ゲヘナの愛する裁判長   作:このアカウントは削除されました

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破壊(デストロイヤー)vs正義(ジャッジメント)

 私は再び、アビドス校舎に来ていた。

 対策委員会室の扉をノックする。扉は果たして開いた。

 

 開けてくれたのはシロコさんだった。

 

「ん? ハミ? 帰ったんじゃなかったの?」

「ハミさん? どうしてこちらに? 先生と一緒に……」

 

 私は後ろの先生を見る。先生は苦笑いをしていた。意外と表情豊かである。特徴のない顔だが、それでも表情変化はわかりやすい。最近では特徴のない顔が気に入った。その事実にくすりと笑ってしまう。

 

 前を向いた。

 

「みなさん! 私も風紀委員会と戦います! アビドスを支援します!」

「「「「!?」」」」

 

 みんながみな驚く顔。セリカが乗り出す。

 

「だけど、自治権侵害になるんじゃないの?」

「そこは解決しました」

「? どうやって……」

「そこは先生の力をお借りしました」

「先生?」

 

 私は一呼吸を置いて、言う。

 

「私は法務執行部を退()()しました!」

 

 

 

~~~~~

 

 

 

 私は走っていた。アビドス行きの始発電車はまだ動かない。そのため、最短距離で、アビドスへと向かう。

 カスミ達が掘った穴の出口はアビドスと反対側にあった。そのため、距離がある。銃も執務室まで取りに行った。その上、三日三晩の無意味な疲労で目眩がする。それでも、諦めるにはまだ早いと奮い立たせる。

 

 ゲヘナの火山を横目に、食堂を素通りし、大広間を突っ切り、風紀委員会本部を飛び越え、森へ。

 奥へ奥へと進む。この先はアビドスの校区。一応、ゲヘナで二番目に強い私が行けば、それだけで9条違反となり得る。

 

 それがどうした?

 

 ヒナちゃんの笑顔が見られれば良い。ヒナちゃんのストレスが減れば良い。ヒナちゃんの苦しみがなくなれば良い。原作崩壊なんてついでだ。一緒にここでまとめてすっきり解決してやる! 私が法だ! 私に従え! 従わなければ倒すのみ! 武力行使だ! ヒナちゃんの次に強いと言われる私の力を見せてやる!!

 

 奥へ奥へ駆ける。アビドス校区が見えてきた。砂漠の香り。懐かしい風。

 

 そして────

 

「サバキ、止まって」

 

 

 

 ヒナちゃんが立ち塞がった。

 

 

 

~~~~~

 

 

 

 退部。その言葉はキヴォトスでは意外と重い言葉だ。

 普段は意識されないため、パッと言葉を聞いても、最初なんのことかわからない。それが『退部』という言葉。

 当然、『死』よりは軽い。それでもコミュニティーから抜け出す、あるいは排除されるということは現代社会を生きる上で痛撃だ。退学になるよりはマシだが、喩えるなら、一般市民で言う、会社からの退職(解雇)を想像すれば、否が応でも理解させられる。もっと言うと、〈不良〉になる。

 

 つまり、社会からの孤立。

 

「そ、そんな……どうして……そんなことを……」

「法務執行部から退部すれば、ゲヘナの政治とは無関係になります。そうすれば、アビドスに味方しても、内政干渉とはならないでしょう。一種のボランティアとして参戦できます」

「そういうことでは……」

「……ハミは、それでもいいの?」

 

 シロコさんが目を真っ直ぐに見て訊く。私は頷く。

 

「決めたことです」

「で、ですが、退部ってそんな簡単にできないですよ?」

 

 ノノミさんが心配そうにこちらを見ている。

 

「ええ、ですから先生にお願いしました」

「……先生?」

「シャーレは超法規的組織です。全ての学園に存在する部活動の顧問になれます。そして、顧問が承認すれば、退部はあっさりできるわけです」

 

 沈黙が襲う。誰もが心配と動揺を顔に出していた。声が大きいセリカさんやほんわか明るいノノミさんですら、重く黙っている。

 

 破ったのは、シロコさんだった。

 

「先生は、どうして承認したの?」

 

 先生は困ったように笑う。頷く。

 

「〝生徒を応援するのが、先生の役目だから〟」

 

 シロコさんは目を瞑る。そして、目を開けた。

 

「ん。私はハミを歓迎する。先生を信じる」

「シロコちゃん……ですが」

「大丈夫。戦力は多いに越したことはない」

「シロコ先輩、そういう問題じゃ……」

「ですが、実際問題風紀委員会は攻めてきます。これを迎え撃つには、スナイパーの存在は重要だと思います」

「アヤネちゃんまで!? ああ! こんな時、ホシノ先輩がいれば! って、ホシノ先輩どこよ!?」

「えっと、まだ見てないですよ。お昼寝でもしているかもしれません」

「こんな時にぃ!? 風紀委員会が来るって知ってるのにぃっ!?」

 

 セリカの叫びとともに、遠くで爆発音。そして、甲高い警戒音が鳴り響いた。

 

 

 

~~~~~

 

 

 

「ヒナちゃん……」

「サバキ……。これ以上は行かせない」

「どういうこと?」

 

 ヒナちゃんは溜息を吐く。

 

「あなた、私の代わりにアビドスへ行こうとしているでしょ?」

「……代わりではない。私が行くべきだ。風紀委員長は有休消化義務日がある。これ以上万魔殿に睨まれてはエデン条約まで在職できるか不明だ」

「そうね。私がいないエデン条約は最後まで締結されない恐れがあるわね」

「なら、私が行くべきだ。悲願なのだろ? ゆっくりと有給休暇を楽しんでくれ」

「いやよ」

「…………なぜ?」

 

 ヒナちゃんの瞳孔が開く。私はショットガンを抱え直した。

 

「幼馴染に無理をさせて休める訳がない」

 

 デストロイヤーが向けられた。

 咄嗟に左に避ける。地面が弾ける。転がって立ち上がり、ヒナちゃんを円心にして走る。機関銃の弾が円弧を描くように地面に跡を付ける。ショットガンをリロードした。

 ポンプアクションに切り替える。マグナムのスラッグ弾を地面に放つ。土が舞う。ヒナちゃんの顔へかかる。咄嗟に目を閉じた。その隙にセミオートへ切り替え、ヒナちゃんの右手親指へ照準。発射。

 しかし、ヒナちゃんは後ろへと跳ぶ。着地。クラウチングスタートぽい姿勢から今度はグンッと前へ迫る。私はセミオートで素直な照準でバードショット。散弾銃本来の弾が飛散。ヒナちゃんは飛び込みながら空中で躱す。顔以外には当たるが効果はない。目眩まし程度の効き目しかない。機関銃を向けてきた。

 連射。数ステップで躱し、ポンプアクションのバックショットで弾を弾く。軌道を逸らす。ヒナちゃんの連射は止まらない。力尽くで来る姿勢にキュンとする。数発四肢にヒット。痛い。ヒナちゃんが目の前に迫る。愛銃・ジャッジメントを構える。銃身で弾かれた。弾かれた勢いのまま私は回転蹴り。左腕で受け止められた。脚を引っ込めて、デストロイヤーを台にしてジャンプ。距離を取る。銃身のバランスが崩れたにも関わらずヒナちゃんは安定した射撃で空中の私を捉える。が、命中精度は低く、外れる。

 

 着地。一旦の静寂。

 

「譲る気は?」

「ないわ」

 

 爆発的な威力のデストロイヤーが地面を駆ける。土が舞う。あえて、土埃の中を進む。ヒナちゃんは目を見開く。当然、私の目の中に土が入る。しかし、そのまま体当たり。ヒナちゃんは冷静に下がる。バランスは少し崩れた。連射は止めず。私は数発受け止め、ラットショットで弾く。

 目の中に土が入っているにも関わらず、私は瞬きすらしない。瞳孔さえ土で覆われなければそれで良い。見えればそれで良い。駆ける。ヒナちゃんが下がる。駆ける。下がる。

 

 流石にいたちごっこと思ったのか、前へ出るヒナちゃん。凛々しい姿。連射しながら迫る。私はポンプアクションで実包を適切に変えつつ迎え入れる。ヒナちゃんの体当たり。脇へ避ける。すれ違う。互いに踏みとどまる。銃口を向け合う。トリガーを引くと同時に避ける。まるでダンスでもするように、戦う。

 

 しかし、それも終わる。木の根っこに躓いた。バランスを崩す。ヒナちゃんのデストロイヤーをもろに浴びる。爆発とともに、後ろへ弾かれ、着地。膝をつく。眼の前でヒナちゃんが銃口を突きつけていた。

 

「終わりよ」

 

 無慈悲にデストロイヤーが火を噴いた。

 

 

 

~~~~~

 

 

 

 爆発音から市街地へ向かうと、便利屋がいた。どうやら便利屋が柴関ラーメンを破壊したようだ。私は一安心した。風紀委員会でなかったからだ。

 しかし、当然セリカは激怒。

 

「あんたたち、許さない。ぜーったいに許さないから……!!」

 

 アルが目を見開く。ムツキがきょとんとした顔で言う。

 

「おっと、噂をすれば」

「……ちょっとタイミングはズレっちゃったけど、どうせいつかは白黒つけないといけない相手だし」

 

 カヨコさんの言葉で、アビドスと便利屋が臨戦態勢に移行しようとする。私は慌てて間に入る。

 

「ま、待ってください! ここで消耗する訳にはいきません! この後、風紀委員会が来るんですから!」

「そ、それはそうだけど……!」

「……どういうこと? ハミ」

 

 カヨコさんの声に、しまった、と思った。どう説明しようかと悩む。ここで上手く引き込めば便利屋を戦力にできるかもしれない。風紀委員長から逃げ切れるだけの実力を彼女達は持っている。

 しかし、勧誘する方法がない。便利屋がこちらに付くメリットがないのだ。

 メリットがないのに、バカ正直に説明すると、便利屋のことだから逃げる。最悪、風紀委員会との戦闘後疲弊した中で襲撃してくるかもしれない。それは避けたい。

 

 まごまごしていると、シロコさんが前に出た。

 

「風紀委員会がアビドスに侵攻してくる。ハミが言ってた」

「「「「!?」」」」

 

 アルが明らかに狼狽した。顔面蒼白。

 

「え! え!? 風紀委員長が来るの!?」

「い、いえ、違います! 風紀委員長は来ません! 行政官の暴走です!」

「……なるほど。つまり、シャーレを狙っている訳ね」

 

 アビドスの面々が驚く。私は溜息を吐きたくなるほどカヨコさんの頭の良さに呆れた。

 

「その通りです。エデン条約締結の不安要素を排除しようとする行政官が風紀委員長の命令を無視して、独断専行」

「アコのやりそうなことね」

「軍法会議有罪判決確定ですね。正直そこまでする意味がわかりませんが、裏を返せばシャーレを不確定要素かつ危険視している証拠です」

 

 カヨコさんがアルに顔を向けた。

 

「社長。逃げるよ」

「へ?」

「ここにいても、シャーレとアビドスの巻き添えを食らうだけ」

「だ、だけど、もう資金も尽いて、依頼が達成できないわ。このタイミングで攻めないと……」

「逆にチャンスだよ社長。アビドスの実力すべてを把握してないから不確定だけど、もしかしたら風紀委員を撤退させるかもしれない。風紀委員長がいないからその可能性がある。だけどそれでアビドスはもう戦えない。風紀委員会が撤退したタイミングでアビドスに襲撃すれば、依頼が達成できる」

「……」

「ああ、なるほど? つまり、ハイエナ行為みたいなものってことかな? カヨコちゃん」

「……!?」

 

 冷や汗が出る。このままでは、最悪の結果がやって来る。阻止しなければならないのに、どうしようもない。ここは一か八か。

 

「司法取引をしましょう!」

 

 便利屋へ高らかに言う。カヨコさんが訝しげに見る。

 

「司法取引?」

「はい。アビドスにご協力していただければ、次に捕まっても起訴せず釈放します!」

「無理な話ね。そもそもゲヘナの司法取引の目的は、他人の裁判の証拠集めでしょ? 取り調べ・尋問・証拠集めに好意的な協力があってこそ司法取引は成立する。逆に言えば、それ以外の行動は司法取引の対象外」

 

 チッ。やはり騙せなかったか。

 

 睨み合うアビドスと便利屋。その間に挟まれる私。胃が痛い。互いに行動できない状況。勢いのまま戦闘に突入できればよかったが、咄嗟に止めてしまった。悪手。私のミスだ。

 

 最後の手段。

 

「先生! 先生は連邦捜査部S.C.H.A.L.Eの顧問です! 超法規的な組織なら、便利屋に協力要請ができるはずです!」

「〝……〟」

 

 カヨコが溜息を吐く。

 

「ハミ。あなた司法関係者なのに、法解釈が苦手ね」

「な、なにを……」

「いい? 協力要請っていうのは、強制力はないのよ?」

 

 知ってた。虚勢は見事に全て見抜かれ、何もできない。やはり私には実力がない。相手を説得できるだけの話術がない。舌戦を生き抜くための準備もしていない。ナイナイづくし。

 

「じゃあ、行こ。みんな」

 

 カヨコさんが歩き始める。アルはじっとしている。ハルカはアルとカヨコさんを交互に見て迷っている。ムツキはじーっと見ている。

 

 瞬間、ひゅるひゅるるぅぅうううう、と音がした。まるで、花火が打ち上がり、空へ花咲く前の音。空を見上げる。朝顔の蔓のように撓った煙跡がこちらに向かってきていた。

 弾頭。50mm迫撃砲だ。予測着弾地点は────

 

「危ない!?」

 

 駆けてカヨコさんを突き飛ばす。カヨコさんはバランスを崩し転がる。距離が開き、私へ砲弾が突き刺さる。

 

「〝ハミ!?〟」

 

 私は意識を失った。

 

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