ライファン[LIFE FANTASY]〜抜忍人生第弍録〜   作:モノイクロ

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40のお話

 

 

 

 

 

「こんなもんか。」

街外の森の中、手に取ったキノコをギルドの貸出備品の籠の中に入れる黒四円(こくしまる)

 

マラリアの手伝いを終えた後、彼はギルドの仕事で日銭を稼いでいた。

小鬼(ゴブリン)討伐とこの辺りでの落とし物の発見の依頼も完了。)

キノコ採取と並行して進めていた、別件の仕事も済んでいる事を確認する。

 

 

 

 

彼がここに来て、10日余りの日が過ぎた。

 

現在、作業者ランク5。

ランクを10にするには、地道に依頼を達成して1年と掛かる。

しかし、彼の仕事の達成スピードは他の作業者達よりも頭ひとつ抜け、何よりも黙々と依頼をこなしてきた姿勢が、評価に繋がっていったのだ。

 

(この`ぽるちの`という茸…食えるのか。)

依頼品のキノコの持ち、しげしげと観察し終え、籠を背負い街に戻ろうとした、その時…。

 

 

 

ッブゥオギャアァーーー…!

 

 

 

「っ!?」

突如、森の中で響く大きな雄叫び。

黒四円は、腰に備えたククリに手を添え、その方を瞬時に向く。

 

(魔物か?)

何かが向かってくる気配はなく、危機もあまり感じない。

それどころか今の雄叫びは威嚇や縄張りを示す行為ではない…。

(今のは断末魔?)

死に際の魔物の咆哮が気になり、黒四円は気配を殺しながら、その方へと向かってみるのだった。

 

 

 

 

ーーー

 

 

 

 

「ブルルゥゥ…。」

「どうした? 怖気付いたのか? 

 害悪共が。」

 

黒四円が着いて目にしたのは、1体のオークと4匹のゴブリン。

そして、既に1体…屍になっているオークの前で十文字の朱槍を構える凛然とした女性。

フレイヤである。

(あれは、さっきマラリア婆さんの所に来ていた。)

木の上から彼女を見て、すぐに思い返す黒四円。

 

 

 

「「ギギギャアァーーー!」」

すると2匹のゴブリンが簡素な武器片手に襲い掛かってくる。

(策のない…。)

 

「ヒギャッ…!」

フレイヤは飛び掛かってきた前側のゴブリンの頭を突きで仕留める。

しかし、一緒に突っ込んで来ている、後方にいたゴブリンがその隙に前に出て、飛び掛かろうとしてきた。

 

「はあぁ!」

「ギッ…!?」

だが、フレイヤは滑らせながら、持ち手を短く持って横に振る。

十文字特有の左右に出た(やいば)でもう1匹のゴブリンの首筋目がけて、横刃で抉る。

 

「ふん!」

そのまま槍を自身の体に1周させ、刺し殺したゴブリン2体が地面に転がる。

逆手に持ち変え、腰に添えて横流しのまま構え、残りの魔物達を睨む。

 

「ッブバアァーーー!!!」

逆情したオークが向かってくる!

オークは、ゴブリン達と違って武器すら持ってはいない。

しかし、3メートル近くある巨体が彼女を握り潰そうと手を前に出しながら、突っ込んでくる。

 

だが彼女は、しゃがみ込みつつ、先程とは逆に持ち手の先端ギリギリまで持って、リーチを伸ばし、オークの片脛を横払いで薙ぐ。

山型の刃先が深くオークの脛を抉り、オークは前のめりに倒れる。

「たああ!!!」

「ブゥギェッ!?」

オーク倒れている間に跳んでいたフレイヤ。

脳天目がけて、刃とは逆側についている石突と呼ばれる部分で彼女の体重をかけた真上からの真っ直ぐな振り下ろしがオークの頭を貫いて仕留める。

 

「ギャギャアァーーー!!!」

「む!?」

オークのトドメを刺している隙に残ったゴブリンの1匹が彼女に襲い掛かろうとしてきた。

 

ザクッ「フギャッ!?」

「っ!?」

しかし、不意討ちゴブリンの後頭部からククリナイフが飛んでき、それが深く食い込む。

 

「ギギャ!?」

残ったゴブリンは自分の後ろから飛んできた事に驚き、振り返る。

同時に黒四円がゴブリンの横顔に目がけて後ろ回し蹴り一閃。

 

蹴りを振り抜いて、横一周にクルッと回る黒四円。

鋭い蹴りでゴブリンの首が横一回転に捻れ、そのまま崩れ落ちたのだった。

 

 

 

「怪我はないか?」

「…ああ、ありがとう。」

気遣いの言葉をかける黒四円。

しかし、感謝の言葉とは裏腹にフレイヤは彼に不審な視線を送っていた。

 

「それで、見返りの要求か?」

「何?」

「少額なら金を渡してやらなくもない。

 だが、過度な要求をするつもりなら、怪我をすると思え。」

槍の刃を彼に向け、威嚇するフレイヤ。

 

「何故、敵意を向けてくるのかわからんが、別に俺は何もいらん。

 危なそうだったから助けただけの事だ。」

「あの街に移り住んで3年近く…。 そうやって善人面して体を要求され、無理矢理拉致されそうになった事は数知れない。」

「…。」

彼は納得してしまう。

フレイヤは黒四円が善良な人間のフリをして、自分に何かしら良からぬことを企んでいると推察したのであろう。

 

 

彼女はライナの長い友人だ。

何泊も家に泊めて、故郷に無事送り届けようとする。

先程、マラリアの所にも顔を出し、黒四円にはわからないが何かの世話をしてもらい、お礼を言いに顔を出す程の義理固さを持っている。

 

そんな女性にここまで警戒心を植え付けている事にクワール街という街の業の深さは罪深いものだと黒四円は改めて思った。

 

 

「何もいらない。 何度聞かれても俺の答えはそれだけだ。」

「なに?」

「それよりもそのオーク討伐が依頼なんだろう?

 さっさと証明できる部位を刈り取ったらどうだ?」

「………ふん。」

腹を立てている様子を出しながらも彼に言われた通り、色々な用途で使えるキャンプナイフを手に取り、オークを討伐したとわかってもらえる部位を切り取る作業に移ろうとする。

 

「…。」

「…ねぇ?」

「なんだ?」

「なんだじゃない。 終わるまで待つつもり?」

「まあ…そうなるな。」

「そうなるって…だったら、もう行けばいいじゃない。

 何もいらないんでしょう?」

「そうだが、作業をやってる間に魔物とかに襲われるかもしれんし…。」

「見くびらないで。 常に警戒はしているし、貴方に助けられる筋合いもない。

 そもそも、さっきの2匹のゴブリン…あれだって、私1人でどうとでも出来た。」

「だろうな。

 槍を持たされた雇い浪人や百姓、練度の低い足軽、そんな水準の低いものじゃない。

 あれは槍での闘いに長けた者に教わった技術、流派だ。」

「…。」

「闘いの流派を学んだ者ならば、槍だけしか使えんこともないんだろう?

 あんな魔物達に遅れをとるとは思ってなかったさ。」

「ふーん。 心得はあるみたいだね。」

「ああ。」

警戒ばかりしていたフレイヤだったが、少し表情が和らいだ。

 

クワールの人間達は基本的に浅く見たことでしか物事を図れない。

しかし、この青年はフレイヤの動きを見て、彼女の内側にある1つのものを理解した。

そう思い、フレイヤは多少は警戒を緩めても問題ないと思ったのだ。

 

 

 

 

(だが…なんだ?

 この女を見てると…なにかこう…引っかかるな…?)

そんな彼女の心境に対して黒四円は、妙な感覚を持ち始めた。

 

(昔、何処かであった事のあるような………いや、初対面だ、間違いない。

 だが、あの槍捌き…身に覚えが…。)

彼女の事で関連しそうなことを頭の中で探すがイマイチ黒四円の中ではピンとくる情報はなく、「うーむ」っと考えることしか出来ない。

 

 

「そういう貴方は陽ノ本(ひのもと)の人間?」

「ん? ああ、そうだ。」

「あの軽い身のこなしは(しのび)か何か?」

「ああ。」

「へぇ…知ってはいたけど、見るのは初めてね。

 しかし、やけにあっさり答えたな? 忍は口が固いって聞かされてたのだけど。」

「俺は抜忍(ぬけにん)だ。

 少し前にこの大陸に流れ着いた。」

「ふーん、そうなの。」

 

そうこうしているうちにフレイヤは、オーク討伐の証明部位を取り終えていた。

 

「まあ、少しは常識を持っているみたいね。

 何もしないって言うのは信じる。 今の所は。

 私は、フレイヤと申します。」

「フレイヤ? あんたがそうなのか?」

「?」

「いや、ライナの友人っていう…。」

「…ああ! あの子が話していた黒四円って貴方の事。

 そういえば、あの子が言ってた、風貌と一致するわね。」

「そうか。

 あいつは故郷に無事帰れたか?」

「当然。

 あの子は私の大事な友人…何事もなく、両親の元に送り届けた。」

「そうか、良かった。」

 

黒四円の眼差しが少しだけ和らぐ。

よく見なければわからない、些細な変化だがそれに気づいたフレイヤの表情も柔らかくなる。

自分の友人の安否を気遣ってくれたことが純粋に嬉しかったのだ。

 

 

「ん?なんだ?」

「えっ? ああ、いえ…なんでもない。」

顔をまじまじと見られていたことに気付き、問いかけてみた黒四円だったが、彼女は咄嗟に話を濁す。

 

「それに、あの子の話だけじゃなく、ギルドとかでも貴方の噂は色々と聞いていた。」

「そうなのか。」

「ええ、顔と名前は一致していなかったけど…別に話してみようって気はなかった。

 ギルドの仕事はこれからも私1人でやっていくつもりだったし…。」

「複数人なら仕事も捗ることもあると思うが?」

「あんな街のギルド作業者なんてアテならない。 悪行に手を染めるか怠慢な者達ばかり…。

 真面目に仕事をしてる者の方が稀有な目で見られる。」

 

そう言われ、まだこの街に来て10日あたりの黒四円にさえ、身に覚えのあることが数度あった。

 

 

「あの街は本当に腐っている…!

 街の警備兵が一般人に薬を売っているのを目撃した。 街を守る警備兵がだぞ?」

「薬って、病に効く様なやつか?」

「そんなのじゃない! 国が禁止している違法薬物だ!」

「…そういえば、ギルドの蔵書で読んだな。 どれも依存性が高いらしいな。」

「そうだ、人の人生を平気で狂わせるものだ。

 売る方が悪いのは前提だが…なぜあんなものを買おうとする…!?」

「………さあな。

 俺は欲しいと思った事ないんでな。」

「…。」ギリッ…

 

歯を嚙み締める音がかすかに聞こえる。

フレイヤという女性は正義感と道徳心が人よりも強いのだろう。

 

「不思議だな。

 何であんたの様な心根の人間がこんな街に居続ける?」

「っ!? ………そこまで話すつもりはない…!」

口惜しそうしながらそう言い、彼女は帰る方角へと歩いていく。

 

 

(そういえば、病気の母親がいるだったか?)

ライナに会いにフレイヤ宅を訪れた時に彼女が看病を代わりにしていると聞いたことを薄っすら思い出す黒四円。

 

「色々あるんだな…一人一人…。」

ぼそりと小さく呟き、黒四円も街に戻ろうとする。

 

少し距離を取りつつ、彼は彼女の後ろを歩く。

そして何故だが、彼女の背中を見て、ひどく重そうなモノが圧し掛かっているように彼は感じるのであった。

 

 

 

 

 






◇ちょい記載 設定のお話

【オーク】
灰緑の特徴的な肌色を持つ、二足歩行型の哺乳類。
幼少は只人族の赤子と同じぐらいだが成長すれば、どの個体も平均2〜3メートルの体躯へとなる。
容姿は豚とよく似ているが知識を有す。

魔物本能を強く持ち、意思疎通が不可能なオークは害悪として判断され、ギルドから討伐対象と認定される。

言語理解や社会に適応し、多種族とも友好な関係を結ぶ個体も一定数存在し、世の中に適応したオークは、オーク人として呼ばれ、一種族としてこの世界では見られている。


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