ライファン[LIFE FANTASY]〜抜忍人生第弍録〜   作:モノイクロ

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37のお話[過去]

 

 

 

話は遡る事、三ヵ月前…。

 

黒四円(こくしまる)達が和々城(わわじょう)という歌山国(かやまこく)の一城とその主を落とし、自分達の里がある宵ヶ山(よいがやま)へと戻ってきた時である。

黒四円が一仕事を終えた後、彼の義兄である壱黒道(いっこくどう)から数夜忍衆(すうやしのびしゅう)の長・幻夜(げんや)から直接、話があると聞かされた。

 

 

 

 

 

そして現在、黒四円は壱黒道の背を追いかけていた。

里の中にある、幻夜と壱黒道が住んでいる、この前、精鋭六忍が集まった屋敷の後ろ方面を駆ける事、三十分…壱黒道が立ち止まる。

目の前は山崖になっており、登らなければ先には進めそうにないのだが壱黒道は崖の岩壁に向かって歩く。

(ああ、これって…。)

黒四円が気付くと同時に壱黒道は壁に吸い込まれるように消えていった。

(幻術か…。)

 

修行時代に幻夜から見せられた幻術を思い出す。

 

 

数夜忍衆長・幻夜の繰り出す忍術はどれも高度なものが多かったのだが、取り分け極まっていたが幻術。

蔓で縛れる幻を見せられれば本当に動けなくなり、刃物で突かれる幻を見せられれば、その箇所に激痛が走る。

理解していても、夢か現かの判断も曖昧になってしまうほどの精巧差。

 

彼の幻術を事前に調べ上げていた敵対忍の多数。

そんな相手達を幻夜は、水中に引き込む幻術で溺死させる瞬間を黒四円は見ている。

 

 

(宵ヶ山の隠れ里でも見つけるのは困難。 この場所を見つけるのは容易ではないな…。)

黒四円も続いて、岩壁の幻を越えていく。

 

 

ーーー

 

 

 

「鍾乳洞…?

 里の近くにこんな場所があったのか…。」

 

幻の壁に通り抜けるとそこには大きく広がる穴ぼこの中。

岩層が不規則に並び積まれ、上につららの様に固まった乳白色の鍾乳石達。

灯かりが指されれば、神秘的に見えもするのだろうが真っ暗闇の今では、冥府へと続く…そんな禍々しさしか感じられない場所であった。

 

「この奥に長が?」

「最奥ではないがここを進んでいけば神社がある。」

「神社? こんな所に?」

「昔の者達が建てた、荒れた産物だ。

 なんでこんな場に建てたかなんぞは知らん。

 信仰者の思想など、俺には理解できないからな。」

「ふーん…。」

壱黒道は関心薄に答え、黒四円もそこまで興味がないので適当に返事をし、奥へと進んでいく。

 

無論、整備された足場などではないので常人が進むのは困難であるのだが、忍である二人は夜目をきかして、進んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そうして進んで行き、灰色の石鳥居が見えた。

斜め右に行ったら、更に洞窟の奥に…。

斜め左の方は、岩壁が崩れ落ち、外が見える。

現在は夜空に浮かぶ月が光を指してくれ、この空間を少し照らしてくれていた。

 

(こんな所に、爺様は今はいるのか…。)

齢九十を終え始める老人の住む所ではないと黒四円は思ってしまう。

 

 

「あの中に幻夜長がいる。」

「そうか。」

「では、俺は里に戻る。」

壱黒道は、岩壁の崩れた箇所から外へと跳んでいき、洞窟から出て行った。

 

 

黒四円は、足を進ませる。

 

一の石鳥居を潜り抜け、橋を渡っていく。

掛けられた橋の下は堀池になっており、昔は水で満ちていたのだろうが今は枯れてしまっている。

 

橋を超え、三十程の石段を登りきり、二の鳥居を潜る。

ぼろぼろの狛犬の石像や枯れ荒れた手水舎を横目に社殿の扉の前に着く。

この扉を開けると拝殿となり、その奥に神楽舞台と社殿でもあるのだろう。

 

 

 

 

~~~♪

 

 

 

「ん?」

扉を開けようとした黒四円だったが、一つの楽器の音色が聴こえてきた。

 

弾きなれた趣深い演奏………だが、妖しく…狂わす…。

まるで地表の底の底に引きずり込もうとするような…………そんな音の波。

 

 

(琵琶の音…?)

黒四円が左側を見る。

 

社殿、出入り口の左右の廊下にはそれぞれ別の部屋がある。

右は小ぶりなお社が見えて、左の方は社務所になっている。

そして、社務所よりも奥…、渡り廊下を超えていくとここに訪れた者を泊まらせる為、もしくはこの神社で暮してた者達のものなのか、三部屋しかない長屋が見えた。

 

その長屋の一番奥。

岩壁が崩れ、外と繋がっている場所から一番近い部屋から黒四円が聞いた、琵琶の音がした。

 

 

「来よったのぉ~…黒四ぃ~…。」

琵琶の演奏が続くが集会で不気味に一人でに動いて、喋っていた頭蓋骨の声の主が部屋の中から彼に向って話しかけてくる。

「はっ。 お待たせいたし、申し訳ありません幻夜長殿(げんやおさどの)

 黒四円、だだいま参上しました。」

戸の前に立ち、開けずに片膝を付いて頭を下げる。

 

「壱黒のように固い挨拶じゃの〜。

 今は儂等だけ…(じい)と呼びぃ?」

「…はい、幻夜爺様。 失礼します。」

「ぉう。」

戸を丁寧に開け、部屋の中に入る。

 

この部屋内…その左側の壁が倒壊している。

理由などはわからないのだが、この部屋は左の角部屋にあたる。

この洞窟空間の左方向の岩壁も崩れ、外が見えている為、幻夜は今、外の景色を見えるように座して、琵琶を弾いていた。

 

「どうじゃ、黒四?

 道楽で弾いているんじゃが、人に聞かせられるぐらいにはなったと思うんじゃがの〜?」

「はい、良いです。」

「そうかぇそうかぇ。」

「月を見せるとは…本当に見事な幻術です。」

黒四円が何気ない様子で言うと幻夜は琵琶の演奏が止まった。

そして、岩壁崩れから見えていた空の月がすぅっと消えていってしまった。

 

「ひょひょ〜。 よく見抜きおった!」

「戯れを…。

 今の刻、あんな位置に月などありえません。」

「ふふふ、そうじゃの。」 ベンベン♪

月灯りがなくなり、暗くなってしまったが、幻夜が琵琶を二回弾くと部屋に備え付けられてた蝋燭に火が灯る。

 

 

「じゃが、さきの月の幻…気づかん者は本当に気づかん。

 思慮浅き者…知識不足…はては、事の最中なのに、危機感の欠如により目もくれん者。」

「浅い、足りない、呆け…其れ等、全ては死期を早める敵である。」

 

「そういった者達ばかりなら、忍働きも楽なんじゃがのぉ〜。

 秀でた者を相手にするのは、骨が折れるものじゃ。」

「対象滅殺。 如何なる手段も用いろ。

 所詮相手は、(ことわり)ある者…殺りようは必ず有る。」

 

「そういう者が儂の命を聞いて動いてくれれば、一番楽なんじゃがの~。」

「数夜の掟と長の(めい)は、絶対。

 それ、犯す者…幾夜の総てがその者に死を与える。」

 

 

「……十数年前にお前さんへの世話を壱黒に任せ、それっきりじゃったが…掟をすぐに口に出せるぐらいには、まだ心には留められているようじゃの。」

「掟は絶対。 違えたことなど一度もありません。」

「ふむ……では、情に関しての教えを言うてみぃ?」

「…。」

一瞬、間が空いたがすぐに口にする。

 

「我等容赦無し。

 対象ならば病人だろうが赤子だろうが始末する。

 人非ずの者となれ。」

四ノ蔵で和々城の家臣とその嫁を拷問をし、殺害した時の様な冷たい瞳になっていきながら。

 

「うむ。

 お主にはこの戦乱の陽ノ本を生き抜ける才をもち、儂が一から育てた息子。

 歩や桂馬の代えなんぞは見つけられるが飛車角辺りは早々見つからん。

 くだらんことで無くしとうない…お主は代えの利かん駒に成っているということを自覚せい。」

「御意、ありがたきお言葉。」

頭を下げる黒四円。

 

 

 

===

 

黒四円は自分の出生をよく知らない。

赤ん坊の頃に森に捨てられていたと幻夜から聞かされたので実父や実母の事など何も知らない。

子連れの夫婦を見て、自分の親はどんな人達なのかと疑問に思うこともあるが手がかりも無いそんな事に時間を割こうとも思えなく、次第に彼は実の親への関心など、とうに無くなっていった。

 

当時の幻夜は、壱黒道と数名の仲間だけという、数夜忍衆とも名乗っていないはぐれ者の集まりであった。

人員補充の目的か、はたまたは気まぐれなのか…その辺りの心境を本人から聞いたことはない。

 

拾われた彼は一年間、幻夜に付いてきていた男女二人に育てさせたがこれは幻夜の洗脳の一手目。

育児をさせた二人を幻夜は掟破りの名目で殺し、その様を幼き頃の黒四円に見せつけながら暗示の言葉をかける。

 

 

「黒四よ見ぃ…意志が抜け落ち、腐り果てる肉塊へと成り下がる…これが死じゃ…。

 これは誰にでもいずれ訪れる事じゃが…頭・力・情に弱き者には特に早く訪れやすい。

 お主はこんな惨めな姿に早くなりたいか? 嫌じゃろう。

 

 ならば強うなれぇ。

 強う強うなれば、こんな風に他者に命を握られること無く、己が好きな様に生き抜いてゆけるぞ?

 

 良いか? 強くなれ…強くなれ…強くなれ…!」

「…。」

「強くなれ…!強くなれ…!強くなれ…!」

 

 

通常、赤子が物事を記憶し始めるのは個人差があれど、大体で三年後といわれている。

しかし、当時一つだった黒四円は彼の育ての男女二名の死に顔…そして、幻夜の言葉を思い返せてしまう。

 

そして、彼が最初に喋った言葉は…。

「っ~よぉ~…なぇ。」

これを聞いた幻夜は狂喜の笑顔を浮かべる。

 

 

こうして、黒四円はこの記憶や掟などを胸に幼少期より過酷な修行時代を送る。

おおよそ普通の子供が送ることのないような激烈な修練の日々。

彼の才能や幻夜の暗示と非情な教えにより彼が十になる年まで過ぎた頃に幻夜は彼の修行を終える。

そして、孫の壱黒道に託し、様々な戦地や任務の経験をさせ、十四になるまでに彼は非常に優れた忍の一人へと変貌しているのであった。

 

 

===

 

 

 

 

「さて、小言はこれぐらいでいいじゃろう。

 此度呼んだの他でもない、お主に潜伏の任を与える為じゃ。 緒有賀ノ国(おうがのくに)へと向かってもらう。」

「緒有賀…あの帝国(みかどこく)と同盟を結んだ?」

「左様…。 歌山が獲れれば、次なる国盗りはあそこになるじゃろうしな。

 三嶋の業突く張りには何も言われておらんが、まあ構わんじゃろう。」

「わかりました……、事を急く理由は聞いても?」

「ん? ふむ…まあそうじゃのー…。」

顎をさすり、少し考える幻夜だったがすぐに答え始める。

 

「強いて言うなれば、帝国を治めている晴帝(はれみかど)…、その身柄を抑えたいのじゃ。」

「え?」

その返答に少し意外があった黒四円。

 

 

現在、陽ノ本の地は割れ、各国の主が別の地を手に入れようとしているとする戦乱時代。

しかし、三百年前までは帝国が陽ノ本の地、全てを治めていた。

 

「この歴史は黒四、お前さんも知っておろう?」

「はい。

 古代から存在し続けたという帝一族が陽ノ本中央に国を造り、全ての地を手に入れ、治め続けてきた。」

「その統治が続いたのが約六百年というのだから大した話よのぉ。」

「しかし、それも徐々に衰退。 今では国力もなく…帝の威光に縋っているだけの弱小国では?」

「そうじゃ、国自体には最早それほどまでに価値のない。

 しかしじゃな…。」

 

 

琵琶を悠然に弾きながら幻夜は話を続ける。

その琵琶の音で火の強さが変わったり、幻の蛾を出したりと様々なことをおこしながら。

 

 

「話が変わるが黒四、お主は勇者という存在を知っとるか?」

「? いえ…。」

「言うなれば、この世界が生み出した、光の存在というべき者かの~。

 この世に災いの渦が巻き起ったとしても、光から産まれた存在がそれに立ち向かい、生きとし生けるものに勇気を与えるであろう。」

「はあ…。」

創作された書物の一行のようなものを読み聞かせられても反応に困る黒四円。

 

 

「ひょっひょっひょ、まあそんな反応をするでない。

 その勇者というものなんじゃが、先天性で生まれることが多いと聞く。 ようは血筋じゃ。」

「血筋…。」

「勇者として生まれた者の能力は凄まじい。

 超回復や怪力、無尽蔵の魔力などといった特異な力を持つとのことじゃ。」

「その特異の力を晴帝が有しているかもしれないと?」

 

晴帝の身柄の確保と勇者の話。

二つの内容と話の流れから黒四円は合点がいった。

 

「当たりじゃ。」

「話は分かりました。 しかし…。」

「そんな、与太話を信じているのか?っとでも言いたげじゃの~。」

「世界は広いのでそういう存在がある…そこは疑っておりません。

 しかし、帝国の今の領主がそんな力をもっているというのは…。」

「まあ、そうじゃの~。

 ならば、なぜ六百年も統治していた国がいきなり衰退し始めたのかなどの疑問もある。」

「はい。」

「しかしじゃな、帝の一族が何故、陽ノ本を統一出来たのか?

 何故、それを長年続かせることが出来たのか疑問なんじゃ…。

 

 しかも統治の仕方は武力による圧政ではなく、信仰に近いものだったというらしい。

 帝国が今日まで残っているのも勇者の血筋を信じ、そこに手に出すのが畏れ多いと周りが思っているのだと儂は睨んでおる。」

「確かに武士は妙に験を担ぎたがりますからね。」

「そういうことじゃ。」

「では、早く緒有賀を落として、事の真偽を確かめましょう。」

「ひょっひょっ、頼もしゅうなりおって。

 では、行って参れ、黒四。」

「御意。」

頭を下げた二~三秒後、彼はその場からいなくなった。

 

 

 

 

 

 

 

「ふむ…。」

ひとしきり奏でられていた琵琶の音が止む。

静かなになった時間の中、幻夜の動きも止まる。

 

「くききっ…。」

しかし、何かを考え終えたのか、再び琵琶を弾き始める。

異常じみた笑みを浮かべながら。

 

「この忍ごっこも、もはや佳境に近きこと…。

 三嶋の天運は切れておるし、あれの処理も進めようか。」

岩壁の崩れに幻術がかかり、外界の景色がなくなる。

琵琶の演奏での術である。

 

幻術の壁が貼られると幻夜は立ち上がり、部屋を出ようとする。

九十九の年齢とは思えない、背筋は張った立ち姿で琵琶を抱えて…。

「予定よりも永きトキを要したが…。」

 

 

 

 

 

ヒノモトハ亡クナル

 

 

 

 

 

 

 





◇ちょい記載 設定のお話

黒四円を1年近く育ててくれた男女2名の忍。
夫婦どころか恋仲でもなかったのだが、育児をする内に互いに惹かれ合い、黒四円を連れて3人静かに暮らすことを望むようになっていたが幻夜に悟られ、無情にもその望みは叶わなかった。

幻夜はその二名に恋慕の情が芽生える事も織り込み済みで黒四円の育児を任せたのであった。





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