残光の旗   作:∀キタカタ

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宇宙駆けるけもの(3)

 シーマの話を理解している者も、焦りに共感する者も、ここにはいない。ただシーマの様子がおかしいことだけを察知して、そして皆、まるで慰めようとでもするかのような目線を向けてくる。

 アルビオン。あのバニングという大尉に預けた、運。

 何も大したことはなかった。連邦の持つ巨大な運に、あわよくば乗ろうとしただけだ。それに振り落とされたのか。そうしようと脳裏を過ったのが、間違いだったのか。連邦の運と言うより、これは連邦に対峙した者全てを、間違いなく不運が見舞うという話ではないのか。

「……通信室に行く。アクシズに連絡があると事前に打診しろ」

 そう命じた。まずは、自分の置かれている状況を把握しなければならない。そして立ちまわりを変えなければならない。

 ここでアクシズに居留守でも使われてはたまらなかった。

「……シーマ様、未確認の、敵影が」

「ここにかい? ここに追いつける連邦の艦なんてあるわけがないだろう」

「おそらくモビルスーツが一機。凄まじい速度です」

 凄まじい速度。それだけで、ゼフィランサスを思い出す。

 ほぼ全ての連邦の艦は、推進剤を失い、追いすがれなくなっている。そこをガトーの駆るノイエジールが、草でも刈るように蹂躙しているはずだった。それとは関係なく、迫り来る機体が、一機。

「……レズナー少佐を向かわせろ。撃墜を命じよ。敵、残存兵力の掃討に当たっている連中も、さっさと呼び戻すんだよ、急げ」

 強く命じて、通信室へと向かう。

 秘匿性の高い通信には、それなりの工夫を施した、通信室から行う。簡単に通信チャンネルを変えられて通話が筒抜けになるような通信などを使うほど、ジオン軍残党も間抜けではない。ミノフスキー粒子の妨害も考えれば、それなりに強力な出力を持つ通信でなければならないのだ。

 ガンダム試作三号機だろうと四号機だろうと、そもそもそんな大切な話は、事前に聞いていなかった。先ほどのオサリバンの言いようでは別口で造っていたのか。補給港ラビアンローズに、それが潜んでいたのか。アルビオンがそこに、寄港したのか。そしてそれを、アルビオンの連中が抗命してまで引きずり出してきたのか。

 運。それは常に、連邦に転がる。

 本来なら、下の一部隊になど伝わることのない、作戦の全貌。

 コロニー落としの本当の目標が、地球であることまで、分かる。だからこそ、交渉のカードになり得るのだ。それは、上の人間、政治を為す人間相手に、使うべきカードだった。義憤で、命を捨てられるような兵に渡したのでは、義と称した暴走を、誘発するに決まっていた。

 時間がない。コロニーは、地球に落ちる。

 コロニー落着を阻止可能な、阻止限界点に至るまで、時間は幾らもない。それまでの時間で、シーマは自分の手札を、並べ替えなければならなかった。落ちるにせよ落ちないにせよ、シーマはデラーズの一配下として終わるわけには、いかなかった。

 通信室。アクシズに繋がる。話をする、とのことだった。

「……お前じゃ話にならないんだよ、ハマーンだ、ハマーン・カーンを出しな」

 アクシズの摂政。実質上の、ジオン残党の長である女。

 通信モニターに、シーマはその女の名を怒鳴り散らしていた。

 

  三

 

 ヴァルヴァロの全身から、ひずみが感じられた。

 砲撃を受けたであるとか、ぶつかったであるとか、そういうものなら、直せた。あのガトーの一撃が、内部のどこかを少しずつ、ひずませている。そういうものは、時間をかけなければ、完調には戻せない。

 このまま、しばらく、駆けさせるしかなかった。

 もうじき、山を越える。全てが終わる、と言ってもいい。だが終わりの時まで生きていられるか、はまた、別の話だ。宇宙ならば、尚のことそうだ。外部全ての宇宙空間は、生き物にとっての死地なのだ。そういう中で、戦っているのだ。

 そう考えると、宇宙での戦争など正気ではない。

 自分が正気だとも、ケリィは思っていなかった。

 シーマの、役に立つ。それだけを考えてしまっている自分は、正気ではないだろう。正気で戦争など、やれるものか。

 ザンジバル級から出るときに、少し、慌ただしさを感じた。

 敗軍の匂い。

 三年前に、ソロモンで嗅いだのと同じ匂いがした。そういう慌ただしさは、肌で分かる。その匂いから、離れられるだけでも、ケリィは、出撃を命じられて良かったと思う。それはただ、匂い、というだけで、何か根拠がある訳ではなかった。

 コロニーは問題なく、移動している。

 月に落とすような素振り、をみせたときは、流石に落ち着かなかったが、ガトーが、それはない、と断言した。それもまた、裏付けがあるわけではなかったが、この男が言うなら、と信用した。実際、ケリィの判断で言えば、月に落とすなど、何かの偽装にしか見えなかった。何の利益もないからだ。

 それでも、月軌道から逸れるまでは、ケリィは下命があっても出撃したくなかった。本当に月に落とされるというなら、それをきっかけに、軍法会議ものの騒ぎを起こしていた気がする。だから傍目にはさぞ不機嫌になっていただろう。

 そういうときには、シーマは手を触れてこない。単に用事がなかったのか、今、この男に触るのはまずいと思ったのか、何にせよ、ケリィが動かずにいる間に、コロニーは月を離れ、本来の標的である地球に向かって動き出していた。

 月でないなら、どこに落ちてもいい。

 そのぐらい、ケリィは地球に何の愛着も持っていなかった。任務で降りたことはあるが、何日かの話だ。生粋の、スペースノイドであった。そして半ば、ルナリアンになりかけていた。

 そして今はまた、ジオンの軍人だった。戻れたのだ。色々な物を失って、引き換えにして、また宇宙で戦争をしている。ここにしか俺の居場所はないのだ、と思い込もうとした。本当にそう思えていれば、月にコロニーが落とされようと、きっと何も感じなかっただろう。

 失ったもの、置いてきたもの、そういうものへの感情は、消えていない。

 もう一度、取り戻したいわけでは、なかった。宇宙に居続けることが出来なくなるのではないか。そういう、やはり自分のことばかりの、身勝手な理屈だった。

 ヴァルヴァロのひずみ。微かな、違和感ある振動。そういうものが分かる。昔、乗っていたモビルスーツやモビルアーマーからは、ここまで明確なものを感じ取れたことはない。

 余り、乗機に愛着を持つべきではない、とも思う。

 それでもケリィは、自分が乗れる機体はヴァルヴァロしかないとも思っている。自分用に整えた部分もある。だがそれ以上に、この機体がなかったのなら、他のどんな理由や事情があろうと、自分は宇宙に戻って来てはいなかったという確信がある。

 その微かな違和感は、機体の調子というだけであって、ケリィが何となく嗅いだ匂いの理由ではない。それならば、自分の死をまず感じ取っただろう。

 戦況は、問題がない筈だった。

 連邦艦隊は推進剤切れで、こちらが繰り出す迎撃部隊と、ガトーのノイエジールにいいように蹂躙されている。デラーズの乗る旗艦、グワデンも合流し、この宙域一帯はデラーズ・フリートの占領下にあったと言っていい。

 ここに、デラーズ・フリートという勢力の、ほぼ全てがあった。

 その中に切り込んでくる一筋の光芒がある。モビルスーツ部隊と艦隊を破壊する輝きを伴いながら、光芒は凄まじい速度で動き続けている。

 シーマ艦隊、ザンジバル級からの入電。

「……ガンダム、試作三号機? デンドロビウムだと?」

 シーマ本人からではなかった。コッセルからの報告だった。そちらに、直ちに当たり、撃墜せよとのことだった。攪乱でも、引き留めろというのでもない、ただ撃墜しろとの指令だった。

 単機でやれ、というのではない。この宙域にいるデラーズ・フリート全てが、可能な限りガンダム試作三号機デンドロビウムに当たることとなる。だが、まだ、今はシーマ麾下の者しか動いてはいなさそうだった。

「……コッセル。ガラハウ中佐と、ザンジバル級の動きは?」

「シーマ様はまだ通信中です。アクシズとの回線で」

「アクシズだと? ガラハウ中佐が、デラーズ少将の頭を飛び越えてか?」

 コッセルがそれを言うのは、恐らく、かなり戦況が推移し始めている証拠だ。情報を、秘匿しきれなくなっているのだ。コッセルは、誰かに、吐き出したくて仕方ないのだろう。

「ガラハウ中佐は、確かに、俺に撃墜しろと命じたのだな」

「それは確かに。しかし、シーマ様は、これから」

「すまんなコッセル、俺はもう、そのデンドロビウムとかいうのを撃墜することしか、考えられんのだ。中佐が、引き鉦でも打ってくれるというなら、ほどほどにも出来るのだがな」

 恐らく、それはないだろう。

 コッセルはシーマに信用されているし、そもそもが古株の部下だ。ケリィが知らないことも、知っているだろう。シーマが不在の時にあのザンジバル級を取り仕切るのは、つまりシーマ艦隊を動かさなければならないのは、コッセル一人であった。もうしばらく、戦争が長引くというのであれば、ケリィも少しは助けてやれたかもしれなかった。

 しかし、今はそれぞれの役目は繋がっていない。それぞれが個人で、役目を果たすしかやりようがなかった。

「片腕の男が突然割り込んできて、苦労をかけた、コッセル」

「シーマ様の目に間違いはなかった。それだけです、少佐」

「巧くやれ。多分、お前は俺より巧くやれる。俺が、上なのは、敵モビルスーツの撃墜ぐらいだ。それを、見せてやる。お互い、巧くやれたのなら、また会おう」

 もうコッセルからは、何も言葉はなかった。

 ケリィも、聞いている暇はなかった。ヴァルヴァロの向かう宙域に、モビルスーツともモビルアーマーとも表現できない、巨大な異形が疾駆していた。申し訳程度に、先端にガンダムが乗っている。ただその数倍以上の大きな機体を繋げていた。コアブロックシステムの拡大解釈にも、ほどがある機体だった。まるで、鋼鉄の隕石がそのまま動いているかのような風体だった。

 一個師団二個師団を一機で壊滅可能なほどの火力が吐き出されている。

 それを全て、一機の、先端のガンダムに乗る、恐らくたった一人のパイロットが全てを担って操作している。しかも凄まじい速度で駆けながら、だ。種々様々な火力は状況に応じて使い分けられようが、統一性という偏りがない分、負担は尋常な物ではない筈だった。だがそれを操りきれている限りは、たった一機でデラーズ・フリートの横腹を食いちぎれる。そして今、間に合うのは、このデンドロビウムただ一機のみなのだろう。しかし、そのデンドロビウムをもってしても、ただ一機ではコロニーを止めることなど、出来ない。

 デンドロビウムは後衛の到着を、待つべきだった。そんな時間はないとばかりに躍り込み、デラーズ・フリートを手当たり次第に駆逐しながら、コロニーへと近づいてくる。その正面に、ケリィは座していた。

 焦っているのか。

 焦って、どうする。その好き放題に使っている大火力を、せめてコロニーに向けるべきではないのか。デラーズ・フリートを食いちぎるにしても、限度があるのだ。むしろ、やり過ぎですらあった。

 ヴァルヴァロがメガ粒子砲を吐き出し、迎え撃った。粒子砲がデンドロビウムの機体に命中する直前に、消滅する。させられている。ビーム兵器が、ほぼ、通らない。偏光させられ、ねじ曲げられて、消滅させられてしまう。

 そういう防御装置が備わっている。

 実弾火力に切り替える。それすら通る気がしなかったが、ビーム兵器では埒があかない。

 あの図体だ。何とか、内側に入り込むしかない。モビルアーマーは戦艦と同じく、懐に入られるとモビルスーツに後れを取ることが多い。火力や機動性のバランス、その間隙を突かれることもあるが、単純に近接武装がない場合が多いからだ。

 ヴァルヴァロには、アームがある。近づかれても、反撃は出来る。そして懐に入っての一撃も、使える。

 だが、これは。桁が違うのではないか。こと最前線に投入する火力としては、尋常の発想ではない。これはたった一人が操っている、完全武装した移動する特火点そのものだ。

 ミサイルも、バルカン砲も、通じる気がしない。必死になって当てたところで、向こうの重火器が一つでもこちらに当たれば、終わりだろう。ゼフィランサスのように、こちらが仕留めきれずに歯がみする代物ではない。

 それでも、接近した。デンドロビウムの上部左右に掲げられたコンテナが開き、ミサイルポッドが射出される。三面の形状をしたその三面全てから、無数のマイクロミサイルがばら撒かれる。当たればよし、という発想しか感じ取れない。そして当たれば向こうの勝ちなのだ。

 ヴァルヴァロの機体を旋回させた。やはりとても、距離が、詰められない。

 離れた所に、今度は収束ミサイルが撃ち込まれてくる。ヴァルヴァロの迎撃システムで、それは撃ち落とした。先のマイクロミサイルは、全て躱した。ヴァルヴァロの機体。打撃は今のところ、当たってはいない。それでも、軋みが大きくなる。

 ヴァルヴァロが、全身で吠えている。

 左耳のコントロールユニットがなかったのなら、今の交錯で墜とされていたに違いなかった。左腕がないことなど、ヴァルヴァロに乗っている限りは、この時だけは、忘れていられる。

 有線サイコミュで繋がれた、自分と、ヴァルヴァロ。

 ケリィはヴァルヴァロであり、ヴァルヴァロはケリィだった。

 まだやれるか、とヴァルヴァロに訊く。答えるまでもないという咆吼が軋みと共に跳ね返ってくる。全身にかかる圧。ヴァルヴァロを最大速度で操り、その圧がケリィの体をコクピットに縛り付け、絞り上げてくる。

 それを言うなら、あのデンドロビウムのパイロットは、比較にならないほど負担がかかっている筈だった。一度の加速と武装の展開だけで、並のパイロットなら、気絶してもおかしくない重労働の筈だ。大きく、重くし、ただ重武装を巻き付け推進力を増大させればいいというものではない。

 パイロットを選ぶような機体は、試作機でしかない。

 だからデンドロビウムの過剰な火力と機動力もまた、試作機と呼ぶには相応しい物であった。これが量産されたところで、今度は乗れるパイロットが不足するに決まっていた。

 ケリィは強引に、デンドロビウムの上を取った。すぐに、ひっくり返されるのは分かっていた。あの、馬鹿でかい後部艤装を視界に、足下に収められれば、その瞬間だけがあればいい。その一瞬で、試せる。

 距離。詰めようとすれば、ありったけの武器弾薬を浴びせられる。

 詰めなければそれはそれで狙い撃たれる。中長距離の間合で、デンドロビウムに歯が立ちはしなかった。

 通信。強引に、向こうから周波数を探られた。

「ケリィさん、ケリィさんなんでしょう、乗っているのは」

 ウラキの声。逞しくなったとは、聞こえなかった。ガレージで聞いたのと同じ、小僧の声。だが、ウラキの声でもある。左耳に、酷く鮮明に、それは聞こえてくる。

「やめてください、こんな戦いなんて、意味がありません、すぐに、離脱して……」

「俺がそれを選ぶ軍人だと思うか、ウラキ。戦いに状況など、選べるものか。俺は、お前を撃墜しろとしか、命じられていない」

「違うんです、この戦いが、デラーズの、こんな戦いに乗せられてなんて」

 デラーズの名を出されても、ケリィは考えを濁らせなかった。闘争本能こそが、ケリィを動かしている。考えて、動けるほど、器用ではない。そしてだからこそ、今まで、生き延びてこられたのだ。

 三年。長かった。迷い続けた三年が、明確な答えを得ようというときなのだ。

 ヴァルヴァロから三つの、赤い巨大な棘が放たれた。三本全てが、足下のデンドロビウムが背中に負っているような、巨大な武器コンテナに突き立っていた。

 宇宙では最早使えまいと思っていた。月面で戦っていたら、使っていただろう。

 ここは月ではない。刺す場所はない。

 だがケリィの足下には、その場所がある。デンドロビウムのコンテナ部に均等な間を開けて突き立った棘が、互いに荷電放出を開始する。

 プラズマリーダー。

 三基のそれが互いにプラズマを結びつけ合い、三角形の結界を構築し、その内部を破壊する。そのプラズマリーダーが突き立っているのは、火薬庫そのものだ。

 プラズマリーダーを物理的に突き立てられた状態では、エネルギー攻撃を無効化する機能のためのジェネレーターも巧くは動かないだろう。そのまま、デンドロビウムの巨体は一つの爆薬と化して爆散するに違いなかった。

 ヴァルヴァロの、アーム。鋏。その先端が向かう、ガンダムの上半身。

 今度は、逃がさない。プラズマリーダーが巧く起動すれば、その瞬間は、動きを奪われる筈だ。爆散など暢気に待つ気はない。そして脱出もさせはしない。鋏の先端を突き刺して、引き千切ってやれば、それで終わりだった。

 炸裂する火球。ガンダムが両手で、牽引鎖を引き、火球と化す上部コンテナを外そうと試みている。片方のコンテナが、外れた。吹っ飛んで、内部に残った残弾もろとも爆散し、同時に、刺さっていたプラズマリーダーをも引き離している。

 まだ、間に合う。漸く、プラズマの放出を止めただけで、デンドロビウムはここから回避行動を取るのに時間がかかる。

 ヴァルヴァロの軋み。苦痛の軋みだった。隠せなくなっている。

 デンドロビウムとの揉み合いによる圧が、機体を絞め殺そうとしていた。

 メガ粒子砲。脳裏を過った。先のプラズマリーダーで、相手の、防御装置の、ジェネレーターを破裂させていた可能性は高い。だが、いったん距離を取らねばならず、それは隙そのものであり、敗北の理由そのものとなる。賭けの要素は、連邦相手には分が悪い。

 近接戦を選択した。

 ヴァルヴァロの左アーム。受けとめられていた。デンドロビウムから伸びた、クローが、手四つのようにして固く噛み合っている。砕かれている。ヴァルヴァロが左腕を奪われていた。

「……アナハイムが、ジオニックのような発想で機体を造りおって」

 呟いた。だがまだだ。

 お前には、俺と違って、腕が二本、あるだろう。ヴァルヴァロを旋回させ、右のアームをガンダムのコクピット目掛けて突き入れる。爪を閉じ、掴まずに、先端を突き入れ、コクピットただ一点を狙う。

 デンドロビウムの、ビームサーベルが伸びている。馬鹿げた長さの、ビームサーベルだった。

 一閃。ヴァルヴァロの砕けた左アームは、根元から削ぎ落とされていた。返す刀。躱す気はない。相打ちなら、討ち取れる。

 右のアームが、動かなかった。ヴァルヴァロの声。機体の軋み。まだやれると吠えている。やらせろと叫んでいる。何故、戦わないのだと怒鳴っている。

 俺は、ヴァルヴァロだぞ。お前が一番、知っている筈だろう。

 応えてやれなかった。

 デンドロビウムから長大なワイヤーが放たれて絡みついている。

 気づいてはいた。ワイヤーごときで、とも思った。ヴァルヴァロが喚き続けている。引きちぎれる。俺たちでやれることは、これだ。この宇宙にまだ残っていた、三機目の試作ガンダム。このでかぶつを、俺たち二人で、鉄屑に変えてやろう。そう言っているのが、ケリィには聞こえている。

 ケリィは小さく、溜息を吐いた。

 最早こうなれば、脱出装置でも使わなければ、命は拾えない。

 そんなものはなかった。ヴァルヴァロが死んで、自分が生き残るというのか。そんなことは、ケリィは微塵も考えてもいなかった。喩えヴァルヴァロがそうしろと、叫んだところで、ケリィはそんな叫びに、応じる心算などは、一切ないのだ。

「……すまんな、ヴァルヴァロ。俺たちの、負けだ。俺が、後れを取らせてしまったのだ、お前に。やはりお前は、俺には過ぎたる機体だった」

 話しかけた。ヴァルヴァロは軋む機体でよくやった。何も、不満はなかった。自分が判断を誤ったのだ。敵パイロットが、ウラキが上だったのだ。

 絡みついているワイヤーには、小さな爆雷が無数に取り付けてある。

 爆導索。

 引きちぎれば点火し、こちらは轟沈する。相手の意思でも、爆破させられる。おそらくムサイ級でも轟沈する破壊力だ。ヴァルヴァロであっても、ひとたまりもない。

 点火されることはなかった。

 二の太刀のビームサーベルも来ない。収められている。

 生かされている。それが分かった。




小僧ども、なんだか一週間が早い気がしてきたぜ。もう更新か、そんな感じだ。お前たちも早まればいいと思っている。そうすれば、俺の書いたものをお前たちに見せられる。そういうことだからな。しかしにしても今回の更新だ。読んでくれたやつは分かるとは思うが、まさか俺の人生で真顔で「ハマーン・カーン」とか書く日が来るとは思わなかったぜ。なんとなく背筋が緊張したものだが、それはそれとしてその名詞を叫ばせるというのはなかなかのものだと思うがな。今回のケリィvsウラキは勿論、原典の月での戦いを流用したものだ。プラズマリーダーをこう使うというのは、我ながらいいと思っているぜ。次でこの章は終わりだ。そして最終章に入る。小僧ども、まだまだ物足りないぜ。
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