ライファン[LIFE FANTASY]〜抜忍人生第弍録〜 作:モノイクロ
社内ファッションコンテストの翌日…。
本当は1日、本店のある街で1泊してから帰ってくるエリエであったが急いで実家のある生まれ育った街に帰って来たのである。
彼女が馬車の馬乗りにお金を渡し、お釣りも受け取らなく荷物を持って走ったのは今働いている自分のブランド店であった。
「はあ…はあ…。」
「えっ? エリちゃん?」
店の入り口が勢い良く、開いたのに驚く従業員やお客の人達。
視線が彼女に集まる中、エリエはデミの方に近づいて質問をする。
「デミさん! 店長っています!?」
「え?店長?」
「はい! あの人、コンテストに作品を出していますが今回、会場には別件で行かないって聞いてたんで!!!」
「エ・エリちゃん! 静かに…!
店長なら、裏の事務所で書類整理してるから…。」
それを聞き、エリエはすぐに店の奥へと向かう。
後ろからデミがお客さんに謝罪しているのが聞こえるが今の彼女にそんなことを気にしている余裕はなかった。
「店長!!!」
「っ!? なんだ、エリエ君かい…。
乱暴に扉を開け、大声で全く…無礼な…。」
「どうゆうことですか…?」
「いきなりなんだい? 説明をしないか説明を。」
エリエは戸惑い、混乱した表情をしながら口を開いた。
〜〜〜
100人エントリーしていたはずだったのだが、その内に紹介されるはずだった87番目の衣装が到着されておらず、それは飛ばされたのだがデザインされた衣装の99の紹介が終わり、表彰会がされる時であった。
最優秀作が1着に優秀作が3着選ばようとしていた時であった。
最優秀作が88番目と発表され、エリエも流石にそれは無理だよねと内心笑っていたのだがその後の優秀作の紹介。
「えーそして、優秀作が9番・41番・69番です!」
エリエは一瞬、司会の人が何を言ってるのかわからなくなったがすぐに司会がさっきの結果が頭の中で反芻すると両手で口を覆い、感激する。
彼女の衣装が紹介されたのは9番目なのだから。
(嘘!? やった!!!
こんな、コンテストとか発表会なんか、初めて出たのに…!)
そう思いながら、子供の時に目指そうとしたあの時の感情が胸に込み上げてくる。
自分の作品が理解され、大きな好評を得たことに…。
(うぅ…嬉しい…! 頑張ってよかったよ…。)
このままでは泣きそうでまずいと思ったエリエ。
しかし、その後の説明で一気に意味がわからなくなったのである。
司会者が最優秀作や優秀作を作った者の名を紹介していったのだが、9番目の衣装を作った作者の名前、それは…。
〜〜〜
「なんで…ですか? だって、あれはアタシの作った…。」
「………。 ふむ…。」
ドニミエルの視線が動き、誰もいないことを確認している。
時刻は夕方の17時。
閉店は18時なので残った客の接客をこなしつつ、店の片づけに入る時間帯なので現在、事務所にはこの2人以外、誰もいなかった。
「そうか…ボクの名前が出たか…。
それはなんとも…嬉しいような、恨めしいような…。」
「?」
「エリエ君、私はおしゃれが好きだ。
人の美的センスで美しいという目で見られるようになるのは快感だし、おまけに良い服や小物を身につければ品位が高いとも思われる。」
「…。」
「しかし、ボクの美的センスは周りには余り理解されない…。
なんでだろうね? ボクから見たら、自分のデザインは完璧なのに…。
理解できない奴らが多い…今務めているこのブランドのお偉いさん達にもね…。
価値観の合わないこんな所、即刻辞めてやりたい所だが…父に無理行ってここに勤めているからね。 ここを辞めたなんて知られたら、野蛮な狩り仕事の手伝いをやらされそうなんで、辞める訳にはいかないから、しょうがなくここで働き続けているよ。」
エリエは黙って聞いていたが腹立たしかった。
雇ってもらっている立場でありながら、仕方がなく働いているような上からの物言い。
そして、自分の服飾のセンスを上げようともせずに周りのせいにばかりにしている。
彼女にもこだわりがある。
自分の好きな色や柄を入れられるならそれを取り入れたいと思うことはあるが、そればかりで固めたものが大衆に理解されるかと言われれば、それは話が別である。
そんなバランスの取れていない、ちぐはぐな物が理解されるのなんて、同一の価値観を持つ者達だけだ、決して多くはないだろう。
重要なのは理解して受け入れることである。
エリエは暗めの色を取り入れるのが苦手であったが、魅せ方や合わせ方などを知っていき、今では自然と候補に挙げるまでになった。
そういう柔軟な発想がデザイナーにも必要な筈なのにこの男がするのは他責だけであり、そのことを言いたくはあったが今はなぜ、私の作品を自分の名で偽ったのかその真意を聞くため、エリエは口を噤んで、彼の話を聞く。
「そしてね…ある時に気付いたんだよ。
お偉方の発案した物は大体世間に出回っているってことに…!
それってつまり、自分達が考えた物を強引に通してるってことだろう!? 対して流行らないものだってあったのに。
だったら、まずは偉くなってやろうって思ったんだよ!」
「は?」
「偉くなればボクの考えたデザインの服や小物だって世に出せるかもしれない。
今はまだ、こんな大きくも小さくもない街中のイチ店舗の店長だが、このブランドメーカーの役員にでもなれれば、ボクの考えた物たちが日の目を浴びられるかもしれないんだ。」
「まさか………出世のために…アタシの作品を盗んだんですか…!?」
コンテストで表彰された服や小物は、店の商品になることが多い。
いうなれば功績を上げているのだから、お偉方たちの覚えも当然よくなる。
「ふふふ…最近この辺りで荷馬車が襲われたっていう事件があったのを知らないかい?
地方新聞や役所の掲示板なんかにも書かれている…ダメじゃないかエリエ君…世間のことも周知しなくちゃ…。
君ももう、社会人なのだから…。」
「っ!!!」
口に出してはいないが、もはや自白している様なものである。
ドミニエルは出世のために彼女のデザインした服を積んだ荷馬車を第三者、金を払えば何でも引き受けるような者達に襲わせ、奪った。
そして、恐らくこのような行為は今回だけではないとエリエは直感で悟る。
事実、仕事が出来ないドミニエルが店長という立場を手に入れられたのは人の功績を掠め取って得た、偽りの手柄の報告や後は自分の家の力を使った、賄賂紛いの行為。
正に虚偽虚栄で固められた者の姿がそこにあった。
「まあまあ、君ってここで正式に働いたりする気がないんだろう?」
「…な。」
「必死で仕事をして周りから評価されていたが、辞めればそんなの関係なくなる。
だったら、君は勉強も兼ねて働いていたって言うし、今回の件も競争社会の良い勉強になったと思って公にするのは…。」
「…けんな……!」
「んん?」
「ざっけんなあぁぁぁーーーーー!!!!!」
怒りが臨界点まで達したエリエは、近づいて来ていたドミニエルの股間を思いっきり蹴り上げた。
「っっっ! ほっ………!」
「こっっっのおおぉぉーーー!!!」
「ぶへぇ!!!」
そして、前屈みで悶えている横っ面に思いっきりの平手打ち。
掌全体を使い、腕を思いっきり振り抜くそのビンタ。
ドニミエルの非力も相まって、叩いた方に跳んでいく彼の体。
ガッシャーンと音を立てて、事務所にある机にぶち当たり、散乱する事務用品とともに倒れるドミニエル。
自分に何が起こったのかわからず、呆然とし、痛みがある頬と股ぐらに手をやる。
しかし、そんなことはお構いなしに、エリエは寝ている彼の胸ぐらを掴む。
「アンタは!!!」
「ひっ…!」
「何がオシャレが好きよ!
見た目も中身も醜悪で大人のフリをした駄々っ子でしょうが!!!
アンタのセンスは確かにおかしいと思うけどそれが好きって言うのなら別にいいわよ、服装なんて自由なんだし!
でも、評価されたいって言うなら知識を付けなさいよ! 人の意見に耳を傾けなさいよ!! それらを織り交ぜつつ、自分のこだわりを取り入れる柔軟さを持ちなさいよ!!!
アンタが好きなのは自分を着飾って、他人を見下すことでしょ!?
そんな奴がオシャレが好きだって言うな!!!
アタシと同じ夢を持ってるみたいに言うなあああぁぁぁーーー!!!!!」
その後、騒ぎを聞きつけた他の従業員に止められたが暴力を振るったことにより店を辞めさせられ、それは彼女の居た街に広まる。
エリエは店をクビになった後、本店にいるお偉いさん達にひとつ優秀賞を飾った作品は自分のモノだと抗議しに行ったのだが…衣装を送った際のコンセプトや説明文となる資料も同時に送ることになっている。
試作段階に綴ったデザイン案の仮資料物を見せたり、送る前に見せた母にも証言してもらったが、原因であるドミニエルも抗議場に来ており、そんなものいくらでもでっちあげれるし親族の証言なんて、いくらでも口裏を合わせれると反論。
自体が前に進みそうにないと思った、お偉いさん達は確固たる証拠を持ってないエリエの言い分を聞かず、あの作品はドミニエルのモノと決定づけた。
本店側の人達からしたら、これ以上時間を無駄に出来ない…彼らにとっても事態の真相などそこまで重要なものではないのであるから…。
エリエはなんとか決定的な証拠を探したが、先に抗議に行ったのがまずかったのかドミニエルの暗躍で小さなことも全て消されていたのである。
それでもとエリエはなんとかしようとしたのだが、ある日の夜…父が彼女の頬を叩き、口を開く。
「これ以上、騒ぎを大きくするな!!! どれだけ、周りに迷惑をかけていると思っているんだ!?
お前の起こした騒ぎは今、街全体にまで知れ渡っている! 良い笑い物だ!
服を創作するのが夢って言っていながら…最近では騒ぎの証拠を集めているだけらしいな!?
そんなことに時間を使うなら、もう、ギルドで働け!
それも嫌だと言うのなら、もう出て行きなさい!!!」
言い終わり、はあはあと切らした息を整えるエリエの父。
そして、額に手を当て、自分の部屋へと戻っていった。
それを見た、エリエは自分が呆れられたと思った。
(何よ…! あの作品は…アタシが作ったモノ………。
色んな人に知恵を貰って…毎日毎日、考えては描いて…捨てて…。
それが形になって、お母さんも感動してくれて………ああ…お父さんは見てなかったっけ…?
そっか…お父さんはアタシの夢に否定的だったもんね…。)
この時、彼女は心配してくれない、父に憤りを感じてしまった。
「もういいや………。」
正当に評価できない世間やズルい人間…そして身近な人間に応援もされないと思ったライナは夢を諦め、父の言う通りにギルド役員になった。
しかし、その出来事で荒んだ彼女の勤務態度は最低評価であり、クワール街のギルドへと
ーーー
「うーん…?」
テーブルに顔を伏せていたエリエ…どうやらうたた寝をしていたらしい。
このお店は娼館区画にある、一軒の酒場。
そこのカウンターで高アルコールタイプの葡萄酒をあおっていた。
(ちょっと寝てた…? 嫌な夢、見た気がするわ…。)
おつまみの一口サイズチーズとドーナツ型の乾パン。
チーズをひとつ口に運び、ウッドタンブラーに入った残りの葡萄酒を飲み干して追加を注文する。
これで4杯目である。
(はああぁ〜〜〜………マジ気分最悪ぅ………。)
そして、またテーブルに顔を伏せる。
最近、彼女のメンタルにモヤがかかることが多くなっている。
彼女がこのクワール街に来たのは17歳。
現在、19なのでこの街に来てもう、2年…。
この街で過ごすにはタフな精神が必要である。
彼女は元々、強気な性格だった為、風貌悪く、口調の荒い相手にもなんなく対処していた。
いつ襲われるのかわからない為、渋々、街の警備隊やギルドの上司達に身体を売り、自分に何かあれば相手がどうなるかという事もわからせるように立ち回っていた。
身を売った事で開き直り、小遣い稼ぎの為に男の相手もするようになった。
昔の良識や倫理が整っていた自分がどんどん、荒んでいくのがわかっていったが別に気にしなかったし、むしろ、その背徳感にゾクゾクしている自分もいた。
真面目に夢を追っていた昔の自分とは程遠くなっている…。
だから、腹が立ってしまうのだろうか?
こんな街で頑張って真面目に働いている黒四円を見るのが…。
「ああーもう! ちょっと! 葡萄酒まだなの!?」
「ああん? うるさい姉ちゃんだな…黙って待ってろ。」
「なんですってー!?」
酒場の主人の態度が気に食わなかったエリエ。
「いやー、見ていたけど、随分と荒れてるねーエリエちゃん?」
「ぁん?」
言い争いが始まりそうな間を割って入ったのは20代半ばの胡散臭そうだが顔の整った色男。
彼はカルという名のギルド作業者であり、エリエも何度か応対している。
「まあまあ、そんなピリピリしないで。
マスター、この娘が頼んだもの自分が払いますから出来れば素早くお願いします。」
笑いながらそう言うと主人は舌打ちをしながら、作業に戻る。
そして、カルはエリエの隣の席に座るがエリエは不機嫌そうに彼を睨む。
「誰も奢ってなんていってないんだから、礼なんて言わないわよ…? 後、隣に座んな。」
「つれない事言わずにぃ〜。 何かあったんなら聞くよー?」
そんな風に優しくしてくるのだがエリエは鼻で笑う。
彼女も長い間ここで暮らしているのだから、こうゆう相手が親切にしてくる時は決まって何か下心があるに決まっているのだ。
「ほら、何か嫌なことがあったんなら言ってみなよ? 力になるから。」
「…。」
エリエはカルの顔をじぃっと見る。
(どうせ、1発する事しか考えてないんでしょうねー…男ってホント…。
まあ…いいかな〜それでも…。
1人で呑んでてても結局、嫌なこと思い出すっぽいし…。
呑んでヤリまくってたら、流石に気が紛れるでしょーし…。)
とにかく、憂鬱な気分を晴らしたいが為に彼女はそんな事を考え、睨む事をやめて、彼を見つめる。
「ホントに力になってくれるの?」
「ああ、もちろん。」
「じゃあ、今日、男でも釣って稼ごうと思ってたんだけど〜…。
貴方はどうかな?」
「〜〜〜♪ 〈口笛〉
今日は、だーいぶ手持ちに余裕あるからな〜…いくらだい?」
「1回10,000Y。」
「はっはっはっ!吹っかけるねー!?
悪い娘だよ、全く。」
「どうせ、悪い事して稼いだんでしょう? そっちだって。」
「ふふふ…オーケー! その前に俺もほろ酔い気分にさせて貰ってもいいかな?」
「はいはいどうぞ。」
馬鹿が釣れたと内心ほくそ笑み、無料になって運ばれてきた葡萄酒を飲み干すのであった。
◇ちょい記載 設定のお話
エリエ・ゼンは、13歳にギルド学校に入学し、14歳に卒業試験を合格。
両親が子供の時から勉学を教えていたとはいえ、1年という期間は異例のスピードであった。