ライファン[LIFE FANTASY]〜抜忍人生第弍録〜 作:モノイクロ
フレイヤ宅に空き巣が入った昨晩…。
「ぅう〜〜〜ん!」
作詞に勤しんでいたライナ。
ペンを動かすのに夢中になり座りっぱなしだったからか、両腕の伸びをするだけで関節のほぐれる音がする。
(もう、いい時間だし、そろそろ寝ないと。)
危ない街なのでもう一度、戸締まりの確認だけしようとイスから立ち上がった。
その時…。
バタン…
「っ!」
突然の物音に身をすくませる。
(い・今、下から聞こえたよね?)
彼女は今、2階の空き部屋に泊まらせてもらっている。
その下、1階のリビングとキッチンがあるフロアからさっきの物音が聞こえてきたのである。
(オバケって訳じゃないよね?
盗人…もしくはモンスターって事も…。)
どちらにしても危険な存在がいると思い、ライナは覚悟を固め、確認しに行こうとする。
(演奏の魔法詠唱は時間も掛かるし、威力が上がって、フレイヤちゃん家を壊しちゃうから…普通の詠唱で…。)
ライナの戦闘手段は魔法である。
大気に宿る精霊の力を借り、火や水などを操り、それらを戦いにも利用するのである。
また、詠唱の仕方などにも様々な方法が存在し、彼女は歌唱や楽器の演奏など経由させ、魔法の出力を上げることなどが出来る。
しかし、それらは今回に適さないと判断し、ライナは広く一般的な魔法文読み上げでの詠唱を使用することに決め、手燭の灯りを持ち、下の階へと向かった。
ーーー
「ちっ…ここは何もないのかよ…。」
(人の声!)
1階に降りてきたライナ。
リビングキッチンのある場から人の声で独り言が途切れ途切れで聞こえ、部屋を覗き込むと棚を漁っている人間がいる。
明らかに盗人だとライナは確信した。
(よし…いくよ!)
普段、穏やかで優しそうな雰囲気のライナであるが、彼女も作業者であり、危ない依頼も受け、女の一人旅を何年も続けてきた彼女。
肝があり、いざという時に動ける精神力を持ち合わせており、彼女はフロアへ手燭を前にやり、部屋を照らした。
「あなた! 何やってるの!?」
「っ!? やばっ!」
フードを被った小柄な体型。
声を聞く限り、若い男性というのがわかる。
ライナを見た、盗人は見つかったことに慌て、すぐに窓から逃げようとする。
(逃さないよ!)
そう思い、詠唱をし始めたライナ。
彼女が使おうとしている魔法は風の玉を作り、それをぶつけようとする。
魔法使い常套の攻撃手段である。
巨大な塊を作るのであれば時間を要するが手に乗るぐらいの小さなモノならば短時間で作り、飛ばせる。
(魔法か!?)
そして、小柄な盗人は魔法での攻撃が来ることに構え、手に持った盗品を前にやり、自身を守ろうとする。
「あっ!?」
ライナは風の玉を飛ばそうとした寸前、防御に使われようとした盗品が目に入り、反射的に当たらないように飛ばしてしまった。
「…はっ!
下手くそ! あばよ!」
窓の隣の壁に当たって傷ついた壁を見つめ、呆然とする盗人だったが、外してくれたことを察し、急いで窓から逃げていった。
「待って!!! それを返して!!!」
必死に叫び、懇願するが物を盗みに来たのが目的の人間がそんなこと応じるわけもなく、盗人は暗闇の夜に姿を消していった。
黒四円にも聞かせ自慢していた彼女の品物のバイオリンを持って。
ーーー
「そうか。」
「うん…朝から片付けをしたかったんだけど…フレイヤちゃんのお母さんの看病とかもあったから。」
「看病?」
「うん。
フレイヤちゃんのお母さん病気らしくて…泊まらせてもらってるお礼に看病してるの。
この辺りに街のお医者さんがいて、そこで療養してるらしいんだけど…気になっちゃって。」
「そうなのか。
ともかく、今はあんたの楽器だ。」
「そ・そうだね。」
「この街にも屯所みたいなものがあった、そこの兵士に頼みにいくか?」
「…ううん、いいよ。」
「えっ?」
意外な答えが返ってきて黒四円は驚く。
「街の事はそれなりに聞いてたし、少し過ごしてみてわかったよ…。
ここの警備兵の人達がこんなことで動いてくれると思えない。
動いてもらうにしてもはお金かそれになる様な物を渡さないと…。」
「むう…。」
クワール街の警備隊。
国の指示で作られた警備隊なのだがはっきりいって機能はしていない。
街内の揉め事には干渉せず、昼夜問わず酒場や賭場に入りびたっている隊員などが存在する。
前に黒四円がギルドで見かけたのだが、警備隊の人間が怪しい人間から金を貰っている所も見たことがある。
この街にとって警備隊とは名ばかりであり、チンピラやマフィアと同じような人種に過ぎないのである。
ライナが盗まれたバイオリンの捜索を頼みに行ってしまえば、彼女の言う通り金をせびられる。
もしくは、体を差し出すような要求をされかねないと黒四円は思い、渋い顔をし、彼女を見た。
「あのバイオリンはね…母型の亡くなったおばあちゃんから貰ったの。
小さい時におばあちゃんがよく弾いてくれてたんだ。
おばあちゃんも旅人の音楽家だったらしくて、演奏がひと段落したら旅のお話も聞かせてくれて、本当に面白かったんだ!」
「…。」
必死に笑っているように見えた。
「そしてね、その時に私もおばあちゃんのような音楽家になるって言ったらあれをくれたんだー。
その時になんの気無しにくれたし、他にも別のバイオリンや色んな楽器を持ってたからそのうちの1つをくれただけなんだよ…。」
「そうか。」
祖母が適当にくれたと言いたい口振りだが寂しそうに声が小さくなっていく。
「綺麗に手入れしてたけど、だいぶ古い物だし、もういいよ。
おばあちゃんも私がそこまでして取り返して欲しくないって天国で思ってるよ。
スッッッゴク優しいおばあちゃんだったもん。」
「…。」
「だからね………いいの………。」
後ろを向くライナ。
声が震えていた。
背を向ける瞬間、目が潤んでいた。
===
黒四円に語っていないが祖母がライナに渡したバイオリンは数多くの1つを渡した訳ではない。
あれは祖母の旦那、つまりライナの祖父が作ったバイオリン。
祖父は楽器の職人だった。
祖母と同じ、音楽を愛していたので2人が出会い、夫婦となるのは自然な流れのようなもの。
祖父が一生懸命に作ったそのバイオリン、それを祖母に渡すと祖父は病気で息を引き取った。
まだ30代。
逝くには早いともいえる歳。
そんな生涯をかけて作った作品を自分の妻に渡した。
旅人だった祖母には子供ができ、その子を育てた。
そして、そのバイオリンを祖父の居た街で弾き続け、老齢を向かえ、弾けなくなってしまい…それをよく演奏を聞いてくれていた孫にあげようと思い、託した。
ライナがその話を聞いたのは旅に出たいと両親に話した、その時だった…。
===
(おばあちゃん……おじいちゃん……ごめんなさい…!)
長年愛用し、一緒に旅をしてきてくれたバイオリン。
祖父の思いが込められ、祖母から譲り受けた形見の品。
本当はその手に取り戻したい。
しかし、どうしようもない。
盗人の姿を少しは見たが、明日には友人のフレイヤに護衛をしてもらって、この街を出なくてはならない。
彼女が病気の母親の入院費や治療費を稼いでると知ったのはこの街に来てから知った。
(フレイヤちゃんが知っちゃったら絶対、この事に時間を裂いちゃうよ。
自分だって大変なのにこれ以上迷惑はかけれない。)
だから、諦めよう…。
そう思いかけていた時…。
「盗った奴は見たのか?」
「…えっ?」
その言葉を掛けられ、ライナは振り向く。
「何かあれば追えるかもしれん。」
無愛想で何を考えているかわからない人…。
「な…んで…?」
忍と言われる仕事をしていたと語ってくれたが時折、複雑そうにしていた、不思議な人…。
「大事な物なんだろう?
取り返してやる。」
しかし、ライナはこの人の事がひとつわかった気がした…。
「…ぅぅ……。」
彼は優しい人なのだと…。
耐えていたのだが、取り返すと…。
おこなって欲しい言葉をかけてもらい、我慢していた涙は両の目から溢れ出し…ライナは顔を手で覆いながらありがとう…ありがとう…と感謝の言葉を繰り返すのであった。