ライファン[LIFE FANTASY]〜抜忍人生第弍録〜 作:モノイクロ
そこには幻夜が率いている忍衆、
普段、里に在住しているのは女子供や里の護衛で30〜40名程であるが、他国への密偵や三嶋城の護衛などを合わせると約200名近くいる、陽ノ本でも一、二を争う忍大軍である。
その里にある
一室の広間にて数夜忍衆•精鋭の1人、
「ただいま戻りました。」
「おう、
襖を開け、中に入ってきたのは
無駄のない礼節な所作でスタスタと指定のされた場所に正座する涅秘と腹をさすりながらのしのしと壱黒道が座っている場所をひとつ開けて、どしんと座る参暗刻。
「ああ、知らせは受けている。
後の三人はどうした?」
「はぁーい、お疲れさーん。」
参暗刻と涅秘が座布団に座ると同時に華毒が広間へと入ってくる。
「いやーいいもの見た見た!
山倉の木偶の坊に前に調合してた毒使ったんだけどさー、傑作だったねーあの毒と木偶の坊の姿…うふふふふ…。」
「聞きとうないは毒女。」
「何さでぶちん?」
「ったく、わしに材料の仕入れを頼みおって…。
代金は今回の爺様から出る報酬からしっかりと返してもらうぞ?」
「はいはい、わかってるわよ、ドケチさん。
もう一つお礼に今言った毒、打たれてみるかい?
血を吐き続ければその膨らんだ腹、少しは凹むんじゃないかい?」
「なーんじゃと〜?」
「なーにさー?」
「
「そうか、わかった。」
二人が戯れあっているのを他所に涅秘は壱黒道に残る黒四円と
そして、待つこと数十分…。
「はぅあ〜戻ったぜぇ〜。」
返り血まみれの狂弍牢が広間へと入ってきた。
「うわっ…なにさ
返り血まみれできったな…。」
「くひひひ…。
「狂弐牢、安佐馬は貴様が討ったのか?」
「ああ、そうだぜ、壱黒。
全身ぐちゃぐちゃにしてやったから首はねーがこれが代わりだ。」
そういうと狂弐牢は壱黒道の前に家紋が入った刀を放った。
「ふむ…先代国主、
「それが
「ああ、問題ない。」
「っしゃあ! 今回の大手柄は俺様だなぁ! 大将首討ったんだからよぉー!!!」
「はいはい、すごいすごい。」
「そうじゃなー。 今回の一連の襲撃計画はわしがほとんど考えたんじゃが…狂弐牢が一番じゃー。」
掻いた胡坐の足をバシバシ叩いて喜ぶ狂弐牢。
華毒と参暗刻はくだらない顔をして適当に相槌を打つ。
「ひひひ、よーし。
弟分の
「安佐馬の?
じゃあ、黒四、あいつが安佐馬の忠心、
「ああ、そうだぜ。 雑魚は譲ってやった。」
それを聞いた壱黒道はふむっと呟いた後すぐに狂弐牢に質問する。
「それで、黒四はどうした?」
「知らねーよ。
俺達の誰が仲良しこよしに一緒に帰ってくるんだよ?」
「あはは、言えてる。」
「わしは今回は涅秘と戻ってきたぞ?」
「まあ、別々になる理由などないので。
共に戻る理由もないですが。」
「あっ…そうじゃの…。」
互いが互いに冷め切った関係なのだが今、集まっている五人と黒四円。
この六人が数夜忍衆の中でも秀でて能力が高い忍達であり、
「戻ったぞ。」
すると黒四円が広間へ入ってきた。
「来たか黒四。」
「ああ。」
「戻ったぞじゃねーよ、一番遅く来やがって。
「…。」
「おい、黙ってねーでなんとか言えよ?」
「悪いな、多少なりとも汚れを取っていたんだよ。
薄汚れた格好で里長の屋敷に入ることなんて、出来んからな。」
「あっ? てめぇ俺様を小馬鹿にしてるのか?」
「そう聞こえたってことは多少、自分なりに馬鹿だと思ってるんじゃないか?」
「てっめぇ…!」
「おおー!殺し合いか!?
是非ともやってくれい!
今回の戦果がわしのほうに流れてくるわい!」
「はあ!? 誰一人も殺ってないデブチンになんで流れんのさ!?
どっちか死ぬんならあたいが貰っといてやるさね。」
「な・何を言うとる!? 今回の仕事を成功させるのにわしがどれだけ手間暇かけたと…。」
「おい。」
四人が口論をはじめ、取っ組み合いまでなりそうになろうとした時、壱黒道が声を出す。
静かであるが鋭く、圧のある呼びかけ。
その声に全員が強張る。
年齢的には参暗刻がこの中で一番の年上であるが、
数夜忍衆と呼ばれる前から幻夜長の元で忍として働いていた為、必然的にこの6人を取り仕切り、この忍衆を幻夜長と同じように動かせる男。
それが壱黒道である。
「長が来る。四人とも、くだらん話は止めろ。」
「えっ…ええ…。」
「う・うむ…すまんのぉ…。」
華毒と参暗刻から謝罪され、壱黒道は残りの二人を睨む。
「悪かった、壱黒道。」
「ちっ…!」
平謝りをする黒四円に対して狂弍郎は舌打ちをして
『ほっほっほっほ。 全くお主らの関係は相も変わらず険悪じゃの〜。』
すると突然、老いた男の声が聞こえてくる。
6人は声の方、この忍衆の長が座るべき上座の方へと目を向ける。
『まあ、そのぐらいの仲の方が敵になった時に互いに殺りやすいのかものぉ?』
その上座の座布団に乗っていたのは人間の頭蓋骨である。
集まった6人は誰も驚いていないが目や鼻、皮膚などは剥がされ、まっさらで綺麗な白色の頭部の骨がカタカタと喋るように口を動かしていたのである。
「幻夜長、集まり申しました。」
「「「「「集まり申しました。」」」」」
壱黒道が挨拶をして頭を下げるとそれに続くように残り5人も頭を下げた。
「ほっほっほっ…。
今回の任務、ご苦労じゃったぞ皆の衆。」
その頭蓋骨は浮き上がり、六人に労いの声を掛ける。
この頭蓋骨が数夜忍衆の長・幻夜…が放っている術である。
(里長…またこのような術で集まりに出られるのか…。)
参暗刻は訝しむ。
参暗刻は幻夜長を見たことはなく、忍衆の誰に聞いてもどこにいるのか分からない、
前から加入した狂弍牢も姿を見た事はなく、参暗刻よりも後に加入した華毒と涅秘も当然知らなかった。
黒四円は赤子の時代に幻夜長に拾われ、幼少時から彼と壱黒道に忍としての修行を付けられてはいるが、齢十で忍働きを始めさせ、その際は壱黒道が主に彼を見ていた。
黒四円曰くもう長い時期、幻夜長の姿を見ておらず、仕事の為に顔を変えていたのか素顔も朧気にしか覚えていないとの事。
(血縁で己が為に長い事働いてくれている壱黒道だけが唯一、里長の居場所を知っていると言うことなのじゃろうな…。)
自身の存在をひた隠し、安全を保っている幻夜の行動がどうも面白くない参暗刻は一度、壱黒道に幻夜と会わせてほしいと頼んでみたが駄目だの一蹴…門前払いをくらった。
自分の部下に探せたものの足取りひとつ掴めない。
(影の存在の忍とはいえ、ここまで自分の存在を隠すのはなんなんじゃ…?)
何かあると睨んでおり、まだ見ぬ里長・幻夜の行方を参暗刻は追っているのだった。
七人の集まりで話した内容は以下の通り。
・和々城襲撃に関しての報告
・三日後の歌山城陥落戦について
この二件を話し終え、集会も終わりを迎えようとしていた。
『それでは儂を加えた話はこれぐらいかの〜壱黒や?』
「そうですね。
後の細かなことはこちらで決めますので、
『そうかえ?
夜も更けてきよったし年寄りはもう、寝させてもらうかの〜。
皆の衆、後は頼むぞ〜。』
そう言い、ほっほっほっと笑った後、浮いていた髑髏はサラサラと塵なり、吹かれ、何処かへといってしまった。
「ほんっと、妖怪みたいね、うちの長は。」
「まったくな。
もう百いってんじゃねーか?
なあ、壱黒の兄ぃ?」
「次の年明けで九十九歳になられる。」
「うっは! どっちにしろ、くっそ長生きじゃーねか!」
改めて正確な年齢を聞いた狂弍牢は手を叩き、驚き笑う。
数夜忍衆という忍軍団を作った男、幻夜。
その素性は謎に包まれており、今の姿を知っているのは実の孫、壱黒道と現在仕えている国主・三嶋だけである。
「そんな御老体だったのか長殿は…。
しかし、狂弍牢、お主よく長殿の歳なんぞ知っていたな?」
「あん? そんなもん世間話で知る機会ぐらいあるだろう?」
「うーむ、そうかのぉ?
わしは貴様より後に入ってはいるが…長殿のお姿を見たことは一度もないぞ?」
「はあ?
…そういやぁ、俺様も爺ぃの
「あたいもないね〜。
涅、あんたは?」
「いいえ…一度も…。」
「むぅ…黒四、お前さんは?」
「あることにはあるが…。」
参暗刻の質問に黒四円は答え、周りは彼の方を見る。
「幼少期に修行を付けてくれたことがあっただけだ。
もう、十年近くも見たことがない。」
「なんじゃ…。」
がっかりした表情を見せ、参暗刻は壱黒道の方を向き、話しかける。
「壱黒道や、わしも長殿と一度会ってみたいんじゃが?」
「前にもその件は拒否した筈だが?」
「なぜじゃ?」
「逆に聞くが何故そんなに相見えたいのだ?
参暗刻、前にこの要求を断ったすぐ後に長を探させてたらしいな?」
壱黒道は不審な目を向け、参暗刻に問う。
「自身を守る為に厳重に秘密裏にしてるという理屈はわかる、長殿は今のこの忍衆の大将みたいなもんじゃからな。
しかし、わしらも命を賭して任務をこなしておるんじゃぞ?
精鋭のわしらぐらいには信用してお姿ぐらい見せてほしい…こう思うのはおかしなことかのう?」
秘密裏に捜索していたことがバレ、一瞬肝を冷やした参暗刻だったが視線を逸らさず、そう問い返す。
「デブの言い分にしては的をいてるな。
自分だけ安全ってのは腹立つな。」
「そうだね。
こんだけやってるんだもの、信用して正体か居場所のどっちかぐらいは教えてほしいねぇ。」
参暗刻の意見に同調する、狂弍牢と華毒。
黒四円と涅秘は無言だが壱黒道を見ている。
「確かにそういう考えはあったか…。」
ため息を吐きやれやれといった表情を見せる壱黒道。
その反応に参暗刻は思っていたものと違ったので困惑する。
「何か勘違いをしているようだが長は後ろめたいことがあってお前達に会わんという訳じゃない。
単純に御身体の都合でここに来ないだけだ。」
「な・なんじゃと?
どう言うことじゃ?」
「さっきも話で出たが長はもう、長命も良い所だ。
お頭の方はまったく問題は無いが身体のどの部分もガタがきはじめている。」
「まあ、そうね。
20〜30年前に死んでてもおかしくない年齢だしね。」
「術を使えはしているが昔に比べて随分衰えておられる…。
任務に関することも考えてくれてはいるが…参暗刻、お前の策で行くことの方が多いだろう?」
「そ・そうじゃのう…。」
「最近は床に伏せるか演奏、書物などの読み書きをしておられる。
口には出されんがもう、隠居されるのであろう。」
(なっ!?)
壱黒道が淡々と幻夜の現状を説明をする。
狂弍牢と華毒は先ほど不満の意見を出していたが、生い先短いだけという理由を聞き、興味がなくなったように態度を変えたが、黒四円と涅秘は少し驚いた様子を見せていた。
(幻夜爺様、そんなことを考えていたのか…。)
愛情を貰った訳でも、楽しい思い出を作って貰ったわけでもないが捨て子だった黒四円を拾い、忍という命を失いやすい世界で自分が死なないようにしてくれた育ての親。
現状を聞き、少し思う所のある黒四円だった。
「参暗刻、そんなに長に会ってみたいなら会わせてやる。」
「な・なぬ!? 良いのか?」
「ああ、だが少し待て。
体調が優れていたら、会わせてやる。」
「わ・わかった。」
「他の者はいいか?」
「俺ぁいいわ、興味ねーし。」
「あたいもー。」
「壱黒道、俺は会っておきたい。」
狂弍牢と華毒が申出を断る中、黒四円は頼む。
「ただ、参暗刻が先で良い。
俺との対面は本当に長の体調がいい時で良い。」
「うむ、わかった。」
その言葉を聞くと黒四円は立ち上がり、部屋を出て行こうとする。
「これこれ、黒四円、どこに行くんじゃ?」
「話は終わっただろう? 帰る。」
「なーに言っておる、今回の襲撃での報酬、その分配の話がまだじゃろう?」
「どうでもいい、勝手に決めてくれ。」
参暗刻が理由を言い呼び止めるが黒四円は帰ろうとするが。
「待て、黒四。」
壱黒道が再度呼び止める。
「なんだよ、壱黒道?
別に報酬の話なんて俺は…。」
「そうじゃない。
お前、三日後の歌山城落としから外れてるな?」
先程の話し合いで歌山城陥落戦での際、数夜忍衆の誰が三嶋軍と参陣するかの話し合いがあったがその中で黒四円はこの作戦から除外されていた。
緊急の際はいつでも出陣できるようにしておくのだが歌山の国主が亡くなったこの任務は造作もないことであり、今回参戦しない黒四円と華毒にとっては休息のようなものである。
「ああ、そうだけど。」
「だったら、今からもうひとつ仕事がある。
今回の和々城から二人、里の
男一人と女一人、夫婦だ。」
「…。」
「三日後に攻め入るから情報は十分に揃っているが一応、聞き出し、終われば片付けておけ。」
壱黒道は淡々と仕事内容を伝え、黒四円は無表情でそれを聞く。
仕事内容は拷問を行っての情報の引き出し。
里内には食料や道具などを保管などをする蔵の他に別の用途で使用する蔵がいくつかある。
四ノ蔵は俗に言う拷問部屋のことであり、そこには捕らえた捕虜の拷問を行い、有益な情報を吐かせる為の建物である。
「おいおい、なんだよそれ!
そんな面白いこと俺様にやらせろよー!」
「狂弍牢、お前は城落としで明日に出立するだろう。」
「拷問と殺人で俺様が疲れるかよ、むしろ、最高の癒しだぜ!」
「駄目だ、今夜ぐらい休んでおけ。
それに貴様がやると、口を割らす前に事切れる。」
「ちっ! つまんねー!」
「黒四、頼むぞ。」
「…わかった。」
了承した黒四円は部屋を出て行く。
内心複雑だったのか顔が少し曇っていたが誰もその事には気づかない。
ただ1人、壱黒道以外は…。
(やはり、あいつは情が抜けきっていない部分があるな…。
未熟な…。)
「華毒、お前さんも痛めつけるのは好きであろう?
黒四円と変わらんでよかったのか?」
「ちょいとデブちん、人聞きの悪い事言わないでよ。
あたいは自分作の毒薬を試すのが好きなの。」
「なーんにも人聞き悪くないのぉ。」
「今回、新作の毒薬は安佐馬の木偶の坊に試したし、拷問用の新薬はまだ作ってないからね〜。
あたいはゆっくりとさせてもらいまーす。」
「そうかいそうかい。
拷問ぐらいならしたことあるが、効果的な策は今ひとつわからんからのー。
涅もそうであったか?」
「…。」
「涅?」
「えっ?
え・ええ…そうですね…。
命じれられればやりますが。」
「そういえば、涅、お前は長に会ってみたいかの?」
「え・えっと…。
いいえ…結構です。」
「…わかった。」
涅秘は参暗刻の提案を断り、いつも通りの冷静な装いをして、壱黒道に頭を下げたが壱黒道は彼女が隠居の件を言った後にずっと俯き、何か考えているようだったのを見ていた。
不審に思ったが聞いた所ではぐらかされるのはわかっており、詮無き事と思い、壱黒道は話を続ける。
「後は報酬の話だろうが、明日、出立なので俺はもう休む。
俺は今回の襲撃に対して
「私も明日があるので失礼します。」
壱黒道と涅秘の2人も立ち上がり、その場を後にした。
(むう…。)
参暗刻は多少伸びてきた顎髭をいじり、少し考える。
(幻夜に会わせてくれるというのは意外じゃった…。
何か秘密裏に画作をしているのかと思うておったがそんなことはなかったのか?)
ここまで忍衆全体に長の存在を隠しているのだから、何かこれから大一番があり、それには大きな富を生み出す気配を感じていた参暗刻だったのだが、アテが外れてしまったかと思い、落胆する。
(いや、しかし、本当の所なんぞまだわからん。
会わせると言いはしたが、正確な日時なんぞなく、このまま
幻夜長本人に会えば、裏があるのがわかるかもしれん…。)
参暗刻という男の才能。
それは諜報能力や戦力・知力よりもこういった富や地位に関係する物事を察知出来るという所にあり、それに合わせて柔軟に世を渡るのが上手いのである。
戦乱時の
生き延びる為にはとにかく大丈夫な方に向かうしかない。
自分に武の才がない事をいち早く感じ、世間の情報収集と人心を学んで、今日まで参暗刻は生き延びてきたのである。
(わしを置いて裏で話を進めると思うなよー、たかが忍風情が…。
その話を知り、甘い汁を啜れるというのなら、雫一滴とも垂らさずに吸わせて貰おうぞ!)
腹の中でそうほくそ笑む参暗刻は余った狂弍牢と華毒で報酬の分配話に花を咲かすのであった。