残光の旗   作:∀キタカタ

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ふたたびの、悪夢(3)

 二

 

 旧ソロモン宙域をいつでも伺える。

 そういう場所に、部隊が展開し始めていた。距離的には、連邦もジオンも、無理をしてまでは、やり合いはしない、という距離。そこにデラーズ・フリートが集まり始めている。散開していた他の派閥も、自ら参入を打診して来る者が多い。

 集まりすぎではないか、とガトーは思っていた。

 矢も盾もなく、こちらへ合流しようとして、連邦の哨戒に自ら引っかかって、撃墜される者の数が、看過しきれなくなっていた。事前に、集まるべきなのだ。宣戦布告の、前に。連邦も、あの演説の後ではそれなりに目を光らせている。

 むしろシーマ艦隊のように、こちらにも気取られぬような動き、をすべきなのだ。

 デラーズに引き寄せられるのはいいが、迂闊が過ぎる。デラーズの側からも、諫めるべきだったが、一方的に合流しようとしてくる者が多い。何も言わず、勝手に参加する者までいる。

 茨の園までは、場所が共有されていない。皆、ただ、この旧ソロモン宙域を伺える、という位置に、吸い寄せられてくる。そこにグワデンがあり、その中にデラーズがいるからだ。止めようにも、止められない。

 来い、と命じているわけではないのだ。馳せ参じるという有り様だった。

 三年だ。みな三年、待った。

 あの演説で、もはや待ちきれなくなったのか。ガトーにも、それは分かる。だから、参じるのは仕方がない。止めようがない。ただ、迂闊に墜とされてくれるなと、祈るばかりだった。

 デラーズの後ろから、アクシズの支援もある。それが逆に、より迂闊な者を引き寄せてしまっていた。連邦も腰を据えたデラーズ・フリートとは相対する余裕はあるが、その分、兵力の増加は絶対に看過しないだろう。個別撃破で済む話でもある。

 星の屑作戦のあとでも、良いのだ。自兵力を温存して、見守っていてもいい。誰もそれを日和見とは、責めたりはしない。

 しかしデラーズは、一気呵成の姿勢を保っていた。ガトーがMk82核弾頭を撃ち込めば、そのまま殲滅戦に入らんとする構えだ。その局面に参入するという勢力の待機列は、幾ら長くなっても、構わないという姿勢。その図体の大きさは、ガトーには不自由に思えてならなかった。やはり自分は、モビルスーツの大隊規模ていどを、戦術レベルで率いているのが似合いなのだ、とも思った。

 大義への賛同と星の屑支援を謝す。

 デラーズは、誰にでもそう繰り返していた。来るなとも、待機せよとも言わない。

 落ち着かない。さっさと、出撃してしまいたい。だがやはり、ガトーもまた、待機列に並んでいるのだ。その先頭にいるというだけだ。

「少佐。レズナーどのは、何故ここに来られないのですか。シーマ・ガラハウのところになど」

 カリウスだった。一年戦争時の部下だ。階級は軍曹。しばらく、コロニーに潜んで諜報活動をしていた筈だが、デラーズの演説を機に、こちらへ合流してきている。かつてのガトー麾下で、残っているのは、もうカリウスしかいない。

 しばらく前とは、打って変わって騒がしくなってきたグワデンの喧噪、に飽いていたから、かつての部下がいてくれるのは、ガトーを気楽にさせる。かつての同期だったケリィも、ここにいればと思うのは、ガトーとて同じではある。

「そういうな。私が誘い方で後れを取ったのだ。なに、いつまでも待つ。いずれ轡を並べる時も来よう」

 自分か、ケリィのどちらかが、迂闊にそれぞれの所属艦隊を留守にして、旧交を温めていられる、という時ではなかった。ただケリィからは、ビデオレターが送られてきていた。ヴァルヴァロを専用機としていること。少佐に上げられたこと。言葉遣いは、一年戦争のときの、俺、お前の物言いで、それだけはシーマも、気が利くところがあると感謝さえしてしまう。

 自分には単純なところがある。短所だろうと、自分では思う。そういう部分でさえも、自覚しながら融通を利かせられない男が自分なのだ。モビルスーツ乗りとしての腕前、があるからこそ、息をしていられるだけの男だ、自分をそう思う時もある。だがそういう短所こそを、部下には気に入られていたように思う。

 それもやはり、政治という局面では、大局においては、短所でしかなかろうとも思う。

 少佐ぐらいが、ちょうどいい。ケリィもきっと、そうだろう。お互い、特に戦果とは関係なく着けられている、肩書きだった。そういう愚痴を言えそうな相手は、ケリィしかおらず、ここにはいなくても、宇宙には戻って来ているのだ、というだけで、ガトーは少なからず、気が安らいでいる。

 将校ならばもっと大局的に物を見よ。

 自分が、連邦の小僧に言った言葉を思い出す。コウ・ウラキと言ったか。まだ、試作一号機には乗っているだろうか。それとも重圧に耐えかねて、逃げただろうか。小僧のことは、どうでもいい。ただあの言葉は、自分にも、跳ね返ってきてしまっていた。不覚ではあった。

 この宙域に散乱する、無数の鉄屑。ジオンが敗色を明らかに濃くした一戦。

 ソロモンを抜かれたことは、最終防衛線であったア・バオア・クー陥落よりも、当時のジオン兵を動揺させた。ア・バオア・クーに立て籠もって、何が出来るというのだと皆、思っていた。ギレンは乾坤一擲、コロニーレーザーの一撃で事態をひっくり返そうとしていたし、それ自体は間違ってもいない。

 ただ、ザビ家の内紛が足を引っ張った。それさえなければ、まだ、巻き返せたかもしれなかったのだとは、多くの者が、歯がみして思っている。それを三年も引きずれば、皆、我慢の限界と言えるだろう。ガトーとて、とっくの昔に限界なのだ。少佐という肩書きが、些か自制心を強めているのが、自分でも分かっていた。

 魂、というものがあり、それが星々の間に散らばっているというなら、ア・バオア・クーなどより、ソロモン宙域の方が濃く多いだろう。そこにガトーの部下だった者たちの魂も、多く漂っているのだ。

 そこに、帰ってくる資格があるのか。デラーズの引き留めがあったとは言え、生き延びてしまったのだ。ア・バオア・クーで、散っていればと思ったことは、数え切れない。だが、少しばかり、待たせただけだ。

 三年、待たせたのだ。この宙域の、魂たちを。

「……行くか、軍曹」

「はい、モビルスーツデッキへおいでください」

 自分だけではない。カリウスとて、同じことだ。そして自分はカリウスよりも、階級が上なのだ。上に立つ者は下よりも苦しまなければならないのだ。

 連邦の観艦式。

 あと何時間もない。そこに、単騎で、ガトーは突っ込む。

 あれだけの演説で宣戦布告したというのに、観艦式を強行するというのも、ガトーにはよく分からなかった。舐めている、という割には、小さな、合流しようとする勢力をまめに墜としている。

 警戒しているのか、油断しているのか。

 勿論、連邦の宇宙戦力が、ほぼ集まっているような観艦式だ。仕掛けたところで、こちらは所詮は、残党の寄せ集まりでしかない。意にも介さず撃退出来る、とも、思っているのだろう。

 鍵になるのは、Mk82核弾頭と、それを搭載する試作二号機サイサリスには違いなかった。艦船などではなく、モビルスーツに搭載したという理由は、一応、説明を受けた。有効射程距離が短いこともあるが、一発しかない。

 どれほど強力な弾頭であろうと、一発しかないのだ。長距離から放てばそれだけ、無意味に撃墜される可能性は高まり、そしてそれまでなのだ。連邦にはかつて、モビルスーツで核弾頭のみをビームサーベルで切り落とし、撃墜した怪物までいた。距離を取ろうとすればするほど、無意味になる可能性は高くなる。

 出来る限り小回りを利かせながら接近し、確実に撃ち込む。近距離でだ。

 死ねと言われているような話だが、サイサリスには爆破圏内で留まることを想定した、あの重装甲がある。そういう、戦術的な理屈であれば、ガトーは幾らでも理解したし、命じられている任務が、難しいか易しいかなどは、別に問題ではなかった。やれ、と命じられているのだから、その期待に応えるというだけだった。

 大局的な、物の考え。試してみる。

 キンバライド基地での、ノイエンの言葉。大局を見た上での、言葉。あれを自分も考えられるのだろうか。それを試してみた。

 まず観艦式に、大半の連邦軍勢力は集まっている。デラーズ・フリートが勢いを増しているのだから、尚更だ。つまり、逆に地球が手薄になっている。

 だからノイエンの判断のように、むしろサイサリスを地球に配置した方がいいのではないか。

 そして現状の流れを巧く利用するのなら、合流しようと無駄に馳せてくる他の残党らも、地球を狙わせた方が、いいのではないか。大気圏内を航行できる、例えばザンジバル級やガウ攻撃空母で船団を形成しなおし、地球と宇宙の両面で揉み上げる。

 大局的なものの考え。こんなものだろうか。

 やはりガトーはすぐ、それがいやになった。ノイエンのような思考を真似したところで、どれを取っても、ガトーの考えていることは、戦術レベルの駆け引きだった。兵站の確保や、そもそも動員できる艦など、どのぐらい残っているのかすら、分かっていないのも自覚している。

 夢物語であり、現実感はまるでない。

 仮にそれで、ジャブローなりに打撃を与えたとして、その後、どうなるというのだ。連邦がそのまま、ア・バオア・クーのように陥落するのか。地球までが、ジオンのものとなるのか。そこまで行かずとも、今度はこちらが有利な休戦協定でも、結ばせるのか。局地戦で勝つことに、そこまでの価値は生まれるのか。

 やはり有意義なことは何も思いつかない。自分に、政治は、無理だった。

 ア・バオア・クーですら局地戦だった。だからこそ、まだ出撃しようと思ったのだ。ジオンはまだ、抵抗は可能だった。だが、ザビ家が全員死んだ、とあっては、命令系統も戦略性も、何もあったものではなかった。

 だからデラーズは、ここは撤退し雌伏しようと誘ったのだ。命じたのだ。

 自分には、やはり出来ない。だから、星の屑作戦も、全体がどうなのかは余り、興味がなかった。それは、自分が考えても、仕方のないことだったからだ。やれ、と命じられたことを、きちんとやれば、誰よりも、その命令を完全に遂行できるのだ、という自信だけは、ガトーは何の瑕疵もなく、胸の内に輝かせられる。

 キンバライド基地で見た、あのダイヤモンド。

 かつてそこが何だったのかを忘れさせない、輝きと、大きさ。

 喩え、それが形だけで無意味でも、同じ輝きと大きさのものが、それ以上に価値あるものが、ガトーの胸には、三年より前からずっと、鎮座し続けているのだ。

 男の、誇りだ。それは全く色あせていない。

「少佐が、ソロモンの悪夢を蘇らせてくれる。みな、そう思っています」

「蘇らせる。連邦にもう一度、この宙域での、悪夢を見せてやろう。それだけは約束するぞ、軍曹」

 カリウスにそう言われるのは、重圧など微塵も感じることなく、ガトーを昂揚させる。

 そういう言い方が、上官としてのガトーと接する上で、正しいのだと知っているのも、ここにはもう、カリウスだけだ。仮にケリィがいたら、俺が代わってやろうか、などと言っていたかもしれない。そういう想像もまた、ガトーを昂揚させる。

「連邦の集まりはどうだ? さぞかし多いのだろうな」

「こちらにはアクシズの先遣艦隊が合流していますが、それでも十倍は」

「完璧な奇襲をかけても崩せん状況だな」

「しかし、少佐がいます」

「そうだ、軍曹。連邦の開発した物を、私が連邦に返してやる」

 ノーマルスーツに着替える。サイサリスの暖気も、済んでいる。コクピットに乗りこみ、一つ呼吸をしてから、少し意気込んで、ヘルメットを被っていた。緊張は、間違いなくある。だが、なくてはならないもの、でもあった。

 サイサリスの巨体を、離艦させた。しばらくして背後に、雑多なモビルスーツが、中隊規模で展開し、あとに続く。ムサイ級の司令室に、通信を繋ぐ。艦長のグラードルが受けた。

「……グラードル。出撃の信号弾は、どうした」

「しかし少佐、本作戦の正否はまさに、奇襲にあります」

「そのためにやるのだ。気付かせるのだ。気付かぬというなら、それはそれで天佑というもの。構わん、撃て」

 グラードルからは、僅かな躊躇いは感じたが、腹はすぐに据えたようだった。信号弾。射出される。それは緑色の輝きを、誇らしく堂々と発生させた。付き従ってくる部下たちの、士気が上がる。そのためだけに、やらせたのだ。祝砲の一つを、けちるなという話だ。

 それに、こちらが動いたとなれば、連邦も動く。完全な奇襲では、逆に隙が生まれない。そして、それは完全な奇襲でなくて構わないのだ。完全な奇襲、を実行できたとして、打撃力が足りないのは、分かっている。むしろ、引き込む。

 サイサリス一機が滑り込めれば、それでいい。どのみち、隊の全ては自分には随行できない。

「あとは、征くのみ」

 ガトーは、サイサリスのブースターを全て点火させた。速い。宇宙でなら、鈍重な機体など関係ない。引力など、煩わしい代物でしかなかった。

 サイサリスの扱い方も、分かってきた。左腕を腕として使わず、あくまで冷却装置としての盾、としての接合点と考えればいい。機体に密着させ、ほぼ半身に常に貼り付けるようにする。実質、右腕しか使えないが、それでも、立ちまわりには、充分だった。

 左腕を失っても、なお、戦おうとした男がいたことを、ガトーは知っている。

 だから、これでも、やれるのだ。

 少し遅れて、部下たちは追随している。中に、カリウスもいる。リックドム二型に搭乗している筈だ。もっといい機体も用意してやれたが、カリウスは馴れた機体がいいと固辞した。最新型だからいいというものでもない。それが、分かっているあたりは、やはりカリウスだった。生え抜きで、ただ一人残った、かつての部下である。

 連邦の観艦式を、間近に捉え、少しだけ、ガトーは威圧されるものを感じた。

 無数の、艦である。戦時体制ではないから、補給用の艦や待機艦も混ざっているだろうが、今のジオンには、望むべくもない、その数の差は、そもそも一年戦争の時からそうだった。圧倒的な兵数差だった。

 戦争は数。

 かつてドズルはそう言った。本来は、そうなのだ。そして、そもそもスペースノイドというのは、増えすぎた地球人口から宇宙へ放り出された、謂わば余り物のようなものだった。戦争を数で戦うことなど、ジオンには、出来るはずもなかった。

 将官から佐官、尉官へと、階級による適切な、上意下達が整い、更にその下があり、そこに適切な数がある。そうであってこその、戦争であって、自分のようなものが、エースパイロットなどと呼ばれて、個で突出すれば、本来は、勝てる戦も勝てなくなる。

 適切に軍隊を必要な数で纏め、そして上官というのは、それらを統一するために、面で考えて動く。数で並べて敷き詰めた、面。それらは上の判断で時に大きく、時に細かく分かれて、敵に向かう。その小さな中に存在して、戦況に応じて大隊や小隊、というものに分かれたときにこそ、初めてエースパイロットという存在は、意味を持つものなのだ。全軍で当たる、という時に、一人だけ突出しても、仕方がないのだ。

 むしろ、部下を掌握し、まだらな腕を持つ部下を、隊として、平均化するようにして、ともに当たるという気配りを、しなければならない。しかし、それがジオンでは出来なかった。

 ジオンでは、大佐どころか少将といった者すら、個で動いていたところがある。

 戦争をするのに、兵の数が足りないからだ。階級も、それほど巧くは機能していなかった。その場での命令権に強弱がある、という程度のものだった。

 現場に出てしまえば、大佐も少佐もさして意味はない。個で戦うのであれば、少数で戦うのであれば、それこそ、ほぼ意味はない。大佐でも少佐でも、どちらでもいい。階級に応じて、率いることが出来る兵数が、少なすぎて意味を持たなかった。

 連邦にもエースパイロットというものはいた。しかしそれらは、あくまで陽動であったり遊軍であったりと、戦況をかき乱すための存在で、それらがジオンにとって致命的、とさえ呼べるほど、戦況をかき乱せたのも、背後に、きちんとした軍がいたからだ。面と点の役割分担、というものが、連邦では、曖昧になっていなかった。

 地球で見たジムカスタム。あのような指揮官こそが、理想なのだ。

 自らの指揮する「面」を守りながら、その面を庇うためにだけ動く。単機でザメルに当たったのは、腕を見せびらかすためでも、個として有能だからと言って、突出した訳でもない。ただ「面」を守るために、必要だからだった。そういう意味での有能さ、というものを、あのジムカスタムはきちんと、備えていた。

 そして指揮する小隊の、弱い部分を取り繕い、出過ぎる部分があれば、きちんと抑えただろう。それこそ、数というものに、意味を持たせる指揮だった。

 戦争は数。また、それを思う。

 観艦式に並ぶ無数の艦隊を見ていると、思う。

 正論だった。しかし正論では、ジオンは戦えなかったのだ。

 今、自分が、ここで為そうとしていることにも、やはり階級など関係はない。ただの、アナベル・ガトーという個でしかない。だがそういうやり方で、ジオンは一年もの間、戦線を支え続けていた。そしてこれから、自分がやることもまた、ジオンの戦そのものなのだ。

 観艦式では、グリーン・ワイアット大将が演説を行っていた。

 明らかに、デラーズの演説に当てつけていた。儀礼的な、儀式としての、祭典としての観艦式であると、優雅な物腰で語りかけている。宣戦布告されている、などということは、意に介しておらず、ただ、ただ、冷めた物言いだった。そして、気取っていた。

 デラーズの演説は、雌伏した者たちの胸を打った。士気を昂揚させた。戦いを始めるのだ、という意気込みに満ち、それだけでも三年の月日が熱を帯び、みなに、意味があったのだと再確認させた。だからこそ、皆が集まってくるのだ。連邦とは、なるべくことを構えたくないであろう、アクシズまでもが、支援を送っている。

 志。デラーズの言葉には、間違いなくそれがある。男の誇りが、そこにある。

 ワイアットの言葉には、欠片もなかった。

 反論。何も、思いつかない。

 理で、口先で、戦う気は微塵もない。

 元から、そんなことは考えられない。

 ただ、ただ、不快なだけだ。

 聞いていられなくなり、受信を遮断した。

 情けない。自らをそう嫌悪した。連邦に、あのような禍々しい物言いを許しているのは、自分たちのせいでもあるのだ。この宙域で散っていった同志の、無数の魂に、それを聞かせてしまっている自分が、情けなく、不甲斐なくてならなかった。

「……これは、散っていった者への冒涜だ」

 低く、小さく、そう呟いていた。感情が、冷たく、そして研ぎ澄まされていく。

「少佐。ワイアットの演説で、目標が固定できています。墓穴を掘っていますよ」

 カリウスからの通信。ワイアットのバーミンガム級。ガトーの最終目標は、そこだ。そこにMk82核弾頭を、間違いなく叩き込むのだ。

 出撃時に無理に放たさせた信号弾に反応して、散開していた護衛の敵モビルスーツ部隊が、寄ってくる。巧く引き寄せている。観艦式から、引き離す。向こうも、こちらを近づけさせたくはない。予定通り、背後に続く部下たちに対応させる。

 撃破ではなく、攪乱が最優先目的。辺り構わず駆け回り、引き寄せられるだけ、引き寄せて隙を造らせる。

 カリウスのドムだけを、随伴させた。残りは、散開した。

 それでも、最後は、自分一機となる。

 この宙域の小惑星と金属片には、連邦の無人砲台が据えられ、防御用に固められている。

 当たり前だ。既にここは連邦の掌だ。そんなことが分からぬような、ガトーではない。

 慎重に躱しながら動き、必要なら麾下に潰させる。そして有人機体が出て来たのなら、引きずり回す。やれるというなら、墜とせるのなら、それもいい。

 砕けた機体や艦が無数に散乱している。その中を縫うように移動する。

 三年前の、ソロモン戦の名残。それがガトーの動きを、索敵網から隠してくれている。視認されなければ、『茨の園』が隠蔽されているのと同様、ガトーも見つかることはない。かつての同胞の死体。利用させて貰うだけの手向けは、用意してある。

 みな、泣いてはいない。自分を、叱り飛ばして、それでも迎え入れてくれている。

 死したる者もまた、ここで、三年、待っていたのだ。

 背後のモビルスーツ隊は巧く、連邦のモビルスーツ隊を、引きつけているようだった。カリウスを下がらせようとしたが、まだ着いてくる、と言い張っていた。世話を焼きたがっている。好きに、させておいた。かつての自分は、この宙域位置から、何度、出撃したか、分からない。自分の庭に、戻って来たに等しいのだ。だからカリウスにいらぬと、強く命じたくもなかった。カリウスとて、まだここにいたいとも、思っているだろう。

 レーダー。反応。無人の哨戒装置などに、見つかったというのでは、ない。

「……待ち伏せ?」

 ガトーが訝しむ。

 無人哨戒に発見されたのではなく、最初からここに配置されて、待ち伏せされていたとしか思えない。真っ正面に、白い機体。

 来るということを狙い澄ましたかのような銃撃は、ガトーでなければ躱せず、ここで撃破されていたに違いなかった。

 ゼフィランサス。もう目の前という距離にいた。




小僧ども、また更新だ。いよいよ観艦式に特攻(ぶっこみ)のガトーが現れるぜ。読んでくれて尚且つ原典も知っている、というやつらなら分かってくれると思うが、正直、ガトーのあれはない。どれだけ迂闊なんだと初見で思ったくらいだ。俺はガトーをかなり天然なやつとして書いているが、それにしたってあれはないだろう。なので、躱させることにした。するだろう、ガトーという男なら。そのぐらい。そんな気持ちでいっぱいいっぱいだぜ。次回でこの章は終わりだ。天然気質のガトーという男がここから浮き彫りになっていく予定だ。小僧ども、まだまだ物足りないぜ。
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