ゲヘナの愛する裁判長   作:このアカウントは削除されました

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原作介入?原作改善:原作崩壊

 レティクルは十字に円。スコープを覗くのは、裁判所書記官であり調査部部長の調査官・阿留野ハミ。つまり、私だ。現在アビドス高等学校正門近くの砂に埋もれたビルに身を隠している。愛銃・Court's Supporter*1を構えている。

 

 アビドスは襲撃を受けていた。

 

「攻撃、攻撃だ!! 奴らはすでに弾薬の補給を絶たれている! 襲撃せよ!! 学校を占領するのだ!!」

 

 学校が襲撃を受けている。これは珍しい場面に出会ったことだ。ゲヘナでも稀に見る光景…………でもないな。結構日常だった。でも、普通はあり得ないもの。しかし、連邦生徒会長がいなくなってから、少し増えた気もする。

 

(ヘルメット団にとって学校を襲う直接的なメリットはない。つまり、雇われでの襲撃と見える。じゃあ、どこが指示した?)

 

 学校を襲撃。当然学校側は防衛する。しかし、人数が少ない。聞いていた話通り、アビドスは廃校寸前なのだろう。

 普通なら潤沢な資金と借金できる信頼性が学校にあるはず。それで人を雇ったり、交渉したりできるだろう。それができない。カイザーローンに多額の借金をしている時点で、闇金すれすれ。

 つまり、金銭が目的ではない。学校と交渉して利益を得ようとすることも問題ではない。事実は、アビドス高等学校がなくなることで得をする者がいるということ。そのため、ヘルメット団を雇った。

 

 学校がなくなる可能性。想像できない話だ。しかし、現実問題としてアビドスは抱えているらしい。

 

 ヘルメット団は数十人。対して、アビドス高等学校は前線4人。後方に誰かがいるのは判るが、何人かは不明。

 すると、大人が校舎から出てきた。特徴のない、男か女かちょっと判らないような大人。大人というだけで特徴がありそうなのだが、それすら特徴ではないように感じさせる大人。タブレットを取り出し、指揮を始める。

 するとどうだろう。戦局がみるみる変わる。えっ、と思うとカタカタヘルメット団がやられていく。観察する。弾薬がないはずなのに補給している。動きも良くなった。誰かが俯瞰して見て指示しているような動き。アビドス在校生の実力も高く、ついに不良グループは撤退。それはもう呆気なく。

 

 弾薬補給ができる。支援があったということだ。しかし、場末の学校に支援するのは以前の連邦生徒会でさえしなかったという。それならどこが支援したのか? 裁判長の話によると連邦捜査部S.C.H.A.L.E以外に考えられない。つまり、先生がいる。先程の大人は先生だったのだ。先生が指揮に入るだけで、戦況が変わった。戦闘指揮のスキルが高い。これは、裁判長に報告せねばならない。

 

 それにしても場末かつ田舎の学校と思っていたが、なかなか戦闘の練度が高い。弾丸一発の威力も強い。裁判長曰く「神秘の量が多いため」だ。神秘が何かわからないが、MPみたいなものだと言われた。限られた人しか知らないとか。弱いという思い込みを捨てよう。

 一瞬ピンク髪の少女がこちらを向いた。さっと隠れる。バレたか? 冷や汗をかく。もう一度確認。校舎の中に入っていくのが見える。ほっと胸を撫で下ろす。

 確かあのピンク長髪のオッドアイは小鳥遊ホシノ。現アビドス廃校対策委員会の委員長にして実質の生徒会長。直感だが、油断できない相手。用心のため場所を変えよう。

 

 裁判長の指示で、アビドス生や先生にバレないように任務を遂行しなければならない。これはゲヘナの沽券に関わる問題。風紀委員会が他校侵略で信頼性低下は避けられない。それに法務執行部も動くとなるとこちらにも飛び火しかねない。面倒臭い話だ。

 

 

 

 新しい観測場所でスコープを覗く。十字に円のレティクル。アビドス生達はちょうど移動を開始していた。どこへ行くのか不明。目で追っているとカタカタヘルメット団の前哨基地を襲撃した。瞬く間に壊滅。ヘルメット団が潰走。呆気なさ過ぎた。

 弾薬補給があるとはいえ、強すぎる。たった4人で数十人の不良グループを圧倒するのは凄い。風紀委員長や裁判長を見ているような錯覚を覚える。

 その後は学校に帰ってきた。スコープ越しにアビドス廃校対策委員会の教室窓から覗く。もう一人生徒がいた。メガネをかけた少女。後方支援役だろうか? オペレーターみたいな役割かもしれない。

 読唇術で会話を盗み取る。アビドス高等学校のメンバーが判明する。委員長のホシノ、2年生のシロコとノノミ、1年生のアヤネとセリカ。そこに先生が加わって、借金問題について話し出した。

 どうもカイザーローンに多額の借金をしている。だいたいの話は他の調査官から聞いた内容と一致した。

 

 すると、先生が借金問題に関わることを宣言する。首を出すようだ。なんとも善性の高い人か。人柄が伺える。

 

(ま、言葉だけの人もいるから、見極めは難しいが……)

 

 何か裏があるのかもしれない。アビドスでの影響を考えているのか? しかし、アビドスは廃校寸前の学校。影響力なんてたかが知れている。それなら、アビドスの生徒の力を借りたいのか? 確かに戦闘能力を見れば、強い。5人だけでも十分脅威だ。それなら納得だ。

 

 セリカが先生を認めない発言。当然か。私でもそうするかもしれない。まぁ、セリカと同じ理由かは知らないが。

 その後、自然と解散。帰宅。先生は寝泊まりに校舎を使うようだ。夜になった。アビドス生と先生の部屋の灯りが消えた。私は砂埃のするこのビルで寝る予定だ。寝袋を敷く。

 

「君は誰かな?」

 

 ゾッとした。すぐに手榴弾を後方へ。爆発。そのまま窓枠に飛び込む。1階へと急降下。受け身を取って立ち上がる。そのままダッシュ。何発かショットガンの散弾を浴びた。何とか逃げ切れた。腕を見ると、皮膚の皮が破けていた。一応手当の包帯を巻く。

 

 その夜は眠れなかった。

 

 

 

~~~~~

 

 

 

 書記官からの定時報告。夜。

 

「早速ですが、バレました」

「いややけに早いな……。手を抜いた訳じゃないよな?」

「手を抜いていたら、私は今頃オ・ハ・ナ・シ中ですよ」

「いや悪い。確認しただけだ……。誰にバレた?」

「小鳥遊ホシノです。あの人、昼行灯な見た目して、襲撃された時は怖さで死ぬかと思いました」

 

 ホシノちゃん、そこまで怖いか? 根は優しい子だから、そこまでの戦闘狂……だったな。はい。

 

「ところで、そちらはどうなりましたか?」

「連絡がつかない。行政官に繋いで欲しいと言ったら毎回離席中だ」

 

 書記官が泣きそうな声を出した。

 

「絶対説得してくださいよ! 一応、アビドス生と先生の指揮はすごいことがわかりましたが、それでも限界があります! 秘密裏に戦闘を行うなんて芸当できません!!」

「ああ、わかった」

 

 そうして電話を切った。そして、新たに電話をかける。モモトークは中学時代に普及していなかった。そのため高校になってからの使用だ。しかし、デートもといお出かけで交換し使い始めた宛先。それを仕事について使うのは躊躇われたが、仕方がない。風紀委員会を止めるためには仕方がないのだ。

 

『もしもし、サバキ?』

「……風紀委員長であっているか?」

『……ええ、そうよ。何かあったの?』

「単刀直入に言う。行政官が暴走してアビドスへの侵攻計画を立てている」

『……先生関係ね』

 

 ちょっと驚く。

 

「よくわかったね」

『サバキ、喋り方が素に戻っているわ』

 

 咳払い。今は裁判所長官として電話しているのだ。公私は分けなければならない。

 

「とりあえず、行政官を説得するため、アポを取りたい。風紀委員会に連絡しても取り合ってくれなくてな」

『……わかったわ。私が直接言う。止めなさい、って』

「それもお願いしたいが、風紀委員長はエデン条約で忙しい。さらに、有休消化義務日も迫っているだろ? こちらでなんとかする」

『それは申し訳ないわ。止めるようにこちらで説得してみる』

「私からも止めたい。裁判所長官からも止めるように言えば、さらに危機感を覚えて思いとどまってくれるだろう」

 

 まぁ、ヒナちゃんの一声があれば止まりそうなものだが、用心には用心を重ねる。と思っていると、ヒナちゃんが溜息を吐く。

 

『アコはああ見えて、強情だから……。私達が言葉で言っても言う事を聞かないかもしれないわ』

「え。ヒナちゃんの言葉も?」

『ええ、そうよ。私が直接出向かない限り』

 

 書記官、すまない。無理そうだ。ヒナちゃんが言うなら、かなりの確率で私とヒナちゃんの言葉を躱して侵攻するかもしれない。するとどうなる? ヨコチチハミデヤンの暴走を止めるにはヒナちゃんが直接出向かわなければならない。ヨコチチハミデヤンのことだから、きっとヒナちゃんが動けないときを見計らっている。それはいつか? エデン条約の会議。次に有休消化義務日。

 エデン条約関連で離席中の間は、外せない。これに被せてヨコチチハミデヤンは侵攻するだろうと思われる。しかし、準備に手間取れば、ズレることもある。それが有休消化義務日になってしまうと面倒臭いことになってしまう。ヒナちゃんなら絶対ヨコチチハミデヤンを止めるだろう。つまり、有休消化義務日を蹴る。すると、義務を疎かにしたとしてヒナちゃんが弾劾訴追される可能性がある。これが議長・羽沼マコトの悪いところだ。

 

 いやいや落ち着け。ヨコチチハミデヤンのことだ。ヒナちゃんが電話するだけで察して、進軍を思い留まる可能性の方が高い。はず。しかし、不確定要素が多くてどうしようもない。ヨコチチハミデヤンはきっと後でヒナちゃんに怒られるのと、先生を諦めるのと、どちらを取るか不明だ。

 エデン条約はヒナちゃんの念願だ。それを邪魔する可能性があるものは排除したい。不確定要素も排除したい。それなら連邦捜査部S.C.H.A.L.Eはまったくもって不安の種だ。よし、排除しよう。後でヒナちゃんに怒られてでも、ヒナちゃんの念願を叶えるためには必要なんだ、と。私ならそう考える。ヨコチチハミデヤンも同じかもしれない。同族嫌悪。

 

『サバキ?』

「……すまない。少し考え事をしていた」

『大丈夫よ。私がなんとかするわ』

 

 いつもそれだ。それだと困る。しかし、それ以外にないのか。

 

「……もし、説得できなければ、私が出向く。風紀委員長は有休消化義務日を守ってくれ」

『これは風紀委員会の問題。裁判所の手を煩わせる訳にはいかないわ。後で、刑事事件としてアコを訴追する。そのときはよろしく』

「訴追の件はいいのだが……いやそれも良くないが、それでもヒナtyんん風紀委員長が議長に訴追される口実を作ってしまう」

『仕方ないわ。これは私の責任だもの』

 

 仕方ない。それで終わらせたくない。ヒナちゃんの責任。そうだが、ヒナちゃんは悪くないのに。どうにか手段はないのか。

 

「とりあえず、行政官と会いたい。そのことだけは手回ししてくれ。どうにか説得する」

『……わかったわ。とりあえず、アコに電話する。これでいい?』

「ああ」

 

 電話が切れた。しばらく執務室で落ち着きなく泥水味のコーヒーを啜って待つ。いつものタスクは終わらせているから、何かをしながら待つこともない。ただ、待つ。

 モモトークに着信。開くと、ヨコチチハミデヤンとヒナちゃんのグループに招待されていた。当然承認。すぐにヨコチチハミデヤンからメッセージが届く。

 

天雨アコ:明日の18:00にお待ちしております

 

 返事をするのも野暮かと思い、既読だけ付けて、スマホの画面を消す。スケジュールを確認し、仕事が立て込んでいる件に顔を歪めて、原作ノートを開く。

 

 原作ノートを見ると判るが、原作には日付や季節の描写が少ない。正確に言うと、季節はあるのだろうが、メインストーリーと日付・季節が結びついていない。もちろん、前世の私が見落としたあるいは転生時に忘却したのかもしれない。

 感覚としては、対策委員会編は春のような気がする。先生の着任が、春だと考えたらの話だが、どうなのだろうか?

 イベントストーリー『桜花爛漫お祭り騒ぎ!~空に徒花 地に忍び~』が対策委員会編と前後すると考えられる。理由はイベントストーリーの実装順と、両者とも生徒の台詞からまだ先生が着任してそんなに時間が経っていないことを示している。そして、桜花爛漫は春。少なくともイメージは春。なら、先生着任は春。対策委員会編も春と考えた。

 余談だが、自治区ごとに季節が違うのも原因かもしれない。前世地球の北半球南半球のように季節が逆転している所もある。しかし、今回は考えない。

 原作での対策委員会編が春。今の季節も春。これは良い。しかし、正確な日付が判らないため、準備に戸惑った。

 先生がアビドスに赴任。次の日の夕方にセリカ誘拐。次の日くらいに便利屋登場。次の日くらいにブラックマーケット入り。次の日くらいに風紀委員会侵攻。

 言っておくが、「次の日くらい」というのはおそらく『次の日』だ。ただし、便利屋がヘルメット団を壊滅するのが早い、ブラックマーケットが一日で行ける距離なのか不明、風紀委員会がいつ先生の居場所を嗅ぎつけたのか不明。というのが原作での話。

 ただ、便利屋は強くて夜中だけでヘルメット団くらいなら壊滅できる。ブラックマーケットはどの学園からも電車で近くまで行ける。風紀委員会は先生がアビドスに向かった初日からすでに把握済み。という所から、『次の日』だと判断した。原作と違う点もあるが、バタフライエフェクトだろう。

 

 そして、その通りなら、ヒナちゃんが風紀委員会を止めるタイミングがエデン条約の会議と被ってしまう。そして次の日だと有休消化義務日。ズレるだけで、原作崩壊。その四文字が頭を過る。

 

 アビドス生が壊滅し、先生が連れ去られたら、対策委員会編はバッドエンドになる。スチルを思い出す。シロコのテラー化。ノノミの自主退学。アヤネの生命維持装置。セリカの行方不明。そして、ホシノちゃんのヘイロー。

 原作通りなら、数々の奇跡が起こる。悲しい終着点へは行かない。原作通りだったならば、安心して見られただろう。

 

 この責任は誰にある? 私だ。私に全ての責任がある。原作を知っていて原作を意図的に改変した私に全ての原因がある。いや、そもそも私がここに転生したことが全ての元凶だ。私がどうにかしないといけない。

 

 この世界線を、先生のいる特異点を、〈あまねく奇跡の始発点〉にしなければならない。私が〈奇跡〉へ繋げなければならない。これは責任ある大人としての義務だ。

 

 窓辺を見る。窓の隙間から風が入り込む。ガラス窓は外の暗さと内の明るさとで室内を反射する。私の姿が見える。ガラスの中の私は、裁判官であった。ヘイローが怪しく光る。ああ、お前は何をして来たのだと……。掲げた秤が私に云う。

 

*1
前世で言うと、Panzerbüchse40と似ている銃

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