ゲヘナの愛する裁判長   作:このアカウントは削除されました

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今更ですが、不定期更新です




昨日の敵は今日も敵

 調査とは、『ある事象の実態や動向の究明を目的として物事を調べること』と手元の辞書に書かれている。

 しかし、それだと〈研究〉や〈観察〉と何が違うのかわからない。『調査』というものをより明晰化しなくてはならない。〈調査〉と〈研究〉の違いは一言で表せば、対象に〈手を加える〉かどうかに関わる気がする。〈研究〉は対象の本質を捉えるため、焼いたり冷やしたり圧力を増やしたり減らしたりする。〈調査〉と〈観察〉の違いは、難しい。あえて言葉にするなら、〈調査〉は対象の背景を調べるのに対して、〈観察〉は対象の表層を見ている気がする。よって、【調査】は「ある事象の実態や動向の究明を目的として、対象に手を加えず物事の背景を調べること」と言える。

 ここで【手を加える】の範囲はどこまでだろうか? だって、〈調査方法〉というのは基本的に対象へ〈手を加える〉行為だからだ。具体例としては実地調査。例外としては文献調査。アンケートですら一定の〈手を加える〉行為が見られる。意識無意識に関わらず。特に今回問題になるのは実地調査。実地調査で〈手を加える〉ことなしに〈調査〉はできない。

 それについては諸説色々あるだろう。正しいと思うのは、対象の〈本質〉が変化しない範囲で〈調査〉も〈研究〉も語られているということ。これに尽きる。

 〈研究〉は〈本質〉が変わり難いから、積極的に〈手を加える〉。〈調査〉は〈本質〉が変わり易いから消極的に〈手を加える〉。そう解釈もできる。

 

 難しい話だが、私はそれを念頭に〈調査官〉として活動しているのである。

 

 

 

 現在、私こと阿留野ハミは柴関ラーメンに来ていた。黒見セリカのバイト先らしいラーメン屋。ロボットスーツに変装し、入店。

 ミレニアム製光学迷彩のこのスーツは、パッと見、生徒だと思われないようになっている。一人のロボット人間だと判別してしまう。その上、嵩張らない、着ぶくれしない、と良い点ばかり。これで気付かれはしないだろう。難点を挙げるなら、このスーツには自爆装置がついている。

 

「あ、いらっしゃいませ! お一人様ですか?」

 

 暖簾をくぐる。セリカに声をかけられる。頷く。こちらへどうぞ、とカウンター席に座る。斜め左にアビドスの面々を確認。テーブル席に座っている。呑気にラーメンを啜っている。先生も確認。生徒に囲まれて穏やかな顔をしている。相変わらず特徴のない顔。〈先生〉ということ以外、こちらに伝わってこない。

 視線に気がついたのかホシノがこちらを見て首を傾げる。私は顔をメニュー表に移す。昨日の襲撃はトラウマだ。

 

「ご注文はお決まりですか?」

 

 セリカに訊かれメニューを指差す。セリカは商品の名前を言って確認を取る。私は頷いて、セリカは厨房の大将へ。

 アビドス面々の話を聞くが、どうでも良い話ばかり。日常会話。これと言って重要そうなものはない。すぐにラーメン啜って帰ろう。周りを自然な風に確認し、さらっと盗聴器をカウンター下に設置する。

 

 ラーメンが来た。かなりの量がある。並を頼んだのだが注文間違いだろうか? 首を傾げる。まぁいい。指摘して声を出すのは控えたい。変声機を使っているとはいえ、どこで正体がバレるか判らないのだ。昨日はホシノと接触してしまったから警戒するのにし過ぎることはないだろう。

 昨日から碌なものは食べていない。食えるだろう。というか美味そうな香りがスーツ越しに判る。任務遂行中は最低限の食料だけで済ます事が多い。そう考えながら箸を割り、ラーメンに口をつける。

 

「っ!? うまぁっ!?」

 

 つい叫んだ。叫んでしまった。それほど美味すぎる。なんだこれ? 今まで食べたラーメンの中でも1位2位を争うぞ! 濃厚なスープ、コシのある麺! トッピングもボリュームがあり、食べごたえあり! まさに夢のあるラーメン!!

 

「そうでしょそうでしょ! ここのラーメンは特別なんですよぉ♡ 他所からもこの味を求めて来るお客さんも多いんですよぉ」

 

 十六夜ノノミが近付いてくる。しまった、と口を押さえるが、遅い。周りをアビドスの面々に囲まれてしまった。

 セリカが覗く。

 

「お客さん、あまり見ない顔だよね? どこから来たの?」

「えっと……ゲヘナから……」

「お仕事で?」

「……そうです」

 

 ホシノも近付く。心臓が跳ね上がりそうだった。

 

「こらこら、他のお客さんを囲まない囲まな~い。困っているよ?」

「あ、すみません」

 

 ノノミとセリカが離れた。ホッとする。ホシノが近付く。背筋を伸ばす。

 

「もしかして……昨日会ったりするかな?」

 

 激しく首を横に振る。

 

「そっか……おじさんの気のせいか……ごめんね。気にしないで」

「…………どうしてそう思われたのですか?」

「ん? 立ち居振る舞いが、昨日会った人と似ていたからかな? それとこの時期にアビドスに来る人は少ない、っていうか、仕事で来る人は稀。……まぁ、いるかもしれないけどね」

 

 恐ろしや。もっと距離を離して監視しよう。もうバレてるんじゃないだろうか? 確定されていないだけで、もう半分くらいバレてるでしょ!!

 

「まぁ、また次にアビドスに立ち寄った時は、ここに来るといいよ。私達はよくここに来るから」

 

 ホシノが席に戻った。私は盗聴器を外した。後でここを捜索されたら確定してしまう。こればかりはもっと慎重に進めなければならない。

 どうしたもんか、とラーメンを啜る。美味い。

 

 

 

 その後夕飯にもう一度寄った。今度はホシノがいなかった。アビドス生はセリカのみ。早速とばかりに見つかりにくい場所へ盗聴器と盗撮器を仕掛けて、美味いラーメンを食って、出た。

 ラーメンは良心的な値段で、学生でも頻繁に訪れることができるほど、安い。ボリュームもある。どうやって経営しているのかちょっと気になる。他所の学校からもお客が来るというのだから、味が人気なのだろう。それで保っているのかもしれない。場末の自治区にはもったいない気もする。それは失礼か? まぁ、大将の過去を知らないので何とも言えないが、他学生かつアビドスの現状を知る者からすると、もったいないと感じるのは仕方ないだろう。

 

 すると、爆発音。背後から。つい覗くと、セリカがヘルメット団に襲われていた。というかセリカは気絶していた。ヘルメット団に気づかれた。

 

「誰だてめぇ? 見てんじゃねぇーよ! 見せもんじゃねぇ!!」

 

 ドスの籠もった声で言われる。ここで少し悩む。

 ここでセリカを助けても、特に問題はない。ヘルメット団なんて、雑魚だ。倒せる。それくらいの自信はある。

 しかし、任務にどう影響するか不明だ。私の任務は、風紀委員会の暴走のストップ、アビドスを助ける、バレないようにする。この3つ。どれかが欠けてもいけない。そのための事前調査だ。天候・地形・人材。それを事前に確認するだけで風紀委員会に勝利する可能性が見えてくる。いや、勝てないと思うけど……。

 さて、セリカをここで助けるのは、アビドスを陰ながら助ける、という部分に抵触するおそれがある。助ける部分は問題ないが、〈陰ながら〉という部分が大事だ。さらに、先生の指揮能力を判断するには、事件が起きた方が都合が良い。人柄も見られる。さらにさらに、ここで先生を認めないセリカと先生が仲良くなれば、風紀委員会の暴走ストップに不安な要素を排除できる。よって、ここでは助けない。

 

 私はヘルメット団を恐れるように見せかけながら、逃げたふりをした。

 

 

 

~~~~~

 

 

 

 書記官から連絡が来た。セリカが誘拐されたらしい。遠距離からスコープ越しに追跡しているとのこと。砂漠地帯に向かっている。原作イベントだ。

 私は監視だけ指示して、スマホを切った。今からヨコチチハミデヤンと会う予定だ。会う条件も提示された。銃火器の持ち込みは禁止、と。おそらく武力で押さえつけられることを警戒しているのかもしれない。風紀委員会の建物まで近いので不良に絡まれることもないだろう。愛銃を執務室に置いて出かける。

 

 風紀委員会の本部に着く。そのまま正面玄関から入り、階段を昇る。誰も何も案内してくれない。それでも当たりを付けて、行政官室に行く。ノック。返事はない。人の気配もない。扉を開ける。鍵はかかっていなかった。不用心。誰もいない。

 廊下に出て、次の当たりを付ける。風紀委員長室に向かう。鍵がかかっていた。聞き耳を立てたが、人気はない。

 流石に、どうしようもなくなって、廊下に佇む。するとスマホが震えた。モモトーク。個通。ヨコチチハミデヤンからだった。第五地下留置所にいる、とだけ。

 

 降りる。地下牢入口の鉄格子を覗く。デスクと右奥に牢屋が並んでいる。鍵が差したままになっている。開けて入る。牢屋を見て回る。誰もいない。姿が見えない。声もない。

 地下牢とは言っても、正確には留置所。一時的に捕まえた被疑者を勾留しておくための場所。複数あるのだが、その一つがここだ。留置所内にある牢屋。空だ。風紀委員もいない。一番奥の部屋だけ扉が開け放たれていた。中を覗く。誰もいない。机に一通の手紙。遠目で見ると行政官の封蝋。入る。手紙を手に取り読む。

 

 獄寺サバキ裁判所長官へ

 

 悔しいが達筆だ。ヒナちゃんの字の方が好きだが、字の上手さで言うなら悔しいことにヨコチチハミデヤンの方が評価されるだろう。悔しいが。私が評価員ならヒナちゃんの字を判別できるので、ヒナちゃんに票を入れるが、他の評価員なら僅差でヨコチチハミデヤンを選ぶだろう。それくらいに字が上手い。ヒナちゃんの方が好ましい字を書くのだが。

 

 ちょっともんもんとする。私はヨコチチハミデヤンが嫌いだ。ゲームでの彼女は嫌いではなかった。実際に会って、同族だと判断し、嫌悪を抱いた。自分勝手だと思うか? 私も思う。そして、何より、ヒナちゃんの近くに居られる羨ましさから嫉妬。それでも、いくつかの点で認めざるを得ないこともあり、何とも言えない気持ちになる。

 ガチャン、と音。振り向くと牢屋の扉が閉まっていた。外にはヨコチチハミデヤンがいた。ホログラム。人気はない。

 

「……どういうことか説明してもらえるか? 行政官」

『簡単です。あなたにはここでしばらく大人しくしてもらいます』

 

 扉に触れる。鍵がかかっている。自動で閉まったらしい。ミレニアムの技術でなくても、そういったものはある。溜息。

 

「なんというかテンプレ過ぎて、笑えてくるな」

『そのテンプレにまんまと引っかかるあなたも笑えますね』

「ここは? 人気がないように見えるが」

『今は使われておりません。なので、誰も来ません』

 

 で?

 

「本題に入ろう」

『私には話に付き合う義理はありません』

「あるだろう。風紀委員長を窮地に立たせてしまう行為だと知っているだろう? そもそも司法の長官を監禁とは……」

『……ええ、ですが、やらなければなりません。責任は私が負えばいいので』

「監督不行き届きとして、風紀委員長も罰せられる」

『それでも情状酌量が認められるでしょう。私の計画性と秘匿性が明らかになれば。そうすれば、私が処罰されるだけで、委員長はそのままの地位に居られます』

「それを私が許すとでも?」

『……あなただからこそ、ヒナ委員長には優しい判決をすると思ったんです』

 

 ヨコチチハミデヤンが溜息を吐く。

 

『あなたは誰よりもヒナ委員長を愛しています。それは傍から見ても感じるほどに』

「……」

『ヒナ委員長は、【文民】ではありません。【軍人】の部類です。そもそも〈風紀委員会〉は【軍隊】ですから元から風紀委員会所属の委員長は〈軍人〉と言えます』

「……そうだな」

『なので、立場が危ういんです。民主主義かつ自由主義のゲヘナで軍人が軍部を統制するのは危険視されます。幸いにもゲヘナの大半の生徒は政治に興味がないので、〈自由〉であれば文句は言いません。ですが、議会での議員としての委員長は常に窮地です』

「……そうだな」

『そんな中でヒナ委員長はエデン条約を推し進める政策を取ってきました。それが実ってきた所で、……シャーレが現れたのです』

「不確定要素の排除が目的なのは、理解していた。対話は実現できなかったのか?」

『……連邦捜査部S.C.H.A.L.Eは、連邦生徒会長が直々に設立し、連邦生徒会長が直接指名した『先生』が指揮を取ります。なかなか政治的に接触するのは他の学校から疎まれるでしょう。エデン条約まで時間もありません。その間の対話で一体何がわかるというのでしょうか?』

「つまり、目先の利益だけを優先して先生を襲うのか」

『襲うとは大袈裟ですね。私は先生にしばらく()()()()しておいて欲しいだけです。……目先の利益だけ、というのは否定しませんが』

「……裁判所長官としては対話での紛争解決を求める。私達法務執行部が仲裁しよう」

『そうやって、ゲヘナでの地位を高めようとするのですね、あなたは。風紀委員会と連邦捜査部S.C.H.A.L.Eの紛争調停ができれば、法務執行部のゲヘナひいてはキヴォトスにおける立ち位置が変わります』

「勘ぐりすぎだ」

『いいえ、知っています。情報部からの報告からあなたの思想がわかります。影響力を強めて自身の身の保全のために権力を高めようとしています』

「……どんな報告を受けたか知らないが、事実と虚偽が混ざっている」

『知っています。あなたの行動原理は自分のためというよりヒナ委員長のためですよね』

「……」

『ですが、本来の目的とそのための手段が混同してはいませんか?』

「そんなことは……」

『いいえ。でなければ、あなたはヒナ委員長を敗訴にしませんでした』

 

 なるほど。違法労働事件が関わってくるのか。

 確かに、あの判決は今でも正しかったのかわからない。ヒナちゃんを助ける。それは一貫していると思う。目の前にある利益を取るか、ありもしない危機に備えるのか。だが、責められる道理はない。こいつも証拠改竄をした。人のことを言える立場じゃない。

 が、飲み込む。それを指摘するほど、今の私は優しくない。

 

「それなら知っているだろ? 私は裁判官だ。そして、裁判所長官だ。自身が手回しをすれば、風紀委員長を有罪にできる。……権力のためにな」

『!?』

「……なぁ、ここを出してくれ。対話をしよう。そうすれば、告発しないで沈黙を守ろう」

『……信じられません』

「……なら、お前はヒナちゃんを信じられるか?」

『? ええ、それは当然信じられます』

「なら、ヒナちゃんを信じたらどうだ? きっと不確定要素もあの凛々しい表情で解決してくれるだろう」

『……あなたは、ヒナ委員長の何を知っているんですか? 何も知らないじゃないですか』

「?」

『それがわからないというのですか?』

「……私はヒナちゃんの幼馴染だ。もちろん全てを知っているとは思わないが、お前よりは知っている」

 

 前世から、ゲーム時代から知っているのだ。そして、今世は幼馴染。少なくとも期間の短いヨコチチハミデヤンよりは知っている。

 行政官は侮蔑したような顔で消えた。何も言わず。私は呆れてベッドに座った。地下牢入口の扉も閉まった。スマホを取り出した。圏外だった。

 

 何気なく牢屋にあった鏡を見た。円環に天秤。ヘイローが語る。お前は何をしてきたのだと。

 

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