【完結】空飛ぶ雛と飛べない鳥~ヒナの親友だった少女が狂い彼女の敵になって壊れる話~   作:詠符音黎

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8.私と彼女、三年目の学園生活

 三年生ともなると、当然だけど入学したての一年生のときとはいろんな事が変わってくる。

 まず私個人としても、ちょっと体つきが変わった。

 入学当時は一回り大きかった制服も、ちょっと大きめの制服として落ち着いた。とりあえず、これで見た目としては昔より情けなさは減ったと思う。あと、二年間続けてきた訓練のおかげでだらしなさも減ったと思う。さすがに温泉開発部みたいなバリバリ肉体派な子達と比べると普通ぐらいだけど、インドア極まってた時代からしたらマシにはなっているだろう。

 あと、人と話していてどもる事も少なくなったのは我ながら大きな変化だと感じる。

 昔はまずそこで他人とのやり取りができなくてスタート地点にすら立てなかったから。撃ち合いで度胸をつけるって大事。キヴォトスの生徒としてのあり方をしみじみと感じる。

 そして学校生活での変化で言えば、とりわけ分かりやすく目に見えるものとして後輩ができたということだろう。

 学校における先輩は後輩にとってそれだけで尊敬対象や頭の上がらない存在になりやすい。

 そしてそれは、どうやら私なんかにも適応される法則のようで――

 

「こらー、一年生からカツアゲとかよくないからやめなー」

「あっクイナ先輩!? す、すんませんっ!」

「さーせんしたっ!」

 

 お昼休み、食堂に向かう途中で二人組の二年生が一年生を脅している姿を見たものだからそう声をかけたら、彼女らは慌てて頭を下げて逃げていった。

 私なんかでも先輩と呼ばれるところにゲヘナらしい気風を感じなくもない。

 

「くっ危なかった……あの人とトラブると風紀委員長が怖いからな……」

「さすがにこんなことで風紀委員長の相手はしたくないもんね……」

 

 ……まあ、しっかり聞こえてきた話があの態度の理由の九割だろうけど。

 今のヒナは問題児達にとって恐怖そのものだ。

 ゲヘナの風紀委員会の戦力の大半を彼女が担っており、逆にヒナがいなかったら風紀委員会なんて烏合の衆とまで呼ばれる域になっている。

 私が一年の頃の風紀委員会はもうちょっと怖い組織だったイメージがあったけれど、ここも時の流れで大分変わったなと思う。

 ここらへんの潮目はやっぱり前の生徒会長が変わってからだったと思うけれど、少なくとも私達みたいな一般生徒からは何が変わったかよく分かってない。

 でもそれでいいんだと思う。多分ヒナが私に隠し事をしていて、今でも話してくれない事に関わってるんだろうし。

 ヒナの頑張りが結果として出ているのなら、これ以上の事はない。私が蚊帳の外だろうと何も問題ない。

 

「あの、クイナ先輩……ありがとうございます!」

 

 逃げ去っていく二年生を見ながらそんなことを考えていると、カツアゲされていた一年生の子が私に深々と頭を下げながら言ってきた。

 ちょっとオーバーだなぁと思いつつ、私は軽く手を振って笑いかける。

 

「いいって事よー。というか、どうして絡まれてたの? まあゲヘナではよくある光景ではあるけれどさ」

「えっと……実は私が持っているこのペロロ様マフィアエディションラバーストラップが狙われて……私だって苦労して手にれたこれを簡単に渡してたまるもんですか!」

「へ、へえー……そうだったんだ……」

 

 ちょっと熱の入っている彼女の反応に私は苦笑いした。

 あのキモいキャラのグッズ、人気あるのかないのかよくわからないんだよね……見かける事は見かけるけど、流行ってるかと言われるとそんなことはないだろうし……。

 さすがにこんなことを入れ込んでいる後輩ちゃんの前じゃ言えないけれど。

 

「今回は本当にありがとうございました先輩! さすがヒナ委員長の友人なだけありますね!」

 

 後輩ちゃんはそう言ってシュバっと頭を下げてシュバっと去っていった。元気な子である。

 

「……そういえば、私とヒナが友達になったきっかけもこんな感じだったな」

 

 あのどうかしているキャラクターのグッズ絡みで先輩に絡まれて、そこをヒナに助けてもらって、私が勢いでお茶に誘って……。

 なんだかもう遠い昔の思い出になってしまった。あの頃から見ると私達は、大きく変わってしまったから。

 

「……と、そんなことより食堂に行かないと。お昼休みが終わっちゃう」

 

 私はスマホで時間を確認し、少し駆け足で食堂に向かった。

 

 

 

 

「相変わらず、美味しくはない……」

 

 私は給食部からお出しされた料理を食べながら思わず口に出して言った。

 でもそれを承知で来ているんだから仕方ないし文句を言うのはよくないよね……。

 

「いやでもやっぱ美味しくはないな……」

 

 また口に出してしまった。

 チラリと目を横に向けると、給食部二年で部長の愛清フウカちゃんがとてもしんどそうな顔を見せている。

 ごめんね……でもフウカちゃん、事情は分かってるけど微妙なものは微妙だよ……。

 

「……よくないですね、このカレーは、よくないです。まるでスープカレーのようなしゃばしゃば具合、付け合わせに福神漬けもらっきょうも用意していない迂闊さ。フウカさん……これは赤点です!」

「えー? 私はこれでもいっぱいイケちゃうけどー?」

「そりゃあんたはそうでしょうけど……てか、この流れって……」

「ふふっ、もう準備は完了してますよー★」

「んっー!? んーっ!?!?」

 

 そんなことを思っていたら、フウカちゃんが我が校屈指のテロリスト……じゃなくて自由人集団の美食研究会に簀巻きにされていた。

 あまりにも手際が良すぎる……。

 ただお昼休みも後半のタイミングでこうなったのはまだマシな方かな……今から昼食を貰いに来る生徒はほぼいないだろうし、みんないつもの事と慣れてるし。

 まあでも、一応声掛けはしておかないと。

 

「ハルナちゃん……もう何回言ったか分からないけれど、止めときなよ。結局最後は牢屋送りじゃない」

「あらクイナさん。いつもご忠告ありがとうございます。ですが、半端な食を見過ごす事は私達のポリシーに反します。美食を追求するものとしてこれは必要な行いなのです」

「うん、そう返すよねぇ……もう長い付き合いだから分かってはいるけれどさ」

 

 美食研究会の会長、黒舘ハルナちゃんとは同学年だからなんだかんだそれなりに関わりが多い子の一人だ。

 彼女も結構いろいろな事があったみたいだけれど、あくまで知り合いぐらいに留まる関係なので詳しくは知らない。

 彼女が悪い子ではな……いや気軽にレストランを爆破するのは悪い子では……? でも悪意でやってるわけじゃないし……ま、まあ、ともかく心根が汚れている訳ではないというのはこちらも理解している。

 だいたいそれぐらいの関係性だ。

 

「ふふっ、それでも忠告するのは、さすがゲヘナの中でヒナさん一番のお友達なだけありますね」

「まあね。あなた達が暴れるたびにヒナの苦労が増えるんだから、私としてはね……」

 

 私がそんな事を言いながら苦笑していると、いきなり電ノコのような強烈な発砲音が聞こえてきた。

 直後、目の前で話していたハルナちゃん含め美食研究会の面々が次々と倒れていく。

 これは、間違いない。

 

「……はぁ、偶然通りかかったらまたやらかしかけていたのね美食研究会……本当に凝りない……」

 

 ヒナがとても呆れた様子で食堂に入ってきて言った。

 彼女は今、風紀委員長として大きなコートを着て黒い皮手袋をつけている。元々あった威圧感と存在感が、風紀委員長になってからは三倍増しぐらいになっていた。

 私の身長は伸びて、彼女の身長はほぼ伸びていないから身長差も頭一つと半分ないくらいの差が開いたのに、並んだら私なんて気づかれないだろうな。

 

「もしもしアコ? 食堂に回収用の人員回してくれるかしら。偶然美食研究会を取り締まる事になったから。じゃ、お願い。……ん? クイナ?」

 

 事後処理の連絡を終えたヒナの目に、私の姿が映ったようだ。

 私はそんなヒナに軽く笑いかけて手を振った。

 

「お疲れヒナ。今日も大変そうだね」

「ええ、そうね……本当にこの学校は問題児が多くて……」

 

 疲れた表情のヒナに私は苦笑いする。

 彼女はさすがに働きすぎだと、よく耳にしているし私もそれは感じている。

 どうやらもともと頑張り屋で真面目だった彼女の気質は今はワーカーホリックにまで発展しているらしく、たまにはもうちょっと休んで欲しいなんて事を風紀委員会でヒナと一緒に働いている天雨アコちゃんから聞く機会もしばしばある。

 ただ、そのアコちゃんもたまにヒナの仕事を増やしてしまうときもあるんだけど……本人に悪気はないしヒナへの想いが空回りした結果だから仕方ない……失敗に関してはよっぽど私の方が人のこと言えないし……。

 

「……ところで、お弁当、忘れたの?」

「え? あー……実は私、ヒナが風紀委員会に入ってから少しして、こっちで食べるようになってて」

「え……?」

 

 ヒナが驚いた顔をしている。

 そっか、そういえばヒナが知る機会ってこの二年間一度もなかったのか。そこは私もちょっとびっくりだ。

 私は彼女が風紀委員会に入って、自分をもっと鍛えようと決めてからお弁当を自分で作るのを止めた。

 だって冷食弁当とは言え作るのに時間は取られる。ただチンして弁当に詰めるなんて大した時間じゃないんだけれど、私はその時間もいろいろと自分を鍛える上でもったいないと思ってしまったのだ。

 学校外の時間はとにかく自分を磨く時間にすると決めてから、個人的な時間はほぼ消えた。睡眠時間もだいぶ削っている状況だ。最初は睡眠不足で苦労したけれど、今では三、四時間ぐらいの睡眠で生活していくのにも慣れてしまった。

 ヒナに並ぶためにはそれぐらいはしないといけない。でも、それでも並べてないのが現状だけれど。

 

「そう、だったのね……」

 

 ヒナが少し落ち込んだ声で言った。

 彼女が気にする事は何もないのにと、私は笑いかける。

 

「仕方ないって。ヒナはゲヘナのために日夜頑張ってるんだから。お互い時間は取れなくなっちゃったし、こういうこともあるよ」

「……でも、私が風紀委員会に入ってからってことは、一年のときからでしょう? そんなに知らなかったのは、個人的に、ちょっとショックで……私、クイナとの時間を、ここまで放置してたんだなって」

「あー……まあね。でもさ、さっきも言ったように仕方ないし、あのとき私は言ったでしょ? 私はヒナの事応援してるって。だからヒナは気にしなくていいの。ヒナは変わらず、風紀委員会のお仕事頑張って」

「……ごめんなさい、そしてありがとう。やっぱりあなたは、私にとっての親友だわ」

 

 ヒナが申し訳無さそうに笑った。

 

 ――そっか……ヒナから見たら、私は親友なんだ。それは、凄く嬉しいな。

 

「まったく……そういう弱い所は、私以外には見せないようにね? 問題児達から舐められちゃうよ?」

「ええ、気をつけるわ」

 

 お互いそうして笑い合っていると、学食に風紀委員会達が集まってくる。

 するとヒナはすぐさま表情を引き締めて、テキパキと指示を出していく。

 

 ――嬉しかったけれど、自分からヒナの親友と名乗れる自信は、私にはちょっとないな……。

 

 彼女の風紀委員長としての後ろ姿を見ながら、つい私はそんな事を思ってしまった。

 

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