ゲヘナの愛する裁判長   作:このアカウントは削除されました

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証人、阿慈谷ヒフミ・パート2

 借金とは?

 その言葉で何を連想するだろうか。

 車のローン。闇金。借金取り。利息。返済の義務。国債。まぁ色々とあるだろう。

 借金は悪いイメージが多い。しかし、貧乏人が贅沢をするには必要なものだ。それが膨らみに膨らみ、後世への足枷となる。

 投資という側面もある。より発展した世の中になるために、教育への投資。輸送コストを下げるために、交通網の整備。便利や贅沢は利益を貪る。将来を見越して倹約・節制。それと同時により大きくなる資産のための投資。〈投資〉は、払った対価が大きくなって返って豊かにならなければ「投資」とは言えない。それはただの〈借金〉。

 

『……お待たせしました。変動金利等を諸々適用して、利息は788万3250円ですね。全て現金でお支払いいただきました、以上となります。カイザーローンとお取引いただき、毎度ありがとうございます。来月もよろしくお願いいたします』

 

 正門に仕掛けた盗聴器からロボット人間の声がする。

 アビドス高等学校自治区に滞在して4日目。昨日は校舎内に侵入して捕まりそうになって、逃げた。なぜ逃げたのか? 裁判長の命令だから。しかし、現在は裁判長からの連絡がとれない。これでは作戦続行ができない。そのまま自首すればよかったかもしれない。しかし、逃げた。不法侵入。現行犯逮捕ならず。指名手配。顔も見られたし、最悪。先生に銃を向けたのも印象が悪いかもしれない。1発だけ掠るように撃ったため、擦り傷程度はあるだろう。問題ないと思いたい。

 正直、先生が「弱い」という情報はあるが、具体的にどう弱いのかはよくわかっていない。拳銃1発で致命傷になり得るというが、キヴォトスでは非常識すぎてよくわからん。外の世界から来たってなんだそれって感じだ。

 今日も晴れ。砂漠日和。銀行員は集金車に乗ってどこかへと去る。アビドス生はそれを悲しそうな諦めたような顔で見送る。そろそろと校舎へと戻っていく。しかし、

 

(カイザーローン……ね。それに788万も現金で収集するとか……キャッシュレス化の波に抗っているな…………)

 

 裁判長の話からすると、カイザーは砂漠地帯で何かをしようとしているらしい。それは決定的な証拠がなく、なんともし難いが、おそらく悪いことだと予想されている。カイザーはキヴォトス征服を企んでいる可能性があるらしい。巷では噂話として囁かれ、カイザーは陰謀論だと一笑に付す。

 カイザーとは、カイザーコーポレーションあるいはカイザーグループの略称。カイザーローンはカイザーグループでカイザーコーポレーションの子会社。

 まぁ、何にしろカイザーが不法か合法か知らないが、裏があってアビドスにお金を貸している状況。学校自治が危ぶまれる。ただし、情報不足は否めない。

 

 ホシノがチラリとこちらを見る。もう何度目のドッキリだよと思いながら、泣く泣く移動。ホシノ恐怖症になりそう。いや、もうなっているかもしれない。昨日はそれで眠れなかった。徹夜だ。

 新しい拠点に辿り着くと、アビドス生も移動するようだ。目的地はブラックマーケットらしい。どうしてそうなったのかは不明。移動中の会話からは中々判らないことが多い。やはり盗聴器を仕掛け損なったのが痛い。建物が立ち並ぶ所に入るので、装備を量産型アサルトライフルに変えて、追跡する。

 

 裁判長とは連絡が取れていない。よって、監視と追跡しかやることがない。風紀委員会がいつ攻めてくるかの連絡も裁判長がすることになっていたので、事前準備ができない。悲しい。

 本当にどうしたのだろうか? スマホの電源も落ちたままで他の部員にも相談できない。孤立無援。アビドスの都心部に行ってネットカフェか何か探したが見つからなかった。ホテルでもあれよ……。盗電も考えたが、外から盗めるコンセント類は砂で使い物にならなかった。無念。いや、いけないことはなるべくしなくて良いならしないが、今回に限っては残念。

 撤退。その二文字が浮かぶ。しかし、裁判長の目的はいずれ来るかもしれない風紀委員会を風紀委員長が止めるまで押し留めるというもの。いつ来るか不明なら、持ち場を離れるのは悪手。よって、待機。監視。追跡。

 

 溜息を吐いて、アビドス4人と先生の後をつける。

 

 

 

 ブラックマーケット。連邦生徒会の制御を外れた治安の悪いエリア。大抵の物品を揃えている闇市で、違法な武器や限定モノの商品が法外な値段で売られている。

 パッと見は普通のアーケード商店街。少し暗いぐらいか。しかし、路上には銃弾の薬莢や不発弾。壁には落書きや崩れかけの家。不気味な露店が隙間なく並び、空を天幕が覆う。かなりの人の流れ。

 ここはブラックマーケットでも一番治安が悪い場所。少し外に出れば、普通の町並みやビル群が迎えてくれるが、そこもブラックマーケット。違法取引の場。ここは更にブラックマーケットでもコアな商品を取り扱う場所。

 アビドス生が何を目的にここに来たのかは不明だが、充分警戒をしていた方が身のためだろう。アビドス生が絡まれた時、追跡が困難になる。

 とはいえ、生徒は基本的に強い。ロボット人間や獣人相手なら楽勝。さらに、校章付き学生服を着ている生徒は、バックに学校があることを示している。喧嘩売って心証を悪くすればその生徒の学校から何かされるかもしれない、と判断する。よって、バカ以外はちょっかいをかけない。そうそう絡まれることもないだろう

 

 銃声。

 

 大きな音が前からする。嫌な予感。スケバンから追われている少女をアビドス生が助ける。騒ぎ起こすなよ! 追跡が困難になるでしょ!!

 

 

 

 戦闘が終わった。会話から追われていた少女の名前が判明。阿慈谷ヒフミ。トリニティの2年生らしい。

 どこかで見たことがあるな、と思っているとそういえば以前モモフレ裁判のときに証言台に立った少女だった。モモフレガチファンであることを遺憾なく発揮して、みんな困惑したのを覚えている。検察官は満足そうにしていたが。

 

 溜息を吐く。

 

「あいつらだ!」

 

 大声が隣からした。突然の大声で耳を塞ぐ。横を見ると、先程アビドスのシロコとノノミにのされたチンピラがいた。仲間を連れてきたようだ。

 

「ん? お前なんだ? こっちは見世物じゃねーぞ!?」

 

 私はそっと逃げた。こんなのに付き合ってられるか!?

 

 

 

 戦闘が終わったらしい。チンピラどもが後退していく。しかし、このままではマーケットガードが出動してしまう。面倒臭い。

 ヒフミがその危惧を表明してアビドスは撤退。そのままヒフミと行動をともにするようだ。確かにアビドスの生徒だけではブラックマーケットを進んでいけるとも思えなかった。安心して付いて行くことができる。

 

「ここまで来れば大丈夫だと思います」

 

 ヒフミがそう言う。私も安心して見守ることができる。ホシノが言う。

 

「いやぁ~~、ありがとうね、ヒフミちゃん。それと、一息吐く前に……ねぇ! 付いてきているのは判っているんだよ! 出ておいで!」

 

 ビシリと背筋を伸ばす。ここまでのホシノの力量から、私のことだとわかる。

 

「え? え? ホシノさん? 急にどうしたんですか?」

「ホシノ先輩? 付いてきているって、さっきのチンピラ?」

「いや、違うよぉ~。今朝からずっと付いてきている娘だね。そうでしょ!?」

 

 ひたりひたりと汗を流す。今隠れているのは郵便ポストの陰。見つからずに逃げられるルートが他にない。ここを起点に移動しようとしていた最中の話。タイミング的に狙って声をかけられた。

 

「おやぁ? なかなか出てこないね?」

「勘違い、という訳では……」

「いや、あそこにいる。郵便ポストの裏」

「ホントね……わかりやすいわね」

 

 セリカのセリフに少し憤る。普段はこんなバレやすい所に隠れません。移動の陰として使っていただけです。ホシノがヤバいだけで隠密行動には自信があります。そもそもそれまで気づかなかったのはそっちでしょうが!

 

「〝ホシノ、もしかして昨日校舎に侵入した子かな?〟」

「そうだね。4日前から私達を監視しているよ」

「そんな前から……」

「ん? 昨日校舎に侵入? そんな話、今朝聞かなかった」

「〝それは……〟」

「先生が口止めしててね」

「なんでよ?」

『位置補足しました!』

 

 ドローンが上空に飛んでいる。ブラックマーケットだと違法に飛ばす奴がいるから、特に問題視されていない。というか、あまりキヴォトスでは問題にされない。住人が頑丈だからだろうか? フードを目深に被る。

 

『フードを深く被っていて、人相はわかりませんが、銃はアサルトライフルです!』

「えっと、たまたま通行人が屈んだ、とかではありませんかね? あははは……」

「いや、今朝から付いてきていたよ。普段は遠距離からスコープ越しに目が合っていたし」

「なんで教えてくれなかったのよ、ホシノ先輩」

「いやぁ~、隙がなくてね……。たぶん他のタイミングだと逃げられていたと思うんだ」

 

 確信犯! 怖い怖い! 助けて! 裁判長!

 

「ん。そう言えば、なんで黙っていたのか理由を聞いていない」

「〝それは……〟」

「先生、撃たれかけたんだよ」

「「「「『!?』」」」」

「というか、掠ってたよね? 昨日のシャツ、血が滲んでたし」

「ウソ!? 先生! 大丈夫なの!?」

「〝大丈夫大丈夫。掠り傷程度だから〟」

 

 ヒヤリとした。殺気がこちらに飛んでくる。あれだけで先生は怪我をしたのか……。外の世界の住人で、銃弾一発でも死に至る、という話は本当らしい。……慌てていたとはいえ、殺人未遂か……もうやだ。全弾外すようにコントロールしていたのだが、1発だけ掠った方が危機感を煽れると思った。私を追うよりも先生を優先するだろうからと安易に狙った。実際、私を追うより先生を守る方向で動いたホシノ。しかし、それが仇となった。私へヘイトが向いている。

 連邦捜査部S.C.H.A.L.E顧問を殺害未遂とか、めっちゃ政治的問題に発展しそう。自首して謝罪して罪を償うしか方法がない。しかし、それは裁判長の命令違反で、できないのも事実で。あ、やば。ミスった。昨日の私、何してんだ!?

 シロコとセリカが近付いてくる。見守る背後の4人。私は円筒形の手榴弾を取り出す。ピンを外す。郵便ポストの下からコロコロと転がす。

 

 シロコとセリカは気付く。ホシノも盾を構える。先生を守る位置。しかし、ここは上り坂。グレネードは来た道を戻って、途中で爆発。煙だけ撒く。

 

「ケホッケホッ! 前が!」

「!? 逃げてる!」

「追うわよ!」

「待ってください! これ以上騒ぎを起こしてはダメです!」

「ゔ」

 

 私は逃げた。逃げ切った。そして、彼女たちを見失った。

 

 

 

 泣きたい。アビドス勢が見つからないので諦めてブラックマーケットで買い物した。砂埃にも強い充電器。これでスマホを充電する。ミレニアム製の商品だが、自爆装置が付いているためブラックマーケットで取り扱っているらしい。いや、付けんなよ。

 

 とりあえず、電話する。裁判長に。しかし、「お掛けになった電話番号は(以下略)」。ネットカフェで情報収集をしたかったが、料金が高すぎた。なので、次に法務執行部の知り合いに電話する。

 

「あ、もしもし、イイノ裁判官ですか?」

『そうですよ? ハミ書記官。何か御用ですか?』

「いえ、なんと言いますか……」

 

 任務のことは言えない。これは政治的な問題を抱えている。中立の立場なイイノ判事を巻き込む訳にもいかない。

 それに誰が聴いているとも限らない。対立派にバレたら、訴追の種になり、裁判長が風紀委員長ともども裁判にかけられる可能性がある。

 

「えっと、裁判長を見ていませんかね?」

『サバキtyサバキ判事ですか? いえ、ここ最近は忙しくて見ていませんね』

「そうでしたか……ご確認ありがとうございます。お忙しい中、大変失礼しました。それでは……」

『そういえば、サバキ判事から数週間分の訴訟案件が一気に配られたんですが、何か知っていますか?』

「え」

『今までは1週間分の案件が週始めに配られるのですが、一気に数週間分というのはなかったので、ちょっと気になって』

「えっと……いつの話ですか?」

『二日前くらいです』

 

 ちょうど裁判長と連絡が取れなくなってからだ。つまり、裁判長はこの状況を見越していた?

 

「それでは見つけ次第、裁判長に確認しておきますね」

『はい。よろしくお願いしますね~。……ところで、今は執務室、誰もいないということでしょうか?』

「? はい、そうですね。今は誰もいません」

『そうですか……いえ、それだけです。それでは失礼しますね』

 

 電話が切れた。少し疑問に思ったが、すぐに部下である調査官に連絡。裁判長を探すように指示。おそらく風紀委員会本部にいる可能性あり。秘密裏に救出するべし、と。予想だが、裁判長は行政官と話をする予定だった。そこで連絡が取れなくなっているということは監禁・拘束。可能性がある。

 

 連絡諸々が終わって、スマホの画面を消す。一息吐きたい気持ちだ。政治的にきな臭くなってきた。

 時間を確認する。そろそろいい時間だ。アビドスに戻って監視作業を続けよう。風紀委員会がいつやって来るか不明だ。本当はバレずに追跡する予定だったが、それも叶わず。仕方なく裁判長の安否と調査官への指示だけして、駅に向かう。

 

 ピピピーッ、と電車が出発する音がする。滑り込むように扉を潜る。セーフ。これに乗り遅れると次は夕方まで待たないといけない。本当は危ないことだから、良い子は真似しないでね! 誰に言ってんだろ?

 

「はぁー……疲れた」

「お疲れみたいだね?」

「そうなんですよ~。いやはや上司となかなか連絡が取れない状況が続いていまして困っていたんです」

「そうなんですかぁ~。大変ですね☆」

「いや、なんでそんな世間話みたいに話すのよ……」

 

 ん? 私は誰と話をしているのか? 顔をギリギリと上げる。アビドスの面々とヒフミと先生がいた。後ろは閉まっている電車の扉。前は囲むように生徒。ホシノがニッコリ笑う。

 

「うへぇ~。もちろん、付いてきてくれるよね? 私達に」

 

 アビドスに囲まれた。ホシノが前。シロコとセリカが左右。ノノミとヒフミと先生は後方。

 

 一応とぼけてみるか……。

 

「えっと、どうして私は囲まれているのでしょうか?」

「ん。私達の後を付いてきていたから」

「そんなことはしていません」

『それは嘘です』

 

 無線で奥空アヤネの声。

 

『ホシノ先輩から言われて、アビドス校舎の監視カメラを調べたら、あなたの姿が映っていました。これで言い逃れはできません』

 

 あの場末の学校に監視カメラあるんだ。……それは失礼か。

 そうすると、どうする? ここはブラックマーケットの外。どちらかというと他自治区範囲。つまり、向こうも手出しができないはず。

 

「ここは他学校自治区です。ここでの戦闘は控えた方がいいですよ?」

「そうだね。だけど、この電車はアビドス行きだよ」

「で、電車内は、ハイランダー鉄道学園の自治区です。電車から出なければいい話です」

「じゃあ、おじさん達もそうするね。君が出るまでここにいるよ」

「スゥ~……」

 

 悪いのは私だ。先生を殺しかけたのだから。認識が甘かったというのは言い訳だ。捕まることには賛同。しかし、裁判長の目的が達成できないのは困る。もっと後ならよかったのに。どうする?

 ここで暴れれば、ハイランダーとゲヘナとアビドスの政治問題に発展するおそれがある。それも避けたい。そこにシャーレもちゃんぽんし、もうよくわからん状態になる。つまり

 

 どこんどこんと進む列車。じーっと睨む面々。萎縮する私。

 

 謝罪。秘技土下座。平身低頭。それ以外に方法がない。問題があるとすれば、裁判所長官の書記官が頭を下げるという公にできないことが起きてしまう、ということだ。これは対抗勢力に弱みを握られるということであり、政治的に裁判長が動き辛くなる。

 だがしかし、ここではそれ以外の解決策が思いつかない。悪いのはしくじった私なのだ。しかし、謝罪一つで裁判長に迷惑がかかるのは嫌だ。しかし

 

「〝そういえば〟」

 

 先生が声を出す。

 

「〝便利屋の時に助けてくれたよね?〟」

「え」

「便利屋って、この間の?」

「確かに狙撃が行われましたね。ですが、持っている武器が違いますよ?」

「……遠距離からスコープで監視していたよぉ。その時に持っていたのは対戦車ライフルだったなぁ」

「ああ、なら本来は狙撃手なんですね」

「……でも、先生。この子の射撃の腕が下手くそなのかもしれないよ? それでたまたま私達の有利になるような状況になった、とか」

「〝ホシノもわかっているんじゃないかな? この子の腕は超一流でしょ?〟」

「……」

「〝だって、ホシノにバレながらも逃げ続けることができた〟」

「……でも、それは、狙撃の腕とは関係ないよ? それに先生を撃った件は解決してない」

「〝逆に、その時、私が死ななかったのはこの子の射撃の腕が一流だったからじゃないかな?〟」

「それは、でも……」

「〝君はどう思う〟」

「え、私ですか?」

 

 なぜか指名された。

 

「そうだ! まだ名前聞いてないわ! 名前は?」

「……黙秘を貫きます」

「先生、やっぱりおじさんは怪しいと思うけどなぁ」

「……もしかしてゲヘナの方でしょうか?」

 

 今まで黙っていたヒフミが口を開いた。

 ピクリと反応してしまう。なぜ判った? ホシノが訊く。

 

「ヒフミちゃん、どうして判ったの?」

「あ、はい。以前ゲヘナで行われた裁判でこの方がいらっしゃったので」

「名前はわかる?」

「名前までは。ですが、裁判官の前の席に座っていました」

「? 犯罪者ってこと?」

「違いますよ、セリカちゃん。裁判官の前に座っているのは裁判所書記官という方ですよ」

『見つけました!』

 

 通信で奥空アヤネが言う。

 

「ゲヘナ学園2年生で法務執行部所属裁判所書記官の阿留野(あるの)ハミさんです。法務執行部のホームページに載っていました。写真と一致します」

 

 ついていない。まず任務開始時には、捕まるとは思わなかった。次にヒフミがいるのも予想外。そこから流れ作業的に名前までバレてしまった。完璧で究極な任務失敗。裁判長に怒られる。

 

「あの……えっと……見逃してくれたり?」

「する訳ないでしょうが!?」

「ですよね……」

 

 溜息を吐く。砂狼シロコが近付く。首を傾げる。

 

「なんでアビドスに来たの?」

「裁判長に頼まれたからです」

「裁判長?」

「調べた所、法務執行部部長の肩書です。名前は獄寺サバキ」

「!?」

 

 ホシノが驚く顔をする。ノノミが首を傾げる。

 

「ホシノ先輩、どうかしましたか?」

「…………ううん……なんでもないよ」

 

 やはり裁判長と面識があったのか。直接聞いていなかったが、直感としてそう思っていた。

 セリカが私を問い詰める。

 

「それで? どうして頼まれたのよ?」

「えっと……」

「この後に及んでまだ黙秘するの?」

「も、黙秘権は誰もに与えられた権利です。それは連邦生徒会憲章にも記載があります」

「れ、連邦生徒会検証??」

『セリカちゃん……』

 

 えっと、と私は簡単に説明する。

 

「連邦生徒会長が、各学園の代表を集めて、複数の条項からなる約束事を締結したんです。それが連邦生徒会憲章です。複数校で結ばれる条約ですね」

「えっと、それに黙秘権が保証されているのね」

「はい、アビドス高等学校もそれに倣うはずです」

「それじゃ、何も聞けないじゃない……」

「その、私も理由があって、説明できません。申し訳ありません」

「だけど、言わない訳にもいかないんじゃない?」

「……」

「ゲヘナが政治的に係わっているのは明白なんだし、これ以上、学校間の印象を悪くさせるのもいけない気がするよ? 内政干渉として訴えることができるから」

「まぁまぁ、ホシノ先輩、ここは穏便に」

「でも、先生が撃たれたんだよ? 先に危害を加えようとしたのはハミちゃんだよ」

 

 それもそうなのですが、とノノミは困ったように眉根を寄せていた。他のメンバーもホシノの言動に違和感を持ちかけているようだが、私はそれどころではなかった。

 

 ホシノの言葉に考え込む。ここでは何が正解か? 裁判長の意見は聞けない。自分で判断しなければならない。

 これ以上ゲヘナへの印象が悪くなれば、どうなる? アビドス自体がどうこうできる話ではないが、そこから評判が広がって、他校に潜入したことがバレると、どうなる? 裁判所が政治的活動をした。身内同士で足の引っ張り合いが始まる。それよりも素直に話して協力してもらった方が一番良い気がする。

 本当にそうか? アビドスが悪評を流してもガセネタだと思われるだけだ。そもそもここ数日監視して悪評を故意に広めるような人達でないことは判る。それなら、このまま黙るのも選択肢としてはメリットがある。そう黙っておくのも良い判断だと思う。アビドス側が私を理由もなく拘束することはできない。いや、理由としては校舎への不法侵入と故意ではないとはいえアビドスの協力者・先生を殺害しようとした件がある。一時的に拘束はできる。だが、それも短いだろう。アビドス側も政治的に配慮して解放するだろう。黙っていても問題ない。黙っている方が都合がよい。

 そう、都合がよい。

 

 しかし、誠実さが足りない。罪を償うという意識の問題だ。

 

 私は溜息を吐く。後々裁判長に怒られる。上官命令を無視した。いや、裁判長のことだから、赦してくれるか? それに期待しよう。

 

「降参です。お話します」

 

 私は両手を挙げた。そこで電車がアビドス駅に着いた。

 

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