ライファン[LIFE FANTASY]〜抜忍人生第弍録〜 作:モノイクロ
「…。」
「ははっ…どうじゃ嬢ちゃん? しけた血生くせぇ話じゃろ…?」
「っ…!」
自身の一部の人生の出来事を話し終えた
その話を
(どうしよう…何を言えばいいのか…。)
彼女の中から出た気持ちは同情だった。
大事な友人を理不尽な理由で殺されれば、誰だって許せなくなる気持ちは持つ。
自身の身に置き換え、想像すればやはりそれは許せなく、実際に起これば恐らくこの何倍もの怨恨が大きく渦巻いていってしまうのだろう。
その結果、仇を討つためにその相手の命を奪ってしまうこともライナはかろうじて理解はしてあげられる。
旅の中でそういう人生を送った者達も彼女は出会ってきた。
(だけど、やっぱり…。)
周りの状況を思い出す。
草木の色や匂いしかない筈なのに不自然につけられた赤黒い色や臭い。
彼が大量に殺した強盗団である。
彼らも本来、許されない罪を起こしている者達なのだが、だからといって大盤堕が自由に殺して裁ける権利があったのか?
彼らの中にもう、強盗をやめようとしてた人物も中にはいたのではないのだろうか…?
そして彼は一体、自暴自棄に任せて、どれだけの殺戮を繰り返してきたのだろうか?
ゴミ掃除をしただけという理由でこの強盗団の人達を殺したのだ…似たような理由で他の者達にも手をかけているだろうし、もしかしたら善良な者も…?
(間違ってるよ…こんな…!)
人が人に手をかけてしまうのであれば、正当化されないとはいえ、やはりそれ相当の理由があるべきだと…ライナは、そう思ってしまう。
同情の思いと許せないという気持ちが彼女の中で入り乱れるが、その心中を言葉に出来ない。
まるで自分が受けた痛みのように哀しい表情しかライナは出来なかった。
「はは…ほんまこつ甘い嬢ちゃんやな。
いや、優しいっつうんか…普通は…。」
大盤堕は彼女のその表情を見る。
目が潰されているので見えるわけがないのだが、何故か今の表情が見えるように感じとれた。
すると不思議と穏やかな心持ちになり、顔を上にやる。
オレンジ色の日が沈みかけ、暗くなり始めてきたが大盤堕にはそれがわからない。
「なあ…若いの………ほんとに止めをささないのか?」
「…ああ、したくない。」
「ほうか…そんじゃあ。」
すると大盤堕は手に持っていた鎖を操った。
「っ!」
黒四円は動作を見て身構えようとした。
その鎖に付いているのは大盤手裏剣であり、それを使ってくるということはまだ、戦いを終わらせる気がないと一瞬思う。
しかし…その手裏剣が向かった先は…。
「っ!?」
「えっ?」
大盤堕の方である。
「ぐふっ………。」
「なんで…? どうして…?」
横向きで腹に深々と突き刺さり、血が出始める。
ライナは理解出来ないように口に手を当て、その様を見ていた。
「敵に情けかけられてまで…生きとうない…。」
「そんなことで…!?」
「両の目の光が無くなって、もう、忍働きも戦人としても満足に働けん。
しょーじき、悔しいっちゃ悔しいが、その若いのは正面から堂々と戦ってくれた…。」
黒四円の声をした方を見る大盤堕。
「いけ好かんって言ってた事とか…ぜん…ぶ…取り……消す…。
座っていた大盤堕は首が俯いていき、途切れ途切れになりながらも言葉を発していたが静かになっていく。
その街外れの森で息絶えて逝くのだった。
ーーー
「おん?ここは?」
大盤堕は、目が覚めるがその瞬間から違和感がある。
切られ、潰された筈の両目。
顔を手で触れ、治っている事に驚く。
彼が見た景色は透明な水が海のように広がっており、水平線の向こう側には何があるかわからないが灰色のような光が輝いていた。
そして、後ろには彼に見覚えのある景色。
「ここは…緋摩の地かい?」
自分が生まれ育った、陽ノ本・
しかし、その景色は白黒と所々朱色をぶちまけたような配色だった。
「おー! ようやく来たんか!
「!?」
声のした方に素早く向く大盤堕。
聞き覚えのある、しかし、もう聞ける事のない声だと彼は思っていた。
「
「なんじゃ、狸に化かされた顔しおって。
地獄の主様に折角、取り次いで出迎いの許しを得たっちゅーのに。」
「地獄?」
友にそう言われ、全て納得する大盤堕。
「へっ、なるほど。
やっぱり、わい等は、地獄で責苦か?」
「当たり前じゃ、仰山殺してきたんやからのう。
俺も今、刑罰の途中じゃ。
刑期終えるのなんて、まーだまだ先じゃ。」
「へーそうなんか。
よーここまで来たのう? さぼってきたんか?」
「あほたれ! 真面目に受けちょるは!
地獄に仏っていうやろ? 地獄の主様もしっかり悔いて刑罰にのぞんどれば、こういう
「ほー。」
「刑期が短くなるなんてことはないが、俺達みたいなのには、ありがたい取り決めよ。
まあ、
「なんじゃ!? あいつと会ったんか!?」
「ああ、大声で訴えながら次の刑罰に連れて行かれとるとこを見た。
まあ、そういう話も行きすがら、話そうや。」
そう言うと阿門は、あの世の広がる水場。
その岸にある小舟を指差す。
「あれに乗れば、後は勝手に向かってくれる。」
「便利じゃのう。」
「向こうの景色は、もう、見納めたか?」
「ん? ああ、緋摩の景色が映っとるのー。
こりゃー何なんじゃ?」
「さあーのー…俺が死んだ時は、嫁や父上母上、友の顔…お前の顔も映っとった。
予想じゃと、記憶やら思い出なんじゃないかと思ーとる。」
「ああ、なるほど。
あっ、お前と緋摩の酒が一緒に映っとるのもある。」
「お前の中での俺は酒と一組なんかい!?」
「はっはっはっ!
お前にはもう見えてないか?」
「ああ…死んでしばらくしてたら見えんようになってたわ。」
「ほうか…。」
「見えへんようになるまで見てくか?」
「…いや、いいわ。
見飽きた景色やし、お前は今、ここにおるしな。」
「ほうか…でも、少し嬉しいわい。」
「あん? 何が?」
「お前の思い出の中に…緋摩の地のことがあったことじゃ…。」
「…。」
「大体のことは何となくわかっとる。」
阿門は自身がなぜ死んだのかも察し、田代を地獄で見かけた時も察した。
謀られ殺されたことの怒りもあの世での生活ですっかり冷めていた。
嫁を残して先に逝ったことも両親よりも早く亡くなったことも悔い続けているがあの人達なら受け入れてくれて生きていってくれると吹っ切っている。
ただ、生涯にずっと共にいた腐れ縁の友のことが少し気がかっていた。
田代があの世に来た時は自分の仇を討ってくれたのかと嬉しくもあったのだがその後はどうしているのだろうか?
そのことを知りたくて彼は地獄での暇という取り決めを今まで使わず、その暇という褒美、友がこちらに来たら迎えに行くという願いにさせてほしいと地獄の主に頼んで許可をもらい、今、阿門はここに居られるのであった。
「ほれ、いくぞ。」
「おう。」
「ん? 何かあるぞ?」
先に乗ろうとした阿門は小舟を見るとそこに土色の陶器が置いてあるのに気付き、阿門が手に取る。
「そん入れもん…わいが持ってたやつじゃ…。
確か中に緋摩酒が入っとったはず…。」
「おーそうなんか!」
「ああ、じゃがなんで、ここに?」
「さぁーのー? なんせあの世じゃから、何が起きてもおかしゅうないやろ?」
「まあ、そうやな。
そんなら行きすがら、久々に吞みながら語ろうや。」
「っしゃあ! あの世で酒なんぞ、おもろい!
よっと…。」
小舟に乗った阿門は、大盤堕の方を見る。
「ほんなら…逝こか…。」
「おう…逝こう…。 友よ…。」
優しくも儚げに答える大盤堕。
目が覚めた時点で彼の面頬は何故かとれ、何もかも受け入れ、悟ったように笑いながら小舟に乗ると勝手にゆっくりと動き始めた。
小舟は進む。 2人を乗せて。
遅くもなく、速くもなく…常に一定…。
これから向かうは地獄だが、上に乗る2名。
吞んでは語り、笑いあう。
到着した時、彼等は全てに感謝した。
死んで終わったというのに…。
美味い酒と友との時間。
両方お与えくださり…感謝の極みでございます。
ーーー
大盤堕が息絶えた後、ライナは胸が痛かった。
(この人は、こっちに来てからずっと死ぬ為に生きてきてたのかな?)
彼女にとって大盤堕など他人である。
命を平気で奪っていったり傷つけたりと彼女の中では嫌悪の対象である。
だけど、彼の過去を知り、最後には人間らしい部分も垣間見えた気がした。
そう思うと生来、優しい彼女は悲しさを感じずにはいられなかった。
(もっと、生きていこうって思ってほしかった…。)
祈るように両手を握りしめ、ライナはそう思うしかなかった。
黒四円は彼の遺体を見ていたがしばらくして動く。
まずは、彼の顔についている黒鬼を模した面頬を外した。
そして、ククリナイフを抜いた。
「ク・クロまる君? なにするの?」
「首を落とす。」
「ええ!?」
突然の事にライナは驚き、止めようとした。
「駄目だよ! なんでそんなことするの!?」
「首だけでもとって、弔ってやりたい。
出来れば、今ここにいる全員。」
「えっ?」
「このまま放っておいても土に還るがその前に野獣の餌になる。
出来れば全身弔ってやりたいが数が多すぎる…首だけでも何とかしてやりたい。」
「…。」
「悪人ばっかだったんだろうが死ねば仏…供養ぐらいしていく。」
「クロまる君…。」
そして、黒四円はククリナイフを一閃。
大盤堕の首がストンっと落ち、それを丁重に抱えた。
「おい! ぼうず!」
呼んだ先にはライナのバイオリンを盗んだ青年、クワイトがいた。
黒四円に投げられ、難を逃れた彼。
黒四円と大盤堕の戦いが彼にとっては凄まじすぎたのか腰が抜け、体を震わしながら倒れ怯えていた。
「うっうっ…。」
「全員供養する。
仲間だったんだろう? 手伝え。」
「は…? な・何言って…? こ・こんなに死・死んで…!
うっうわああああぁぁぁぁーーーー!!!」
気が動転し、クワイトは怯えながら逃げて行ってしまう。
「なんだあいつ? 薄情な…。」
「こ・こっちの方では首だけとって供養するっていう風習がないから…。」
「そうなのか。」
説明するライナを流し聞きながら、大盤堕の腰にぶら下がっている酒瓶に目が付いた黒四円。
(酒好きだったのか?
お前の物だ…浴びるよう呑んでから…逝け。)
清めるために彼は大盤堕の
「よし、これでいいだろう。」
「綺麗にしてあげたんだね。」
「ああ、他の者達の供養もしようと思うがまずはあんたの楽器を探そう。」
「え? でも…。」
「そっちの方が早く先に済む。
ほら、やるぞ。」
黒四円は、物が固めて置いてある場所に行き、ライナのバイオリンを探し始める。
(なんだろう…合理的に動いているようなんだけど…センチな部分も感じられて…。)
彼と出会って間もない彼女だがその行動にとても惹かれる。
(影を感じさせるけど思いやりがあって…。)
見ていると不思議と興味が出てくる。
「もっと、知りたいな…。」
ライナは胸の奥に熱いものを感じ、頬が薄く紅潮させ、潤んだ瞳で黒四円を見つめてそう呟くのであった。