別の学校のギャル   作:宇宮 祐樹

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いや別の学校のギャルくらいしか説明することないけど


01

 

『ガッコー終わったでしょ? いつものゲーセン集合ね』

 

 机の上に置いたままの携帯が震え、メッセージ通知が映る。

 無視して荷物を纏めていると、再び画面がうるさく動き始めた。

 

『無視とかありえないんですけど』

『言っとくけど既読つけなくても見てんのバレバレだから』

『もしも~し、そーまク~ン? 反応無いなら電話かけちゃうけど??』

 

 ……観念して携帯を手に取り、メッセージ通知を開く。

 楠見かなたとのトーク画面を開くと、ちょうど目を光らせる猫のスタンプが送られてくる。

 そのまま連投される猫のスタンプを無視しながら、メッセージを打ち込んだ。

 

『わかったから。すぐに向かう』

『遅れたらいつも通り罰金ね~』

 

 こちらを見下す猫のキャラクターのスタンプで、一度やり取りが止まる。

 ひとまず友人たちへ軽く挨拶を投げてから、俺はなるべく急いで教室を後にした。

 

 秋の空は、他の季節のそれに比べてほんの少し高く感じる。

 それが空気がほどよく澄み渡っているからなのか、あるいはこの季節になると気持ちが穏やかになるからそう見えているだけなのかは分からない。ただ、晴れが続きやすく洗濯物もよく乾くこの空は個人的に好きだった。

 改札を抜け、自宅に向かう時と逆側のホームへ立つ。

 同じように都心へと向かうのであろう生徒たちの後ろでぼんやりと空を眺めていると、電車が駅に着いた。あれは各停だから乗らない。次に急行が到着するのは、四分あと。このままいけば、だいたい二十分でいつものゲームセンターには着く。

 各停の電車が発車するのと、携帯が震えるのはほとんど同時だった。

 

『まずい。センセーに捕まりそう』

 

 開いた画面には、そんな彼女の焦ったメッセージが映っていた。

 震える猫のスタンプが送られてくるのを見ながら、文章を打ち込む。

 

『じゃあ、このまま帰っていいってことか?』

『んなわけねーだろアホ。さっさと助けにこい』

『助けるって、どうやって』

『そうだ、アタシの学校来てよ。人待たせてるってセンセーに言う』

『無理だろ。お前んとこ女子高だし、入れない』

『別に校内に入んなきゃ大丈夫でしょ。校門の前で待ってて』

 

 こちらにやけにリアルな指をさしてくる猫のスタンプが送られてくる。

 ……相変わらず無茶苦茶言うな、こいつは。

 なんてやり取りをしているうちに急行がホームに到着したが、ついさっき予定の変更があったので乗らない。次の各停が到着するのは十二分後。降りる乗客の流れに逆らうようにホームを進んで、ベンチへと腰を下ろした。

 ホームの屋根の隙間から、茜色に染まる秋の空が覗く。

 

「やっぱり、空気が澄んでるからなんだな」

 

 憂鬱になっても高さの変わらないそれを見て、ひとりでにそんな言葉が漏れた。

 

 

 私立三後女子高等学校、校門前。

 

「え、ヤバ! ちょっと見て、あの人めっちゃイケメンなんだけど!」

「ほんとだ、すっご……。私いま人生の最推し決まったかも」

「ウチの学校に何しにきたんだろ? 彼女さん待ってるのかな?」

「いいなー、あんな顔が良い人と付き合えるの。ずるいわー」

 

 下校する女子生徒たちが、校門の前に立つ自分へ遠巻きにそんな声を俺に投げてくる。

 見た目を褒められるのにはある程度慣れているが、それよりも場所がよくなかった。校門という嫌でも往来が激しい場所で待たされているせいで、変に生徒たちの注目を集めてしまっている。

 ……まさか、俺に恥をかかせるために呼び出したんじゃないだろうな。

 向けられるいくつもの視線に若干の気まずさを感じながら、携帯の画面へと視線を落とす。

 

『着いた。早く来い』

 

 メッセージは返ってこない。

 

「おっせーんだよバカ」

 

 代わりに、横腹に強い前蹴りを入れられる。

 

「痛ってえな……」

「もうちょっとでセンセーに捕まるとこだったじゃん。罰として駅ナカのクレープ奢りね」

 

 振り返った先に立っていたのは、こちらを見上げる三後の生徒だった。

 金に染めた髪は後ろで一つに纏められていて、緑色をした瞳が恨めしそうにこちらに向けられている。着ている三後の制服は随分と気崩されていて、その上からは深い青のパーカー羽織っていた。下げたカバンにはいくつものストラップがじゃらじゃらと揺れていて、その中に先日俺が取ってやった猫のぬいぐるみが息苦しそうにしているのを見つけた。

 相変わらず絵に描いたような不良生徒の身なりだったが、これでも一応は歴史ある女学院の生徒らしい。

 

「つーか、さっきの何? ウチの生徒がアンタ見てキャーキャー騒いでたのに、何スカした態度取ってんの? アンタ、他よりちょっとイケメンだからって調子乗ってんじゃない? そういうとこマジでムカつくんだけど」

「なら、素直に鼻の下でも伸ばしてればよかったか?」

「それはそれでキモいから蹴る」

 

 かなりの理不尽を押し付けられたが、今に始まったことでもないので、何か言う気も起きなかった。

 

「まあいいや。ほら、さっさと行くよ。まず一番にクレープ奢ってもらうから」

「……分かったから引っ張るな」

「アンタが普段からトロいのが悪いんだよ」

 

 ずかずかと歩き出すかなたに引かれながら、俺は駅までの道を戻ることになった。

 

 

 楠見(くすみ)かなた。

 夏休みの最終日、偶然ゲームセンターで知り合った彼女との仲は、既にひと月になる。

 クレーンゲームで遊んでいる時に、不意に彼女から声をかけられたのが最初だった。あまり遊んだことのない俺は何度やっても目的の商品が取れなくて、それを見兼ねた彼女が俺に商品の取り方を教えてくれた。

 何が間違いかと言えば、俺がそこで三〇〇〇円も浪費してしまったことだと思う。

 

『それにしてもアンタ、そんなにこのぬいぐるみ欲しかったの? 見かけによらずカワイイところあるね』

『違うんだ……あと一回のつもりだったのに、いつの間にかこんなに金が……。はあ、ダメだな。こういうところで遊ぶのはあんまり経験がないから、つい金を使い過ぎた。慣れないことはするモンじゃないって思い知ったよ』

『……へえ? そーなんだ?』

 

 おそらくその会話が決め手だったのだろう。俺がある程度金に余裕があって、かつこういう場に慣れていない野暮な人間だと知るや否や、かなたは俺に対して急激に距離を詰めてきた。

 とりあえずその日は商品を取ってやった礼として、夕食と連絡先の交換を要求してきて。

 翌日、もはやいつも通りとなった彼女からの脅迫めいたメッセージが送られてくる。

 そこで初めて、俺は自身の犯した間違いにようやく気が付いた。

 

「何。アタシの顔になんかついてる?」

 

 彼女と出会ってしまうことになった、例のゲームセンターへと向かう地下鉄の中。

 自分だけ座ったままクレープを頬張る彼女を眺めていると、そんなことを思い出す。

 

「……クリーム。唇の下」

「取って」

「自分でやれ」

「ん」

「ああ、もう……」

 

 さっさとしろ、と目で訴えてくる彼女の唇から、クリームを指で拭き取った。

 電車の中でモノを食うな、とか、食事くらい綺麗に食べろ、とか、そういったことを注意する気はとっくに失せた。どうせ注意したって彼女に改める気などないし、そもそも俺の言葉に彼女は耳を貸そうとしない。

 言ってしまえば今の俺は、かなたにとって都合のいい奴隷であり、財布だった。

 あの時ゲームセンターにさえ行かなければ、と思いながら指についたクリームを舐める。

 ……俺も行儀悪くなったな、ホント。十中八九、こいつのせいなんだろうけど。

 

「何その目。せっかくアタシがクレープ半分こしてやったんだから、もっと喜んだら?」

「半分……? え? まさか今取ってやったクリームのこと言ってるわけじゃないよな?」

「当たり前でしょ。アタシの唇に付いてたクリームだよ? それくらいの価値はあるに決まってんじゃん。むしろそれ換算したら半分どころか、お釣りとしてクレープ二個分のお金は返ってくる計算なんだけど?」

「……お前の唇、かなり安いことにならないか?」

「友達料金で割引してやってんの。感謝しなさいよね」

 

 不満そうに俺の言葉に応えてから、かなたがクレープを頬張った。

 しばらくして、電車はいつもの駅に着いた。そこから少し歩くとアーケード街に入って、その途中にいつものゲームセンターが見えてくる。真っ先に店の中に入っていった彼女は、しかしすぐにクレーンゲームのコーナーで足を止めた。

 

「あはは、ねえ見てよアレ! あのカエルのぬいぐるみ、アンタそっくり!」

「あんな変な顔してないだろ、俺」

「決めた、今日はまずアレから取りに行く。ほら、金出して」

「あのなあ……」

 

 色々と言いたいことがある俺の手から、かなたがサイフを奪い取る。

 少しすると、筐体の下から間抜けな顔をするカエルが無愛想に顔を覗かせた。

 

「ほら、持って。写真撮るから」

「……こうか?」

「そうそう。あはは、マジでそっくりじゃん! 今日からそいつサンドバッグにするわ」

「可哀そうだろ。やめてやれ」

 

 俺にぬいぐるみを預けたまま、かなたはクレーンゲームのコーナーを冷やかしに行った。

 ここまでの付き合いの仲で気が付いたが、かなたはかなりゲームが上手い。

 元々、要領がいい人間なのだろう。クレーンゲームを始め、レースゲームや音楽ゲームでも、数回やればコツを掴んでしまう。それこそ俺が何度やっても取れなかった商品を、彼女は一発で獲得できていたし。

 そのあたりを考慮すれば、彼女が国内でも有数の女学院である三後に通っているのも納得できた。

 

「あ! ねこスタンプの新しいぬいぐるみ出てるー!」

 

 だらだらと歩いていたかなたが、ふとそんな声を上げてクレーンゲームに飛びついた。

 

「お前がいつも使ってる奴だよな」

「そうそう。かーわいいっしょ?」

「まあ……」

「何ソレ。そこはお世辞でもかわいいって言えって。そういうとこだよ、アンタ」

 

 ぶつくさと文句を垂れながら、かなたが筐体へ百円を入れた。

 クレーンが動き出して、中のぬいぐるみへとアームが吊られていく。そこで初めて、つい先程送られてきた、やけにリアルな指をさしてくる猫のスタンプが立体化していることに気が付いた。立体化にあたって指のディティールも凝られていて、デフォルメされた猫の顔と合わせて絶妙なシュールさを醸し出している。

 あろうことかアームはそのぬいいぐるみの真上で止まった。

 

「それなのか……」

「何、なんか文句あんの」

「そいつだけ他のに比べてなんか変じゃないか?」

「いいじゃん、使いやすくて」

「そりゃお前からしたらそうだろうけどさ」

 

 確かに他人によく命令する人間からしたら、この上なく使いやすいスタンプだとは思うけれど。

 

「取れるのか?」

「アタシを誰だと思ってんのよ。まあ見てなって」

 

 得意げに笑いながら、かなたがボタンを軽く叩いた。

 ゆっくりとクレーンが下がっていき、アームがぬいぐるみのこめかみに当たる部分へ食い込んでいく。ひどい絵面ではあるが、かなり上手い位置に刺さったということは、素人の俺でも理解できた。

 そのままアームがぬいぐるみを持ち上げて、元の位置へと戻っていく。

 ぼて、と落ちてきた指先が取り出し口からはみ出した。

 

「ほらね?」

「相変わらず上手いな」

「褒めてもあげないけど」

「別にいらない」

「なにおう?」

 

 猫の指を使ってつんつんと(つつ)かれる。

 

「うぇーい」

「やめろ」

 

 くすくすと楽しそうに笑う彼女に、溜息を交えてそう返した。

 

 

 それから、ゲームセンターから少し離れた場所にあるファストフード店で。

 

「いやー、今日も取った取った!」

 

 大量のぬいぐるみで椅子を占領しながら、かなたは満足そうにハンバーガーを頬張る。

 もちろん代金は飲み物とナゲットも含めて、全て俺が払っていた。

 

「毎回思うけど、よく全部運べるよな」

「別に軽いからいけるでしょ」

「そうじゃなくて、周りの目とか気にならないのか?」

「ぜーんぜん」

 

 指先についたソースを舐めとりながら、かなたがケロっとした様子で答えた。

 ……自分で聞いておいて何だけど、そんなのは今更か。

 

「お前みたいにできたらな、とたまに思うよ」

「何それ、バカにしてんの?」

「いや、素直に尊敬してるんだよ。俺は色々と他人のことを気にし過ぎるところがあるから」

「生きづらそー。てか自覚してんなら直せばいいじゃん」

「できたらやってるよ。でも、できなかったからこうなってる」

 

 他人の顔色を伺いながら、とまでは言わないけれど、それでもある程度は弁えてきた。

 その問題には家や親が関わっているから、もうどうしようもないものだと分かってはいる。分かってはいるけれど、やっぱりどこかで吐き出さないと、いつかその重圧に潰されてしまいそうなのも事実だった。

 彼女といる時は、そのことも忘れられる。振り回されている時は、何も考えなくてもいいから。

 好き放題に言ってくるかなたに俺も好き放題言い返せば、少しだけ気持ちも軽くなる。

 もしかすると俺も、かなたのことを都合よく使っているのかもしれない。

 

「……そういや、明日土曜日じゃんね」

 

 ふと、窓の外を眺めながら零したかなたの言葉に、思考から引き上げられる。

 日は既に暮れ始めていて、夕焼けの上から夜の帳が降りてきていた。

 

「付き合わないぞ」

「まだ何も言ってないじゃん」

「中間テストの勉強しないといけないだろ」

「大変だねー、学生さんは」

 

 お前だってそうだろ、と言いかけたが、どうせ意味もないのでやめた。

 

「このあとカラオケ行く?」

「行かない。お前だって荷物あるし、これ以上遊びにいくのも面倒だろ」

「それもそうだね。じゃあ、今日はこれでお開きにしよっか」

「大人しくそうした方がいい。また時間合う時に付き合ってやるから」

「うん。……そうする」

 

 そこからしばらく、会話はなかった。珍しく、かなたはそのまま口を閉ざしていた。

 手に持ったハンバーガーにも、机の上に広げたポテトにも手を付けないまま。

 不思議に思った俺が視線を送っても、彼女はどうやら気づいていないみたいで、何かを深く考え込んでいるようだった。それから一度、彼女が歯形のついたストローを咥えようとしたけれど、やめた。店内はそれなりに騒々しかったけれど、がさり、という紙コップ中の水と氷が混ざる音が、いやに鮮明に聞こえた。

 

「……かなた?」

 

 声をかけると彼女が顔を上げて、ようやく俺の視線に気づく。

 一瞬、いつものような快活な笑みを浮かべようとして、すぐに諦めたのが分かった。

 そのまま、どこでもないところを見つめながら、かなたが口を開く。

 

「あの、さ。今日は帰りたくない、って言ったら、その……。やっぱ、困る?」

 

 ……それは。

 

「どういう意味だ?」

「そのままだよ。……家、帰りたくない。もうちょっとアンタと遊びたい」

 

 ついに俺から目を逸らしながら、かなたが答えた。

 不安そうに顔を曇らせる彼女に言葉を渡す。

 

「ああ、今日は家族が帰ってこないとか?」

「……うん、そう。帰っても一人だから、つまらないんだよね」

「飯もないのか」

「ウチは作り置きしないタイプだもん。放任主義って言うの? そんな感じでさ……」

 

 だんだんといつもの調子を取り戻しながら、かなたが俺と言葉を交わす。

 でも、それがウソだということはなんとなく理解できた。そして、それを問い質す気にもならなかった。

 俺には踏み込む理由もないし、勇気も持ち合わせていない。寄り添えるほどの甲斐性もない。

 ただ、たったひと月しかない付き合いなのにも関わらず、かなたは俺のことを頼ってきている。

 それを無碍に振り払うほど、俺は彼女のことを嫌ってはいないらしかった。

 

「……ダメ?」

 

 不安そうに眼を逸らす彼女へ口を開く。

 

「まあ、困るな。急な話だし」

「そっか。じゃあ、やっぱり……」

「とりあえず夕食はこのままスーパーで適当に買って帰るとして……風呂はどうする? 湯船につかりたいなら、近くに銭湯があるからそれでもいいし。着替え……というか下着は最悪コンビニで買えばいいだろ。一番はやっぱり寝る場所だな。冬用の毛布なら一応あるけど……」

「ん? ……え、あの、ちょっと待って。アンタさっきから何の話してんの?」

 

 何って、そりゃ。

 

「泊まるんだろ」

「……え?」

「いやだから、俺の家に泊まるつもりなんだろ、お前」

「は、はあ!?」

 

 がたん、とトレーを叩きながら、急にかなたが叫び出す。

 

「何だよ、どうせそういうつもりだったんだろ?」

「んなわけ……っ、あ、アタシとしてはカラオケオールとか、そういう話で……!」

「金かかるだろ。それに万が一、店員に通報されたら補導される」

「だからって、いきなりアンタの家とか……! ってか、そもそも……い、いいの?」

「どうせ一人暮らしだから、別に俺が許可すれば何でも」

「……え、アンタ一人暮らしだったの?」

「そうだけど。言ってなかったか?」

「うん」

 

 変に皮肉も悪口も言わずに、かなたが素直に頷いた。

 ああ、ホントに言ってなかったのか。てっきりもう話していた気になっていた。

 ……そこまで踏み込んだ仲だと勝手に思っていた俺が悪いな、これは。

 

「とにかく、準備さえすれば泊まれる。明日も特に予定はないから、いつ出て行ってもいい」

「そ、そうなんだ……。なら、泊まろっかな。準備はこのあとテキトーにやればいいし」

「一応、親御さんには連絡入れとけよ」

「はいはい、分かってるって」

 

 家庭の事情がまだ分からないから、本当に連絡したかどうかまでは問い質さない。

 だけど、携帯を触る素振りをするだけの彼女を見て、なんとなく察した。

 そうやって携帯に目を落とすかなたに、口を開く。

 

「でも、ただで泊めるわけにもな」

「……何、宿泊料取る気?」

「毎回俺の金で遊ぶ奴にそんなものは求めてない」

「じゃあ……え、まさか身体で払わせるとか言わないでしょうね……?」

「それでもいいんだぞ」

「ヘンタイじゃん」

 

 わざとらしく自分の肩を抱き寄せるかなたに、思わずそんな冗談が漏れた。

 

「買い物付き合ってくれよ。最近、行けてなかったから色々足りなくて」

「なんだ、そういうこと。いいよ別に。計画性のないアンタに付き合ってあげる」

「お前が毎日遊びに誘うせいなんだけどな」

 

 日によってはスーパーが閉まるギリギリまで付き合わされているせいで、ロクに買い物もできていない。とはいえ彼女を突き放せない俺も俺なんだろうけど、その辺りは言わないでおいた。

 自分の分の烏龍茶を呑み干して、空のコップを捨てるために立ちあがる。

 

「さっさと食えよ。それから買い物付き合え」

「分かったって。しょーがないなあ~」

 

 気がづけばかなたもいつも通りの調子に戻って、相変わらず気も遣わない言葉を渡してくる。

 美味しそうにハンバーガーを頬張る彼女を見ながら、俺はどこか安心していることに気が付いた。

 

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