ライファン[LIFE FANTASY]〜抜忍人生第弍録〜   作:モノイクロ

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27のお話

 

 

 

 

6年前…陽ノ本(ひのもと)緋摩ノ国(ひまのくに)

この時、家臣による謀反の戦の真っ只中であり、大盤堕(おおばんだ)は緋摩の国の人間として戦へと参じていた。

 

 

 

「おらぁぁぁ!!!」

彼は得物の大盤手裏剣を使い、戦場にいる足軽達を次々に血祭りに上げていた。

 

「うわああ!!!???」

一回の投擲で5〜6人の兵を死人に変えてしまう大盤堕の攻撃は敵兵を恐怖でふるい上がらせ、逃げ腰にさせるには十分である。

 

「おらおらぁー!!! それでもおんしら緋摩武者かぁ!?

 もっと、気ぃ狂わせてかかってこいやぁ!!!」

笑い、叫びながら得物を使い、戦場を進む大盤堕。

敵側に立って見たら、あれ程恐ろしい者はいないのだろう。

 

猿千代(さるちよ)! 前ぇ出過ぎだ!」

後ろから1人の男性武士が大盤堕にそう叫ぶ。

 

彼は、緋摩の家臣、丸永(まるなが) 阿門(あもん)

大盤堕に仕事を命じる上の者であり、友人である。

 

「何じゃい、阿門!? なぜ止めるとよ!?」

「阿呆たれ。

 俺らの軍の役目は今ん奴等を西側への誘導。

 役目を果たしたのに、無理ぃ追って深手を負ったらどうすんじゃ?」

「けっ! あのこっすい軍師の策かい?

 此度の裏切り者の奴らの軍なんぞ、力で押し殺せばよかーよ。」

「ったくお前と言う奴は…。」

 

大盤堕の意見に呆れ笑う阿門。

しかし、阿門も内心、疑問に思っていた。

 

(この地より西に行った先は山岳地帯…。

 そして、今から俺等の陣形を整え、逃げた敵軍の先に待ち潜んでいる味方達と挟み撃ちにするっちゅう策やが…。)

 

その策自体は悪くないものだと丸永も思っていたが、問題は連日に続いた大雨の影響である。

山の土に雨水が沁み込み、斜面部分が崖崩れを起こしてしまえば自軍にも被害が出てしまうかもしれない。

 

そう行った危険性を事前に軍議で聞き、安否を確かめたのだが、今回の大将を務めている田代(たしろ)と呼ばれる家臣は、1人も残さずに敵方を逃さない為の早急の策と説いた。

下の方から攻める役を丸永軍に命じられ、田代の方が丸永より上の立場にいるため理由もなく断れる筈もなく、丸永はこれを渋々受諾するしかなかった。

 

すっきりしない部分もあるが緋摩のためと思い、今、まさに丸永や大盤堕は作戦通りの役目のひとつを終えたのである。

 

「…。」

「まーた難しい面してるのー? 阿門。」

「ん? ああ、いや…。」

「たーく…上の位になってしもーたら、戦を楽しめんようになるんやのー。

 わいらが小僧っ子の時に共に戦場で戦った時の事、忘れたがや?」

「…忘れるかい。

 お互い血反吐、吐きながらもどっちが首取ったか、競っとった…なっつかしいのー!」

「そーじゃそーじゃ!

 そいで、その後に飲む酒が美味ーて美味ーて!

 ………今回の戦の後もそうじゃ!」

「ん?」

「はよー終わらせて、緋摩の酒でも飲ませてくれや、大将!」

「ふっ…おう!」

「そいじゃ、はよー支度ば整えにいこうや。」

大盤堕は、そう提案し、先に行くと丸永も後に続く。

 

そして、少しすると丸永が再び口を開いた。

「ほうじゃな…大して変わらんわな。」

「あん?」

「俺もお主も酒好き、戦好きのろくでなしじゃ。

 戦事の時しか役にたたん…。

 

 でものー…俺には好きになったもんがひとつ増えた。」

「ほー……そりゃあ、何よ?」

「この国よ。

 緋摩の中には俺らと同じような愛すべきろくでなし共が仰山おる。

 俺は戦を楽しむついでにそいつらの為にも戦っていきたいとも考えちょる。」

「…ほうか。」

「だから、俺はこの国を栄える為にもっともっと良ーしていく。

 だから、大盤堕…お前もこれから、手ぇ貸してくれや?」

「…。」

 

丸永の前を進んでいた大盤堕は、頭を掻いた後、彼の方を向く。

「わいは国の為なんかには働いたりせんが…お前がそこまで言うなら、手ぇ貸したるわい。」

そう告げた後、大盤堕は再び陣に向かって歩いていく。

 

 

 

 

 

武士と忍…立場は違えど、お互い十年間、戦乱の真っ只中のこの世を生きてきた間柄である。

血の繋がりよりも強い絆が彼らにはあった。

 

大盤堕はさっき言った通り、国の為や民の為と行った理由で戦に出ているのではない。

死を間近に感じられる戦場に行けば、より強く生きていることを実感できる、その感覚を味わうため…。

そして、生き残り、友と共に酒を飲む瞬間が彼にとって生きている中で一番幸福なのだ。

 

だから、彼は今回も戦った。

生の実感と酒と友の為に…。

 

だが、此度の戦後に彼は酒を飲むことはなかった…。

 

 

 

 

 

ーーー

 

 

 

 

 

「ぐああ!!??」

両目を切られた大盤堕。

苦痛の声を上げるが踞ったり、顔を下げたりしない。

視界が奪われても尚、戦う意志を無くしてはいなかった。

 

(ちぃ…両の目を…!

 分がそーとう悪くなっちまったがまだまだ…!)

 

視界を無くしたのなら耳を使えばいい。

そんな単純な考え方で大盤堕はやったこともない聴覚での空間把握を試みる。

 

目の見えていた者が急に暗闇の世界に落ちてしまう。

それに慣れる為には何日もの時間が必要なものだ。

 

しかし、彼らは今や、命のやり取りの最中…。

無理でも何でもやらなければ負けて殺されてしまう。

生の執着がある大盤堕ではないが勝負事に負けたくないという意地が出てしまい、彼は今、全身全霊で音を耳で拾い、周りを探ろうとする。

 

(何処じゃ? 何処からくる…!?)

先程のように鎖を回し、大盤手裏剣に回転をかける余裕などなく、身を縮め、持っている物で受けようとする体勢しか取れない。

目の見えない恐怖に耐えながら、必死に何が起きようとしているかを探る。

 

(こっちか!?)

足音が聞こえ、大盤堕はその方向に体を向ける。

 

 

しかし、その足音は徐々に徐々に遠ざかっていき、彼も疑問を覚え始める。

「ライナ、終わったぞ。」

「っ!?」

黒四円の声が聞こえ、その発言に驚愕する大盤堕。

 

「えっ? い・いいの?」

「ああ。」

「っっっ!!!てめぇ!!!」

驚愕はすぐに怒りに変わり、その怒りを声に出す。

 

「終わりじゃと!? わしは、まだ生きとるぞ!?」

「そうだな。」

「じゃあ、まだやろうが!? 死合やぞ!?

 どっちかの(たま)尽きるまでやるのが普通やろう!!!」

 

命の賭けた真剣勝負。

それはどちらかの命がなくなった瞬間、決着であるべき…。

死闘の中に生きていれば、この思想は多くの者達が抱いているものであり、大盤堕もそうである。

 

第三者を気にし、自分の攻撃を難なく避けられ続け、最後には急所ではない一太刀での行動不能にさせるための攻撃。

 

黒四円からも生死が飛び交う闘いの中で生きてきた者だと感じ、察してるから大盤堕は彼の情けをかける数多の行動に憤慨してしまう。

 

 

「さあ!来ぃ!

 まだ、目が見えへんのようになっただけじゃあ!」

「…。」

「っ!?」

「はやっ!?」

そう叫ばれ、黒四円は一瞬で大盤堕の胸中央に貫手を寸止めする。

見ていたライナはもちろん、近づかれた大盤堕も気配が一瞬で近づき、たじろいだ。

 

「夜目を養う忍とはいえ、暗くて見えづらいなどとは訳が違う…。」

「ぐっ…。」

「勝負はついた…無益な殺生はしない。」

じゃあなと言い大盤堕に背を向け、ライナの方に再び戻る。

 

「さあ、あんたの楽器を探そう。」

「えっ…えっと…。」

一連して起きた出来事を必死で理解している為、ライナは返答に詰まってしまう。

 

「無益か…。

 貴様(きさん)も所詮、銭や地位とかで戦う奴なんか…?」

「…いけないことか?」

「いいや…ただ、そうゆう奴はいけ好かん…。

 そんなもんの為に誇りを…自軍を…国までも裏切りよる…。」

「…。」

 

黒四円がじっと大盤堕を見つめる。

彼の過去の出来事など黒四円には知る由もないのだが、その悲壮に満ちた姿は見ていて痛々しいものだが口に出して何を言えばいいのかわからない。

 

そんな時に口を開いたのは…。

「裏切られたの…?」

ライナであった。

 

「ん?はは…殺りあう前に上の(もん)に嵌められたといったじゃろう?

 嵌めらた時にわしは何とか生き延びたが、友とそいつの軍が…の…。」

 

 

 

ーーー

 

 

 

6年前の大盤堕の戦。

この時の戦の地形は西側に山があり、丸永軍は相手をそちら側に誘導し、山頂にいる丸永よりも位の高い田代と呼ばれる武将の軍と挟み撃ちにするというのが今回の作戦であった。

しかし、その後、準備を整えた丸永軍は急ぎ、追撃を加えるために敵軍を追ったが突如として崖付近で爆破がおこった。

その爆破自体の被害もあったが一番の問題はその後に起こった土砂崩れである。

土色の津波が丸永軍を一人残らず飲み込んでいった。

 

 

 

その事態が起き、災害が落ち着きはじめた頃の山の麓。

 

「うぅ…。」

大盤堕は目が覚め、空を見上げていた。

(月………何が起きた?)

あたりは暗くなり、彼は朦朧とする意識の中、何が起きたのか思い出し、すぐに起き上がろうとするが。

「ちっ…!」

腰から下が土砂で埋まってしまっていた。

なんとか出ようと試みるが流されているときに負傷したのか身体に力が入らない。

 

(他の奴等はどうなった…?)

他の者の安否が気になり、周りを見てみるが片方は土砂で壁ができ、そしてもう片方は大木が根っこから抜けて流され、彼に寄り添うように倒れている。

両側とも視界が塞がれており、見えるのは夜空の月と星、照らされて見えている雲ぐらいであった。

 

(無事…な者の方が少ないか…よう自分は生きとる…。

 阿門…お前は生きとるよな?)

先ほどまで話していた一生の友人の無事を願い、大盤堕は目を閉じ、体力を少しでも回復させようとした。

 

 

 

「次はここだな。」

「ああ。」

(人!?)

大盤堕は人の声が聞こえ、助けを頼もうとしたが…。

 

「よし、生き残っている丸永の兵がいたら殺せ!」

「っ!?」

「はっ!」

その発言に驚き、大盤堕は助けを呼ぶのを咄嗟に止めた。

彼の状況では見えないが大勢の人間があたりの捜索し始める。

 

 

(今、そこにいるのは敵軍?

 まさか、この土砂崩れを起こしたのは謀反軍の策なのか?

 …いや待て、さきの声…聞き覚えが…。)

「いやはや、上手くいきましたな田代様。」

「ああ、そうじゃな。

 運良う丸永のやつの首も獲れたし、これでこの件は上手く片付きそうだわい。」

「っっっ!?」

その瞬間、大盤堕の体は無意識に体が動いた。

多量の土砂に下半身は埋められ、負傷と疲労で抜けだせそうになかったはずなのに爆裂するように体から力が出たのである。

 

「なんじゃ!?」

その音に気付いた田代や大勢の者達は、そちらを見る。

「むっ?あやつは丸永の所の…。」

「田代の大将…どうゆうことだ…?

 なんで、隣に謀反軍の頭が…そもそも、なんであんたが山の麓に…?

 そいで…そいで…!」

大盤堕は田代の手に持っているモノを見て、震え、そして…。

 

 

 

「なんで阿門の首もっとんじゃあああぁぁぁーーー!!!!!」

けたたましくも悲痛を込めて叫んだ。

田代が粗雑に持っているのは大盤堕の年来の友人の変わり果てた首だけの姿であった。

 

 

 

「んーまあ、ええか、冥土の土産ということで…。

 此度の戦の謀反人…それは丸永ということよ。

 もう、伝令役にもそういう筋書きを作り、緋摩の国主様に伝えに行かせた。

 この謀反人の頭役がおこした此度の行いもきっとご容赦されるだろう。」

「なにぃ…!?」

 

田代が話している内容が理解できない大盤堕。

いや、理解はできるが何故、その様な事が罷り通るのか分からなかったし、そんな手間暇をかけて丸永を殺す理由が理解できなかった。

 

「なんで…そこまでして………?」

片膝をついてしまう大盤堕。

土壇場で出た力が抜けてきたのである。

 

「くく…戦しか能のない奴には縁遠い話かもしれんが利権争いというものがあるんよ。

 丸永は出世しすぎた…このままじゃ、わしがあいつよりも下の立場になってしまうじゃろうが。」

「っ!?」

「こちとら5代続いて緋摩に尽くしてきた由緒正しい家柄ぞ?

 それを急に現れた、戦の才だけで出世してきた若造に奪われてたまるかい!

 政の勉学までしはじめよるし…目障りなんじゃよ。」

(そがーなことの為に?)

悔しさで歯をギリギリと食いしばる。

 

 

 

 

友人の言葉を思い出す。

『でものー…俺には好きになったもんがひとつ増えた、この国じゃ。

 

 緋摩の中には俺らと同じような愛すべきろくでなし共が仰山おる。

 俺は戦を楽しむついでにそいつらの為にも戦っていきたいとも考えちょる。

 

 だから、俺はこの国を栄える為にもっともっと良ーしていく。

 だから、大盤堕…お前もこれから、手ぇ貸してくれや?』

 

 

 

 

 

(国を憂いておったんやぞ…貴様が今、手に持ってるそいつは…!)

田代が持っている友人の首を見る。

(はらわた)どころの騒ぎではない…自身の全てが煮えたぎるのを大盤堕は感じていた。

 

武士が戦で生命を落とすことは仕方ないことだと大盤堕も納得している。

しかし、こんな私利私欲渦巻く薄汚い戦…。

いや、戦というのも烏滸がましい出来事に心友を奪われた。

 

 

 

ゆるさない…! 許さない…!! ユルサナイ…!!!

 

 

 

「さあ、もういいじゃろ? おい、突き殺せ。」

「はっ!」

田代が支持すると近くにいた槍持ちの足軽の1人が槍を構え、大盤堕に突き掛かった。

しかし…。

 

「ぅっぷ…!?」

大盤堕は槍の刃を片手で持って防ぎ、もう一方の手で足軽の頭を掴んだ。

彼は巨漢で手も大きいのでまるで蜜柑でも手に取ったように足軽の頭が包まれている。

そして…。

 

「っぺゃっっ! ………。」

その蜜柑が彼の手の中で握り潰された。

 

「ひっ…!」

「わわっ…!」

「う・狼狽えているな! 全員で一気に槍で突きかかれば…。」

余りに凄惨な殺され方を目の当たりにし、他の足軽達は怯え、田代は兵の士気が落ちる前にすぐに指示を出すが…。

 

「っ!? あぎゃあああ!?」

指示の途中、大盤堕は握り潰した足軽の槍を田代に向けて投げていた。

田代の右肩に深々と突き刺さり、槍の刀身全部が向こう側まで貫通するほど。

 

「あああ!!! 痛い!痛い! くそがぁ!!!」

貴様(きさん)は、もう少しそこで死にかけの虫のようにのたうち回っとけや…。

 まずは…。」

周りの足軽達を睨みつけ、殺気をばら撒く大盤堕。

片手は握り潰した相手の血ともう一方の手は槍の穂で傷ついた自身の血。

そして、先程まで戦っていた戦場で浴びた返り血が朧げに月で照らされた夜の中、彼の体躯と今の表情で見るものには赤黒い鬼を連想させられる。

 

「この謀りに参加した…! お前ら小蝿どもの一掃じゃあああーーー!!!!!」

 

 

 

 

 

その日、鬼が駆除した者たちは謀反を演じた者達も含めると100以上…。

それを1時間近くで済ました後に最も不快にさせた蝿を苦しませ、殺した。

 

仇を討ちはできたのだが弁明は聞き入れて貰えずに緋摩家・家臣殺しの罪を鬼はとられてしまい、簡素な筏で海へと放られる。

 

 

 

運命からは生かされたが美味く感じていた酒からはもう味がせず、その鬼が行い続けたのは戦いだけであった。

鬼は自分がこの世で一番自分が強いなどとは自惚れた考えを持っていない。

自分よりも強い存在が現れ、きっと自分に生の実感を与えてくれながら殺してくれる。

自分の最後はそれが良い…そう願い続けながら流れてきた鬼は今日まで生きてきたのであった。

 

 

 

 

 

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