ライファン[LIFE FANTASY]〜抜忍人生第弍録〜   作:モノイクロ

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17のお話[過去]

 

 

 

 

 

幻夜(げんや)の屋敷から出た黒四円(こくしまる)

壱黒道(いっこくどう)の命で受けた仕事をする為、四ノ蔵(しのくら)に到着する。

 

 

中に入ると壁に設置された蝋燭が部屋を薄らと照らしている。

薄暗い内部と血生臭い異臭がその空間を不気味なものへと変えていた。

 

「黒四円様、おいでになられましたか。」

「ああ。」

蔵内に里の忍がおり、中に入ってきた黒四円に片膝を付き、頭を下げる。

 

「壱黒道の命令でここに来た。

 和々城(わわじょう)から捕らえてきた男女2人は?」

「はっ。

 男の方は三石分の石抱(いしだき)の拷問を行っており、女の方は百叩きを行っていたのですが…三十一回目で意識を失いました。」

「死んだのか?」

黒四円はその報告を聞き、ギロっと静かな怒りの眼差しを報告した者に向けた。

 

「い・いえ!!!

 息をしているから、大丈夫だとは思うのですが…。」

「だったら水でも掛けて起こせ。

 そして男の石抱も止めさせろ。」

「は・はい。

 しかし、よろしいので?」

「石抱だってやりすぎたら、痛みの激しさなんかで死ぬことがある。

 後は俺がやるから、さっさと片付けてこい。」

「は・はい!

 申し訳ありませんでした!」

指示された事を行うべく、その場にいた1人の部下はそそくさと奥へと向かった。

 

(石抱四石分、女に百叩きなんて下手したら死ぬんだがな…。

 人手も増えて訓練指導が行き届いてない…。

 今のも新参者だし、人間がどの程度、傷付いたら死ぬのかまるでわかってないな…。)

やれやれと溜め息をつきながら、黒四円は蔵の奥へと進んでいくのだった。

 

 

 

ーーー

 

 

 

四ノ蔵の入り口。

そこは一見、里内の人達が共通で使えるような備品が置いてある。

麻縄(あさなわ)や金槌に大小様々の釘。

別の作業などに使いそうではあるが拷問を行う場であるこの蔵にとって、ここにある物は主にそれ関係で使われる。

 

入り口の奥にある扉の向こうに行くとそういう場であることが如実にわかる。

大小の鋸や木製•竹製で出来た笞刑(ちけい)で使用する際の叩き棒、様々な形と太さをした鉄棒。

 

使用後に洗ったりなどはほとんどしていないからか、古く乾いた血の色がその道具を不気味に際立たせいている。

しかし、この場にあるのは予備だったり、使い古されたり物が置いてあるだけなので使用する拷問具は部屋の近くかその中にある。

 

 

予備の道具置き場の奥に進むと座敷牢が5部屋ほど用意されている。

清浄せずに湿気り、血の色が付いた畳に捕虜を放りこむ。

 

現在、牢に居るのは女性1人であり、これから和々城から捕え、拷問する夫婦の片割れかと黒四円は思い、横切る。

 

1番奥の座敷牢、そこまで着くと斜め下に土を掘り、石段で道を作った地下空間、拷問の間が広がっている。

 

水責め刑を行う為にある水溜の中に配置されている人を張り付けられる水車。

三角木馬があり、騎乗箇所と横にある重石には乾いた血の付着。

 

 

石抱刑で使用される算盤板(そろばんいた)周辺には先程、番をしていた部下と他2人。

そして、板の上に褌一丁で正座している、捕虜の男がいた。

 

「うっ…ぐぅぅ…。」

両手は後ろに縛られ、顔は先程まで激痛で叫び疲れたのかぐったりと項垂れている。

 

「重石はどけ終わったんだな?」

「はい!」

「じゃあ、女をここに連れてこい。」

「わかりました。」

3人いた部下は牢にいる女性を連れてこようと拷問の間を一旦出る。

 

「おい、口きけるか?」

「貴様は…さっきの忍共と同じか?」

「口は聞けるか。

 重石をもう一つ脚に乗せられるかもう何時間か座っていたら、気を失っていただろうな。

 だが…。」

「うっ!?」

黒四円は彼の髪を掴み、そのまま前方に放り投げる。

「ぐあああ!!!」

地面にうつ伏せで倒れこむ捕虜の男。

膝の痛みがまだ、引いていなく、赤黒い凸凹した痕を元に鋭い痛みが体中を駆け巡る。

 

「質問はするな、俺がする。

 歌山国(かやまこく)に構えている本城、歌山城(かやまじょう)を落とすことになっているだが…。」

「な・なんだと!?」

痛みで顔を歪ませていた捕虜の男だったがその事実に驚木、顔を上げ、黒四円の方を向く。

 

「いつだ!? いつそのようなことを!?」

「…。」

「がああ!!!」

倒れた捕虜の男の脚を軽く蹴る黒四円。

だが、今の彼にはそれさえも苦痛で言葉を失ってしまう。

 

「質問するなといった筈だが? 二度も言わせるな。 

 次にしてきたら、さっきよりも強く蹴る。」

「うぅ…。」

 

「まあ、周辺や内城の事などは攻め込む以上、もう調べ上げてはいるんだが…お前が俺達に知っていない事を知っていれば聞いておきたくてな。

 端的に聞くがお前、何か知っているか?」

「…。」

「なんでもいい、とりあえず言え。

 兵の数、伏兵を潜めるに適した場所、山倉兄弟の様な戦の腕が立つ家臣…もしくは兵士。」

「…。」

「物資の事とかもな。

 補給地点、いつまで食い繋げられるとかな。

 まあ、今した質問は大体、調べ上げてると思うがな。」

「…。」

 

「だんまりか?」

「当たり前だろう!?

 (わたくし)は歌山国に仕える人間だ!

 安佐馬(あさま)様には大きな忠義心を持っている!

 いや、私だけではない!

 安佐馬様の側に仕えてきたものならば、恐らく皆が私と同じ意志を持ってこう言うだろう!」

「…。」

「殺したければ殺せ…!。

 痛めつけるのであれば舌を嚙み切って死んでくれる…。」

「そうか…。」

捕虜の男が言い終わると黒四円は彼に背を向ける。

 

(慕われてたんだな…。)

捕虜の男の思いを聞き、ふと2日前に始末した誠ヱ門(せいえもん)の顔を思い出す。

何故そんなことを思い出したのか黒四円は自分自身の事なのにわからなかったが彼も最後まで安佐馬の事を思い、自分に始末されたと思い出す。

 

 

思い馳せる黒四円。

なぜ何もしてこないんだと不思議に思う、捕虜の男だったが数分後…。

 

「黒四円様、連れてきました。」

「あ…ああ。」

部下3人が頼んでいた、もう1人の捕虜の女を連れて、拷問の間へと入ってきた。

 

「なっ!? り・梨津(りつ)!!!」

「あ…あな…た…?」

梨津と呼ばれ、反応する女性。

薄汚れた布を身に纏い、意識朦朧の中2人に肩を担がれ強引に連れてこられる。

水を掛けられ、ピッタリとくっついた布越しの身体には、幾つかの打撲痕がある。

その痕は片方の頬にも見られ、とても痛ましい姿であった。

 

「お前ら…顔も打ったのか?」

「え…? は・はい…そうですが…。」

「貴っ様らあああーーー!!!」

「顔は打つなよ、意識飛んだら時間食うだろうが…。」

「あっ! 申し訳ありません!。」

「とりあえず、吊るせ。」

「「「はっ!」」」

女性は後ろに両手を縛られており、そこに麻縄を足し、ぶらんと足先が地面に少し着き、上半身がうつ向く状態の吊るされ方になる。

 

 

「はなせ! 妻をはなせぇーーー!!!」

「じゃあ、お前らは蔵の入り口で待ってろ。

 終わったら片付け頼むから。」

「「「御意。」」」

指示を出され、三人は拷問の間から出ていく。

途中、捕虜の男が散々怒鳴っていたが黒四円と忍三人はまったく耳を傾けていなかった。

 

 

「さてと…。」

「っ!?」

再び捕虜の男の方を見る黒四円。

その顔を向けてきた捕虜の男は自分の痛みが一瞬消え去る程の衝撃を受ける。

 

(ひ…瞳が…。)

決して黒四円の目の数が増えたりとかそういう異形の姿になったという話では無い。

只、その瞳には光が無くなっていた…。

何処までも何処までも暗く…冷たく…。

まるで死者のように冷たくなった者が向ける眼光であり、その目を向けられた捕虜の男は凍てつく様な感覚を味わってしまった。

 

その死者がゆっくりと捕虜の男に近づいていく。

何を思い…何を考えていればそんな風に瞳に闇を持たせるのか見当もつかないが捕虜の男が黒四円に思ったことはひとつ。

こんな感情を捨てた者は幾らでも自分の身体に激痛を与え、血も涙もない手段で自分に歌山国のことを何か吐かせようとしてくると…。

 

「それじゃあ、再会だな。」

(ぅぐ…!)

倒れた捕虜の男は顔を上げており、黒四円はその目をじっと見て、そう言う。

 

「警告としてもう一度、質問するぞ?

 歌山城のことを全て話せ。

 それで終わりにしてやる。」

「っ…! ふんっ!」

しかし、男は黒四円の瞳に怯まず、そっぽを向き、黙りこくった。

あくまで口を割らないつもりである。

 

「そうかい…後悔するなよ?」

そう言い捨てると黒四円は立ち上がり、この部屋の備え付けである暖炉の方へと歩いていく。

部屋を暖める為に設置した訳では決してないその暖炉…。

そこから1本の鉄棒を掴み、引き抜く。

 

(くそ…。)

捕虜の男はそれを見て、嫌気が指す。

さっきまで暖炉にあった鉄棒は熱さられており、特に火中にあった部分は熟れた柿色の様に熱されている。

あんなもの身体に押し当てられれば、その部位はただでは済まない。

 

(耐えるしかない…!

 拷問も1日中するわけではない。

 隙が出来れば、妻と一緒に抜け出せる可能性があるやもしれぬ…!)

僅かな希望を持ち、覚悟を決める捕虜の男。

 

 

だが、しかし…。

 

 

「…。」

「?

 お・おい?」

黒四円は、男の横を通り過ぎて行く。

そして…。

 

 

 

 

ジュウゥゥゥ…

「っっっああああああぁぁぁぁぁ!!!!!」

「…。」

「なっっ!?」

捕虜の男の妻・梨津と呼ばれていた女性の悲痛な叫びが拷問の間に響き渡る。

黒四円は彼女の片頬にさっきの熱した鉄棒を押し当てていたのだ。

 

「おい!!! 何してる!? やめろ!!!」

捕虜の男は必死に訴えかけるが黒四円は気にせずに続け、女性の叫びが止まる事はない。

 

そして、数分の後、ふむと声を出し、黒四円は女性の頬から鉄棒をどけ、捕虜の男の方を見る。

 

「見ろ。」

「っ…!?」

痛みに耐え疲れ、項垂れている女性の顔を無理矢理上げ、捕虜の男に見させる。

片頬が火傷で焦げ爛れてしまい、見るのも憚られる痛ましい顔へとなってしまった。

 

「な…なんて…酷い事を…。」

「次は腹にでもいくか。」

「っ!?ふざけるなぁ!!!

 何故、妻に手をかける!?

 私だ!私に行えばよかろう!?」

 

「一つ目は家臣の妻如きが俺たちの知りたい戦での役立つ情報を知っているとは思えないから。

 二つ目、あんたが口を割ってくれるのはこの方が速いと思ったから。」

「なに…?」

 

「あんたは強い人間だからな。

 死んだ方がましという体の痛みにも、耐えることが出来るだろう。

 事実、石抱を耐えて見せている。 口の軽い奴なら算盤板に座らされるだけで簡単に吐く。

 

 加えて善人だ。

 誰かを思いその為に死ぬことが出来る。

 舌を噛み切って死ぬという言葉…あれは真だと俺は思っている。」

 

黒四円は捕虜の男の肉体的苦痛を凌駕する精神の強さとその精神力の強さの支えになっている忠義の厚さを讃える。

 

しかし、それは淡々と説明しているだけの冷たいものであり、捕虜の男からすると今の拷問されている状況と合わせ、黒四円の称賛は、聞いても気味の悪い不快感しか与えなかった。

 

「だから、他者を思いそれを強さに変えられる人間にはこれが有効。

 そういう人間は他者を…特に自分と親しい間柄の人間が傷つく事は我が身を切り裂かれるよりも辛き事。

 俺はそう教わり、実践の結果、確かに効果的だったから、俺は今、あんたの嫁さんを傷つけている…理解したか?」

「お・鬼畜生(おにちくしょう)か…? 貴様は…!?」

「そう見えるのは当然だな。」

 

 

ジュウゥゥゥ…。

「ぃやあああああぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!!」

「よせぇぇぇーーーーー!!!!!」

 

淡々と声色を変えずに説明をした黒四円は、予告通りに捕虜の女性の腹に熱した鉄棒を押し当てる。

女の苦痛の叫びと男の必死の静止の叫びが飛び交う中、黒四円は表情ひとつ変えずにその行いを敢行する。

 

 

そして、しばらく苦痛を与えたと思った、黒四円は鉄棒を離し、男に問いかけた。

「楽にさせてやりたいなら、俺のさっきの問いにさっさと答えろ。」

「うぅ…。」

苦悩で項垂れている男…今にも泣いてしまいそうな顔をあげた。

黒四円は喋ると確信し、女から離れようとしたその時…。

 

「…ま…せん…。」

「ん?」

「ぃ…けません…。

 あなた…。」

「り・梨津?」

「安佐馬様を…歌山の方達を裏切る行為は断じてしてはいけません…!」

最初は聞き取りづらかったか細い声…。

しかし、その声は徐々に力強い意志を込めた言葉となって彼女の口からはなたれた。

 

「貴方も私も…先代国主・歌山様(かやまさま)の代から仕えてきた由緒ある武士の家系!

 妻が酷い目に遭うのを見たくないなどという己が気が楽になりたいが為に、主君を…国を売るような行為など武士の名折れ…!

 私なら大丈夫です…大丈夫ですから…。」

「梨津ぅ…。」

力がこもった瞳をしながら、自分の旦那に強い精神を説く捕虜の女性・梨津。

その後、力強い瞳から一変させ、優しい表情をして自分は大丈夫と旦那に言い聞かせた。

 

 

 

強い女性である。

肉体的にではなく、精神面でこの女性は強い。

その強さは国主・安佐馬への忠義や国を守りたいという愛国心。

そして、旦那を裏切り者という汚名を着させないという愛情が彼女の誇り高い強さの源であった。

 

 

 

(なんだ…この気持ちは…。)

それを見せられ、黒四円は…。

わからない…何故だかわからないのだが胸の奥がザワザワして、何か内に蠢いている様な不快感が彼を襲う。

 

(壱黒道と参暗刻が下調べしたんだ。

 今更こいつから新しい情報を手に入れられるとは思えない…。)

壱黒道と参暗刻の情報収集能力は忍衆の中でも群を抜いて高く優れている。

黒四円もそこは疑っていなく、落城戦ももう3日前なのでやるだけ無駄かもしれないと思い、捕虜の男を見るが…。

 

 

(だから、なんだ?)

黒四円はすぐに思い直す。

 

彼らはそもそも敵国の人間であり、仮に逃したら、敵側に今回の落城戦のことを言いに戻るし、男は負傷が治れば、今回の拷問の雪辱を胸に闘志を昂らせ、参戦するに決まっている。

 

(もういい…さっさと終わらせたい…。)

少し目の光が戻りつつあったがすぐにそれは無くなり、黒く澱んだ冷たい瞳になる。

 

 

黒四円は女性の所まで行くと彼女の着ていた布を破き、後ろに回る。

「くぅ…///」

「良い尻だ。

 安産体型で世継ぎも心配なかっただろうに…。」

吊られた女性の尻を撫でる黒四円。

 

「人の妻を…貴様…!」

「お二人さん、子供は?

 若そうだしまだ、済ませてないだろう?」

「ふん…だったらなんだ?

 旦那の前で私を犯すか? 痛みの後は辱めか? どこまでも下衆ね…。」

「いや、あんたが重要な事を知っていて、快楽で落ちてくれるならそうするがな…。」

「出来るっていうの? あそこが小さそうな坊主に?

 私たちよりも若そうなくせに調子にのらないで。」

「…。」

黒四円は言い返す事はせずに熱した鉄棒を彼女の目の前にやる。

 

「今からこれをお前のナカに入れる。」

「「っっっ!?」」

その発言の恐ろしさに夫婦二人は絶句してしまう。

 

真っ当な倫理観を持って生きていればまず、そんな方法を思いつかない。

そして想像もつかない痛みが彼女を襲う。

 

「貴様らがいくら強い決意を持ち、改めたとしようとも…無駄だ。

 俺達、数夜忍衆は…どんな手を使っても吐かせる。」

「い・狂かれてるわよ、あんたらっ…!」

「だから、こんな発想が出るんだよ。」

そう言い残すと黒四円は女性の後ろに回る。

 

 

 

「や・やめっ…!」

捕虜の男が涙を流し、言う。

「ぎっっ…!!!」

熱された鉄棒が先端が触れ、そしてそのまま…。

 

 

 

「ゃああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっ!!!!!!!!!!!」

「やめろぉぉぉーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!」

悲鳴と静止の絶叫が拷問の間に響きわたった…。

 

 

 

 

 

 

ーーー

 

 

 

 

 

 

「それだけか?」

「ああ…それ以上は何も知らない…。」

 

彼の妻は失禁、気絶。

見るも惨い残虐な仕打ちを受ける自分の嫁。

悲痛な絶叫も相まり、男はたまらず要求を呑み、黒四円に自分の知る限りの歌山城の事を全て喋ってしまった。

 

「…。」

「くぅ………!」

捕虜の男は倒れたまま地面を自身の涙で濡らしていた。

国の不利になる事を教え、忠を果たせず…そして愛し、妻にまで(めと)った梨津をあんな目に合わせてしまった。

先程、国を守る為に口は割らないで欲しいと頼まれたのだが、彼女が苦しむ姿に自分は我慢出来ずに彼は喋ったのである。

 

非情に徹して妻がどんな目にあおうが口を割らないか、裏切り者になろうとも妻があんな目にあう前にすぐに歌山の事を喋ってしまうかのどちらかで良かったのだが…。

 

(なんて…中途半端な男なのだ…!

 私は…!!!)

忠義と愛。

その2つを天秤に掛けられオタオタとし、どちらも守れなかった。

即断即決出来ない自分の決断力の無さに男はただただ下を向きながら悔し泣きをするしかなかった…。

 

(殿…皆んな…梨津……すまない…。)

捕虜の男は心の中で何度も詫びる。

そんな思いのなかその時………。

 

 

 

ザシュ

 

突如聞こえた切り裂き音。

そしてその後に数秒間、小さな飛沫音が聞こえた。

 

「えっ?」

男は俯いた顔を上げていく。

音のした方は彼の妻が吊らされている方向だ。

失禁した為、彼女の地面は尿で湿っているがさらに別のモノが流れ始め、湿った地面がみるみる広がっていく。

吊らされた彼女の左下半身が赤く染まっている部分があり、その後を辿っていくと左上半身が真っ赤に…そして左首筋辺りを大きく切り裂かれていた。

 

彼女の血である。

最初に激しく血飛沫が舞ったのか左の方に点々と水痕があり、壁にまでかかってしまっている。

切られた首から真新しい血がドクドクと流れ、彼女の吊らされた部分は赤黒く湿っていき、固めてもない地面の土が彼女の赤い水分を無情に飲んでいく…。

 

「あ…ああ…ああああ………。」

そんな人の姿を見れば誰でもひとつの考えに行きつき、男はその残酷な姿を見て、理解してしまった。

彼の妻は死んだのである…。

 

 

「うわああああぁぁぁぁぁぁ!!!

 梨津ぅ!!! 梨津ぅぅぅ!!!!!」

男は立とうとした。

石抱で負傷した両足をなんとか動かそうとする。

彼は両手を後ろに縛られ、うつ伏せに倒されているだけなのでゆっくり…本当にゆっくりとなら、芋虫のようにでも這って、彼女の側までなんとか行けるのだが…。

 

 

「っと…。」

「ぐあぁぁ!?」

うつ伏せに倒れている捕虜の男の上に馬乗りになる黒四円。

そして髪を掴んで顔を上げさせ、首元に自身が扱っている鎖鎌の鎌部分を当てる。

 

「聞きたいことは聞けた。

 もう、逝け…。」

「話すことは話したのに…何故だ…?」

「終わらせてやる、楽にさせてやれ。

 そうは言ったが助けるなんて言ったか?

 貴様らは敵だ。

 そんな奴らをみすみす逃すわけないだろう。」

「うぅ………。」

 

「そもそも、この四ノ蔵は拷問と処刑をする場所だ。

 生かしておくなら、捕虜用の別の蔵もある。」

「…。」

「どっちみち、貴様ら二人は死ぬ定めだったんだよ…。」

淡々と事実を話す黒四円に男は静かになる。

さっきまでの咽び泣く声すらも聞こえなくなり、シンっとした静寂が少し…。

 

そして黒四円が口を開く。

「言い残す事とかあるか?」

「国よ…家族よ………すまぬ………無念だ…。」

そう言い終わった後に鳴る、切り裂き音…。

 

 

 

 

 

「終わった…。」

 

頬にかかった血を拭い、立ち上がった黒四円は小さくそう呟いたのだった…。

 

 

 

 

 

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