【完結】空飛ぶ雛と飛べない鳥~ヒナの親友だった少女が狂い彼女の敵になって壊れる話~ 作:詠符音黎
「わ、わわわわわ……!? ヒ、ヒナ……どうしよう……!」
押し寄せてくるヘルメット団。上がる悲鳴と怒号、銃声と爆音。
落ち着いていたショッピングモールは一気に騒乱の場と化した。
まさかヒナと楽しく放課後ライフを送ろうとしてただけなのに、こんな事になるなんて……!
私は慌てながらヒナに聞く。
すると、彼女は私とは違いむしろ落ち着き払っており、そこから軽くため息をついて言った。
「……ハァ、面倒くさい」
そして、静かに彼女が持っている軽機関銃の《終幕:デストロイヤー》を構え略奪行為を行うヘルメット団を睨んだ。
さっきまでの優しい顔からは一転、とても怖い顔をしていた。
「すぐ片付けてくる。クイナはどこかに隠れて待ってて」
「え!? も、もしかしてヒナ、一人で相手を!? や、やめようよ! 大人しくヴァルキューレか風紀委員会を待とう!?」
私達が何かしなくてもそのうち警察学校であるヴァルキューレの生徒か、ゲヘナの治安維持をする風紀委員会が来るはずだ。だから下手に危険を冒す必要はない。嵐が過ぎるのを待てばいい。
そう思ったのだが、彼女は変わらず怖い顔で首を横に振った。
「いいえ、それらを待っていると少し時間がかかる。なにより、せっかくクイナが誘ってくれた時間をこんな風にされたのが、私は我慢ならないの」
「え……? も、もしかして、私のために怒ってくれてるの……?」
「…………」
瞳をそっと閉じ、肯定の意味である無言を彼女は見せてくれた。
確かに、私だってヒナと一緒の時間でいい感じの空気ができていたのを壊されたのはとんでもなく災難だと思う。
でも言ってしまえば私もキヴォトスの中でも大分自由なゲヘナに住む生徒だから“そういうもの”として車に泥水をはねられたぐらいの災難の気持ちで流す土壌はできている。
だから、ヒナがここまで怒ってくれるとは思っていなかった。
そしてそれを見ると、私も納得してるのってなんだかおかしいんじゃないかとなり、更に同じくせっかくいい雰囲気だったのにと、なんだか凄くムカムカしてきた。
……こうなれば、私も覚悟を決めた。
「……確かに、そうだよね。私だってこれからってときに邪魔されてムカついたよ! じゃあ、ヒナ、私も手伝う……! 私だって遠くからなら当てられるんだから……!」
「クイナ……」
私はヒナの隣で愛銃の《シアターカーペンター》を持ち上げる。
とりあえず三階に上がればいい感じに相手と距離が取れてパニックにならず当てられると思う。考えるべきなのは接近してくる敵だが、私達のいる一階から三階へは少し時間がかかるからヒナが注意を引いてくれるなら対処もできるだろう。
そんな事を考えていた私に、ヒナは少しためらった様子を見せながらも表情を変えないまま軽く頷いてくれた。
「……分かった。私が広場で防衛線を築いて敵を引き寄せ、通さない。クイナは後ろの方の敵の狙撃をよろしく。……でも気を付けて。あのヘルメット団、ちょっと
「え? それってどういうこと……?」
「……なんでもない。とりあえず、支援よろしく」
「う、うん!」
私はヒナの言葉に従い、急いで三階に駆け上がった。
一方でヒナは先程の言葉通り、ショッピングモールで通路が交差している広場の中央に立つ。天井がガラス張りになっていて太陽光を取り入れられる作りになっていて休憩用の椅子も置かれている広場だ。
ヒナが立つ中央には大きな四角錐の柱のオブジェもあり、彼女はそれを背にしている。
彼女がそうして立つ姿は、普段の威圧感も相まって、非常に目立っていた。
「おい! なんだあいつあんなところに!」
「たった一人で私達を相手にしようってかぁ!? 身の程を教えてやるぜぇ!」
ヒナの姿を見てどんどんと集まってくるヘルメット団。
他の通路からも侵入してきたらしく、彼女らはみんなヒナの方へと走っていく。
「……まったく、本当に面倒くさい」
だが次の瞬間、彼女の《終幕:デストロイヤー》はまるで草刈りをするかのように、ヘルメット団の前線にいた者達を皆倒してしまったのだ。
ただばらまいているように見えて確実に相手を撃ち抜く、そんなテクニックに基づく掃射だ。
「なっ!? なんだ今の、やべ――」
そして、私も微力ながら手伝う。
私の対戦車ライフル《シアターカーペンター》によって、ヒナの銃撃から後方で難を逃れたヘルメット団の頭を撃ち抜いたのだ。
いくらキヴォトス製のヘルメットと言えど対戦車ライフルの弾丸を喰らえばひとたまりもなく、ヘルメットを吹き飛ばし、本人もきりもみ回転しながら一発ノックアウトであった。
「お、おい! スナイパーもいるぞ!? 多分最上階だ、そっちに他のをグギャッ!?」
私は他にも冷静に増援を送ってこようとするやつを狙って倍率を四倍にした可変スコープを通じてワンショットで倒す。
やっぱり、距離が離れているのはいい。近いと怖くなっちゃうけど、手出しされない距離なら落ち着ける。
対してヒナもどんどんとやってくるヘルメット団を掃除していく。
彼女が一度トリガーを引けば、尋常じゃない連射速度で放たれる弾丸に飲まれものの数秒で昏倒した人の山の出来上がりだ。
既にそうしてヘルメット団を完封する流れは出来上がっており、あとは時間の問題というぐらいだった。
――これなら、いける……!
完全な数的不利を覆した状況に、私はついそう思った。
だが、その瞬間だった。
天井のガラスが、急に音を立てて割れた。
かと思うと、そこから一人のヘルメット団の少女が、私の近く、三階通路に降りてきたのだ。手元にはショットガンがあり、明確に私を狙ってきているようだった。
「へっ!?!? う、うわあっ!?」
瞬間、私はパニックになる。
降りてきたヘルメット団に向けて銃を向け乱射するも、どれも的外れな方向に当たり、ショットガンを持ち駆け寄ってくる彼女を抑えられない。
相手の射程から外れた距離なら落ち着けるが、相手の攻撃に晒されやすくなる距離だと、私は平静を保っていられなくなるのだ。
そのせいで私のミドルレンジ以内での命中率は激減する。
よって近寄ってくるショットガンのヘルメット団。そうして彼女はショットガンの射程であるショートレンジまで接近し、銃口を上げる。
今回は大丈夫だと思ってたのに、まさか、こんな――
「――クイナっ!!」
だがそんなとき、叫び声が聞こえてきた。
ヒナだ。
しかし、どこから? ここから三階を上がってきたとしてもまだ到着するには早すぎるし、なにより声は先程まで戦闘があった広場の方面からで、でも距離は近くて――
「はああああっ!」
更なる叫び声と共に響く銃声。それは私の後方からだった。
振り向くと、そこには中を跳ね飛んでいるヒナの姿があった。
私はそこでやっと気づく。彼女は、ほぼ床に対して直角なはずの大きな柱のオブジェを駆け上がってきたのだと。
「ぐはっ……!?」
ヒナの意表を突く攻撃に目の前のヘルメット団は対処できず、銃弾をもろに浴びて倒れ意識を失う。
どうやら下のヘルメット団も全滅していたらしく、静寂がショッピングモールに戻ってきた。
「クイナ!? 大丈夫だった!? ごめんなさい、私が至らないばかりに……!」
「う、うん……だ、大丈夫……ありがとう助けてくれて……それと、やっぱり謝るのは私の方だよ……やっぱり、駄目だね……この距離で当てられないなんてさ……」
私は未だ震えながらも、笑ってヒナに言う。
冗談三割、本気七割くらいの言葉だった。
「いいえ、あの奇襲なら仕方ないわ。……でも、この数に、妙に準備された襲撃、それにクイナを襲ってきた、あのヘルメット団……」
「ヒナ……?」
なんだかヒナの様子が変だ。
私は気になって声をかけたが、訝しい表情をしている彼女からの反応はない。
ヒナはそのまま倒れたヘルメット団に近づいていった。足取りは慎重だ。
どうやら何か気になる事があるらしく、顔などを確認するつもりらしい。おそらくそこから身元を知りたいのだろう。
だがヒナがそのヘルメット団に近づき、慎重に手を伸ばしたときだった。
「風紀委員会だ! 全員大人しくしろ!」
ゲヘナ学園の風紀委員会が勢いよく突入してきたのだ。
彼女らは目の前でヘルメット団が全員昏倒していることに驚きつつも、テキパキと倒れたヘルメット団を拘束して運んでいく。
「こいつもそうだな、連れて行く」
そしてヒナが今から調べようとしていたヘルメット団に対しても同じ様にして、あっという間に連れ去ってしまったのだった。
「……やっぱり」
「えっと……ヒナ? 大丈夫?」
どうにも渋い顔をしているヒナ。
一方で私は何がなんだか分からず、彼女にそう声をかけることしかできない。
すると、彼女は少し疲れた顔で私に笑いかけてくれたのだった。
「……うん、大丈夫よ。ちょっと嫌な予感が強くなっただけだから」
「…………?」
私はヒナが何を心配しているのか分からなかった。
結局、その日はそれでおしまいにして、帰るしかなかった。
◇◆◇◆◇
「……これが、
机の上のスタンドという最低限の光しかない、窓のない執務室。
机に座る私に、部下が紙にコピーされたデータを渡してきた。
私はそれにざっと目を通し頭に入れると、すぐさまライターを取り出して、タバコの吸い殻は一本もない灰皿の上で燃やして、灰皿に入っていた他の灰のお仲間にしてやる。
短期でしか使用せず、残しておくと面倒な証拠になりかねないデータは私達の立場を考えるとこうするのが一番だ。
「分かった。なるほど、想像以上の戦闘能力だねこれは。それで彼女は?」
「はい、こちらも予測通り彼女に倒されましたが、ご指示の通り素早く回収し身元が割れるものは何も残していません」
「了解。私達独断での行動だという事を勘づかれたら、ちょっと面倒だしね。じゃあ残りも手筈通りに。……さて」
私は会話を終えると、腕時計を確認する。時刻は午後五時を過ぎたぐらいだった。
そして座っていた机から立ち上がる。
一方、未だ姿勢を崩さぬ部下に向けて私は言った。
「明日、私から彼女に接触する」
「……部長自ら、ですか?」
訝しむ様子が手に取るように分かる彼女に、私はコクリと頷いた。
「うん。あれはちゃんと私から話さないと納得しない子だよ。なんなら、きっと薄々とは気づいているだろうね。そもそも私達は別に秘密組織ってわけじゃなく、
そこまで言って私は事務室の扉に手をかける。
時間的にそろそろ帰りたいし、他の雑務は部下に任せているから。
システム化された組織において、私という個人はさほど重要ではない。
「分かりました……では、明日はご武運をお祈りいたします。
部下が、恭しく私のフルネームを呼んで頭を下げた。
鬼方カヨコ。ゲヘナ学園二年生、風紀委員会情報部長であり、風紀委員会という組織内におけるアウトローの一人。
それが、私という存在だ。
「……大袈裟」
私は情報部でも優秀な部類に入る彼女の礼を一瞥し軽く返した後、そのまま特にためらいもせずに情報部を後にした。
好きなんだ
カヨコ元情報部概念