残光の旗   作:∀キタカタ

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燎原の陽(3)

「降りて、楽になさいませんか?」

「いや、ここでいい」

 気持ち。やはり緩めない。コクピットに座り、ハッチも開けぬまま、ガトーはサイサリスの中に留まっていた。

 何もないなら、ただ疲れたというだけの話だ。

「……ゲイリー。どうなっている?」

「やつら、追いついて、きています」

「せめてそうでなくてはな。では、任せる。くれぐれも、熱くなるな。緩みきった連邦相手になど本気にならんでもいい」

「承知しました」

 連邦。追いついて来ている。当たり前だ。

 当たり前のことが起きないのでは、却ってこちらの気も休まらない。

「……軍曹、脱出の準備だけはしておけ」

 コムサイのパイロットに伝えたが、詳細は伝えなかった。ここからは、呼吸の問題になる。呼吸が合わなければ、それまでだ。ガトーはただ、このまま、宇宙に、何の問題もなく戻れるなどと思っていないだけだ。

 根拠はない。

 だから具体的な命令も出せない。察してくれ、と願うだけだ。ゲイリーもボブもそれが出来る。コムサイのパイロットにそれが出来るか、どうか。そこまでは、気にしてはいられなかった。ただ、佐官の義務かと思いそれだけは伝えておいた。

 爆音。轟いている。

 ゲイリー。早速、仕掛けている。

 こちらは積み込み作業中だ。直接の介入はしてやれない。そして余計な指示も、出したくはない。ガトーは今、自らでは動けないのだ。それにゲイリーやボブの、自らの判断というものを優先させてやりたかった。

 ボブはザメルの680mmカノン砲で適時、支援している。

 流れは、悪くはなかった。このままなら、宇宙へ行ける。

 始動準備も終わっている。コムサイのブースターが、凄まじい音を立てて、燃料を燃やし始め推進速度を貯め始めている。飛び立てば、あっという間に、距離を飛ぶ。最早、僅か数秒のやりとりとなっている。

「……少佐、ジムは片付けました。ザクを庇いやがった。俺はあのザクを、狙ってたのに。俺は、あいつを、許しませんよ。あいつは、俺の僚機だったかもしれないんですから」

 ゲイリーの声。やはり、熱い。だがもうこれ以上は、戒めなかった。

 追撃は、残り三機か。こちらは、動けるのは二機。だが勝つ必要はない。コムサイが飛び立てば、それでいいのだ。ゲイリーの、連邦に鹵獲されたザクへの拘り。それだけが、ガトーは気になっていた。

 コムサイのブースターは、燎原に落ちた陽のように、輝きを放っていた。

 引き絞られた弓弦と同じだ。あと数秒。片手で数えられるような、時間。

 滑り出したコムサイ。武装を解放している。それが、伝わってきた。敵を撃たなければならない。そういう事態になったのだと、ガトーは、サイサリスのコクピットで悟った。

「……軍曹、状況を伝えろ」

 通信。返事はない。

 数秒。あと数秒だけ、早ければ、コムサイは離陸し、誰にも止められず宇宙に向かっていただろう。だが今、ガトーからの通信に、返信は何一つなかった。離陸の気配は感じたが、それはただ、コムサイが勢いだけで浮き上がった、と言うだけのことだ。

 脱出。必要はない。むしろこのままやり過ごす。

 サイサリスは、近接核攻撃という暴挙を行うための機体だ。この過剰な装甲は、その暴挙に耐えうるために、存在する。ブースター付きのコムサイがどうなろうと、耐えられる。耐えられなければ、それまでだと、ガトーは思っている。

 コムサイが操舵を失い爆破されたとなれば。それと共に、サイサリスが失われたとなれば。あの連邦は必ず油断する。僅か数秒の油断だろうが、飢えるように欲していたその、数秒にも満たない間隙。

 今度は、こちらが利用させて貰う番だ、とガトーは思った。

 凄まじい熱と衝撃。どちらも相殺されたが、地球の大気と重力は、コクピット内にいるガトーに、コムサイが撃破された衝撃を、事細かに伝えてきていた。不快であった。大地に激突し、蛇のようにのたうちながら、破壊されて砕けていくコムサイ。爆散する。その中にガトーはサイサリスを紛れさせ、離脱していた。

 奥歯が砕けるほど、噛みしめたくなるような衝動。

 作戦遂行が巧くいかないなどと、前提条件として、織り込み済みではあったが、ガトーはこの事態に、切歯扼腕を隠せなかった。

 三年。

 このアナベル・ガトーはこの機会を、三年待ったのだ。

 それがたった数秒で、覆されたのだ。作戦遂行までの、齟齬。知ってはいる。分かってもいる。それでもガトーは、自分の背中に貼り付いた、三年という月日を、呪わずにはいられなかった。それが自分の、これからの判断に、影響を落とすかもしれないのだ。

 一年戦争時なら、何というほどもない齟齬が、今となっては、耐えられない。

 連邦が緩みきった、というなら、我々とて、引き絞りすぎて余裕がないのではないか。

 爆煙。掻い潜る。苛立ち。収まらない。

「やはり、お前か」

 爆煙の向こうにゼフィランサスがいた。

 コウ・ウラキ。追撃が、油断する前に数秒だけ、間に合ったか、小僧。この三年、貴様は何をしていたのだ。戦もせずに、士官学校に通っていただけではないのか。手を血に染めることもなく、このアナベル・ガトーの前を阻もうというのか。

「小僧。貴様ごときに我々の志を折れると思うな」

 通信。繋がっている。連邦の回線のままだ。

「……志……?」

 返答とも言えぬ声。志。

「そうだ、小僧。それが男の、軍人の生きるよすがだ。士官学校出は覚える事も出来ぬ言葉だ。それをこのアナベル・ガトーが教えてやる」

 追撃してきた連中が、自分の名を呟いている。

 『ソロモンの悪夢』という異名まで、馴れ馴れしく口にする者までいる。

 連邦の教本にすら載っているのだとまで、聞かされていた。自分が、既に死した人間のように扱われているようで、ガトーは不快だった。ソロモンの悪夢などという異名も、今では自分に背負わされている悪夢のようだ。

 全体の布陣。確認する。

 ゲイリーがザクに拘っている。ボブのザメルはジムカスタム一機が相手だ。

 そして自分の目の前には、ゼフィランサスがただ一機。

 小僧の操る、ガンダムもどき。無視すべきだった。援護に向かうべきは、ボブのザメルだ。中長距離射程で戦うのを旨とする重モビルスーツが、絡み合うような近接戦を挑まれるのは、なんとも分が悪い。

 地球での作戦行動で部下として編入した、ソロモンを、宇宙を共にした二人ではあった。あのア・バオア・クーののち、自分は月に潜み、彼らは地球にいた、というだけのことだ。だがゲイリーもボブも、地球には、既に馴染んでいるようだった。

 少しだけ、自分とは距離がある。それでもブリーフィング一つで、彼らはガトーの部下としてこの上なく、こちらの意図を汲む動きを見せてくれている。

 それを、見捨てるのか。

 勝ち負けは問わぬ。だが自分がそこに介入せずして何が上官か。

「……こんな戦術レベルの戦いで、大仰に、志なんて入る余地が、何処に」

 ゼフィランサスからの通信。挑発的だった。それはどこか、ガトーにとっては、肌に針を突き刺されるような嫌悪があった。

 コウ・ウラキ。士官学校上がりの、小僧。

 志が何かを、気の利いた受け止め方で理解したような、物言い。

 気に食わぬ。そう思った。跳ねっ返りの、ジオンの新兵ならともかく、言っているのは連邦の士官学校上がりなのだ。

「我々はスペースノイドの、真の解放を掴み取るのだ。何ら志を持たず唯々諾々と軍に属して矛を構えるような貴様らに邪魔される謂れはない。将校ならばもっと大局的にものをみろ、小僧」

「……はい……」

 おそろしく朴訥で素直な返事に、ガトーは面食らった。緩み。馴れ合いの気配を感じ、不快感が押し寄せた。ガトーはこういう相手を、一番嫌う。

 私は、敵だぞ。

 心底、そう怒鳴りつけたくなった。敵が述べたことに、素直に納得した返事をするやつが、いるか。どれだけ破綻した論理でもいい、敵には怒鳴り返すのが、兵士ではないか。それが軍人ではないか。

「貴様、軍などやめてしまえ」

 叫んでいた。ビームサーベルを、横に構えた。

 ドム・トローペン。割り込んできた。ジャイアント・バズの連射が、周囲を火の海にし、闇夜を明るくしている。ザクからはいったん、離れたか。もう、仕留めたのか。こちらから介入する前に、部下に気を遣われたという負い目が出たが、忘れた。

「……少佐、時間がありません。回収艇に向かってください」

 素直に、コムサイで離脱できるほど、甘くはないと立案していた。二の矢は用意してあり、海から逃れる。むしろ、そちらが本命だったと言っていい。

 そのために、当て馬のような役割を、コムサイに強いたかもしれない。それもまた、戦だった。階級が上がるほどに、部下の命が軽くなっていく。

 大破したコムサイと、ジャイアント・バズの放った弾頭によって、一面に広がる爆煙の中に、ドム・トローペンがホバー推進で突っ込んで来た。ガトーの状況を確認したかったのだろう。

 敵が一体、増えた。これをゼフィランサスが、どう判断するか。

 判断する時間は与えなかった。ガトー自らがまず、体当たりするように、距離を詰めてやる。競り合った。意外に、ゼフィランサスが受けとめている。だがドム・トローペンへの意識を失ったとき、この小僧は死ぬ。すぐだろう。

 サイサリス。総重量を考えれば、これも重モビルスーツだ。アナハイム社は恐らく、地上での運用をほぼ、考慮して設計していない、とガトーは断言出来る。そのぐらいの、機体重量だ。それを推進剤で、強引に動かしているというのは、浅慮に過ぎる。燃料計。さほど影響はない。これだけの大出力を放出している割には、意外にメーターの動きがない。

 カタログデータで見る重量からすれば、むしろ軽い印象すらある。これも、連邦が、操作性を最優先して設計を要求しているからか。ガトーには余り、そういった機械関係のことは、よく分からない。

 だが宇宙ならともかく、地球で運用するには、かなり機動性に難があった。力ずくで動かしている分だけ、全体の温度上昇が常識以上だ。盾に冷却機構がなければ動くことすら困難だろう。

 ゼフィランサスに、そのサイサリスの重量をぶつけ続けた。

 ドム・トローペンのことを忘れるように、仕向けている。まだ、隙はない。

 やがて、蹴り倒した。コムサイの残骸の中へ、ゼフィランサスが転がっていく。

「……少佐、新たに四機の増援を確認しました。来たそばから殲滅してやりますよ」

「出来るか? ザメルは釘付けにされているぞ」

「あいつら、暢気な、進軍ですよ。散歩のようです」

 ゲイリーはそちらに向かい、ゼフィランサスはガトーに任せている。

 それでいい。やはり指示しなくとも、そうする。もう何人も残っていない、ソロモン戦、直属の部下だった。

 ザメルを下げる。それも考えた。680mmカノン砲が、それで生きる。連邦の援軍などいい的だ。だがザメルはやはり、ジムカスタムの相手で手一杯だった。下げさせては貰えない。仮に最初からザメルを長中距離に配置していたとしても、あのジムカスタムは、目敏く見つけて、すぐに接近しただろう。

 ザメルが配備されているのは、伝わってしまっている。自分の部隊を狙うなら、何処からか。そこから逆算して、単騎で離脱している。その先は、戦場での勘が生きる。そして見事にザメルを見つけ出し、封じ込んでいた。

 ガトーは、ジムカスタムという機体を、高く評価している。改良型、というならジオンのモビルスーツが施すものよりも地味だが、全体性能の底上げが、着実に施されている機体だ。連邦らしさが、いい方に反映されている。パイロットの腕というものが、素直に出る。だからすぐに、相手パイロットが難敵だと判断した。

 自分が、ここでザメルを援護すれば。だがそれでは本末転倒だ。

 全て部下に任せよう。そう思った。そうするしかないのも確かだった。

 支援の心配をする必要はない。ゲイリーとて、歴戦の勇士には違いない。ドム・トローペンを操らせれば、相手の機体数など、無理だという理由にはならない。

 海辺の夜である。不意に火力が炸裂したせいか、霧が、出ていた。

 ならば尚更、やれるだろう。

 その見通しを、いきなりひっくりかえされた。

 ドム・トローペン。機体認識は途切れ、撃破されている。近くに転がっていたはずの、ゼフィランサスが、いない。こちらよりも、ドムの撃破を優先した。それにしても、あのゲイリーの駆るドムを易々と仕留めるとは。

 トリントン基地での交戦から、確実に戦に馴染んでいる。

「……私を、燃えさせるではないか、小僧」

 部下の死を悼むよりも先に、敵の動きを褒めていた。敵パイロットの小僧が、ガトーの仕掛けの中でも、ドム・トローペンのことを忘れなかった。らしからぬ素早い判断も下した。そして元々の機体性能。

 ゲイリーは、ザクに拘りすぎたのかもしれない。霧の中、まずザクを捜そうとして、不覚を取った。戦場での判断ミスは撃破に繋がり、それで死したとして、悼むような真似をするのは、むしろ無礼だ。

 ユーコン潜水艦からの回収艇。こちらに向かっていた。撤退。それしかないにしても、やはりガトーは歯がみした。ドム・トローペンの撃破によりジャイアント・バズの砲火から解放された連邦の追撃隊。迫ってきている。

 単騎で仕留めてやろう。ガトーはそう思った。やられっぱなしなど性に合わない。

 仇討ちなどではない。自分が、軍人なのだと思いたい。そして、どんな形であろうと、撤退の二文字はガトーの性分に向いていない。前に出ようとした瞬間、サイサリスの巨体に見劣りしない影が、ガトーの打ち気に抑えをかけた。

 ザメル。ジムカスタムから、強引に距離を取って、こっちに駆けつけてきたのだろう。680mmカノン砲がへし折られていた。

「少佐、ここは抑えます。お先に回収艇へ」

「何を言っているのか、分かっているのだな、ボブ」

「承知の上ですよ。志っての、俺みたいなのでも、分かってます」

「命を、借りるぞ、いずれ返す」

「差し上げますよ、俺の命なんぞ」

 それ以上の言葉はいらなかった。

 ザメルを置き去りにし、撤退するためにバーニアから出力を吐き出す。

 後方。肉薄してくる。人の形をした、影。

 予想はしていた。当たり前だ。至近距離と言える場所に、小僧の駆るゼフィランサスはいたのだ。ザメルを無視して、追いすがってこられるのは、この一機しかいない。ならば、これを仕留めるのは、逃げる以外に課せられた、自分の使命であった。

 ビームサーベル。抜いていた。相手も、抜いていた。距離が詰まってくる。サイサリスが、遅すぎるのだ。やり合うしかないのならば、先に仕掛ける。

 振り返りざまに、ビームサーベルを叩き付けた。

 受けられた。鍔迫り合い。生意気な。一気呵成には、仕留め切れない。連邦のガンダム。バケモノと呼ばれただけのことはある。小僧に、受けとめられるとは。

 連撃。向こうは、防戦一方である。だが凌ぎ切れている。それだけでも、ゼフィランサスの性能が分かる。だがガンダム試作一号機の性能が、それだけのものならば、この二号機もまた、性能の底上げは、なされている筈だ。

 重量か。設計思想か。サイサリスよりもゼフィランサスは、近接戦重視だろう。ならばこの粘りも、分かる。

 だが推して参る。それが、出来ないはずがない。

 ここで、潰してやろうと思った。必要なのはガンダムではなく、一号機など眼中にもない。二号機ですら、そうだ。必要なのは、核弾頭だけだった。そして、その核弾頭を背負ったまま、近接戦をしているという危険性すら、ガトーは気にしていない。

「……何故、二号機を?」

 また通信が入った。益体もない質問は、押されている状況から来る、苦し紛れの能書きか。

「貴様に話す舌など、もう持ち合わせてはおらんぞ」

 ガトーは、戦う意味さえ解せぬ小僧と馴れ合う心算は、一切ない。

「何故だと訊いているんです、答えるべきでしょう」

「それが敵に問う言葉か、小僧。一人前になってから言え」

 面倒になってきた。何故、お前に訊かれて答えてやらねばならんのだとも思う。

 モビルスーツの扱いには、そこそこ、いいものを感じる。恐らく、場数で伸びるであろう資質。だがそれ以前に、この小僧は馬鹿なのではないかと、ガトーは思う。怒りすら薄れてきた。連邦には馬鹿しか残っていないのか。

 出力を上げ、強引に体当たりをした。ガトーの嫌う重力は、そのまま機体同士の重量に直結し武器となるが、大地を噛めるという守りにも使える。だが、こちらの推力が、破格の数字を叩き出している。受けとめた、ゼフィランサスを実に容易く、何度も転倒させている。

 とどめ。刺せた。そして、刺す。実戦の差は馬鹿の小僧一人を雑に倒せる。

 だがサイサリスには異変が起きていた。とどめを刺すことに支障が出るほどの異変。機体の温度が、ヘタをすればすぐに停止するほど急激に上昇している。

 盾。サイサリスの無茶な稼働を支えるための冷却装置。

 その盾が、ゼフィランサスが苦し紛れに突き出したビームサーベルによって貫かれ、冷却機能をほぼ破壊されていた。相手からの攻撃を防ぐための、最大の装備が、そのままむき出しの弱点となっている。この盾が通常戦闘における『盾』の役目として装備されてはいないことを、マニュアルでは分かっていたが、ガトーは素直に理解はしていなかった。

 もはや持久戦どころか即時機能停止の状況に、苦し紛れの一撃一つで追い詰められていた。

 そもそもが、左腕を介しただけの盾である。機体の冷却装置としても効率が悪い。武装も収納されているため、盾としては迂闊には使えない。この試作二号機の開発者は何を考えているのだ、とガトーは苛立ちを隠せなかった。判断は、早かった。歴戦の経験がそうさせた。

 機体のオーバーヒートを無視して、ガトーは機体のバーニアをフル稼働させ、何よりもここから離脱することを選択した。戦おうとしたのが、間違いだったか。失態と言えば失態だが、サイサリスの盾が何なのかを、身を以て理解出来たのは収穫だったと、何とか自分を誤魔化した。試作機など、こんなものか、とも思う。

 回収艇がタイミング良く接近していたのも、幸いした。

 バーニアで強引に跳び、回収艇に飛び移る。そんな自分に、吐き気がしていた。

 ジオンの中興を阻む者。それが誰であろうと、いつか自分が斃さねばならない。

 自分に、そう言い聞かせる。それが自らに命じる軍人の生き方だ。しかしゼフィランサスの撃破に拘ったのが、そもそも間違っていたのだ。それは、少佐となった自分に対する叱咤であった。

 ザメル。撃破されたと、味方艦から通信が入った。

 連邦の軍人も、馬鹿揃いという訳でもない。そう言って、ガトーは自分を抑えていた。あの状況では、とにかくザメルが要だった。680mmカノン砲は、連邦の追撃を困難にさせ、下手をすれば全滅させられかねない。それを見て取って、ジムカスタムのパイロットは、ザメルだけに拘った。

 思った通りに、さぞかしの手練れだろう。ならば追撃隊の隊長で、間違いなかった。あのような馬鹿の小僧とじゃれ合うぐらいなら、小僧を無視して、そちらに加わりたかった。矛を交えてみたかった。だがそれでは軍令違反もはなはだしい。

 今は、諦めるより他はなかった。

 軍令は、果たした。部下の命を、犠牲にして。

 今まで何人の部下の命を、そうしてきただろう。だが気にすることは上官のすることでは、なかった。階級が上になるほど、部下の命をどう使うかを、数字と作戦によって、冷酷に決定しなければならない。

 志。

 その言葉で、少しだけ、気持ちを落ち着けるべきなのだ、とガトーは思った。

 




小僧ども、一章の(3)だ。なんかいつもより長いな? と思うかもしれないな。実は1000文字くらい多い。なんでだ? と言えば次も1000文字ぐらい多いからだ。本当は6000文字前後ではなく7000文字前後で見積もれば良かったぜ。かといって(5)にするほどの文字数ではないのがまずいところだ。今回もモビルスーツ戦だが、人と人とが戦うように書けばいいとも思うが、やはりマシーンとしての性能や個体差なども反映させていきたい気持ちもある。この「燎原の陽」は次で終わる予定だ。来週も楽しみにしていてくれ。小僧ども、まだまだ物足りないぜ。
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