ライファン[LIFE FANTASY]〜抜忍人生第弍録〜 作:モノイクロ
夕暮れ前。
夜更けからクワール街は欲を発散させる街へと変わる。
その為、この街の人々は日が落ちる前に動き始めていた。
往来にいる者達は、柄が悪かったり、気が強そうな連中で溢れかえる。
酒場や娼館、賭博場や闇市に携わっている者達は開店準備を進めているのだろう。
そういう意味では、街に奇妙な活気が溢れ戻ってくる時間帯と言えるだろう。
そんな往来を
宛てなどなく、次に何をするかの目的もない。
ただ、ギルドから出た時からある一つの事を考え続けているのだ。
「`ASAHIBANA`…か…。」
いつの間にか中央広場までやって来てた彼は、首無し銅像の周りにある、石造りのベンチに腰を下ろす。
(フレイヤという女…あの男の…。)
「おにいさん、こんにちはー!。」
「っ!? あ・ああ、あんたら茶店の…。」
「パーだよー!
おとーさんともいっしょー!」
「…。」
彼が考え込んでいる時、不意に明るく元気な声をかけてきたのは、【
「おにいさん、なにしてるの?」
「ん? いや…少し考え事をな…。 そっちは?」
「パーたちはね、かじやさんに行ってたんだよ。
あそこのかねおじさんに包丁をといでもらってたのおとーさんが忘れてて、取りに行ってたの。
パーだけでも取りに行けたから、まかせてって言ったのにー。」
「…人が増えてきているのに危ない。
それに、父さんは忘れていたわけじゃない…。 店を閉めたら、【
「ほんとー?」
顔を傾けて、ジィーっと疑いの視線を父に向けるパーネット。
愛らしい娘の仕草を少し見て、自身のツルツル頭を少し触るアイゼン。
その行動を見て、「もー!」っと頬をふくらませたのを見て、黒四円の口角が上がり、和やかな気持ちへとしてくれる。
(ん? そういえばこのアイゼンという主人…ライナとフレイヤが作業者としてまだ、駆け出しだった頃に世話をしていたんだったか…。)
ライナに中央広場で朝食を振舞ってもらった時にそんな会話をした事を思い出す黒四円。
彼なら陽ノ本の字でのフレイヤの姓を知っているかもしれないと思い始める。
「なあ、主人、少し聞きたい事があるんだが。」
「…? なんだ?」
「フレイヤという女の事なんだが。」
「…。」
「わぁ! おにいさん、フレイヤおねえちゃんのこと知ってるんだ!?」
「ああ、今日知り合った。
っと言っても、嫌われてるみたいだがな。」
「そうなの? フレイヤおねえちゃん、やさしいと思うけどなー?
それにつよくてカッコいいんだよ!
まえに人のモノをとっちゃう悪い人たちをやっつけたりしたこともあったんだから。」
「へぇ…まあ、腕が立つのは今日見たな。」
自分のことのようにキャッキャっと嬉しそうに話すパーネットの話を聞く、黒四円。
子供からも好かれてる所を聞くと本当に善良な心を持つ女性だと思う。
「…あの
しかし、店で話さないか? 日も暮れる。」
「ああ、そっちがいいなら。」
「…。」コクリ
「おねえちゃんのお話するの? じゃあ、パーもいっぱい話してあげるー!」
「感謝する。」
立ち上がり、礼を言う。
そして、親子2人と並んで歩き始める黒四円。
道すがらに楽しそうしながら、彼や父の周りをクルクルと回ったり、手を繋いできたりする、小さな外見の大きな元気の塊。
(子供はこんなにも元気なのか…。)
その騒がしさが彼は煩わしいとは、ちっとも思わなかった。
ーーー
18時過ぎの時刻になった【Café・Moku】の店内。
アイゼンが残った店の片付けをしてしまうので娘の話相手をしてくれと言われた。
楽しそうにお喋りしている姿を見て、聞いてあげる黒四円。
父の事や店のお客の事。
ライナやフレイヤ、自分の将来の夢の事など…。
次々と話題が変わり、ハッキリと言って大した内容ではないと黒四円は感じている。
しかし、小さな娘のコロコロと変わる表情やオーバーな仕草が実に面白い。
人という者は、自分のことをちゃんと見て、構ってくれる人間にどんどん懐いていくものであり、それが小さな子供時代ともなればより顕著に現れるものである。
黒四円は、「ああ」や「ほう」っと言った相槌しかほぼ打っていないのだが、パーネットは話を聞いてくれていると思って喜び、更に色々な話題を出す。
相変わらず乏しい表情変化だが、パーネットの目を見て、話を聞いている内、胸の奥が暖まっていくのを彼は感じていた。
そうして、数時間経った後にアイゼンが店の奥から出てくる。
「あっ!パパ!」
パーネットは話を途中で止めて、父の元にパタパタと駆け寄る。
「お店のおかたづけ、おわっちゃった? ごめんなさい、手伝わなくて…。」
「…パーは人と楽しく話すのが上手だ…。
だから、いいんだよ。」
娘の頭を撫でるアイゼンにパーネットは「えへへ。」と笑いながら、嬉しそうな顔をする。
「それに、19時からは勉強の時間だ。
晩ご飯を作り置いているから、それを食べたら、やるんだぞ?」
「えぇ〜………うぅーわかったよ…。」
「良い子だ。
俺も彼と話し終えたら、食卓に行くから、しっかりとやっておけ…。」
「はーい…。 お兄さん! おはなし、きいてくれてありがとね♪」
「ああ、励めよ。」
「は…げ…? まえも言ってたけど、どういういみー?」
「頑張れってことだ。」
「うん! パーがんばる!!
それじゃあ、ごゆっくりね! おにいさん♪」ぺこり
元気よく別れの挨拶を済ましたパーネットは店奥の彼女等親子の私室へと向かっていくのだった。
「…娘の話し相手になってもらって悪かったな。」コト…
礼を言いつつアイゼンは、黒四円の前に木のボウル皿に入った料理とスプーンを配膳してくれる。
皿の中身は、野菜をふんだんに使われた、赤みがかった煮込み料理。
トマト・玉ねぎ・ナス・セロリ・緑豆といったもの達が入っており、香り付けで足された何種類かのハーブ&スパイスが非常に食欲を唆らさせる。
「? 食べていいのか?」
「ああ…。」
「いくらだ?」
「店は閉めてる…その【ラタタユ】は礼の気持ちだ。
野菜も余らせたくないしな…。」
「ラタタユって飯なのか…。 それじゃあ、遠慮なく…いただきます。」
スプーンを手に取りひと掬いし、口に運んだ。
トマトが味の主体だが、そこに様々な野菜の旨味が汁と具材に染み込んでいる。
健康的な食材と温かく仕上げられた【ラタタユ】は、人々をホッとさせてくれる。
「美味い…。」
「…そうか。 話は食い終わってからでもいいぞ…。」
「ん?そうか?」
「安らぎは…必要だ。
考え過ぎは…毒だ。」
「………ん、わかった。」
そう言われ、黒四円は【ラタタユ】を食べる。
口の中に入れ、ゆっくりと味わい、食べる…。
フレイヤの姓の疑問だけではない。
ありとあらゆる懸念や自分の境遇…それらをひと時でも無くすように…。
(ここはCaféだからな…。)
彼が食べ終わるの待ちながら、アイゼンは店のキッチンを簡単に整理していくのであった。
◇ちょい記載 設定のお話
【ラタタユ】
南西付近の大陸で親しまれている家庭料理の一種。
地域や家庭によって様々な味や見た目をしているが、共通していることは野菜を多く使い、ハーブやスパイスと一緒に煮込む料理である。
アイゼンが作ったのはトマト多めの【ラタタユ】であり、チキンなどの肉類と一緒に煮込んでも美味しかったのだが、切らしていた為、今回はなし。
本人は少し納得していなかったが食卓でパーネットはしっかりとお代わりしていた。
ちなみにビネガー仕立てで甘酸っぱく仕上げ、冷ましても美味しい【カポタユ】という料理もこの世界に存在する。
料理モデルは、【ラタトゥイユ】と【カポナータ】から。