときもそうだったけれど、やはりヒナはとんでもなく強いみたいだ。

 なにせあの一瞬でも軽機関銃をあんな拳銃の早撃ちみたいに使ってかつ的確に撃ち抜けるのだから、しっかりと戦ったらどれほどのものなのか。

 ……混乱すると全然当てられない私とは大違いだ。

 

「…………?」

「ん? どうしたのヒナ」

 

 そんな話をしている中で、ふとヒナが足を止めて振り返った。

 私も一緒に振り返るが、特に変なモノはない。

 

「……いえ。多分気の所為よ」

 

 ヒナがそう言ったので私は特に気にせずまた歩き出した。

 そうして歩いているうちに私達は目的地であるショッピングモールにたどり着く。

 

「……あ、ついたよヒナ。ここだね」

 

 たどり着いたショッピングモールの前には何人もの生徒が行き来しており賑やかな空気で溢れかえっている。

 目の前のショッピングモールはゲヘナの中でもとりわけ大きく、街中の景観としても結構目立つぐらいのサイズだ。

 

「知らなかったわ……こんなところにショッピングモールがあったなんて」

 

 でも、ヒナは知らなかったみたいだ。

 普段はどんなところで買い物してるんだろうと逆に気になってくるなぁ……。

 

「う、うん……まあ新しい場所を知るっていいよね。じゃあ入ろうか、最初は服とかアクセサリーとか見て、その後はフードコートで軽く何か食べたりてさ」

「フードコート……なるほど……そういうのもあるのね……」

「そんなまじまじと考える場所じゃないよ……」

 

 私は呆れ笑いつつも、ヒナより先に歩いてショッピングモールの中に入っていく。

 そういうことに疎いと彼女はよく言っているのだから、ここは発案者たる私が頑張らないとね。そのために地図もしっかり見たわけだし。

 それでもこれまで来た回数も数える程だし、そのたびにちょくちょく迷うのだけれど今回はそうもいかない。ヒナのために頑張らないと。

 なので私は結構気合を入れてヒナにショッピングモールを案内した……のだけれど。

 

「ここが服屋さんだけど、ヒナはどんな服が好き?」

「え? 機能性が良ければ別にどんなでも……」

 

 服に関してはこんな感じだし。

 

「ヒナって……アクセサリーに興味ある?」

「……ごめんなさい、ないわ」

 

 アクセサリーについてもこんな反応。

 

「あっ、アイスクリームショップもあるね。好きなフレーバーってある?」

「アイスは美味しいと思うけど、あんまり気にしたことはないわね……考えてみると」

 

 歩きながら見つけたお店にあったアイスを見ても、こうだった。

 こんな風に、どうにも彼女の反応はイマイチな感じだったのである。

 服もアクセサリーも、これまで全然気にしたことがなかったせいでピンと来ないらしい。

 だからと言って、別にヒナに対してどうこう言うつもりはない。

 そもそも私だってそういった普通の女の子な趣味からは縁遠い生活を送ってきたし、たまに気に入った服などを買っても見せる相手がいなかったから自分のセンスがいいのか悪いのかも分かっていない。

 つまり……私のプランが失敗していたという話なのだ。

 

「……えっと、ごめんなさい。私、つまらないわよね」

 

 なのに、先に謝ってきたのはヒナの方だった。

 私はびっくりしてぶんぶんと両手を振る。

 

「そ、そんな事ないって! むしろ私がマニュアル通りのやり方でプラン作ってヒナの事全然考えてなかったのが悪いっていうか……!」

 

 私はつい大声で言ってしまった後に、気持ちが落ち込んで俯いてしまう。

 

「やっぱり、謝るのは私の方だよ……私もこういうお友達とお出かけなんて、全然したことがないから、ネットに書いてあった事をそのまま鵜呑みにして、ヒナの事ちゃんと考えないで……やっぱり私は、間違えてばっかりだ」

 

 いつか理想の自分になりたくて、いろんな事を学んだり、練習したりするけれどいつもそこで判断を間違って失敗する。

 中学時代の先輩にそんな私の普段の行いを「要領が悪い」とざっくり突き放して言われた事があったけど、その通りだと思う。

 こうやって考えて暗くなって引きずるのもよくないとは分かってるんだけど、それでも私は未だこの悪い部分が直せない。

 本当に、嫌だなぁ……。

 

「……そんなことないわ」

 

 だけど、目の前のヒナが急にそんなことを言ってきた。

 とてもはっきりとした声色だった。

 

「私があなたと友達になってから二十日近く、私はあなたと一緒に過ごしてきたけれどあなたは決して駄目なんかじゃないと思う」

 

 彼女は落ち着いた声で、すました凛々しい顔で言ってくれた。

 ブレない気持ちというのが、そこから感じられた。

 

「まだ一ヶ月も経ってないのに訳知り顔で言うのは図々しいとは分かってる。でも、自分も苦手なのに私のために頑張ってくれるそんなところは普段からチラチラ見えていたし、すごくありがたいって思ってた」

「え!? そうなの!? でも、どんなところで……?」

 

 私としてはそんなつもりはなかったんだけれど。

 ただ、軽くその場しのぎの会話をしてたぐらいの認識だ。

 

「例えば、朝の会話。最初は何を話していいか互いに分からなかったけれど、朝の番組とかは私が普段何気なく見ている番組に合わせてくれている。授業間の会話も楽しく話せるようリードしてくれてるし、お昼も私にもっと楽しまなきゃとよくおかずを分けてくれる」

 

 確かに、今ヒナが言っている事はその通りだけれどそれは私が他人よりも対人経験値が少ないから人一倍努力しているだけ。必要最低限の行いだと思っている。

 だけどヒナは私に対してまるで尊敬しているかのような眼差しを向けてくれていた。

 

「私はそういう細やかな気遣いがどうにも苦手で……だから、そういった事を気にしてくれるクイナの事は凄いなって、そう思ってる。今日だって不慣れな私のために考えてくれたんでしょ? だから、クイナは悪くないわ」

「ヒナ……うう、ありがとう……!」

 

 私は思わず泣きそうになってしまう。

 これが、これが友達の会話……!

 やっぱりヒナは、凄くいい子だし可愛いなぁ……!

 

「ちょ、ちょっと……なんでそんな感極まってるの……? 私、変なこと言った……?」

「ううんっ! そんなことないっ! むしろ駄目だったのは私でぇ!」

「いやだからクイナは駄目じゃ……って、これじゃ話題が堂々巡りするわね……」

 

 私達がそんなことを話していた、そんなときだった。

 近くにあるショッピングモールの出入り口の一つで、派手な爆発が起きたのだ。

 

「オラオラァ! ここにある店はみんなまとめて金目のモン出しなぁ!」

「ヒャッハァー! 店がいっぱい集まってるショッピングモールでとにかく金を巻き上げまくれば下手に銀行を襲うより稼げるんじゃね!? ビッグになれるんじゃね!? なんてナイスアイディアなんだーっ!」

「なんならこのショッピングモールをこれから私達の本拠地とする! その手段を私達は持っている!」

 

 爆音の後、粗暴な大声が響いてきた。

 そう言いながら銃を乱射しているのはキヴォトス全体で犯罪行為を行っているヘルメット団のようだった。

 ぱっと見るだけで十五人ぐらいいる。結構な数だ。他の出入り口からも聞こえているからもっといるだろう。

 しかも妙にテキパキとお店を襲っている。つまり犯罪の現場に私達は居合わせることになったのだ。

 それ自体は言ってしまえば、キヴォトスの日常とも言える。 

 でも私にとって、友達と一緒に犯罪の現場に遭遇したのは、これが初めての経験だった。

 

 

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