ライファン[LIFE FANTASY]〜抜忍人生第弍録〜 作:モノイクロ
エリエ・ゼンの生まれ育った街の実家はそれなりに大きい。
母が家事を行なってはいたがそれでは手に余ったので手伝いのメイドを1人雇っていた。
毎日3食、栄養のある美味しい食事が出て、この世界では設置するのに金のかかる浴室の完備。
暖かい私室で寝心地の良いベットで毎日寝られ、彼女がギルド職員になれる為の学校にも親は通わせてくれていた。
富豪と呼べれるほどではないにしても一般家庭よりかは裕福な生活を送れていた。
良い環境で育ってきたのだ、彼女の性格も現在よりは温和。
厳格な父親の言い分に言い返したりもしていたので生来の気の強さはあったものの、なんでもかんでも食ってかかるような気性の荒さは全くなかった。
こうなってしまったのは、彼女が夢を叶えようしたからである。
彼女は、オシャレが好きである。
自分がするのも好きであるが他の人を着飾らせてあげるのが…だ。
きっかけは些細で、子供頃に友達が社交場で着て行くものを悩んでいた際にエリエが思うがままにアドバイスをして友達がそれを着て出席をした。
後日、その子と両親がいたく感謝をしてくれた。
理由は、友達の服飾が大変好評であり、注目を集めたからである。
思い返せば社交辞令の部分もあったのだろう。
だが当時、子供だったエリエからすれば良い思い出であり、将来の夢は服のデザイナーやコーディネーターになりたいと言う子供ながらの純粋な夢を持ってしまうのは、ある意味、普通のことだったのであろう。
そのきっかけで彼女は小さい時から服飾について自立的に学び始めた。
デザインのやり方や衣類の縫われ方。
果ては母国・異国人の昔の服装や魅せる時の角度など、深く追求し始める程の熱中ぶりだった。
ある日、街にある服屋で働いて、直に品物やそれを着る人に触れ合って、学びを得たいと両親に話した。
しかし、ギルド員のお偉いさんとして硬く生きてきた父親。
そんな思いは反対され、国認可の仕事で将来性のあるギルド公務員になってもらうべく、彼女をギルド学校に入学させた。
しかし、彼女は諦めなかった。
日中のギルド員になる為の法律やギルドの仕事内容の授業は真面目に受け、夜には服飾関係に必要な知識もしっかりと取り入れる。
遊び盛りの年齢でもあった筈だが、友達から誘われても服飾に全く関連しなさそうな場所に行くなら、なるべく断る。
なりたい自分になれる様に常に行動を心掛けた。
そして、ギルド学校を無事卒業。
ギルド員の職につく事を許される、ギルド公務員免許証を持ち、彼女は再び父の前に立った。
ギルド学校の寮にいた際に思い描いた服のデザインを記した紙束。
そして、そのデザインを作る為に詰め込んだ知識を語り、街の色々な服飾店にも無償で何回か働かせてもらった事なども…。
父も母も黙って聞いていた。
いや…口を挟むことも憚れるほどの娘の楽しそうな姿と熱意に見惚れていたのである。
そして、エリエはひと通り話し終えた後に深々と頭を下げ、再び自分の夢を追う事の許しを頼んだ。
これでダメなら、家から出て行こうという覚悟まで固めて。
母は涙目で笑いながら、エールをかけた。
父親も自分がやれといった事を見事やり遂げられつつも、自分の夢を叶えるための努力をし続けた娘の熱意に負け、渋々受け入れた。
そして、エリエが最初の働き始めた店が大陸でも名が知れ渡っている高級ブランド。
彼女の実家の街にあるその1店舗に勤め始めた。
働き始めは誰しもが大変である。
身につけた知識を活かす場面で使い、優先的な業務をこなしながら別の作業もこなす。
高級有名ブランドということもあり、客は貴族階級の者ばかりである為、失礼のないマナーでの接客とその客が気に入りつつも似合っているコーディネイトを要求される。
難しいことばかりだが、エリエは楽しかった。
ブランドがここをこだわっているという品物の数々や大体の貴族の人達が望む服装や小物類。
ここで働かなければ手に入れられない知識と経験が面白く、そして将来、自分の夢の為になると感じ、エリエは喜んで励んでいた。
「この時期だと…。」モグモグ
そして働き始めて、1年が経過。
エリエはバックルームで昼休憩の筈だが、さっき上司から聞いた革製品の事をメモ帳に記入しながら、昼食のサンドイッチを片手間に食べていた。
「おんや〜? エリエ君も休憩かい?」
(うっ…店長か…。)
その中で現れる1人の壮年男性。
名前は、ドニミエルで彼女が入った半年目にこの店舗で店長を任された者である。
「何かしながら食事なんぞ、淑女のすることではないよ?」
「す・すいません。」
「マナーがなっていないのだよマナーが。
君は基本センスがよろしくないのだから、そういう所から…〜〜〜。」
クドクドとした説教が始まる。
エリエはこの店長が苦手である。
いや、彼女だけではなく、周りからも相当疎まれている人間である。
鼻につくスカした言動の数々や能力不足なのにそれに釣り合わない自己評価の高さ。
書類整理や発注も彼がやれば8割何かしらの問題が出る。
その失敗も自分のミスじゃないと言い張るが…。
そして、この男のファッションセンスの無さだ。
虹ようなカラフル上着を着ながら、ズボンは茶色のレザーパンツ。
指輪やネックレスのアクセサリーはデカい宝石がついて目立つような物。
派手な楽しい人に見せたいのかシックな紳士に見られたいのかとにかくコンセプトが分からない。
(食事中に別のことしてたのは、悪かったけど長い…。
早く終わってー…。)
どれだけ探しても、人間的にも能力的にも参考にできるような部分はないのだが、エリエにとっては一応上司である。
食事もメモも手を止めて説教を聞く。
「だから、そういう所に目を向けてだね…。」
「す・すいません店長、私もう、仕事に戻らないと…。」
「ん?おお!こんな時間かい!? 食事をする時間がなくなってしまう…。
エリエ君、分かったんなら、もう行ってくれたまえ。」
「…はい。」
苦笑いをしながらバックルームを後にするエリエ。
食事もメモの記入も中途半端なまま終わってしまい肩を落とす。
「エリちゃん、お疲れさん。」
販売スペースに戻ろうとする、エリエに女性従業員で先輩であるデミさんが声をかけた。
「あっお疲れ様です!」
「休憩いってたんじゃないの? 疲れた顔して。」
「あ、ええと…店長も今、休憩中でして。」
「うっわ…マジで…? アタシも休憩なのに…今はやめとくかな〜。」
「あはは…。」
「小言言われた? 可哀想に…。
気にしなくてもいいからね? あんなのの言うことは。」
「あーまあ、私も行儀の悪いところを見せちゃったんでそこは気をつけようかなーと…。」
「そう?
でも、あんなコネと上に媚び売りが上手いだけのやつの言い分なんて、素直に聞こうなんて思えないでしょ?」
「えっ?コネ?」
エリエは初耳だったのだが、ドニミエルの家は代々狩猟を生業にしてきた一族であり、狩った獲物などを売って大きくなっていった家系である。
動物や魔物から獲れた皮などは当然、服屋や小物などにも用いられる。
彼の家の狩猟者達は質の良い獲物なども狩ってこれるのでエリエが現在、働いているブランドメーカーのお偉いさん達も利用させてもらっている。
そんな中、自称おしゃれと思っているドニミエルは、服飾関係の仕事に就きたいと思い立ち、父の紹介でこのブランドメーカーに入れさせてもらい、10年…ようやく、1つの店舗の店長にまでなったのである。
「そうだったんですか。
ドニ店長、結構ここ長いんですね。」
「そうね。
でも、10年働いててあれだもの…ここの店長でいられるのも短いんじゃない?
一応、うちは有名ブランドなんだから。」
「そう…ですかもね。」
「それに比べて、エリちゃんは熱心に取り組むわよね。
教えてあげたこともちゃんとメモ取るし、お得意様の好みもしっかり把握して、服選んであげられるし…。
ねえ、うちで働き続けない?」
エリエは、デミなどの仲の良い従業員に話しているが彼女は様々な場で働いて、勉強をしていきたいと考えている。
なので彼女は長くても2年間、ここで働く期間を自分で設けているし、面接の際、事前にその事をお偉いさんに話を通しているのだ。
「ありがとうございます。
でも、私の勉強の為…こちらに何の益もない条件を言ったのに働かせてもらって、ちゃんとしたお給金まで…。
お偉いさんと面と向かって2年までって言ったのでその期間までだけですよ、こんな我儘は…。」
「もう、真面目ちゃんね〜…。
エリちゃんがここでやっていってくれれば、このブランドももっと認知されると思うけど、若者の夢の邪魔はできないわよねー。 ざーんねん…。」
「あはは…すいません…。」
「ふふ、ごめんなさい。 謝る必要なんてないわ。
エリちゃんの夢、私は応援してるわよ。」
「は・はい! じゃあ、早速、はりきってやってきます!」
「頑張ってね。
あっ! もうすぐ、社内のファッションコンテストがあるでしょ?
エリちゃんの展示する服、楽しみにしておくわー。」
「はい!!!」
エリエがこの時、働いていたブランドは、年に5回。
従業員がデザインして作った、服の展覧会が本店のある街で行われる。
その行事に参加することを決めてたエリエはその日までずっと構想を練っていてた。
そして、コンテストの3日前…。
母からも賞賛の言葉をかけられ、形になった彼女の衣装。
それを本店のある街へと馬車で配送した。
コンテスト当日。
会場に着き、メーカートップの全体挨拶が終わり、知り合いとの挨拶や新しい交流関係を広めていると、お披露目の時間へとなった。
(始まる!)
エリエは、モデル達がステージを歩いて来てポーズをとっているのを見る。
参考にメモをとっていたが、やはり、自分のデザインした服が晴れ舞台でいつ通ってくるのかという緊張が消えず、メモもちぐはぐな内容になってしまっている。
(来た!!!)
そして、彼女のデザイン服を着た9番目のモデルが長いステージから歩いてくる。
流石は大都会の本店が選定したモデル達である。
エリエが魅せてほしいようにポーズをとりながら、ステージ裏へと戻っていったのである。
(終わった…! 100人中9番目に紹介されたけど…よかったかも…。)
こんなに緊張するとは思っていなかったエリエ。
これで気兼ねなく別の人達のデザイン服を観察が出来る。
彼女は大きな一仕事が終わったことに安心して息を吐き、後の人たちの衣装を観るのであった。
◇ちょい記載 設定のお話
ライファン世界では、働こうと思えばいくつからでも働ける時代背景です。
ギルドの仕事は国が行っているため、ギルドで働くためにはギルド学校という施設で卒業試験を受かり、ギルド公務員免許証という資格証を取得してなれる。
ギルド員は国が潰れなければ無くなることはなく、出世すれば定期的な高収入も望める為、成ろうとするものは多い。
ギルド学校に入学するには約50万前後の入学金を払い、一般入試を受かる必要がある。
試験内容は母国の法律や計算問題、他国語の読み書きなど勉強をしてこなければまず受かることのない内容である。