「……俺に後悔させる気か、ウラキ。俺は、後悔などしたくない」
「このまま戦ったら、きっとケリィさんは、もっと酷い後悔をします」
「するものか。戦って出た結果になど、後悔はない。戦いは、生か死かだろう。自分で選べるのなら、その程度でも僥倖なのだ。さっさと、討ち取れ。俺は、お前をうち漏らしたときに何をしろとは命じられておらん」
「聞いてください。自分たちは、この作戦の全貌を、全計画を、知ったんです。知って、しまったんです。デラーズが死ぬのは勝手ですけれど、ケリィさんまでそれに付き合う必要なんか、ないんですよ」
何かを伝えたい。それだけは分かった。
自分が聞く耳を持つかどうかと言う話だった。そして聞こうと聞くまいと、今、生殺与奪を握っているのは、ウラキの方だった。自分はこの場で、敗北者だった。納得出来る形での、敗北で、死ねた方が楽だっただろう。
聞くだけは、聞こう。そう決めた。
「……周りは敵しかいないんだ、こんな真っ只中で、よく、話など」
「ケリィさんしか、自分は知りませんから」
「俺に会いに来たのか、ウラキ。俺だって、敵だぞ」
「他に、言える相手などデラーズ・フリートには」
「よかろう、聞いてやる」
ガトーのような口調になったな、とケリィは少し面白かった。
あいつの代わりに、聞いてやっている。そう思った。
「……デラーズ少将がどうした? 星の屑作戦は、あの通りだ。コロニーはもうじき、落ちる。今から、俺にだけ逃げろとでも言いに来たのか」
「そうです。デラーズの目的は、コロニー落としだけです。ジオンの残党をかき集めて、デラーズ・フリートを造って、その全部を犠牲にしてコロニーを落とそうって言うんですよ? そんな身勝手な話が、ありますか? それの何処に、義や志があるって言うんですか」
「……『星の屑』作戦の真の目的を簡単に言えば、コロニー落としの再現か。確かにはっきり、そう聞いたことはなかったな。その目的を隠すためになにかと動き回っていたというなら、デラーズ少将も小刻みな真似をする」
ジオン中興の志。義に拠って立ち戦う。
一兵士はそれでいい。関与する話でもないと思う。
そこに義や志が見つかるなら、教えて貰えるなら、それでいい。
ケリィはまだ、デラーズ少将の義や志を語れるほど、デラーズ・フリートには、染まっていない。義や志など、あやふやなものでいいとも、思っている。自分の役割と為すべきことさえ分かっていれば、それでいいのだ。
「……それで? 戦争だぞ? 地球にコロニーをもう一度落とせるというなら、ジオンの残党にそれを止めようってやつを見つける方が難しい」
「何処に落ちるか、分かっているんですか?」
「連邦基地のジャブローだろう」
地球連邦軍総司令基地だ。一年戦争の時から、連邦の本営だったと言っていい。宇宙でガトーに戦力を七割がた削られ、ジャブローにコロニーまで落とされれば、連邦の交戦能力はかなり後退を強いられる。
そこに、デラーズが全てを賭けて総攻撃する。
アクシズがそこで参入を決定すればいい。宇宙圏のみでならジオン勢力を、支配的なものに戻せる可能性は、そこにあり、そこにしかない。それほど悪い作戦だとは、ケリィは思っていなかった。自分が、生きていられる作戦かどうかは、考えることではない。
「……ジャブローじゃないんです、ケリィさん。違うんです」
「ジャブローには落とさない? ばかな。何のためのコロニー落としだ」
「だから自分は、ケリィさんに言っているんです。こんなのは、全部、茶番です。ジオンの残党として意地を通す、それについては、自分には意見できません。だけど、ケリィさんは、こんな策謀しかない計画に殉じて、それでいいんですか」
「策謀は、政治だ。そして俺たちは、政治に従うのが役割だ」
「疑問を、持つぐらい、したっていいでしょう。ケリィさんは死にたいだけなのですか、そんなことのために、ヴァルヴァロとここにいるんですか」
「どんな疑問を持てというのだ、ウラキ」
「ジャブローじゃありません。本当の落着地点は、北米の穀倉地帯です。基地もない、ただの、穀倉地帯です。誰が、巻き込まれると思いますか。軍人でもない、民間人ですよ。軍人ではない人々を大量虐殺することで、軍人の矜持が満たされるんですか、そんなことに、命を賭けて、ケリィさんは納得するんですか」
ウラキの言葉を、疑いたくなった。
ケリィの中では、コロニーの落着地点がジャブローなのだということで、全てが納得出来ていた。戦争とは、そういうものだ。相手が軍人である限り、その死傷者の数など気にするものか。相手の戦力を削り打撃を打つ。だからこその戦争であって、テロ行為ではないのだ。自分が軍人ではなくテロリストになってしまうのは、確かに納得がいかなかった。
「確かか、それは」
「正式な書類を手に入れています。命が乗っている書類です」
「戦場で、命など」
「自分の上官でした。これを自分たちに渡して、バニング大尉は。だからバニング大尉のためにも、自分たちは」
身内か、とケリィ思った。身内の死は、堪える。身勝手な話だろうが、堪えるものは、堪えるのだ。ウラキもそれが分かっただろう。そしてきっと、心から尊敬されている上官だったに、違いないだろう。
「詳細かつ完全な全貌を、自分たちは知っているんです。だから、デラーズ・フリートの行動になど、参加する必要なんか、ないんですよ。ましてや、死ぬなんて。ケリィさんが殉じて死ぬような大義も志も、こんな騒ぎにはないんです。だから、退いてください、お願いします」
ジャブローを破壊する。そのためのコロニー落とし。そしてそれを成し遂げるためなら、刺し違えてでも連邦の残存艦隊に総攻撃を仕掛ける意味はあり、死ぬための大義も志も、抱くことが出来る。だが穀倉地帯とは。
デラーズは、何をもってして、それを大義と言い志と呼び、死を覚悟した作戦を遂行しようとしているのか。そこに、濁りは、ある。綺麗事の言葉で修飾しきれぬことを抱いて、全てを進めようとしている。
ケリィは構わない。義も志も、どうでもいい。
だが、ガトーはどうだろうか。あの男を支えている義と志が、自らの信じた物とは違う、旗なのだとしたら。
「ウラキ。俺の役割は、失敗した。お前を撃墜しろとだけ、命じられていたのだからな。それにしくじった以上、俺はここで死ぬか、死なぬのなら次の指示を待たなければならん。だが今となっては、俺がどうなろうと、ガラハウ中佐は俺に構っている、ひまは、あるまい」
「ですから、離脱を。こんな、こんな私情しかないような戦場からなんて」
「私情ではない。政治だ。それを分かるようになれ。もっといいパイロットになれる。俺は、別に、離脱してもいい。それを逃げたと誹られても、いい。だがな、命令とは別に、やらねばならんことがある。見逃してくれるのなら、それをする」
「……ガトー、ですか」
「察しがいいな。お前があいつに直接伝えても、良かったものを」
「自分は、連邦です。敵です」
「俺は、違うのか?」
「関係ありません、相手がケリィさんなら。当たり前じゃ、ないですか」
ぬけぬけと言うものだ。ここまで純朴だと、こっちが意地を張っている方が恥ずかしくなる。やはりガトーは、そんなことを言われたら、怒るだろう。そういうガトーだからこそ、伝えなければならない。ケリィが、伝えなければならない。自分が伝えて、ようやくガトーは聞く耳を持つだろう。
ウラキの言葉に、賛同すべきだという訳では、なかった。
知るべきことを知った上で、ガトーは選ぶべきだった。自らの中にある義と、志と、男の誇り。それらの帳尻が、きちんと合っているのかを。それを、世話するのが自分の、今の役割という気がした。
「ついてくる、などと言うなよ。適当に、下がれ。お前が一緒にいたら纏まる物も纏まらなくなる。あいつは、世話の焼ける男なのだ」
ウラキが、爆導索を解除したのが分かった。
拘束から解放されたヴァルヴァロ。片方のアームが切り落とされただけだ。まだ、充分に戦えるのはケリィが誰よりもよく分かっている。
デンドロビウムから離れた。
ウラキは、踵を返し、思い出したかのように、ガトーが暴れ回って次々と破壊されている、連邦の残存艦隊を目指して、突っ込んでいく。
ガトーだけではない。自分の、行方。
それもやはり、ガトーと言葉を交わさなければ、自分の中には生まれないのだ。
ケリィは、そう思った。
四
シーマ艦隊の動きに、違和感があった。
所定位置を離れ、少しずつ動き出している。直接の交戦中ではない。
ガンダム試作三号機デンドロビウムなるものが出たと、ガトーにも連絡は入っている。尋常ではない機体だと言う。サイサリスよりも更に巨大な、比較にもならない重武装を搭載した図体でゼフィランサスよりも早く動き、報告に拠れば撃墜数はノイエジールの数に切迫している。推進剤の欠乏によって動きを鈍くさせた相手を鴨撃ちに墜としているということを考えれば、ノイエジールよりも動けているのではないか。
正直に言えば、ガトーの体力は疲弊の極みにあった。気力で、繋ぎ止めている。
デンドロビウムの動きが上というなら、それに搭乗しているパイロットは更に疲弊しているだろう。
コウ・ウラキ。
乗っているのは、間違いなく、連邦士官のあの小僧だ。この短期間で腕を上げた。人の中身が入れ替わったとさえ思えるほどにだ。いや、腕を上げたというよりも、心の中で何かが切り替わったのかもしれない。そういう相手は、腕を上げた、などという評価では収まらない動きを見せる。
だが、それは人体の限界を超えているということでもある。
死ぬ気か。死んでも、この戦場に散るというのであれば構わない。そういうことであれば、モビルスーツ乗りとしての腕、というよりも兵士の有り様として、成長している。
命を放り投げる。そういう真似が出来るようになる。射撃の腕や、操作の巧みさなど、それでいつの間にか上達する。弾やビームを外したとき、不意に接近戦を挑まれたとき、まず命を守ろうとすれば、動きが遅れる。命を放り投げた分だけ、早く動けるものなのだ。死ぬ気、というのとも違う。命をまず放り投げる。出来そうで、出来ない。死にたくないという本能を焼き切って、磨り潰さなければならない。それが出来てしまえば、却って命を拾い、腕を上げていく。
手強いには、決まっていた。
恐らくは、連邦に残存する機体とパイロットとして、突出する手強さを宿している。だがこちらも、それに劣るとは思っていない。ノイエジール。ジオンの魂。その具現化。それを駆るは、このアナベル・ガトー。ソロモンの悪夢。そう簡単に勝てると思われては、不本意そのものだった。
ケリィの駆るヴァルヴァロが、接敵したようだった。
すぐに、そちらに向かいたかったが、シーマ艦隊の動きがどうしても気にかかった。旗艦グワデンへ向かって、ザンジバル級からガトーの見知らぬ赤い機体とゲルググ数機が飛び、格納庫ドックに入るのも、見えた。
コロニーに変化はない。このまま、阻止限界点を超えれば、ジャブローへ落着する。そして連邦に、一切の手出しをさせる気はない。最早この宙域に追いついた連邦軍は壊滅させた。新手が来れば、それもただ撃ち落とすのみだ。
ケリィが相手をしている機体。ガンダム試作三号機デンドロビウム。
やはり、そちらに向かうべきか。ケリィが単独で渡り合っているわけではない。向こうがこちらの軍勢に、ただ一機で乗り込んできたのだ。周囲全ては敵であり、ケリィだけが相手をさせられているわけでは、なかった。
カリウスのドム。近くに、随行している。ノイエジールのすさまじい動きに、よく着いてきていた。何機か墜としてもいる。
「カリウス、いったんグワデンに戻ってくれ。シーマ艦隊の動き、どうも気になる」
「ガラハウ中佐が何か仕掛けると?」
「そういう時ではない。はずなのだがな。何かやるとしたら、コロニーが阻止限界点を超えてからだろうと思ったが、それだけに、気にかかる」
「承知しました、いったん、自分はグワデンに帰投します」
カリウスが遠ざかっていく。シーマが何もせずこのままだというなら、それはそれで良かった。目に見えぬ動きまで探って疑っていたらキリがない。目に見えて違和感のある行動をされては、気にせずにはいられなかった。
自分の代わりに確認させるのなら、カリウスは最適だった。古参の部下である。ガトーが何を見たいかは、分かっているはずだった。そういうものを、きちんと見て確かめて、こちらに報告してくる。
たった一人残った、ソロモン直属の部下であった。
出来れば、生き延びさせてやりたいとも、ガトーは思っている。適当なタイミングで、アクシズ先遣艦隊に合流させ、下げるべきだった。だがそのタイミングは、同時に、ガトーが抜き差しならぬという時でもある。
自分は、生き残りたいのか。
それがここからの戦争に役に立つというなら、そうしたい。ここで死ぬことが最も戦果に繋がるというのなら、それでもいい。デラーズがどうしろと自分に命じるのか。それ次第の話だった。
ヴァルヴァロ。こちらに向かって疾駆してくる。
「……ケリィ、例のやつは退けたのか?」
「仕事を横取りしてすまんとでも言ってみたいところだがな。向こうが、下がっただけだ。その前に、やりあってもいる。俺は、勝てなかったよ。ヴァルヴァロに、負けさせてしまった」
「何故、相手は勝っておいてさがるのだ」
「疲れたんだろう。それなりに、俺も消耗させてやったしな」
「単騎で乗り込んできておいて、なにを、ばかな」
「あいつは、俺に用事があっただけだよ。コロニー落としを邪魔しようとか、ガトー、お前と戦いたいとか、そんなことも考えていない様子だった。多分、その通りなのだと思う。ウラキは俺と話すために、このデラーズ・フリートのど真ん中まで乗り込んできたのさ、あいつ」
「……コウ・ウラキと面識があるのか、お前」
「月じゃ世話になった。あんな小僧に、世話を焼かれたんだから、そんな恥を話す気にもなれんかったが。そうも言っていられない様子になってな。戦争なぞお構いなしに、敵の真っ只中を突っ切って、俺と話をしにきたんだぞ」
「戦の最中に、一体、何の世迷言を。話すお前も、お前だぞ」
「仕方なかろう。俺は死なせてもらえなかったものでな。世迷言でもなんでも、聞くしかない」
「何を聞かされたというのだ」
「……ガトー、俺はな」
ケリィの言葉が、途切れた。横から、全艦隊に向けての通信が、強制的に、最優先で、旗艦グワデンから発せられている。
ガトーは顔から、血の気が引いていくのを感じていた。
デラーズ・フリート全軍への撤退命令だった。
コロニーが阻止限界点を超えると同時に、全兵力は反転。そのままアクシズ先遣艦隊と合流し、撤退。
「……ばかな。阻止限界点を超えたからと言って、コロニーが連邦に放置されるわけがなかろう。地球に落ちるのは防げずとも、横合いから叩かれれば、軌道など幾らでも変えられるではないか。それでなくとも、四分五裂すれば効果が薄い。デラーズ閣下は何をお考えか」
「お前は、落としどころを考えて戦ったことがあるか、ガトー」
「何の話をしている。これは一体、どういうことだ。シーマ・ガラハウが何か企んだとでも言うのか」
「企むというのなら、デラーズ少将閣下だってずっと企んでいただろう。連邦も、そして月のアナハイム社も。アクシズだって、そうだ。何も企まずに戦っていられた俺たちは暢気なもんさ」
宙域は動揺していた。デラーズ・フリート全体の足並みが合わなくなっている。それほど、唐突だったのだ。何も考えずに戦っていた者たちですら、考えざるを得なくなる、そういう命令だった。
「……このまま、好きにやれと言われていたならどうした、ガトー。もしくは、お前が少将の地位であったなら」
「私にそんな権限があるわけがなかろう」
「ではデラーズ閣下が、今まさに斃れたとしたら? ガラハウ中佐でも、誰でもいい。デラーズ閣下の名をたばかり全軍に向けて、得心のいかぬ命令を下しているのだとしたら? もしそうであったなら、お前は、どうする、ガトー? お前に従うという者たちをどこへ導く?」
「戯れている場合か、ケリィ」
「俺の任務はガンダム試作三号機の撃墜で、それは果たせなかった。それなのに、生きている。撤退命令はデラーズ閣下からかもしれんが、俺はガラハウ中佐の下にいる。そのガラハウ中佐から何もない以上は、根無し草のように浮かんでる状態なんだ、今の俺は。戯れても、よかろう。付き合えよ、ガトー」
何なのだ、とガトーは背に汗を流した。ケリィの冗談じみた、益体もない問いかけに、圧を感じる。何かとても大切なことを問われている。
「俺は、一度終わった男だ。志も誇りも、左腕と一緒になくした男だ。ここにいるのは、そんな俺にも役割があったからだ。ずっと戦場にいるお前は、何を失わずに、まだ、そこにいるんだ、ガトー」
「……それこそ、志ではないか。私はそれと共に戦場にいる」
「では、どうする? 俺が言った通りであったとしたら、お前はここから、どう動く? それでもお前の中に、お前自身を揺り動かす誇りや志があるのか? お前は、どんな旗を掲げて、戦おうというのだ」
「ジャブローに、このまま落とす。コロニーが地表に届くまでの間、連邦の艦隊を一匹でも寄せ付けぬよう、ここで粘る。一秒でも多く粘ればそれだけ連邦は傷つき、一匹でも多く墜とせば、連邦は弱まる。まだ月機動艦隊の残兵を掃討しただけだ。連邦はまだ、力を残している。だからこそ、ここで」
「ここで、散ろうというのか? お前は同じ命令を、カリウスにも出せるのか?」
「いい加減にしろ、お前とこれ以上、こんな話をしてどうするのだ」
「ガトー。あのコロニーは、元からジャブローには落ちないのだ」
汗。ヘルメットの中で、確かにガトーは汗を滲ませていた。デラーズの撤退命令。ただ一基、ゆっくりと、地球に引かれて落ちて行くコロニー。その巨大な金属の円筒は、後戻りの利かない線をもうじき、超える。誰ももう、そこから先は止められないのだという阻止限界点。
「……ジャブローでなければ、どこに落とそうと言うのだ、閣下は」
「北米の、穀倉地帯だそうだ。……なあ、俺は、短い間だが、ガラハウ中佐の下にいた。あの女は、企みを巡らす女狐なのだろうが、そういう部分を隠さずに見せてくる女でもあるのだ。だから、隠し通そうとしているデラーズ閣下の方が、逆にどうしても、目に入ってきてしまう。俺はこの話をウラキから聞いたときに、思ったよ。デラーズ閣下は、大局的にものを見ていると。だが巨視にすぎるな、俺や、お前には」
「穀倉地帯になど落として、どうしようというのだ、閣下は」
「それで地球が、飢えるのだろう。俺たちスペースノイドと同じぐらいにはな。食料という交換条件を失わせるんだろう。それ以上、細かくは分かるわけがない。だがそれは、そういうやり方は、少なくとも俺の戦争ではない。ガトー、お前には、尚更、そうなのではないのか? 穀倉地帯と引き換えに、お前はここで、死ねと部下に命じる事が出来るのか?」
「得心がいかぬ」
「だろうと思うから、こうして伝えているんだ、俺は」
何一つ得心がいかぬとガトーは思った。撤退命令も、ケリィの言葉も。そして今や、デラーズの掲げた大義すらもが、自分の中で揺らいでいた。事実、デラーズ・フリートは見る間に動きを止め、コロニーから離れ始めている。ここで、離れて、いい筈がなかった。根限り、戦うべきだった。
ジャブローに落とすのだとそう信じていたから、そうすべきだと疑わなかった。
義も、志も、追うべき旗も、そこにあった。あった筈なのだ。それが見えなくなってきてしまっている。
問い糾す。
デラーズ本人からの言葉を聞かなければ、このまま迷い続けるに違いなかった。
ノイエジールの機首。返そうとした。
だがガトーは見た。地球連邦の新たな、艦隊を。
その旗を。かつてソロモンで見た、悪夢の光を。
それは十字に交差した、巨大な光の旗であった。
小僧ども、今回で『宇宙駆けるけもの』は終わりだ。結構なかなか、本筋に手を入れた、という気がするぜ。最初から手は入れているが、明確になったのはここら辺りだろう。そして次からはいよいよ最終章『幻旗はるかなり』に入る。これまで長く付き合って貰ったな。しかし次までを出来れば付き合って欲しい。俺が何を書いたかを見届けて欲しいものだぜ。そうして貰えれば冥加に尽きるというものだからな。小僧ども、まだまだ物足りないぜ。