ゲヘナの愛する裁判長   作:このアカウントは削除されました

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砂漠にあるか、地獄にあるか

 アビドス高等学校校舎に戻った。入るのはこれで二回目。正規に入るのは初めて。対策委員会室に入るのも初めて。

 先に集金記録の話になった。どうやらブラックマーケットの銀行を襲ったとかなんとか。すごいやばいことしているな。これが正規の銀行なら犯罪。ブラックマーケットの銀行だから許されている事案。

 机が叩かれた。盗んだ書類を確認していたメンバーが騒ぐ。

 

「なっ、何これ!? 一体どういうことなの!?」

「……!?」

「現金輸送車の集金記録にはアビドスで788万集金したと記されている。私達の学校に来たあのトラックで間違いない。……でも、その後すぐにカタカタヘルメット団に対して『任務補助金500万円提供』って記録がある……」

 

 なるほど。裁判長が予想していたことが起きているようだ。アビドスの面々は喧々諤々と話し合う。しかし、カイザーグループ本社が関わっているという予想しかできず、行き詰まる。

 

「あ、ごめんね。ハミちゃん。みんな、この話はここまでにして、今度はハミちゃんから話を聞こう」

 

 それもそうだ、とみんなが集まる。さてと、どこから話すべきか。

 

「えっと、とりあえず、改めまして、私は阿留野ハミと申します。ゲヘナ法務執行部の部長兼裁判所長官である獄寺サバキの裁判所書記官をしております」

「そうですね。自己紹介がまだでした。私は十六夜ノノミと言います☆」

「黒見セリカよ」

「ん。砂狼シロコ」

「奥空アヤネと申します。で、こちらが小鳥遊ホシノ先輩です」

「うへぇ~」

「〝シャーレの先生だよ〟」

「えっと、阿慈谷ヒフミです」

「あ、ありがとうございます。……えっと、どこから話をすればいいのかわかりません。途中わからないことがあれば仰ってください」

「ん。わかった」

「えっと、私は裁判長の命でここにいます」

「そう言っていたわね」

「その命令というのが、風紀委員会を止めることです」

 

 突然のワードにざわめく対策委員会。一名よくわかっていない子がいる。セリカだ。

 

「ふ、風紀委員会?」

「はい、ゲヘナの正規軍ですね。行政機関も兼ねています」

 

 ヒフミが答えてくれた。私が続ける。

 

「三権分立の行政を担当している機関です。その、風紀委員会に行政官という役職の方がおりまして、風紀委員長の指示を無視して先生を拘束しようと企んでいます」

「〝私?〟」

「え、先生をですか?」

「それって、ただ事じゃないわね」

「はい、ただ事ではありません。行政官は理由があって、先生を拘束しようと考えております」

「理由って?」

「エデン条約です」

 

 ヒフミが目を見開く。先生が首を傾げる。

 

「〝エデン条約って?〟」

「外から来た先生には説明が必要ですね。ですが、本筋と離れるので、概要だけ。まぁつまり、仲の悪かったゲヘナ学園とトリニティ総合学園の平和条約です。詳しいことはすみませんが調べてください」

「〝なるほど。続けて〟」

「はい。エデン条約は行政官が慕う風紀委員長の悲願です。よって、不確定要素は排除したい」

「なるほどね。それで先生を狙った訳だねぇ」

「どういうこと?」

「連邦捜査部S.C.H.A.L.Eは新設の政治的特異点です。無制限にどこの生徒も協力要請を出せるというのは強いです。それは不確定要素だと言えるのではないでしょうか? 例えば、先生と仲良くなれば、先生のつてで戦力を要請できる、という感じです。少なくともそう思う者もいます」

 

 セリカが納得したように唸る。ホシノが考えるようにして訊く。

 

「風紀委員長ちゃんは、そのことは?」

「裁判長が伝えました。が、現在エデン条約準備のためトリニティに出向いています。よって、行政官の暴走を止めることができません」

「サバキ……サバキちゃんは?」

「裁判長も知っておりますが、現在行方不明です」

「ま、また、穏やかじゃない単語が……」

 

 で?

 

「そんなおおそれたことを言ったんだ。ハミちゃんはどうしたいの?」

「……まず、話しておきたいこととしては、現在、裁判長、私に指示を与えてくれる存在がいません。なので、今までの説明は全て私の独断です。そのため、アビドス及び先生並びにヒフミさんにはこのことを内密にしていただきたいかと」

 

 全員が顔を見合わせる。

 

「おじさんはいいと思うな。黙っていても」

「ホシノ先輩がそういうのなら……」

「わ、私も黙っています。ナギサ様に秘密にするのは心苦しいですがわかってくれると思います」

「〝もちろん私も〟」

「ありがとうございます。本来はゲヘナ、それも風紀委員会の問題ですので、風紀委員会で解決して欲しいです。もしかしたら風紀委員長によって事前に止められるかもしれません」

「あ、攻めて来るとは限らない訳ね」

「攻めてくると思っていた方がよいと思います」

「どうして?」

「行政官の性格からして無理にでも攻めようと思うのではないでしょうか? もちろん、希望的観測を言えば、留まってくれる方がありがたいですが、常に最悪を想定しておかないといけません」

「でも、それだと自治権侵害にあたります。それを犯すのはリスキーではありませんか?」

「……そうとも言い切れません」

「?」

「土地の所有者を確認してください。登記簿謄本です。今ではネットで調べられるはずです」

「は、はい」

 

 アヤネがPCに向き直る。私は概要を説明する。

 

「たぶん見てもらった方が、早いのですが、概要だけ説明すると、アビドス高等学校の土地はその多くがカイザーグループが所持しています」

「「「「「!?」」」」」

「え、でも、だって、え? アビドスの土地よ?」

「契約書を見ないとわからない点が多いですが、おそらく違法スレスレの合法的手段によって買い取ったのでしょう。アビドス側、特に生徒会が借金返済のために売ったのだと思われます」

「そんな……」

「……生徒会、か」

「……出ました。登記簿謄本です」

 

 みんながアヤネの机に集まる。この色がアビドスでこの色がカイザーと説明している。アビドスの土地を示す青色はカイザーを示す赤色に覆われていた。

 私は天井を仰いだ。長い説明だった。しかし、これからが問題であった。

 カイザーとの問題はアビドスの問題だ。ゲヘナが感知する所ではない。しかし、風紀委員会を止めるにはどうしてもゲヘナが関わらなければならない。

 

「つまり、風紀委員会は、アビドスの土地ではないからと侵攻を決意したの?」

「おそらく。さらに便利屋68がアビドスにいます。そこから犯罪者捕縛という大義名分があります」

「そ、そんなの、間違ってるわ!」

 

 セリカが吠える。しかし、誰も返事をしない。私は頭を下げるしかその叫びに応える方法を知らなかった。

 

「申し訳ありません。ゲヘナの問題を他校に押し付けてしまいました。私もできる限り協力します。止められる自信はありませんが、狙撃は得意なので!」

「私も! ナギサ様に言って!」

「それは止めてください。エデン条約がおじゃんになります」

「はぅ……」

 

 どこからともなく溜息が響く。

 

「ヒフミちゃんの気持ちはありがたいし、ハミちゃんも提案も嬉しいけど、……これはアビドスの問題だよ」

「いえ、ゲヘナの問題です」

「だけど、ここはアビドスの土地。……カイザーが所有していようが、アビドスだからね。侵略されたら、私達で対処するしかない。それが政治的にもちょうどいいでしょ?」

「あ、いや、……そう、なのか? ……確かに、アビドスが対応してくれて、風紀委員会を抑え込んでくれたら、こちらとしても内部で争わなくていいですが……」

「だからね、大丈夫だよ」

 

 そうは言ってもアビドスの顔はお通夜モードになっていた。どうすればいいのか、私にはわからない。

 

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