ゲヘナの愛する裁判長 作:このアカウントは削除されました
ヒナ委員長がいた。便利屋は固まった。私は絶望した。
「そ、そんな、風紀委員長……今日は有休消化義務日ですよ?」
「……ええ、知ってるわ」
「ですが、義務を怠ったとして、裁かれますよ? 万魔殿も黙っていません。それを心配して裁判長がどれだけ苦心したか……」
「そうね」
「なら!」
はぁ、と溜息を吐くヒナ委員長。心底面倒臭そうな顔。
「あなたもサバキも考えすぎなのよ。ゲヘナにいる限り、そんなことで気を揉んでいたら行政は務まらないわ」
ちらりと行政官を見る風紀委員長。
「考えすぎなのは、アコも一緒ね」
ヒナ委員長は行政官に謹慎を言い渡し、行政官のホログラムは消える。
委員長が先生の前へ行く。
「風紀委員長のヒナ。名前は知っていると思うけど……」
「〝うん。初めましてだね。私は〟」
「先生でしょ? それくらいは知っているわ」
大人しめの声。初会合にも関わらず、どこか再会を喜ぶ恋人のような雰囲気を醸し出している。表情はいつも通りのヒナ委員長なのだが……。
「本当はもっと話したい所だけど、またの機会に」
「〝そうだね。ヒナにはヒナのやるべきことがあるもんね〟」
頷くヒナ委員長。先生の横を通り過ぎる時に、ヒナ委員長が耳打ちした。先生は真剣な顔になった。私は首を傾げた。
風紀委員長は、ホシノさんに向く。
「小鳥遊ホシノ」
「……君が、
「ええ」
「……実在、したんだ」
「?」
首を振るホシノさん。そのまま、頭の上で腕を組む。
「いやぁ~、で? どうして風紀委員長ちゃんはおじさんのこと知ってるのかなぁ? まぁ、有名人に覚えられるのは嬉しいけど」
「……情報部にいた頃、各自地区の要注意生徒をある程度把握しておいたから」
「うへぇ~。おじさん、そんなやんちゃしてなかったけどなぁ~」
「……それに、サバキも話していたわ」
「!? サバキ、ちゃんが?」
「ええ、一度だけ」
ホシノさんが脱力する。
「そ、そっかぁ~、おじさんは毎回会うたびに風紀委員長ちゃんの話を聞かされたけどねぇ~」
「?」
「……そっか、サバキちゃん。会えたんだね」
他の全員は何の話をしているか不思議そうに聞いていた。私だけが、会話の内容を把握している。空想の少女が現実にいて、それがヒナ委員長で、サバキ裁判長は風紀委員長ガチ恋勢で……頭痛くなってきた。
「そっかぁ~……不思議なこともあるんだねぇ~。……サバキちゃんはなんて言ってた?」
「……大事な幼馴染、と」
ホシノさんは一瞬目を大きく開いて、すぐにふにゃぁとした顔に戻った。
「そっかぁ……」
「……」
風紀委員長がイオリさんとチナツさんを見た。拘束されている二人。縋るように委員長を見ている。
風紀委員長の溜息。
今度はアビドス全員を見渡して、風紀委員長は頭を下げた。
「!?」
「事前通達無しでの無断兵力運用、そして他校の自治区で騒ぎを起こしたこと。このことについて私、空崎ヒナより、ゲヘナの風紀委員会の委員長として、アビドスの対策委員会に対して公式に謝罪する。今後、ゲヘナ風紀委員会がここに無断で侵入することは無いと約束する。どうか許してほしい」
ヒナ委員長が頭を下げるのは挨拶とお礼以外で初めて見た。謝罪なんて無縁の人かと思っていた。偏見だったようなので改めた。噂が悪い。
アビドスは誰も何も言葉に出さなかった。戸惑いの方が上回っていたのだろう。世間一般的なゲヘナ風紀委員長に対する噂と眼の前の実物の態度。初見だとギャップに風邪をひく人もいる。事実、私は風邪を引いた一人。
「えっと、その……ホシノ先輩、どうします?」
「……許しちゃえば?」
「そんな適当な……」
アビドスの面々が喧々諤々と話し合う。それをヒナ委員長はじっと見つめる。私が手を挙げる。
「その提案なのですが、よろしいでしょうか?」
「ん? どうしたのハミちゃん?」
「もしアビドスに〝本当の危機〟が訪れた時、
「私としては問題ないわ。そもそもこちらが何かを言える立場ではない」
「で、ですが……」
「おじさんはさんせ~」
「ホシノ先輩!?」
「そうですね。それが良いと思います♫」
「ん。ホシノ先輩が決めたのなら、それでいい」
「ちょちょちょっと!? それでいいの!? 折角ならお金とか、借金とか、そう! 配送金よ! それを請求したらどうかしら?!」
「……セリカちゃん? もしかして賠償金?」
「……」
「私としてはそれでも構わないわ。ただ、イオリとチナツを解放してあげてほしい。二人はアコの指示で動いただけだから」
「「「「「……」」」」」
みんなで解いてあげた。特にイオリは反抗の意志が見え隠れしていたので、慎重に。
仕切り直して、私がもう一度手を挙げる。
「賠償金なのですが、流石に風紀委員長が全額払うというのは容認できません」
「そ、そうね。実際悪いのはあの行政官なんだから」
「アコの行動は上官である私に責任があるわ」
「いえ、そういう責任問題や道義的な問題ではなく、もっと現実的な話です」
全員が首を傾げる。私は咳払いして説明する。
「おそらくアビドスの方々は借金の額を賠償金に当てようと考えるはずです。その金額、約9億6235万円」
眉を寄せるヒナ委員長。
「流石に多いわ」
「はい、個人で払うには額がでかすぎます。組織でも分割したい額です。そして、分割でも大金になります。当然、銀行口座を介した送金、ということになるのでしょうが、ここで税金問題になります」
「う。また難しい話になった」
セリカが渋い顔をする。私は愚痴を無視して話を続ける。
「連邦生徒会は各学園間の金品の動きに課税しております。端的に言うと、ヒナ委員長及び風紀委員会が脱税の疑いで訴訟されかねません。そして、アビドスはそれに協力したとして連邦生徒会に介入され、追徴課税となります。最悪刑事罰。つまり、借金がより増えます。当然、風紀委員長あるいは風紀委員会が払ったお金は全額差し押さえ」
「なるほどねぇ~。つまり、アビドスにも風紀委員長ちゃんにもメリットがない訳だ」
大金を送る場合は、監視の目がある。脱税は校外を使っても見つかる。連邦生徒会憲章にある。特に組織的な脱税は厳しい。
「もし、賠償金が欲しい場合、ゲヘナに直接訴訟を起こすことが考えられます。しかし、これも一部問題があります」
「な、なによ?」
「連邦生徒会憲章に戦争賠償金の上限額が設定されております。詳しくは調べて欲しいのですが、今回の案件についてかなりの譲歩を入れたとしても、1億が限度」
「それでも、1億も返せたら借金が8億6235万円になります! 複利計算で、1年間で合計約2億返せたことになりますよ!」
「そうなりますね。そこから考えて、2億と風紀委員長への無償協力強制。どちらが有意義かは、アビドスのみなさんが考えることです」
これから先はアビドス高等学校の判断に任せる。正直、話が大きすぎる。しかし、話の流れとして知っておいて欲しい情報でもあった。
手続というのは大事なのだ。どちらにしても風紀委員長と裁判長に負担がかかるが、アビドスにもお金以外の選択肢を考えてほしかった。これもワガママだ。
ヒナ委員長が続ける。
「私はどちらでもいいのだけど、結論が出るまでここにいる訳にはいかない。決まったら後日連絡してくれれば対応するわ。ちゃんとした手続を踏んだ方が誰も文句はいえないでしょう」
「……うん、ありがとね、風紀委員長ちゃん。とりあえず、対策委員会のメンバーで考えてみるよ。ハミちゃんもありがと」
ヒナ委員長が頷く。
「イオリ、チナツ。撤収準備」
「はい……」
「!? だけど委員長! 便利屋はどうするんだ!? ここにいる今が絶好のチャンスじゃないか!?」
風紀委員長が睨む。それだけでイオリさんは萎縮する。
「帰るわよ。それにイオリ。便利屋は逃げたわ」
「え!?」
確かにさっきから話に加わらないと思ったら、すでに撤収したようだ。判断が早い。
「それじゃ、ハミも帰るわよ」
「え? 私もご一緒に?」
「ええ、途中でサバキを置いてきたの。回収しないといけないわ」
「!?」
ホシノさんを見る。アビドスのメンバーと会話してこちらの話に気づいた様子はない。少しほっとする。先生も一緒でこちらに背を向けている。
「しかし、私はもう法務執行部のメンバーではないですから……」
「? どういうこと?」
一枚の退部届を委員長に見せる。委員長は受け取り、中身を読む。
「先生の権限で私は法務執行部を退部することになりました」
「……先生は、なんと?」
「だいぶ考え直すように言われましたが、お願いしました。渋々了承してくださいました」
言うことを聞かない生徒で申し訳なく思う。自分がなんとかするからとも言われた。だが、先生ではどうしようもない案件だ。私はホシノさんが用意していた連邦生徒会書式の退部届を見つけて、必要事項を記入した。それを先生は確認してサインした。本来は組織の長、今回は裁判長が認めない限り退部できないが、先生の特権で可能となった。自分の選択に後悔はしていない。
シャーレからの協力要請をする、と提案された。だが、法務執行部が突然シャーレと関わりを持ったと思われる。司法組織が政治行為をしたとして裁判長が訴えられる。法務執行部の悪癖もある。どうしても私が退部する必要があった。
……しかし、若干、いや、本音を言うと、やはり、法務執行部から離れたのは寂しく思う。仕方がないこととはいえ。
そう、とヒナ委員長が顔を上げる。
「これ、無効よ」
一瞬何を言われたのかわからなかった。返された紙を見る。特に問題なさそうな気がする。どこにでもある一枚の退部届。連邦生徒会の書式。一度連邦生徒会を通すとはいえ、ゲヘナでも通用するはずなのだが……。
「よく見て。日付」
「ん? ……?」
「わからない? ……それもそうね。法務執行部は連邦生徒会に書類を送ることはなかったわね。ゲヘナで完結するから、ゲヘナの書式しか知らない」
「えっと、何がダメなんですか?」
ヒナ委員長が覗き込んで、指で示す。頭が顔に近付く。おひさまの匂いがした。
「ここ、アラビア数字になっているわ。連邦生徒会の書式では数字は全て漢数字よ」
~~~~~
「サバキ」
「裁判長!?」
ヒナちゃんと書記官がいた。ついでにイオリとチナツもいる。後ろには負傷した風紀委員会のメンバーがずらり。疲労が溜まってぐったりいしているようだ。早めの治療と休息が必要だろう。キヴォトスでは日常だ。
「裁判長……どうしてこんなボロボロなんですか? 誰にやられたんですか?」
ヒナちゃんです、とは言えなかった。ヒナちゃんが糾弾される恐れもあったが、何よりなけなしのプライドが口を閉ざした。守るべき対象に負けたのだ。察してくれ。
「動けますか?」
「いや、動けない。背負ってくれ」
「えぇ……私も疲れているので勘弁してください」
ヒナちゃんが近づいてきた。そして、背中を向けて屈む。首を傾げた。
「サバキは私が背負うわ」
明日私は天に召されるかもしれない。
「で、でも、ヒナtyんん!? しかし、風紀委員長。これは政治的に癒着していると思われかねない」
「考えすぎよ。それに、怪我人を放ってはおけないわ。緊急性が高いとして、容認されるわ」
しかし、私の感情が……。それに汗もかいているし。
「早くして。私の残業代を増やすつもり? それともお姫様抱っこがよかったかしら?」
そんな冗談まで言えるようになって……。この状況でなければ感動したのに……。
私は背中に乗った。おひさまの匂いがした。
懐かしく思った。ここまで近くにヒナちゃんを感じたのは、中学校ぶりか。服越しの温もりが心地よい。
問題は山積している。アビドス侵攻は、どのみち訴えられるだろう。ヒナちゃんの責任問題が問われる。その上、有給休暇消化義務日を蹴った。圧倒的に不利。
それでも、このおひさまの香りに包まれていると、どこか安心してしまう。
やはり、ヒナちゃんはすごい。そう思って、一行は帰途についた。
これにて一旦、第一部、閉廷
閲覧、しおり、お気に入り登録、感想、評価付与、誤字報告、ここすき、ありがとうございます。かんしゃぁ
色々と意味不明理解不能な箇所やアラやボロやらが見つかりましたが、ご容赦お願い致します。申し訳ありません
今回第一部を仕上げてみて、思ったのが、
自分の力量不足、原作への不理解、本作の設定未熟
第一部第一稿を書き上げた時は、面白いのができたと思っていたのですが、
ご指摘に沿った内容を確認して読むと、確かにそう捉えられる箇所が多いと思いました
ブルアカ×司法を思いついた所から書き始めたとはいえ、自分自身もうちょっとどうにかならなかったのか不思議でなりません
第二部は第一稿を仕上げて、第二稿も書き上げて、微修正を経ながら、投稿する予定です
その前に、第一部の大幅な改修作業を行おうと思います。特に後半。万人受けは無理だとして、でもちょっと納得できない部分が出たので、修正します
そのため、長い休養期間に入らせていただきます
凍結にはしませんし、非公開にも削除もするつもりはありません。まだ続ける気持ちとやる気があります
どこまで続くか作者自身不明です。一応、完結までのポイントポイントは考えているのですが、如何せん書く体力がそこまで残っているのか自信はありません
それでも、望む未来(完結)を想像して、皆様に見てもらいたいと思いつつ、頑張ろうと思います
精神的に成長しつつあるので、温かく見守っていただけたら幸いです
ここまで読んでくださってありがとうございます
続きを期待せず、お待ちいただけたら幸いです
【修正】
2025/06/14(土)-l.167
私は連邦生徒会書式の退部届を用意させて、必要事項を記入した。
=>私はホシノさんが用意していた連邦生徒会書式の退部届を見つけて、必要事項を記入した。