ライファン[LIFE FANTASY]〜抜忍人生第弍録〜   作:モノイクロ

19 / 43
18のお話[過去]

 

 

 

 

 

「蔵の番、交代に来たぞー。」

「お疲れ様です。」

四ノ蔵(しのくら)にいた三人の数夜(すうや)の忍達。

そこに一人の交代がやって来た。

 

「今、事の最中だぞ。」

「うわ…間の悪い時に来ちまったな…。

 はあ…片付けか〜。」

「へへ、頑張れよ。」

四人の忍が軽く話し始めた。

 

「もしかして、精鋭の人がやってんの?」

「ああ。」

「うへー… 狂弍牢(きょうふろう)華毒(かどく)か?」

「いいや、黒四円(こくしまる)さんだ。」

「ああ、良かった。」

「え? なんで安心してるんですか?」

「ああ、お前さんまだ日が浅いのか。

 この蔵使った後に死体の片付けとかするんだが、あの野郎(狂弍郎)の後って本当、地獄絵図なんだよ…。

 目とか耳、肉片が至る所に飛び散っている。」

「ああ、俺なんか(はらわた)が巻きついてる鉄棒を見たよ…。

 意味わかんなかったわ。」

「ええ…。」

 

「華毒の奴なんかこっちの身も危ないよな。

 触っただけで侵される毒なんかも使って、どんだけ神経尖らせて掃除しないといけないか…。」

「た・大変だったんですね…。」

新参の忍が引き気味に話を聞き、三人はその時の事を思い出し、ため息を吐く。

 

「というか忍ってこんなこともするんですね…。

 自分、三嶋(みしま)の足軽からこの忍衆に来たんですけど、てっきり密偵とか偵察とかしかやらないと思ってましたよ。」

「基本的にはそうだろうが、三嶋国主様お抱えの忍大軍。

 頭数多い分、仕事も回ってくんだろう。」

「落城戦も戦場(いくさば)に出張ったりもするらしいし、忍衆?って思うわ、本当に。」

 

忍とは本来、他国に忍び込み、様々な国情を調査し、自国に報告するのが主な務め。

仮に戦で呼ばれる事があっても、敵国側の状況を知る斥候(せっこう)などの扱いになるため、武士・兵士の様に戦場に立ち、戦う忍は珍しいものである。

 

しかし、数夜忍衆は三嶋に仕える前の傭兵時代から様々な場所で合戦を行い、戦果をあげている。

その集団に目をつけ、三嶋は彼らを召し抱える様になり、二ヶ国の国獲りを成功。

その功績は限りなくこの数夜忍衆のお陰となるものが大きいのである。

 

「まあ、確かに忍の務め以上に働いているとは思うが実際、戦場での働きも見事なものだよ。

 今回の国主の首を獲ったのって狂弍牢なんだろう?

 安佐馬(あさま)って国の防人武人(さきもりぶじん)って呼ばれる程の御仁なんだ、そんな相手に勝てるとはな…。」

「そうだな、あいつ人間としては最悪だけど武力は確かだぜ。」

 

「そんな事言ったら、前の紅阪ノ国(こうさかのくに)獲りでの壱黒道(いっこくどう)様の戦果は物凄かったらしいぞ!

 大将首を八つ九つ…正に悪鬼羅刹(あっきらせつ)の如くだったとか…。」

「あっそれ聞いたことあります!

 それじゃあ、やっぱり他の人達も強いんでしょうか?」

「いーや、参暗刻(さんあんこう)や華毒も腕は立つらしいがそこまで化け物じみた強さはない。

 ただ、あの二人は突出した知識を持っているからあの位置にいるってことらしい。」

「突出した知識?」

「ああ。

 参暗刻なら軍法や兵法。

 華毒なら毒薬学の知識。

 最近入った涅秘(くりひめ)って娘も精氣術(しょうきじゅつ)っていう特殊な術を持ってるから贔屓されてんのじゃねーかなー。」

「へえ、そうなんですか。

 じゃあ、あの黒四円って人は…。」

 

「おい。」

「「「「っ!?」」」」

四人の番をしていた忍に声をかける黒四円。

不意に喋りかけられた事で驚き、振り返ると彼の姿は返り血を浴び、片手には風呂敷に包まれている何かを持っていた。

 

 

「お・お疲れ様です! 黒四円様!」

「ああ。

 終わったから片付けといてくれ。」

「「「ぎょ・御意!」」」

そして、三人の番はそそくさと蔵の奥へと向かって行った。

 

(み・皆んな行ってしまった…。)

さっきの四人の忍の中で新しく数夜忍衆に入ってきたこの忍。

 

三人はまだ仕事中なので反射的に行ったが彼は思わず立ち止まってしまった。

番の交代で休息をしに、自分の家に戻るつもりだったから。

 

「…。」

(見られてる…。

 もう、休息返上で片付け行くか…。)

じぃっと見られ居心地が悪くなる新参の忍。

この時代で上の者に命を受け、後からやりますと言える筈もなかった。

 

(しかし、若いなーこの人。

 自分よりも五つか六つは離れてるだろ。)

黒四円の外見を見て、率直な感想を抱く。

自分よりも若い人間に使われて、根無し草だなーっと心中、自傷気味に自分を笑う。

 

(まあ、若い時からこんな血生臭い事させられて、哀れにも思うが…。)

 

色々と思いながら彼は黒四円が持っている風呂敷に目をやる。

何か金目の物でも手に入ったかと思い、良いなーっと羨むが…。

 

(えっ? 中から血…?)

最初は返り血が風呂敷についているのだと思ったが風呂敷から垂れるように赤い水滴が1粒こぼれ落ちた。

(よく見たら、湿ってるし、一体何を持って…。)

 

「おい。」

「っ!? は・はい!?」

「あんたは休息か?」

「え? はい…そうですが。」

「そうか、落城戦には行くのか?」

「はい、参暗刻(さんあんこう)様の隊にて…。」

「だったら早く帰って休んだらどうだ?

 勝戦に等しいとはいえ、下手したら死ぬぞ?」

 

簡素な助言をして、黒四円はスタスタと新参忍の横を通り過ぎ、四ノ蔵から出ていく。

 

黒四円の後ろから丁寧な礼の言葉が聞こえてきたが彼は振り返らずに歩いていく。

 

「ふぅ…行ってくれたか…。

 しかし、なんというか…わからない人だなぁ。

 無表情で感情が読みづらいというか…。

 まるで人形みたいだよ。」

新参忍は気味悪そうに黒四円の背を見た後、自宅へと向かうのであった。

 

 

 

 

 

ーーー

 

 

 

 

 

「ここに居たか、黒四(こくし)。」

壱黒(いっこく)?」

里外れの川のほとり。

そこには壱黒道と黒四円がいた。

 

壱黒道は黒四円を探していたらしく、彼の居場所に見当を付け会いにきたである。

黒四円はというと火を焚き、川魚の下処理をしていた。

 

「頼んだ仕事の結果を聞きにきたのだが?」

「わざわざ、そんな…。

 出立前に報告に行くつもりだったんだがな。」

「気にかかってな。」

「そうかい。

 まあ、吐かせた情報は…。」

自身の作業の手を止め、壱黒道に報告をする黒四円。

 

〜〜〜

 

「こんなもんだが、まあ、もう調べ上げてるような事しか言わなかったよ。」

「無駄手間だったか…ご苦労だったな。」

「ああ。」

 

「何をしている?」

「何って、小腹空いたから魚焼くんだよ。」

「ほう…魚二匹分に対し、わざわざ焚き火を二つ用意するとはな…。」

「…。」

 

壱黒道の言う通り、焚き火が二つ用意されていた。

その一つは何かを囲うように作られており、火力が強く、中で何かを燃やしている様だった。

 

「肉が灼けていく匂いだ。

 今日、殺した夫婦の首でも火葬してるのか?」

「…だったらなんだよ?」

「そういうことはやめろと言ってきた筈だぞ。」

「…。」

声こそ荒げてはいないが、どこか重みのある静止の言葉を黒四円に投げかける。

 

「行為に意味が無く、逃してやろうと哀れんだりでもしたか?

 余計な感傷だ。

 そういう気の乱れは土壇場でお前の邪魔をし、殺しにくるぞ?」

「……実際に意味の無い行為だっただろう?

 なんの情報も持っていなかったんだから…。」

 

女性が意地を見せたあの時…。

あの時の心境を言い当てられ、黒四円はバツが悪くなり、不貞腐れたように言い返す。

 

「時間の無駄などという問題の話ではない。

 感傷ついて説いているのだ。

 察しているのに無駄な反論は止めろ。」

壱黒道は変わらない口調で淡々と説教のように言葉をかけていく。

 

「数夜忍衆に…ましてや爺様に育てられた我ら二人に情け、哀れみなんぞという感情は無要。

 只々、与えられたお役目をこなす、精巧無比な忍に…そして、悪鬼・阿修羅の如き強者(つわもの)になればいいのだ。」

「強者であれという教えを違えているつもりはない。

 和々城落としの時も修羅場に出会い、強者を殺してきた。」

山倉 誠ヱ門(やまくら せいえもん)を討ちしこと…それについては流石だ。

 安佐馬の剣術指南役の任をしていたのは奴だ。

 安佐馬にも剣才はあったのだろうが、現状では其奴(そやつ)が歌山一の強者だったろうな。

 惜しいな…。」

「自分が討ち取りたかったか?」

「安佐馬の方も時期が来るまで待ちたかったが…仕方がない。

 俺と闘う…強者の運命(さだめ)の中にいなかっただけのことよ。」

 

壱黒道は自身の手を見つめた後、ギュッと拳を握り締める。

冷酷無比な男だが、強さを求めるその貪欲さを見せられ、黒四円は相変わらずだと思う。

 

「まあ、今は置いておき、感傷の話だ。

 狂弍牢の様な狂人の心持ちになれとまでは言わん。

 だが、非情に徹しろ。

 それだけだ。」

「…。」

「わかったか?」

「わかったよ。

 修行時代のように説教するな? 壱黒兄さん。」

「冗談以外でその呼び方をするでないぞ。」

 

「それで? 説教するだけの為に来たわけじゃないだろう?」

「うむ、爺様の所に行くぞ。」

「えっ?」

何気無く言われ、黒四円は言葉が詰まってしまった。

 

「爺様が?

 いや、さっきの集会で御身体が悪いって。」

「ああ。

 だが、少し話をするぐらいならいつでも出来る。」

「だったら、参暗刻が先に会うんじゃないのか?」

「あのような俗物(ぞくぶつ)の用などいつでも良かろう。

 それに爺様から、直接の命だ。

 腹ごなしが終わったら、俺の家まで来い。

 爺様の居る場まで案内してやる。」

 

そう言うと壱黒道は目の前から消えた。

一流忍の瞬速である。

 

 

(爺様からの呼び出しか…。)

 

黒四円が言っていたが彼は幻夜(げんや)とはもう、10年近く会ってはいない。

 

彼にとって幻夜は育て親であるが会いたいと思ったことはなかった。

それは互いが互いに嫌悪しているという訳ではなく、壱黒道から先程、感傷の不要という教えを受け、幻夜からもそれを再三、説かれてきたからである。

 

(必要なのは、能力と忠誠心…。)

 

師弟、ましてや親子の(じょう)などは無い。

ただ、お役目があるから会いに行くだけである。

 

今更、直接自分に会ってまで言うことなのかと疑問に思い、何を言われるか思考を巡らすがわかる筈もなく、焼いた二匹の川魚を平らげた黒四円。

 

そして、先程、始末した夫婦の首二つが入った焚き火を見つめる。

(首だけなら一日近く焼いたら骨になり灰に出来る…。)

話が終わればまた、ここで火の番をしに戻ろうと思い、黒四円は立ち上がると焚き火に向かって礼をし、その場を後にする。

 

 

 

 

 

そして、この日の幻夜の命令により、彼の運命は大きく動き始め、第2の人生へと移り変わっていくのである。

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。