別の学校のギャル   作:宇宮 祐樹

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「ただいまー……」

 

 誰もいないのは分かっているけど、一人でにそんな声が漏れる。

 

「はぁ……っ、(おっも)ぉ……!」

 

 だけど今日は、疲れ切ったかなたの声が俺のあとに続いた。

 そえれから、どさり、とビニール袋に詰められた大量の荷物が床に落ちる。

 

「どんだけ買わせんのよ……!」

「助かった。ありがとう」

「心がこもってなーい!」

 

 ワンルームの玄関先で倒れ込んだ彼女の隣からビニール袋をいくつか取って、そのまま中身を玄関のすぐ真正面にある調理棚へと詰め込んでいく。ワンルームはこんな風に、それぞれの場所の距離が近いのがいい。狭いのは確かにそうだけど、少なくとも俺はこれくらいの方が居心地がよく思えた。

 しばらく整理していると、復活したかなたが立ち上がって俺の後ろから調理棚を覗いてくる。

 

「え、めっちゃ揃ってる。もしかしてアンタ、結構自炊するタイプ?」

「その方が金かからないからな。趣味としても丁度いいし」

「意外とスペック高いねアンタ。ご飯まで作れるなんて、アタシもいいサイフを拾ったモンだよ」

「……やることないなら、先に休んでろ」

「あっそ、じゃあ遠慮なく。おじゃしまーす」

 

 ずかずかとぬいぐるみの入った袋を抱えたまま、かなたが部屋の中へと入って言った。

 少し遅れて荷物の整理を終えた俺も、残りの荷物を持ってそちらに向かう。

 

「……待て、何してる?」

「ん? エロ本ないか探してんの」

「あるわけないだろ」

 

 果たして彼女は、荷物もそのままに無防備にベッドの下を覗き込んでいた。

 

「だって男友達の家行ったら真っ先にやるでしょ」

「しない。男同士でもやらない」

「またまた……。あ、ベッドの下じゃなくて普通に机の中とか?」

「無い」

 

 頭を抱える俺をよそに、起き上がったかなたがそのままベッドに腰を下ろす。

 

「エロ本の一つも持ってないなんて、そーまクンはホントに男子高校生ですか~?」

「分からないけど、そういうのって今だと電子書籍がメジャーじゃないのか」

「……ちょっとケータイ見してみ?」

「イヤだ」

 

 くいくいと指を動かす彼女を無視して、机の上に荷物を降ろす。

 とはいえ、彼女との会話に疲れたせいで荷物の整理をする気力もなくなった。

 そのまま椅子に深く座り込んで、ぬいぐるみと戯れ始めたかなたに言葉を投げる。

 

「それで、どうする? 飯はさっき食べたばっかりだし、風呂……は少し早いか」

「ならちょっとゴロゴロしてるー。買い物して疲れたし」

 

 座ったままの姿勢からこてん、と横に寝転んで、かなたが間延びした声で答えた。

 人のベッドを勝手に使うな、せめて着替えてから寝転がってくれ、そんな言葉が浮かんでくるが、今更言ったところで変わる筈もないのでやめた。そのまま靴下を脱いで携帯を触り始める彼女は、もう無敵に思えた。

 俺も座ったまま荷物の整理を始めていると、ふと寝ころんだままのかなたから言葉が渡される。

 

「にしてもマジで一人暮らしなんだ、アンタ。よく親が許してくれたね」

「……多分、親父が俺のこと嫌いだから。あっちからしたら都合よかったんだろ」

「あー……あんま聞かないほうがいいよね。やっぱいいよ、うん」

「別に」

 

 かなたに目を向けないまま、適当に言葉を紡いだ。

 

「そもそも家を出たいって言ったのは俺からだしな」

「そーなの? ……なんで」

「俺も親父のことが苦手だから。別に嫌ってるわけじゃないけど、俺がいない方がよさそうだったし。お互いに距離置いた方が上手くやれたんだよ。だから俺と親父も合意の上で、家から離れることになった」

 

 親父が悪いとは思っていない。ただ、俺が居ない方が親父は上手くやれると思ったから。

 だから別に、俺が一方的に嫌ってるわけじゃない。機会があれば飯だって行ってもいいし、どこかに旅行するでもいい。俺個人が気負うものものなんて何もないし、普通に楽しく過ごせると思う。

 でも、親父からそういう話は一度もなかった。俺に時間を割くような素振りすら見せなかった。

 つまり、そういうことなんだと思う。

 

「……お母さんは反対しなかったの?」

「母さんは俺が中学生の頃に出て行ったからな。……ああいや、離婚してるわけじゃないから、いつか帰ってくるとは思う。やろうと思えば電話で話せるくらいだし。その、仕事でちょっと、海外に行ってるんだよ」

「そーなんだ。すごいじゃん」

「一人暮らしの件は事後報告になったけど、反対はされなかった。むしろ仕送りとかで応援してくれた。なんだったっけな……。確か、『高校生で一人暮らしなんて絶対楽しいわよ! 友達とか彼女とか連れ込んで夜更かししちゃえ!』とか言われて。結局、今まで誰も家に上げたことはないけど」

「じゃあ、アタシが最初の女だ」

「そうなるな。まさか最初に呼ぶ友達がお前になるなんて思ってなかった」

 

 母さんは愉快な人だった。それこそ俺が産まれたのが不思議なくらいに。

 俺と親父が同じ空間に居られたのも、母さんが俺達の仲を取り持ってくれたからだと思う。本人にその自覚はないんだろうけど、母さんが居れば親父も居心地は悪くなさそうだったし、幸せな家族だと思えた。

 でも、母さんがいなくなってから、俺と親父は距離を置くようになった。

 それが全ての答えだ。

 

「……悪いな。つまらない話になった」

「そんなことないよ」

 

 いつの間にかかなたは携帯を置いて、俺と目を合わせながら話を聞いてくれていた。

 

「むしろ、ちょっと嬉しかったかも。だって、アンタが自分の話するなんて今まで一度もなかったじゃん。だからアタシのこと、そこまで信頼してくれてるんだー……ってさ。まあ、今は他にすることもないから、それくらいしか話すこともなかったんだろうけど、とにかく聞けて良かったって思ってるよ」

「……別に、誰にでも話すわけじゃない。お前だから話した」

「あはは、何ソレ。アタシとアンタ、まだ知り合ってひと月くらいしかないのに?」

「少なくとも時間で決めるものじゃないだろ、そういうのは」

「……確かにそーかもね。アタシだって今こうして、アンタの家にいるわけだし」

 

 何か思い詰めるようにして、かなたが静かに言葉を落とした。

 それからしばらく会話はなかった。お互いに荷物の整理と、携帯を触る時間を過ごしていた。

 やがて荷物も捌き終えて、机の上も綺麗にして。ひと段落したところで再び椅子に座る。

 

「そういえば結局、風呂はどうする? シャワーにするか、それとも銭湯行くか」

「んー……せっかくだし、湯船つかりたいかも? いつもシャワーだったし」

「なら準備するか」

 

 少し慌ただしい気もするが、友人が家に泊まるとはそういうものなのだろう。

 それに、いつもとは違う生活は少しだけ新鮮に思えた。

 

「バスタオルは普段の使えばいいし、下着も途中にあるコンビニで買えばいい。ただ、問題はお前の服なんだけど……流石に制服もう一度着るのは抵抗あるだろ。だから、申し訳ないけど……」

「……ううん。アタシはいいよ。アンタの着てた奴でも、別に嫌じゃ……」

「いや、妹の着替えがうちに置いてあるから、それ着てくれればいい」

「は?」

 

 俺の言葉に、かなたが怪訝そうに眉を顰める。

 

「…………え、アンタ妹いんの?」

「一人いる。お前と同い年。話してなかったか?」

「初耳だっての……」

「……ということは、お前と同じ学校ってことも多分、言ってないよな?」

「はあ?! アンタさあ、そーゆーことはもっと早く言いなさいよ!」

 

 急に声を荒らげたかなたが、その勢いのまま俺の胸倉を掴み上げる。

 

「だって別に聞かれなかったし、お前に言ったところでそこまで関係ないし……」

「こ、こいつ……っ、もぉぉおおお! そういうところだっていつも言ってんじゃん!」

「それにお前、俺の妹のこととか興味ないだろ」

「だからソレだって! そうやって自分のこと聞かれるまで話さないから『よくわかんないヤツ』って周りに認識されて、結局周りから絶妙に距離置かれて友達の一人もできねーんだよ!」

「な…………!」

 

 あまりの正論に返す言葉どころか、全身から力もなくなっていく。

 かなたが手を放すと、俺の体は自分の意思とは関係なく、ひとりでに膝をついて項垂れた。

 

「そ、っ……そこまで言わなくたっていいじゃないか……」

「いっつも世捨て人みたいな態度でスカしてんのがウザいんだよ。それに『どうせ自分は分かってもらえないから……』って面白くなさそーな顔してんのもムカつく。たまには正論浴びて自分の行動見直したら?」

「……はい。そうします」

 

 呆れたように言葉を吐き捨てられた言葉に、思わず敬語になって答えてしまう。

 

「とりあえず今日は妹さんの服借りるから。バスタオルだけ貸りるよ」

「ああ。洗面台に積んであるやつ適当に使ってくれていい。着替えは俺が用意しておくから」

「はーい。じゃ遠慮なく一番フワフワのヤツ使うねー」

 

 洗面台へと消えていくかなたを見送ってから、妹の服を適当にビニール袋へ詰め込んでいく。

 

「……いつまで落ち込んでんのよアンタ」

「いや……そんなこと言われたの初めてだから……」

「周りから見放されてたんでしょ。アタシに言われたこと、ありがたく思いなさいよー」

 

 なんて、戻ってきたかなたに呆れられながら、俺も銭湯に行く準備を始めた。

 

 

 入浴を終えてロビーに顔を出したけれど、かなたの姿は見当たらなかった。

 おそらくまだ入浴中なのだろう。女子は入浴がやけに長いということは、妹のお陰で嫌というほど分からされたから、特に疑問も浮かばなかった。そのままバスタオルで髪を乾かしながら、畳敷きの椅子に座る。

 時間があるなら何か飲み物を買ってもいいけど、それもかなたと合流してからでいいか。

 

『お兄様、お時間よろしいですか?』

 

 なんて携帯を触りながらかなたを待っていると、ふと妹からのメッセージ通知が目に入ってくる。

 

『どうした?』

『特に用事があるわけでもないのですが、お兄様のお声が恋しくなってしまいまして』

 

 相変わらず、そんな甘えたがりなメッセージが送られてくる。

 片桐(かたぎり)舞香(まいか)

 自分で評するのもどうかと思うが、彼女は俺のことをずいぶん慕ってくれているみたいだった。

 家に居た頃はここまでじゃなかったんだけれど、俺が家を出てからは甘えたがりがより拍車をかけているように思えた。さすがにそろそろ兄離れした方がいいと思う反面、懐いてくれる妹を引き剥がすのも心惜しくなる。

 まあ、あいつも大変だろうし、俺といる時くらいしか素直になれないんだというのも分かる。

 できれば妹の頼みは全て応えてやりたいが、今回はどうもタイミングが悪い。

 

『今ちょっと銭湯なんだ。公共の場で電話はちょっと控えたい』

『まあ、そうだったのですね。それは失礼いたしました』

『我慢させて悪い』

『構いません。お兄様の邪魔をするのは本意ではありませんので』

 

 心配してくれていることに少しだけ嬉しい気持ちになった直後、再びメッセージが送られてきて。

 

『それと、もしよろしければ本日もお兄様のところに伺いたいのですが』

 

 あー…………。

 

『ごめん、今日は友達を家に泊めてるんだ』

『え』

 

 その一言を最後に、妹からのメッセージ通知が止まる。どうやらだいぶ驚かせてしまったらしい。

 まあ、自分でも特にやらないことをしている自覚はあるから、そんな反応が返ってくるのも無理はないか。

 それにしたって、メッセージを打つ手が止まるほど驚かれるとは思わなかったけど。

 

「あー、いいお湯だった」

 

 風呂から上がったかなたが俺を見つけたのは、それから間もない頃だった。

 バスタオルで髪を拭きながら、かなたが俺の持った携帯に視線を送る。

 

「妹さん?」

「ああ。友達を家に泊めてる、って言ってから返信がなくなった」

「よかったじゃん。それだけアンタのことよく理解してる証拠だよ」

「……改善するべきだと思うか?」

「知らない。もっと楽に生きたいなら、そうすればいいんじゃない?」

 

 そうやって呆れたように言葉を投げてくるかなたを見ながら、ふと。

 

「服、それでよかったか?」

「うん。胸周りがちょっとキツい以外は大丈夫」

「何を言ってもお前か妹に怒られるだろうから触れないぞ」

「あっそ」

 

 なぜか少しだけ不機嫌そうに答えてから、かなたが俺の隣に座った。

 

「そういえば妹さん、アタシと同じ学校なんだって?」

「ああ。片桐舞香って名前の生徒、聞いたことないか?」

「知ってるどころか、うちの学校の有名人だよ。超優等生のお嬢様で、片桐グループのご令嬢でしょ? 同じクラスだけど、話したことないんだよね。近づきにくいっていうか、向こうもアタシと距離置きたがってそうだしさ」

「……そうか」

「でも、言われてみれば確かにアンタに似てるかも。特に、いっつも面白く無さそうな顔してるところとかそっくり」

 

 なんて笑いながら話すかなたが、ふと何か気づいたように首を傾げて。

 

「あれ? あいつが妹ってことは、アンタもしかして片桐んとこのお坊ちゃま?」

「……そうなるな」

「あー、そういうこと……道理でやったらお金持ってると思ったわ」

「むしろ今まで気づいてなかったのか」

 

 納得がいったようにかなたが口にするが、俺としてはかなり今更な発言だった。

 

「そのことを知ってたから俺をサイフ扱いしてるのかと……苗字とかで分からなかったのか?」

「分かるわけないでしょ。ただでさえアンタ自分の話とかしないんだから、苗字とか言われても気づかないって。そもそも片桐ってフツーの名前だし。……ほら。また自分のこと話さないから、勘違いされてる」

「……改善するべきだと思うか?」

「しなさい」

 

 ぴしゃりと断言されてしまってから、俺は何も言い返せなくなった。

 

「……それにしても、まさか拾ったのがサイフじゃなくて金庫だったとはね」 

「言っとくけど、家とはもうそこまで関わってないからな。金以外は出てこないぞ」

「アタシにはそれで充分。というか、アタシが金だけでアンタとつるんでると思ってたの?」

「ああ。お前がいつもサイフ扱いしてくるからな」

「サイフにも愛着ってのがあるの」

 

 それがどういう意味かを問い質す前に、かなたが立ち上がる。

 

「ほら、帰ろうよ。お腹空いてきちゃった」

「その前に、せっかくだし飲み物買わないか?」

「いいね。アタシ、コーヒー牛乳がいい。アンタは?」

「カルピスソーダ」

「うわ、子供っぽいしお坊ちゃまじゃん」

「大差ないだろ」

 

 へらへらとした笑みを浮かべながら、かなたが後をついてくる。

 俺は愛着のあるサイフらしく、飲み物二つぶんの代金を取り出した。

 

 

 夕食はカレーにした。

 確か昨日もカレーだったけれど、もう夜も遅いから他のメニューを考える気力もないし、残った分を明日に回せるから丁度よかった。かなたにも手伝いを頼んでみたら意外とすんなりと引き受けて、狭いキッチンに文句を言いながら食材を切ってくれた。

 調理中、何度かお互いに肩をぶつけて、その仕返しに俺が蹴られしたが、ひとまず後は煮込むだけになって。

 取り出したルーを二つほど鍋に放り込んだところで、ふと。

 

「何か忘れている気が……」

「え、入れてない材料とかあったっけ? もう遅いと思うけど」

「いや、食事のことじゃない。銭湯で何か……」

「忘れ物? いいよ、アタシ鍋見とくから。取りに戻ってきなよ」

「そういうわけじゃなくて、もっと大事な」

 

 …………あ。

 

「悪いかなた、ちょっと鍋見ててくれ」

「え?」

「頼むから」

 

 鍋を彼女に任せて、急いで机の上に置いた携帯を手に取る。

 電源を点けて表示された画面は、いくつものメッセージ通知で埋まっていた。

 

『お兄様?』

『ご友人を泊めているというのは、どういうことですか?』

『お兄様に家に招くほど深い仲のご友人がいらっしゃったなど、聞き及んでおりませんが』

『その友達というのは男性ですか? それとも女性ですか?』

『まさか』

『私以外の女性を、自宅に上げているわけでは、ありませんよね?』

『お兄様、返信は?』

 

 ……まずい。

 

『既読をつけましたね』

『ずっと携帯を確認していた甲斐がありました』

『お兄様、返信を』

 

 次々と送られてくるメッセージに、たまらず通話ボタンをタップする。

 0.1秒にも満たないコール音の直後、舞香の声が聞こえてきた。

 

『こんばんは、お兄様』

「あ、ああ……。こんばんは、舞香」

『お兄様のお声が聞けて嬉しい気持ちもありますが、さっそく本題に入りましょう。お兄様は現在、ご友人を自宅に泊めているとのことですか、そのご友人とは男性の方ですか? それとも……女性の方ですか?』

「いや、その、何だ。俺の友達のことが、そんなに気になるのか?」

『私が兄離れできていない、というご指摘は重々承知しておりますが、それでも私はお兄様のことが心配なのです。仮に私よりも親しいご友人がいらっしゃるのであれば、それは大変喜ばしいことですが、こと異性の方であるなら話は全く変わってきます。ですから、お兄様には正直にお答えいただければと』

 

 電話越しでも分かるほど、舞香の声のトーンが下がる。

 あの人形みたいに清廉な顔つきで、俺のことをじっと見つめる姿が容易に想像できた。

 

『お答えできませんか?』

「……その、舞香もそろそろ寝る時間だろ? 長話は明日に響くし、寝る前に携帯を触ってるのもよくない。だから俺と無駄話なんかしていないで、早く寝た方がお前のためだと思う」

『まず訂正を。私は、お兄様との話を無駄だと思ったことはこれまでの人生で一度もありません。お兄様のお声を耳にすることが、私の人生において三番目の幸福なのですから。もちろん二番目はお兄様のお姿を目にすること、一番はお兄様に頭を撫でてもらうことです。最後に頭を撫でていただいたのは、いつになるでしょうか……」

「三日前だ」

『そうでしたね。では話を戻しましょう』

「戻さなくてもいいんだけどな……」

『いいえ。お兄様が答える気がないのであれば、私が直接確認いたします』

「は?」

 

 その言葉の直後、ぴんぽーん、とチャイムが鳴った。

 

「あれ、誰か来たよ? はーい、今出まーす!」

「なんで当然のようにお前が出る……!?」

 

 俺の家だぞここは!

 

「はい、どちら様……って」

 

 慌てて玄関に駆け寄るが、間に合う訳もなかった。

 キッチンの裏がすぐ玄関なのがよくない。ワンルームの悪いところが出た。

 いや、そんなことはもう問題じゃなくて、今は。

 

「…………楠見、かなた?」

「あれ、お嬢様? ……なんでいるの?」

 

 かなたと対面した舞香を、どう説得するかだ。

 

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