ライファン[LIFE FANTASY]〜抜忍人生第弍録〜   作:モノイクロ

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9のお話[過去]

 

 

 

 

彼の地…陽ノ本(ひのもと) の1つの国、歌山国(かやまこく)

そこを治めているうちの一人、安佐馬(あさま) 十郎(じゅうろう)がいる、和々城(わわじょう)が今、火の手に包まれていた。

 

 

 

 

 

「ぐぬぅ…我が城が…。」

「安佐馬様!こちらでございます!」

城の主である、安佐馬は今、城を建てた際に整備していた抜け道を使い、彼の忠臣にして、親友である、誠ヱ門(せいえもん)と共に場外脱出を目指していた。

 

 

(他の者達は無事に逃げおおせたであろうか…?)

「殿…城中にいた者達の心配よりも、ご自分の身を案じてくだされ。」

「むぅ…。」

 

「貴方様は陽…この国の民達を温かくしてくれる陽の光なのです。

 先日、城を抜け出し、百姓達と歌を歌いながら農作業の手伝いなんぞしていましたよね?」

「ああ、あれは面白き時じゃった。

 牛を使い、代掻をしておったが、もう少し早うさせようと尻を蹴ってやったら暴れよったよのう。」

「あの時、私や家臣の者らが来て、止めなければ、どうなっていたか…。」

「じゃから、あの時すまぬと言ったであろう!?

 それに皆、楽しそうに笑っておったし良かろう…。」

「そうです。

 皆が楽しく笑うていました。」

真剣に真っ直ぐ、そして優しい声色で安佐馬の言ったことを繰り返す誠ヱ門。

 

「生きてくだされ我が殿…。

 貴方が生きてくれたら、また、あの様な温かき時を民と過ごせます。」

「誠ヱ門…。

 わかったぞ…ワシは生きよう。

 そしてあの時、植えた稲穂を皆で見ようぞ…友よ…。」

「仰せのままに…!」

共に生きる決意を固めた主従であり、友二人…。

先の方から風を感じ、外に通じる道を一気に駆け抜けるのであった。

 

 

 

 

ーーー

 

 

 

 

 

「ぐぼはぁ!!! ごほっ!ごほっ!」

「ふふふっ…。」

 

安佐馬と誠ヱ門が脱出をしている同刻…。

和々城・二の丸付近・第二屋敷にて、尋常じゃない量の血を口から苦しみながら吐き出してる大男が一人。

そして、それを楽しそうにしながら邪悪に笑う給仕服の女性が一人。

 

 

「いいわいいわ。

 あたい作の猛毒、命名するならそうだね~…血吹溜(ちふきたまり)ってのがいいかねぇ〜。

 苦しく下向いて吐いた血が、まるで雨天後の水溜まりみたいじゃないかい。

 ほら、どう思うあんた?」

「ぐ…がはがは…。」

毒で苦しんだ人間をよそにふざけたことを言い続ける女性。

大男は女の顔を見上げ睨みつけ、何か言おうとするが喉から血が込み上げてくる為、喋ることさえできない。

 

「おやおや、何者だって言いたそうな顔だね。

 ひと月前にこの城で女給として雇われ、あんた、安佐馬家の大太刀にして山倉 誠ヱ門の実弟…山倉(やまくら) 太輔(だいすけ)

 

 あんたを始末するために送り込まれました、菜ノ花(なのは)…もとい、くノ一の華毒(かどく)でござりまする。」

「っ!? げほごほ!」

ふてぶてしくお辞儀をする華毒と名乗るくノ一。

山倉大輔は眼を見開き驚く。

彼自身まだその事実を信じられなかったのだ。

 

山倉太輔が彼女と会ったのは彼女が言っていた通りひと月前の事。

城で働いている彼女に何度も話しかけ、お互い気兼ねなく話せるぐらいの中までにはなっていた。

 

城の給仕をしていた時の彼女はとても誠実。

顔つきは色っぽいが話してみたら、とても初々しく、柔らかに笑う女性であると太輔は思っていた。

 

しかし、今のこの女の笑顔は異常だった。

人が下を向いてえずき、血を吐く程、苦しんでいるのに目をキラキラと輝かせている。

まるで好奇心旺盛な子供が新しいものを見つけ喜ぶ様に…。

 

(くそが…! 血が止まらん!)

吐血は口だけに収まらず、鼻血や血涙なども太輔から流れ始め、彼の顔はどんどんと赤色に濡れていく。

 

「うふふ、重畳、重畳…あたいの毒は。

 

 しかし、まあ、情報通りの間抜けな好色男だったこと。

 あたいだけに飽きたらず、他の給女や城下の女達にも手を出してたらしいじゃないかい。」

華毒は見下しながら、蔑み笑う。

 

 

~~~

 

 

安佐馬家に仕えている山倉兄弟。

そのどちらも戦においては武勲をあげており、個人で敵を倒してきた数ならば、弟の太輔が上回っている。

しかし、それだけであった。

戦場以外での彼の働きは何もなく、政治や商いなどの案、国力管理などは全て別の人間に押し付けていた。

 

城下では揉め事よくおこしていたが、彼の一番の問題は女癖の悪さであった。

気に入った女性には手当たり次第に手を出していき、その中には夫持ちの女性などもおり、その気がなかった相手にも強引に関係を持とうとしていた。

 

その様な愚行が多発し、ついに兄の誠ヱ門は怒り、歌山追放を安佐馬に進言するが戦働きなどを考慮され、生涯坊主頭の刑などというお茶目な刑罰で安佐馬は許したのである。

 

 

「本来は斬首ほどの罰がその程度で済み良かったな。

 これからは心を変え、誠心誠意仕えろ!

 いいな!?」

「あいよ、兄者。」

刑罰が済み、ひと通り場も落ち着いた後、誠ヱ門は太輔に念を押し、それに答えるが…。

 

(ふざけろ…!坊主でもあるまいし、誰が反省などするものか…!

 安佐馬の野郎…ふざけた罰を…。

 どいつもこいつもおれ様を下にみやがって…!

 全員いつかぶっ殺してやる!」

 

彼に反省などという気持ちはなく、この時、心中で思っていたことは醜い逆恨み。

彼には誇り高く生きていこうという武士の魂などはなく、あるのは利己的な考え方と筋違いに怒る、理不尽な感情だけだった。

 

 

 

〜〜〜

 

 

 

(ちくしょう…平和ボケした田舎娘だと思っていたが…くの一だったとは。)

吐血が止まらなく、焦る太輔。

この際命乞いをしようと試みる。

 

「血が繋がっていてもこんなもんなんだねー。

 出来の良い部分は全部、兄に取られたんだろうねー。」

「っ!!??」

「じゃなきゃこんなろくでなしの木偶の坊が産まれることもなし…不憫だねーあんたの親は。」

「ぐっ…!

 がぁ…!!」

しかし、華毒の煽りに反応し、太輔は血を吐きながら立ち上がると...。

「があああぁぁぁーーーーー!!!」

華毒に向かい、怒りの叫びをあげながら突進した。

 

 

山倉太輔がこの世で2番目に嫌いな事は下に見られること。

今まで彼は自分をバカにしてきた連中への報復は許さなかった。

仕えてる安佐馬であっても例外はなく、今回の炎上騒ぎを僥倖と感じ、騒ぎに乗じて安佐馬を亡き者にまでしようと逃げながら考えてもいた。

 

しかし、見下されるよりも嫌な事がもう1つある。

それは兄の誠ヱ門と自分が比べられること。

幼少期から出来の良い兄と比較され続けた彼は、兄の方が出来が良いなどという言葉を嫌というほど聞かされてきた。

そして、それは蚊の羽音よりも不快になり、その音源を消さなければ気が済まない程に怒り狂ってしまうようになってしまった。

 

 

「あら?」

華毒が気づいた時には太輔は飛びかかっていた。

後は床に倒し、両手で首の骨をへし折ろうとするが。

「!?

 ぐがぁっ…!」

華毒はその場から消えてしまい、太輔はそのままうつ伏せに倒れてしまった。

 

「ふふふ、まだまだ元気じゃないかい。」

すると華毒は倒れ込んだ太輔の横にしゃがみ込み、背中辺りに少し太めの裁縫針をプスっと刺し、抜いた。

 

「あ…が…?」

彼は立ち上がり、もう一度、華毒に掴み掛かろうとするが、彼の意に反し、体どころか指1本動かせなかった。

 

「ふふ、安心しな。

 今、刺したのは痺れ薬さ。

 腕や足がちょいと痺れ、頭がぼーっとする、その程度の毒さね。

 その証拠にあんたまだ、血が吐けてるだろう?」

神経系まで痺れさせる強い毒であるのならば呼吸運動の妨げにもなる。

だが、太輔が息を吸い、吐く時にむせ、血を一緒に出している。

そうなると華毒は本当のことを言っている。

 

「さて、ちょいと失礼して…よいしょっと。」

そして彼女はどういう訳か急に太輔を仰向けに寝かし直し、膝枕をした。

あまりの奇行に一瞬訳がわからなくなる太輔だったがそんな事、すぐに考えられない状況に陥る。

 

「っっっ!? ごぼ!!! がぼ!!!」

大量の吐血は外に出せず、口内や鼻腔などに残り続け、息が徐々に出来なくなり溺れ始める。

「あははっ!!! それ!」

華毒は太輔の額を押さえる。

ただでさえ痺れ薬で動けないのにこうしてしまったは上半身の重心を変えられないので立つことも出来なくなる。

「ぐぼぼっ!! がぼっ!!!」

手足も思うように動かせず、太輔は只々、溺れる苦しみ味わわされる。

 

 

人が息を止めて活動できる時間など精々一分前後…。

しかもそれは息を吸って肺に空気を溜め込んだ状態と精神状態が正常だからこそ。

突然息が出来なければ気は動転し、数十秒で溺れて、意識を失う。

そして頭に酸素がいかなくなり数分で人は溺死という死に様を迎える。

 

 

「ふふふ、女に膝枕されながら溺れ死ぬ…色狂いのあんたにはお似合いじゃないかい?」

(くる…し…い…っ!

 ダメだ…し…ぬ…。)

 

意識がかすみ始めてきた太輔が最後に思い浮かんだものは今まで抱いてきた女性達…などではなかった。

最後に思い浮かんだものは兄・誠ヱ門の顔や父や母の顔だった。

 

(なん…で…?

 あんな…やつら…の…か…お…な…んか…。)

 

 

 

彼自身は忘れ、自覚はなかったが彼は認められたかったのだ。

何でもできる兄。

母は兄だけをよく褒めていた。

唯一兄と弟を平等に接する父も彼らが元服前に戦で命を落とした。

父が亡くなり、兄は自分がしっかりしなければならなくなり、弟にも厳しく接するようなる。

兄には叱られ、母には無関心。

だから、弟は優しい言葉を求めた。

その場その時でもいいから城下に下り、取り巻きの人間を従え、母と同じ…女性を求めた。

そして次第に風評が酷くなっていき、弟は荒んでいった。

 

 

 

(なん…で…?)

家族の顔が思い浮かんだ事を考えようとするが頭が回らなり、山倉太輔の意識は暗闇に呑まれた。

 

 

 

〜〜〜

 

 

 

「逝っちまったかい?

 ふふふ、良い試し斬りならぬ試し毒になったよ、でかぶつ。」

虫を払うように膝に置いていた太輔をどかし、立ち上がる。

 

 

(おっと? 火の手が進んできているね。)

まわりの状況を見た華毒。

彼女の目的、山倉太輔の始末はすでに終わり、華毒は一旦城の外へと出た。

 

 

 

 

ーーー

 

 

 

 

(さてと…ここまで来たし、連絡だね。)

城下町を超えた先にある山まで離脱した華毒。

胸の谷間にしまっている、真っ白な札のようなものを取り出した。

 

「ほんと、便利よね~。

 涅秘(くりひめ)のが仕込んでる遠報札(えんぽうふだ)は。」

そうつぶやくと札を持っている手に気を送り込み、すると札に描かれていた術式のようなものが発光する。

 

「はいはーい、こちら華毒。

 標的の山倉太輔を始末し、任務完了しました~どうぞ~。」

札に向かって話しかける華毒。

 

 

 

 

 

ーーー

 

 

 

 

 

参兄様(さんあにさま)

 華毒姉様から通達です。」

「んん? ゴクリ…

 札を貸してくれい、涅。」

 

歌山国のとある山の中にある何の変わりもない山家。

 

黒色の和服を着た女性、涅秘(くりひめ)

横にも縦にもでかく太った男、参暗刻(さんあんこう)

そして、何人かの部下達がその山家に待機していた。

 

 

 

涅秘。

数夜忍衆の1人。

褐色肌であるが、陽ノ本女性の特徴、黒色の瞳に黒い長髪。

髪は上に紫色の玉簪をし、今は任務だからか蒼色の紐で1つに髪をまとめていた。

美しく整った顔立ちをしているがこの山屋にいる間も常に一定の無表情は変わることは無かった。

 

彼女の力。

陽ノ本では珍しく精氣(しょうき)と呼ばれるモノの使えた。

 

 

 

 

この世界には空気中や水中などに精霊と呼ばれているモノたちがおり、それに人間が術式や言葉による詠唱などの協力を働き掛け、精霊達に助けてもらう。

これらのことを精霊使いや魔法使いと呼ばれてる。

 

もう一つは自分の体内にあるエネルギー。

陽ノ本では氣と呼ばれているものを練り、身体の強化やそれを体外に色んな形に放出して相手を倒す。

この(すべ)を地によって様々な言い方をされるが陽ノ本では氣術。

忍者達には忍術などと呼ばれている。

 

そして、精氣とはこの2つのエネルギーを混じり合わせたモノの名である。

そのエネルギーを発生させることによってかなり変質的な力を発生させることができる。

念話や念聴、透視。

または、触れずに物を動かしたりなどである

 

精氣を操るには体内に精霊を取り込む必要があるが精霊にも中に入る生物の好き嫌いがあり、人間族は基本的に合わない為、精霊を取り込むことは出来ない。

修練などの問題ではなく、体質的な部分に大きく関わる為、なろうと思ってなれるものでは決してない。

 

 

 

 

「どうぞ。」

今、参暗刻に渡している札も彼女の精氣が練りこまれている代物であり、氣を送り込めば精霊が反応し使える様に術式組んであり、この札を数夜忍衆(すうやしのびしゅう)遠報札(えんぽうふだ)と呼んでいた。

 

「うむ…。 モグモグ

 まあ、予想の刻限の時間じゃし、大丈夫じゃろう。 ゴクリ」

 

 

 

この男も数夜忍衆の1人であり、名は参暗刻(さんあんこう)

でっぷりと太ったその体は大きく、後ろに三~四人隠せそうな図体をしている。

福の神の様な髭を生やしているが忍にそんな顔は必要なく、無情。

 

戦闘もこなすが食べる事と女性を抱く事。

そして何よりも金稼ぎを楽しんでいる。

彼の整えられた服装も装飾も潤沢な資金によって得た物だろう。

 

それらは生きていなければ出来ないので後方支援に回ることが多く、自分が生きる事を最優先にいつも考えている。

 

しかし、戦事や任務作業の為に常に国の情報収集は怠らず、今回の和々城襲撃と作戦の流れも彼が発案しており、参謀としてこの男はいつも活躍していた。

 

 

 

 

参暗刻は、置いてある落雁を頬張りながら、涅秘から渡された遠報札を受け取り、氣を送る。

『はいはーい、こちら華毒。

 標的の山倉太輔を始末し、任務完了しました~どうぞ~。』

「おう、刻限通りに終わったようじゃの。

 貴様のことだから、また実験で遅れると思っておったが…。」

『何さ?

 そんなに刻限通りにしてほしいなら自分でやりなよ、欲豚。』

「このアマ…! まあ良い…。

 とっとと戻ってくるんじゃぞ。

 四日後には三嶋の主がこの歌山の国の領地、全てを奪りに行く腹づもりらしいからの。

『へえ〜。

 あの小物の殿様にしてはあたいらを信じて、ちゃんと戦の前準備しといてくれてんのかい?』

「そういう事じゃ。

 わかったら、とっとと帰って来い。

 狂弍牢(きょうふろう)黒四円(こくしまる)の方も時期に終わりの知らせが入り、戻ってくる筈。」

『はん! 下手こきゃなきゃね!

 そんじゃあ、切るよ。』

そのまま札での通信が切れ、術式の一部分の光が消えていた。

 

 

「相変わらず、兄弟子のわしを敬う気なしか…。

 くの一としての能力は良いが…義妹としては下の下…。」

「参兄様、札をお渡しに…。

 後、お茶でございます。」

「おお、すまんのう。」

交換するようにお茶と遠報札を渡す2人。

 

 

 

遠報札も万能であるわけじゃなく、この短冊ほどの大きさだと2分足らずで使えなくなる。

術式に精霊か氣力を封じ込めているが涅秘が再び精霊を札内で封じ込め、通常の氣術使いにも氣と精霊が混じり合いやすいように調節している。

札を回収するのは、この札がそれに適した材質をもっているからである。

 

 

 

「涅は気が効くし、しっかりしてるわ。」

「はあ、どうも…。」

(無表情で愛想皆無じゃがな。

 まあ、わしだけにじゃなく、皆にあんな態度じゃが…。)

溜め息を出したくない参暗刻は、涅秘から淹れられた日本茶をズズッと飲み、ほっと息を吐く。

 

(早く馴染みの料亭に行き、会席の馳走と愛嬌振りまいてくれる女子をいただきたい…。)

そう思い馳せながら、結局、溜め息を零し、残りの二人、安佐馬 十郎と山倉 誠ヱ門の始末を任せた、狂弐牢と黒四円の知らせを待ち侘びるのだった。

 

 

 

 

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