残光の旗   作:∀キタカタ

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燎原の陽(4)

  三

 

 ユーコン潜水艦の艦長、ドライゼは筋金入りだった。

 回収艇を向かわせた判断が見事だった。まだコムサイが飛び立とうとするより、先だっただろう。二の矢。番える時が、完璧だったのだ。トリントン基地への攻撃も、絶妙なタイミングで、浅くもなく深入りもせず、的確に済ませていた。そういう相手は、素直に信用出来る。

 デラーズ艦隊の者ではなく、ジオンの地球圏残党だったが、宇宙にいたときからの部下と同じぐらい、信用出来る。階級は中佐であったから、ガトーよりも上だ。それも、ガトーを少し、楽にさせていた。

 死ねと言われれば、死んでみせられる。そんな上官がいるだけで、楽になる。 

 ダイヤモンド鉱山跡を利用した、キンバライド基地にガトーは、サイサリスごと輸送されていた。降りたのは、潜水艦艦内で少しの間だけで、用意されていたジオンの軍服に着替えると、またコクピットに閉じこもっていた。自分だけが生き残ったのは作戦遂行を成功させたと言えるが、何もかもを、すぐに忘れて休息を取れるほどには、開き直れない。

 それでも、アフリカのキンバライド基地に辿り着く頃には、切り替えていた。

 戦だ。人も部下も死ぬ。何度も、経験してきたことだ。

 それでも、馴染みであった部下がいなくなるのは、別だ。身を刻まれるような感覚は不快で、それが、身勝手なことも自覚している。兵の命は、みな同じではないか。そう思っても、堪えるものは、堪えるのだ。

 基地では、歓声で迎えられた。

 彼らもまた、三年待ったのだ。何もせず、ただこの基地を維持するだけの、三年。連邦から奪ってきた、サイサリスという存在は、それだけで気が浮き立つだろう。自分が、消沈している場合では、ないのだ。

 基地司令は、ノイエン・ビッター。少将だが、叩き上げだ。もっとも、ジオンで叩き上げの将官は珍しくない。モビルスーツ乗りからの出世は、数多い。それでも、エースパイロットと呼ばれる程度には、乗れなければ、それも敵わない。

 ガトーが、好きになれる経歴の、司令官だった。

 ここには、筋金入りのジオン兵しかいない。ゲイリーらが馴染めたのも分かる。自分も、ここになら、長く逗留することになっても構わない。ガトーはそう思った。

 基地は薄暗かった。

 鉱山が、まだ稼働していた時の、吊り下げ照明をまだ使っている。電力削減の問題もあるのだろうが、それで構わない、という実利をみな、自然に受け入れているようだった。

「……ジオン中興のために。『星の屑作戦』の成功を祈ろう」

 ノイエンが、シングルモルトの蓋を開けると、室内には、鉱山には似合わない、樫の匂いが漂った。

「最後の一本だが、少佐に飲まれるならこいつも本望だろう。ここを基地に改装する時に、こっそりと運び込んだ代物でね。何本かあったが、この一本は三年、眠っていたのだ。少し、兵たちには悪いが」

「この程度のこと。遠慮するだけ、兵たちは苦笑しますよ。閣下は武人の鑑と思います。三年ものあいだ、ここを守り通したという証拠でもありますから。突然来た私が飲み干す方が恐縮です」

「しかし、多くの部下を失ったよ。モビルスーツもまともに動くのは十機ほど。守り通したというより、生き延びてしまった。そう思う」

「しかし、閣下のお陰で、サイサリスを宇宙に運び出せるのですから」

「ダイヤモンド鉱山跡をそのまま使っているような、貧相な代物で済まんが、こんな基地でも役に立つというなら大いに役立てたまえ、少佐。私もデラーズにいい顔ができる」

 ここには、宇宙脱出用に使われるHLVカプセルが一機、残されていた。使う心算はあったのだろうかと、ガトーは思った。使うとしたら、このような時の為にだろう。逃げ出したいのなら、とっくの昔に使っている筈なのだ。

 鉱山跡なのだから、マ・クベが進めていた、資源採掘とその輸送が目的で、そのマ・クベはとっくに、地球を離れた時期のはずだ。あれはあれで、見切りの早い軍人だった。気取ったように思えて、何処か、意地っ張りな子供っぽい一面もあった。噂でしか、聞いたことはないが、動きを知れば、そんなところも見えてしまっていた。

 最後は、一騎打ちで果てたという。立場を考えれば、やるべきことではなかった。それを、した。仮に指揮下に入っていても、構わなかったが、恐らく、自分とは合わなかっただろう。評価とは、また別のものだ。

 自分はドズル麾下で、マ・クベはキシリア麾下。そしてノイエンも、元はキシリア麾下だ。ザビ家は、血を分けた家族が持ってはならないような、軋みを抱えていた。作戦遂行の邪魔にこそ、ならなかったが、いつ決裂するか分からないような部分は、確かにあった。総帥のギレンですらも、キシリアは、受け入れていなかった。

 デラーズは、ギレンが死んだと聞かされたとき、キシリアを罵倒したのだ。それは殆ど、自然に出た返事のようなものだったと、デラーズの傍にいた者から、聞かされている。そしてギレンは、父デギンとすら、折り合いが悪かった。ザビ家は内部の亀裂には、事欠かなかった。家族が、というよりそもそも、軍隊が持っていい亀裂ではなかっただろう。

 政治の話だ。興味はなかった。

 誰も彼も、既に死んだのだ。他にも多くの者が、既にいない。

 まだ生きている自分や、ノイエンにとっては、気にもならない。

 だが、この司令室には、ダイヤモンド鉱山であった名残のように、大振りのダイヤモンドが飾られていた。ノイエンはまだ、三年前に、未練があるのだろう。

「……一年戦争も四年目だな」

 酔いが回ったのか、ノイエンは、冗談めかして言ったが、本音でもあろう。そういう言い方で、ノイエンは救われているのだろうし、自分もそうなのだ、とガトーは思った。

 ガトーは酒に酔わない。酒に強いのではなく、酔わないていどにしか、呑まないのだ。戦ってきた緊張を、ほぐすため。酒など、そのていどのものだ。強い酒の方が、少ない量で済む。

 それでも、ノイエンに付き合えと言われれば、呑む。酔いもする。

 気持ちのいい酔い方でもあった。月に逼塞していたときなど、やることのない時間を、磨り潰すために呑んで、酔っていたことが多い。あの時間が、耐えられなかった。あの酔い方は、自分を叩き壊すような、酔い方だった。それでも、翌日に残ったことはなかったから、酒には、強い方なのだろう。酒に弱かったのなら、自分は既に、月で使い物にならなくなっていた。そういう、呑み方をしていた。

 ノイエンは、作戦名こそ知っていたが、作戦全体を知らされてはいない。本人も、知りたいとは思わないだろう。自分も、話す気はない。話したところで、仕方がない。そもそもガトーですら、作戦の全貌は、知らされていないのだ。

 知りたいとは、思わなかった。何の好奇心もなかった。

 自分はただ、命じられたことに従っていれば、それでいい。

「……これは私の、個人的な考えとして、聞いて欲しいのだが」

「勿論、構いません」

「例のガンダム試作二号機、サイサリス。そしてMk82核弾頭。手間暇をかけて宇宙に運び出す必要ははたしてあるのか? と私は考える。別に、デラーズの案に不満というわけではない。ただ、唾飛ばし論を交わせるのなら、という話だ」

「それはまた、如何なお考えですか閣下」

「宇宙に運び出す必要が、どこにある? このまま、我らがユーコンにあの弾頭を装填し、ジャブローなりに撃ち込めばいいのではないか? サイサリスを地上にとどめたままで、宇宙では別の作戦行動を二面的に組み立てる方が、いいのではないか? どう思う、ガトー少佐?」

 何も思わなかった。

 何も考えずともいいと、思った。

「自分は軍人です。形ばかりとは言え少佐ではありますが、何か戦略的な考えを差し挟むような器量は、ありません」

 好奇心は、軍人に必要なかった。知ったところで、やるべきことは同じなのだ。事前に知れば迷いも生じる。目の前の目標だけを示されれば、それでいい。

 少なくともガトーは、ノイエンよりは、作戦全体を知っている。だから、この基地を利用するのだし、そしてノイエンは、ほぼ何も知らないままに、この基地の全てを、その作戦に賭ける。

 軍人の鑑。世辞では、なかった。

 三年待ったことの報いは、作戦遂行に役立つことだけなのだ。少将という地位を考えれば、好奇心を出したところで、咎める者などいないであろうし、話せと言われれば、ガトーも断れない。だが、絶対にノイエンは、それを言わぬだろうと、ガトーは思った。それで間違いは、ないだろう。

「益体もないが、私は多分、サイサリスを宇宙に運ぶ、というだけでは不満なのかもしれない。地球でも何かやらせてくれと思っているだけだ。しかし、惜しいな」

 ノイエンなりに、やりたいことはあるのだ。ひとしきり、ガトーは聞いた。ひとつひとつのことを考えながら、学ぶように聞いた。

 政治が念頭にあるが、まずは火力とする。

 サイサリスさえ出しておけば、連邦は常に、Mk82核弾頭を使用されるという予断を、持たざるを得ない。そして毎回、撃つのは別の弾だ。しかし、核弾頭は間違いなく、確保されているのを、他ならぬ連邦が承知している。常に使用されることを警戒し、動きが鈍る。核弾頭装備の、小回りの利くモビルスーツ、しかもガンダム、という、厄介極まりないものを、ジオン側が握っている形なのだ。

 しかも撃つのは、サイサリスとは限らない。ユーコンかもしれないし、まったく別かもしれない。何処からいつ、どう撃たれるか、分からないのだ。そして乾坤一擲という機会があれば、これは容赦なく、撃つ。

 それでやっと、政治が出来る。Mk82核弾頭というものを背景にした、政治だ。そして宇宙からも、圧をかける。それまでに連邦基地を、幾つか落とせていれば、尚のこと良い。

 連邦が、その組織の巨大さ故に持つ、内部の軋みも誘発できる。サイサリスを、地上で運用することの利点は、打撃力ではない。試作二号機、というものが、実戦に投入され、連邦軍内に、そして民間にも、その存在が脅威、として知れ渡るのは、責任問題の押し付け合いになるはずだ。

 派閥で割れるようなら、いずれかの派閥に拠る、というやり方もある。連邦の一派閥と手を組み、敵対派閥に対して打撃を加え、引き換えに、いったん、交戦を止め、味方派閥の者には、騒ぎを終結させた、という手柄を与える。そういう交渉ならば、応じる可能性は、高いと見ていい。

 現時点での兵力は無論、足りない。地球では兵站も限度がある。マ・クベが撤退時に、鉱山基地を軒並み破壊させていたのも、戦略上正しいとは言え、今となっては、また、惜しい。

 だが、キンバライド基地のように、残った拠点はある。そこを利用して、細かく、かき回し続ければいい。兵力の少なさは小回りが利くということでもある。ゲリラ戦は可能であるし、それしかないが、逆にその方が良い。

 言わばこちらは、核兵器を持った小回りの利くゲリラである。脅威がない、わけがない。そして少数のゲリラ戦を、挑むのである以上は、政治の話こそが、絶対に必要になってくる。

 何にせよ戦い続ければ、それで戦争は続くのだ。連邦の動きも、旧ジオン残党の動きも、変わってくる。何もかもが変わるまで、生き抜いて、戦い続ければいい。

 ノイエンの話は、最後の方になると、酔いも手伝った雑な強襲作戦が多くなってきていたが、表情は酷く楽しげだった。

 ガトーも聞いていて、そこが楽しかった。政治の話は、分からなかったが、戦い続ければいい、というのは素直に理解出来てもいる。

 計画そのものは所々、雑ではあったが、夢を語っているのだ。そうとも聞こえた。

「くだらん話に付き合わせてしまったな。……あとは、待とう。三年に比べればなにほどのこともない。サイサリスとやらを乗せたHLVが回収されるまでの、間だろう。私がするのは、それだけだ。それで最後だと、思いたい。これ以上は待てぬ。酒も、尽きたところだしな」

 最後だと、決めている。伝わってきた。酔ったから言っているのではない。

 基地自体の余力は、ほぼないだろう。だがノイエンが歴戦であるという余力は、充分なのだ。

「未練はある。私も、君と轡を並べたいという、未練がな。だが私の全てを、新しきジオンのために役立てることが出来ることを本懐と思おう」

 ガトーも酔い始めていた。眠れるほどには、酔っておきたい。

 今日は眠るべきなのだ。ガトーはそう思った。

 

          ※

 

 一晩、眠るぐらいは出来た。酒もあってか、長く眠った。もうじきに夕刻だろう。キンバライド基地の中には太陽が届かない。それがやはり、心地よかった。だが目覚める頃には騒ぎは既に起こっていた。

 アルビオンに忍ばせていたスパイが露見したという。

 オービルだろう。コアファイターを奪って脱出には成功したが、撃墜されたという。ノイエンが展開させていたザク。味方に、切られていた。

 悪い男では、なかった。自分の部下としては合わぬだろうとガトーは思ったが、それでも、それなりに有能な男には違いなかったのだ。軍の全てを気に入る筈はない。ガトーはそう思った。

 HLVカプセルは旧式であった。三年前から、保管されていたのだ。この時代の三年は、早い。コムサイとて一年戦争の時と同じ物ではなく、改良済みの代物だった。だが、ガトーはカプセルを疑ってはいなかった。

 旧式というなら、自分もそうなのだ。三年、待っていただけだ。錆は浮いていない。ノイエンも、そうであった。錆。浮いていたとしても、落とす必要などない。

 魂さえ錆び付いていなければ、それでいいのだ。

 動かなくなるほどの錆があるというなら、もう戦線では役に立たない。連邦が、そうではないのか。あの緩みこそが、錆ではなかったか。

 甘くみてはいない。連邦の錆はひどく目立つが動けなくはない。

 ゲイリーもボブも、やられたのだ。

「閣下には感謝の言葉もありません」

「あと一時間後だ。この基地最大の功績としてみせる」

 手際は、やはり良かった。ドライゼと同じく、判断は的確である。コムサイがやられたと同時に、基地に残存するモビルスーツの整備は始めていただろう。

 オービルが、やられる前に基地に通信を入れていた。ノイエンがオービルを切ったのは、その責任は取らせねばならぬという意志からだった。通信先と航空経路からの推測を避けるためのものだったが、焼け石に水だろう。それでも、落とした。

 それだけが、気がかりだった。現状を伝えることを優先しての通信と生真面目な帰投。軍人としては処断されるに値する迂闊だが、スパイとしては当たり前のことだったろう。それでも迂闊さは責められるべきだ。

 通信を入れたのは、それでもHLVカプセルの打ち上げには間に合うと思ったのか。

 それはそれで、間違ってはいない。お陰で、こちらも臨戦態勢を早く取れる。連邦のアルビオンは近くまで来ていた。索敵行動は場当たりでしかなかっただろうが、それでも虱潰しで当たっていただろう。

 この鉱山跡など、遅かれ早かれ発見されていたはずだ。戦いの準備はせねばならなかったのだし、いち早くそれを取れたのだのだと、ガトーは思った。それが、スパイとしてのオービルを責めぬことにも繋がるのだ。やはり遅かれ早かれという話でしかないことで、味方に切られた男を、あまり、責めたくはなかった。

「まずいかな、少佐」

「閣下次第でしょう」

「そうだな。戦いが全て順調なはずがないのは、分かっている心算だ」

 ザクはオービルを落とすために展開させていたのではない。接敵したとの情報も、入っていた。まだ陽動であったが基地全体が、緊張している。ノイエンは笑っていた。

「久しぶりに、私も出るか」

「……モビルスーツで、出られるのですか?」

「悪いかね? まだ腕はある」

「しかし」

 死ぬ気であろう。これが最後だとも、言っていたのだ。ガトーの目の端に、残ったモビルスーツの出撃準備が既に整えられているのが、入ってくる。ブースター装備が多い。サイサリスのように、巨体を動かすためではない。軽量のザクに積むからには、速い動きで牽制する心算だろう。

 相手の撃破よりも、攪乱が目的なのは明らかだった。

 時間を稼ぐ。そちらに、賭けている。そしてやはり、死ぬ気だろう。

「……なに、アルビオンとやらの、強襲揚陸艦を沈めるかもしれんぞ、私は」

「木馬の改良型です」

「だからいいのではないか。三年前には、誰にも、出来なかったのだから」

 首に、通信用のヘッドセットを下げながら、やはりノイエンは笑っていた。既に、少将でも、司令官でもない男。そうなっているのだとガトーは思った。

「私が出撃したあとは、残った者たちには、降伏させるよ。みな、もう、倦んでいるだろう。我が儘に、付き合わせてしまったような、ものだからな。だが私は、降伏だけはしない。そういう男の誇りが、まだ残っているのだ」

 男の、誇り。

「そんなものを、上官が部下に強いていいはずがない。それは、上から押しつけられるものではなく、自ら見つけるものだ。それでも、私に付き合おうという者が、共にここで出てくれる。私は幸せだろう。そうは思わないか、ガトー少佐」

「……他に閣下の志を継ぎたいという者がいれば?」

「ユーコンに乗せる。多すぎるようなら、ドライゼには、自分が率先して降伏せよとも命じてある。自分は勝手な真似をして、最後は、ドライゼに全て押しつけるのだ。最早、少将である、などとふんぞり反る資格すらないだろうが、枷が外れた、そんな気分もある」

 資格はある。

 ノイエンが、ユーコンで逃げる。それを微塵も考えていないのだ。

「ご武運を」

 それだけを伝えた。ドライゼは何も言わず従うだろう。ガトーももう、何も言う気はない。サイサリスに乗りこんで、HLVカプセルへ搬入されるのを待った。これを邪魔されれば、もう宇宙へ行く手立ては、別で捜さねば見つからない。そんな時間も、ないだろう。

 だがそうなればノイエンたちと轡は並べられるのだ。出撃したモビルスーツ部隊は、ノイエンと同じ誇りと志を抱いている。それはやはり、ガトーだけの話であれば、血を滾らせずにはいられない。

 しかし作成遂行は、失敗する。

 どちらを選ばねばならぬのかは明らかだった。そしてノイエンはきっと、自分に後者は選ばせまい、とガトーは思った。男の誇りを口にして、ノイエンは出るのだ。

 ザク。動き出した。ドムもいる。継ぎ接ぎだらけの機体も、見えた。ノイエンの隊長機に羽根飾りがある。それを羨ましい、とガトーは思った。

 HLVカプセル。未練は、断ち切った。乗り込み、固定されるのが、やはり枷のようにガトーには感じられた。少佐という肩書きで受け入れなければならない、枷。打ち上げまでのカウントダウンは、枷に縛られたまま問い攻めを受けているようだった。

 ノイエンからの入電。

「……連邦の連中、やるではないか。私はすぐに発見されたぞ、少佐。楽しいものだな、やはり。ジーク・ジオン」

 声は、浮き立ってさえいた。それが最後だった。

 やはり、自分は羨ましがっている。

 HLVカプセルは動き出し、宙に浮いている。

 夕日がきっと、見えているだろう。美しいという、地球の夕日。

 ダイヤモンド鉱山から飛び出していく、燎原の陽。

 地球上では、海に飲み込まれていくしかない太陽が、燎原から、打ち上げられている。ここからは、一気呵成だろう。

 打ち上げの衝撃など、何ほどのこともない。あとに残してきた、ノイエンらのことも、忘れなければならない。

 また、誰も彼もが、散っていった。サイサリスを、宇宙に届けるために。『星の屑』作戦成就のために。

 少佐である。

 だから自分にはその、全ての命を、背負う義務があるのだ。

 星は、すぐに見えた。大気圏を突破するまでの時間は、長いとは感じなかったが、かなり過ぎたのだろう。地上の趨勢は、もう決しているはずだ。

 三年。それを、自分一人だけの、長い時間だった、などと感じてはならぬのだ。

 ガトーは、そう思った。

 




これで第一章「燎原の陽」は終わりだ。迂闊に8000文字とかになった。次からは配分をもう少し考えて行く。この章ではガトーという男を描いている。アナベル・ガトーという男はこの二次創作において大変な比重を占める男でもある。一章を割くだけの価値はある男だ。次からは第二章に入る。様々なやつらがそれぞれの思惑を抱いて動くさまを描いていこうと思う。人は数多の中に己を知り、我を持つ者は彼を求める。策謀は宇宙に共有の会合点を結び、結ばれた銀河は戦いの予感に疼くだろう。続く第二章「星の海」に期待してくれ。
小僧ども、まだまだ物足りないぜ。
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