残光の旗   作:∀キタカタ

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ふたたびの、悪夢(4)

 アルビオンの連中が、ガトーの動きを間違いなく先回りして配置されている。何故だ、などと戸惑ったりはしない。戦で何が起きようと、ガトーは動揺したりはしない。あとはカリウスが動揺しないかどうかでしかなかった。

 目の前に突っ込んできた、ジムカスタム。ビームサーベルを抜き一閃で撃破した。

 地球で、ザメルを撃破したジムカスタムを思い出す。あのパイロットではない。個で突出しようと、しすぎている。

 ならば邪魔だ、とだけ思った。カリウスがドムで、後続の連邦軍に、飛びこんでいく。無謀な、と思ったが、カリウスならば任せられる、と思ったのも、確かだった。

「ここはお任せください、ガトー少佐。先へ」

「任せたぞ、カリウス」

 だが向かうには、巨大な障害がある。ゼフィランサスだ。ここで絡み合えば、機を失うのは、分かりきっていた。何故、ここにいる。こちらの動きが、筒抜けだとしか思えなかった。しかし、であるならば、もっと、連邦の待ち伏せが厚くてもいい筈だ、ともガトーは思った。

 横合い。不意に、近づいてくる、巨大な影。赤い。

 ヴァルヴァロ。

「……ケリィか」

 呼びかけた。返事はない。ヴァルヴァロが、その巨大なアームで、先端のクローでゼフィランサスを掴み取り、一気に、そのまま抜け去って行く。観艦式の、ど真ん中目がけて走っている。あのゼフィランサスが何も出来ず、そして、何もさせぬという気概が、ケリィにはあった。

 左腕を失った男が、まだここまで、出来る。

「挨拶も出来ず、忙しなくて済まん。だが、俺が、道を空けてやる、ガトー」

 通信。それだけで、切れた。ヴァルヴァロのメガ粒子砲。連邦の艦隊を次々に墜としていく。そのまままっすぐに、観艦司令艦であるバーミンガム級へと。

 道が、空いていた。

 バーミンガム級までの空間を阻む物は、何もない。旧ソロモン宙域に空いた、巨大な穴。ケリィのヴァルヴァロが空けてくれた、穴だ。

 Mk82核弾頭を放つための、アトミックバズーカ。砲身の先端が、巨大な盾の裏にある。抜き取った。核弾頭を収めたままの後端が、背中からせり出し、正面を向く。

 砲身を繋いだ。

 彼我の距離はまだ遠い。だが射程に入るよりも先に、備えておきたかった。ガトーとて、試し撃ちなどしていないのだ。不具合があってはならない。それだけは、絶対にあっては、ならないのだ。そんなことはないと、この試作二号機サイサリスの、顔も知らぬ開発者が、有能であることを祈るしかない。

 戦況は、掴めていない。何故、アルビオンの連中がここにいるのか。何故ヴァルヴァロはこのタイミングで横から、穴を空けられたのか。

 考えるべき時ではなかった。

 待ちに待った、時であった。

 三年間、待った時であった。

 砲身。接続完了の合図音。足下の先には、巨大な、岩。かつてのジオンの宇宙要塞ソロモン。ここに、帰ってきた。コンペイトウではなく、ソロモンに帰ってきたのだ。そして核弾頭で連邦を、総薙ぎに薙いでやろう。

 この宙域で散った同胞の魂。

 全て、ぶつけて、炸裂させる。それだけを、考えるべき時。

 連邦に悪夢を再び、見せる時なのだ。

 ガトーは、そう思った。

 

  三

 

 ヴァルヴァロの、伸びたアームの先端。巨大な、鋏。

 ゼフィランサスを挟み込んで、固定していた。容易く、挟めたのが、意外なほどだった。以前の交戦でも思ったが、ゼフィランサスの動きに、躊躇いを感じることがある。パイロットの、未熟か。余り、気にしてはいなかった。

 差し出すように、アームを前へと、伸ばしている。差し出す先は、バーミンガム級だった。そこに、ゼフィランサスを叩き込み、固定してやる心算でいた。飛蝗のように跳ね回らせは、もうさせない。

 ガトーのサイサリスが、後方から近づいてくる。

 Mk82核弾頭の射程には、まだ遠かったのだろう。それに後方に、カリウスの機体であろうドムがいた。一年戦争の時から変わっていないから、すぐに分かった。あの位置から核弾頭を撃てても、カリウスを巻き込む。

 自分なら。ヴァルヴァロの最大速度なら、MK82核弾頭の炸裂前に、この宙域を離れられる。ガトーがそこまで考えているのかは、分からなかったが、自分は信用されているだろうと、ケリィは思った。

 バーミンガム級を狙って撃てば、そのまま、ゼフィランサスも仕留められる。

 シーマが、どうやっても打ち壊せなかった、異常な装甲。それも、無意味だろう。だからこそ、サイサリスは、あれだけの装甲を重ねられているのだ。

 ここに向かえと、シーマに命じられた。

 理由は、短く、グリーン・ワイアットを片付けておいた方がいい、とだけ伝えられた。そのために、ガトーを支援しろ、という話なのだろう。願ってもない命令だった。そしてついでに、可能ならばゼフィランサスも墜とす。

 試作二号機サイサリス。南極条約違反の、核搭載機。

「……あれは南極条約違反など、していないのさ」

 シーマはそう言っていた。

「核パルスエンジンが、違反していない。それと、同じ理屈だよ。だから、ただ、宇宙空間で核弾頭を放つわけじゃない。核なんて地上よりも遥かに効果は低いと思ってるだろうけど、その常識で対応しちまうと、相手にとっては地上よりも、効果は高いかもしれないねえ」

 なにゆえに、敵である連邦の、よりによって旗艦バーミンガム級と接触を試みたのか。抗命というわけではない。本当に分からず、気になったので、不意に、訊いてみただけだ。シーマは、一モビルスーツ乗りが好奇心から出した、分を超えた質問にも答えるだろうとも、思っていた。

「デラーズ閣下が乗せられたのか、敢えて乗ったのか、それは思案の余地だがねえ。サイサリスって試作機が本当に試されるのは、宇宙でなのさ。そして試したいと思っていた悪い企業がいてね。情報を流した。少将閣下も、おかしいとは思った筈だよ。余りに手薄な、あのトリントン基地の有り様に。もしくは、とっくに承知していたか」

 バーミンガム級と接触を試みた理由。まだ答えてくれてはいなかった。

「……落とし所の話さね。グリーン・ワイアットぐらいなら、丁度いい。全てを教えておくにはね。戦争ってな落とし所を決めておくもんさ。でも、それはしくじっちまったからね。二の矢を放つには、グリーン・ワイアットはもう邪魔なんだよ」

 答えたような、そうでないような、ケリィに思案を促すような回答だった。

 そのぐらいでも、構わなかった。ただの裏切りではないのだ、と匂わせてくれるだけで、ケリィは落ち着いていた。

 バーミンガム級。もう、目の前まで迫っている。

 ゼフィランサス。挟み込まれた機体が、鋏の中で真っ二つに割れた。ヴァルヴァロが圧力で切り裂いたわけでは、なかった。

 連邦の好むコアブロックシステム。機体が、上下で分割され、主に脱出用として機能する。見事に、それを使って脱出されていた。ゼフィランサスは再合体している余裕はないと判断したのか、上半身だけでバーニアを全開にし、離脱を試みている。

 上半分だけになっただけ、速度は増している。

 再合体している余裕がないと判断したのは、見事だった。やはり時折、こちらに躊躇するような隙を見せる相手とは、思えなかった。

 ヴァルヴァロも転回させる。バーミンガム級に今更、打撃を与えたところで何の意味もない。一刻も早く、宙域から離れて見せなければ、今度はガトーの方が、この乾坤一擲の機会に躊躇を見せかねない。そういう男なのは、よく知っている。

 ゼフィランサスは、友軍の方向へ疾駆している。違う方向へ、ヴァルヴァロを疾駆させた。そうしなければ混乱の極みになる。余計な気を、回したくはなかった。

 バーニア。吠えさせた。加速の圧がケリィを締め上げてくる。

 一刻でも早く、より遠くへ。

 それが、ガトーを迷わせないことにもなる。

 世話の焼ける男だ、と思わないでもない。何の隙もないエースパイロットだというのに、部下や同僚が、そう思って、安心してしまう。そういう男だった。

 ガトーのサイサリス。バーミンガム級を射程に捉えただろう。

 遥か後方。充分に距離を稼いだ、とは、ケリィはまだ、考えていない。まだ、ヴァルヴァロは、加速し続けている。

 アトミックバズーカ。Mk82核弾頭の射出装置。

 モニターで、捉えている。

 何だ? とケリィは疑問を抱いた。アトミックバズーカの砲身自体が、荷電し放電を溢れさせている。ケリィも、メカニックとしての知識とともに科学知識、ことに兵器についてなら十二分にある。実弾に過ぎない、Mk82核弾頭の射出準備だなどとは、思えなかった。

 砲身の先端からは、ビーム兵器としか思えない光芒が吐き出されている。

 バーミンガム級。逃れようもない。小回りの利くモビルスーツは、大きな図体が相手であればあるほど、その打撃はよく通せる。

 命中する。一瞬で、紙屑のように、バーミンガム級は轟沈した。

 それは、間違いなかった。だが轟沈の姿がおかしい。紙屑というなら、貫かれた、沈められた、というより、丸められたような姿と化していた。

 ヴァルヴァロの離脱。ケリィへの圧が、弱まっている。加速が、鈍っている。

 後方から、バーミンガム級目がけて、引き寄せられている。縄を括り付けられ、それで強く、引っ張られている。そういう錯覚があり、現に引き寄せられている。

 南極条約違反の機体ではない。

 核パルスエンジンが条約に違反しないのは、核融合そのものを、兵器として使っていないからだ。だからあくまで、起爆剤として、核弾頭を使うのならば、それは南極条約には、違反しない。

 Mk82核弾頭。

 それを核弾頭とあくまで主張したのは、デラーズだ。そうでなければ、鼓舞するに足りない。先に殴ったのはどっちだという話で、兵士の意気はまるで変わってくる。

 南極条約違反ではない。そして、核弾頭ですらない。

 あの光芒が、それを意味している。

 荷電爆縮とミノフスキー連鎖反応によって質量を増大させたとは言え、バーミンガム級にぶち当たったのは、やはり実弾に過ぎない。だがそれは、サイサリスの、あのアトミックバズーカ内での衝突加速を通してのみ、核弾頭ではない代物になる。

 そして更に、大質量のバーミンガム級に命中し、核弾頭を起爆剤として、兵器として完成する。

「……小型の、人工ブラックホール爆弾か、あれは。とんでもない代物を」

 ヴァルヴァロの機体。引き寄せられる。引力圏から、逃れられるか。

 ガトーのサイサリス。まるで、何もない宇宙に、杭でも打ちこんだかのように、動かない。観艦式の密集した艦が、引力圏内で引き寄せられ、軋む。ここに、大気が満ちていれば、耳をかき鳴らす大音量の鐘の音が、響き渡っていたはずだった。

 ヴァルヴァロも軋んでいる。これだけで、バラバラになるのではないかという、引力。そうならないように、丹念に組んできた。あのウラキとかいう小僧も、手伝ってくれていた。

 だからヴァルヴァロの機体は、持つ。

 そう信じた。

 後方で光が、噴出してきている。巨大な、輝き。そう気付いた直後に、今度は逆向きに、前へと弾き飛ばされた。引く力が、瞬時に、押す力に変わったのだ。

 小型の人工ブラックホールは、すぐに消滅してしまう。そして、それまでに吸い込み引き寄せた力を、逆に開放し始める。この押し引きの落差が、機体全体を引き裂こうとしている。僅かな緩み、微かなひずみ。そういったものが、機体を轟沈させるような傷跡へと変えてしまうのだ。

 マゼラン級が見えた。宇宙空間だというのに、爆風にさらされたような、荒波に揉まれたような、ひしゃげ方で、引き千切られて轟沈した。

 そこかしこで似たような状態が発生し、そこかしこで火球が発生し、そして星の海の真っ只中に、無数の鉄屑が、ばら撒かれ続けている。

 巨大な干潮と満潮が短時間で押し寄せたようなものだ。ひとたまりもない。

 斥力圏。抜けた。抜けたのが、分かった。

 ヴァルヴァロの機体。問題はない。ほんの僅かな緩みもひずみも、ヴァルヴァロにはない。むしろケリィの三半規管がおかしくなりつつあった。意識が、ちぎれそうになる。ちぎれていないのがおかしい、とさえケリィは思った。僥倖の域だ。

 元から、この宙域にばら撒かれていた、ソロモン攻防戦の名残であった鉄屑は、見る間にその量を増し、斥力で着いた勢いのままに弾け飛んで、星の海に散っていった。ぶつからぬように、機体を制御し、操作する。それもまた、針の穴を通すほどの余裕しかなかった。

 周囲は、惨憺たるものだろう。引力と斥力の波濤は、ほんの僅かでしかない。それでも宇宙空間で一度ついた勢いは、何らかの制御がなければ、止まることはない。そして四方八方に散るのは、戦艦丸ごとが、鉄屑になったような代物なのだ。

 むしろそれらが弾丸となって、周囲の敵も味方も区別なく、また鉄屑へと変えていく。こんな真っ只中で、本当に、ガトーのサイサリスは耐えられるのか。

 悪夢のような光景だった。

 鎧袖一触とは、このことだ。

 『星の屑』作戦。

 こういうことか。あるいは、結果として、こうなっただけか。

 ケリィに、見当が付く話ではない。見当が付くのは、これが、試作と実験の過程に過ぎないということだけだ。

 試作機。試作兵器。利用できるかどうかは、試してみなければ、分からない。そして試そうと志願するパイロットが、何人かいて、それぞれに都合があった、という話に過ぎなかった。

 後方から、その試作二号機サイサリスが来る。一瞬、新手のガンダムが来たのかとケリィは訝しんだ。サイサリスの、あの、ごてごてとした装甲が殆ど剥がれている。引力と斥力のまっただ中で剥がれた。剥がれるように、出来ていたのだ。あの装甲が自壊して緩衝材の役割を果たし、本体を守り切っている。引かれる時、弾かれる時、それぞれに応じて装甲が剥がれ、本体へのダメージを軽減させる。

 それでも、中にいるガトーが、無事、かどうかは分からないが、サイサリスは操作された動きだった。アトミックバズーカは失われている。もう、用はないのだ、捨てたのだろう。盾もまだ保持していたが、恐らくもう、冷却装置としての役割は、必要なくなっている。ただの、盾だ。

 見た目の鈍重さや、総重量からしたら、かなり軽い動きだとガトーは、ずっと思っていただろう。剥がれること、が前提の装甲を纏っているというだけで、本体そのものを、分厚く重く、作っていたわけではないのだ。

 合流すべきか、とケリィは迷った。

 その迷いの時間に、サイサリス目がけて光が走る。

 横合い。上半身だけになったゼフィランサス。武装を失ったサイサリスを、ここぞとばかりに攻めあげ、締め上げている。こんな有り様の直後で、まだやるのか。ゼフィランサスのパイロットが、そこまでやれる者が、たまに見せる油断や迷いがなんなのか、ますますケリィには分からなくなっていた。

 もつれ合いながら、ガンダム同士が、試作機同士が交錯しながら離れていく。

 ガトーに武装はない。合流する理由が見つかったような気がした。世話を焼く、理由もだ。ヴァルヴァロを回す。二機を追うように、疾駆させる。機体が、少しガタが来ているのが感じられた。

 機体が戦場で壊れるのは、当たり前だ。

 ゼフィランサスもサイサリスも無傷ではない。当たり前だ。

 見える。ゼフィランサスはライフルが使えなくなったのか、ビームサーベルで追い立てている。サイサリスも抜いていた。まだ、サーベルは残っていたのか、と思うと少し、ほっとする。

 ゼフィランサスの動きが速い。宇宙空間ではモビルスーツの下半身など飾りに過ぎない。

 鍔迫り合いまで、持ち込んでいる。固着したまま、離れようとしない。

 まるで、会話でも交わしているかのようだった。ケリィは通信を回復させようと試みる。周波数。見つかった。五八二。

「……えてやろう、戦いは……て、怨恨に根ざし……」

 先刻のダメージからか、ノイズが多い。だがガトーの声。

「……減らず口を……」

 ノイスの中から聞こえてくるゼフィランサスのパイロットの、声。

 ケリィの耳が、サイコミュ式コントロールユニットをかけた左耳が、聞き覚えのある声だと認識していた。だが、信じられなかった。

「……のみで戦う……私は斃せ……」

 何を言ったかは知らない。だがガトーはいつだって「のみ」で戦っていた。一つきりの命令のみ、一つきりの誇りのみ、そして志。ガトーを動かしているのは、いつだって単純な一つのみの意志であったではないか。

 鍔迫り合いにサイサリスが競り勝った。ゼフィランサスを蹴り飛ばし、ビームサーベルで追い打ちに追う。

「……私は義によって立っているからな、歯車となって戦う男には分かるまい」

 誇らしげな、ガトーの声。義か。だが、それのみではないか、とも思う。歯車ではないか、俺たちは。そしてそうでなければ、俺もお前も、どうせ、空回りし続けるだけではないのか。無理に自力で回ろうとしたって、どうせ何とも噛み合いはせず、何も生み出せない。

 自分とて、似たようなものだった。ガトーほど、純朴にはなれない分だけ、迷ってしまう。だからガトーがいつだって、羨ましいのだ。たったひとつのみによって、立って戦っていられる、ガトーが。自分自身すら見てはいない、ガトーが。

 サイサリスの、左腕。動いていない。ただ盾を繋いでいるだけだ。半身を覆うようにして使っている盾。だから左腕を生かせていない。そこを、ゼフィランサスのビームサーベルが狙い、見事に腕ごとに切り落としている。畳みかける。頭部からのビームバルカンの乱射。ゼフィランサスには、まだ武装に余裕がある。

 だが、ガトーの動きもいい。あの装甲の殆どが失われているのも、そうだが、更に左腕を盾ごと失ったのが、逆に動きの良さに繋がっている。冷却装置としての意味を失った、ただの盾など、揉み合いでは邪魔になる。ガトーは、守りに徹する男ではない。

 ケリィは、見入っていた。

 邪魔をすべきではない。そうケリィは思った。

 ビームサーベルが、交錯する。火花が、爆ぜる。互いに満身創痍になりながら、持てる限りの武器を、武器とは呼べぬバーニアまで浴びせながら、根限り戦っている。

 どうせ、二人だ。この星の海に、二人。

 ただ誰かに、試されているだけの二機。

 好きなように、やらせておこう。自分はただ、たまたま、ここにいてしまっただけだ。いるべきではないような、そんな気さえした。

 ビームサーベル。初めて、互いに、ぶつからなかった。

 サイサリスのビームサーベル。ゼフィランサスの左肩から、斬り下げている。コアブロックにまで、届いているだろう。仮にコアファイターが実装されていたとしても使えないはずだ。だが、同時に、ゼフィランサスのビームサーベルも、サイサリスの胸を、貫いている。

 相打ちだった。どちらもじきに、爆発し墜ちる。

 試作機同士の、なれの果てだった。

 ノーマルスーツ姿で、双方が脱出を図る。ゼフィランサスのパイロットが、こちらを見ていた。

「……ウラキか。まさかとは思ったが」

 ウラキは、目の前に飛び出してきたガトーに、目線を戻している。ガトーが、ウラキのヘルメットを掴み、シールドを叩き付けるように触れ合わせていた。そうすると、宇宙空間でも直接、声が届く。

 何を言い交わしているのかは、知らない。知るべきではないような、気がした。

 ガトーが、こちらに漂ってくる。俺が待っていたのを知っていて、当たり前のようにこちらに来るのだな、と苦笑した。拾ってやる。やはり、世話が焼ける。

 試作ガンダム二機が、共に爆発した。

 ウラキの姿は、見えない。離脱した、と思いたかった。こんなところで、死ぬ運命には、なかろうとケリィは思った。漂っていく姿を、確認した。その先に、ジムキャノンがいる。その存在に気付いていたが、忘れてもいた。あのジムキャノンのパイロットも、見守るべきだと考えたのか。そうならば、やはりいいモビルスーツ乗りなのだろう。

 ガトーを取り込む。

 俺がいなかったら、どうする心算だったのだ。苦笑した。

 目の前で、ガンダム同士が、原形をとどめぬ、むしろ残さぬ、とでも言わんばかりに爆発し続け、自壊し続けている。星の海の、屑となっていく。

 ガトーの、シールド越しの顔。何かをやり遂げて終わらせた男の顔。

 まだ、何も終わっていないのだぞ。

 それを伝えねばならないのが、心に重い。こちらが負担してしまう。

 やはり、世話の焼ける男なのだと、そうケリィは思った。




小僧ども、今回で「ふたたびの、悪夢」は終わりだ。そして全部読んでからここを読んでいるお前たちの気持ちも俺は分かっている心算だぜ。お前たち小僧の言いたいことなど分かっている。「いくら何でもめちゃくちゃすぎるだろ」とな。しかしだな、別に幾らでも他で帳尻を合わせることは可能だった。しかし俺がやりたかったことは原典準拠だ。あのよくわからんバズーカの射出とその結果を再現する、それだけに意識を縛り付けた。なかなか、良かったぜ。めんどくさいところはミノフスキーと言っておけばいいだけの話だからな。おそらくこの作品を書く上で今回の話は最も考えた話だ。さて、この章はここで終わりだ。次回からは別の章となる。次章「宇宙駆けるけもの」が始まるぜ。期待してくれ。小僧ども、まだまだ物足りないぜ。
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