ライファン[LIFE FANTASY]〜抜忍人生第弍録〜 作:モノイクロ
「ご馳走様。」
時刻は19時近く。
アイゼンが振る舞ってくれた、【ラタタユ】を食べ終えた
手を合わせて一息つくと、アイゼンが食べ終えた皿を下げ、代わりにコーヒーを置いてくれた。
「何から何まで悪い。」
「自分の分のついでだ…。」
コーヒーを一口飲む、アイゼン。
カウンター越しに黒四円の前に立ち、目を合わせてきた。
黒四円もコーヒーを一口頂き、聞きたい事を聞き始める。
「主人…あんたは確かフレイヤという娘と知り合いなんだよな?」
「ああ…。」
「あの娘が
「昔に聞いている…。」
「そうか、ならばあの娘の姓なんだが…あんた陽ノ本の字はわかるか?」
「ある程度なら…。 書く物、いるか?」
「その方がわかりやすいのなら。」
そのやり取りでアイゼンはメモ用紙と葦ペンを持ってきた。
それを受け取り、黒四円は筆を走らせる。
[朝火華]
「彼女の姓はこんな字だったか?」
「………ああ、そんなのだったな。」
「そうか…」っと呟くと黒四円は、ペンを返し、目を閉じる。
少しの静寂…。
やがて、アイゼンが口を開いた。
「フレイヤと初めて出会ったのは…フリーリアのギルド役所だった。」
「?」
無口アイゼンが言葉多く、語り始めようとしたので黒四円は少し驚いたが彼は黙って聞くことにした。
~~~
傭兵兼ギルド作業者として金を稼いでいた時期のアイゼン。
作業者としても長年活動してきたベテランの彼は、友人であったライナの父から「娘を作業者としてイチから指導してくれ」と頼まれ、彼女と共にギルドに赴いた時の事。
「アイゼンさん…あれ。」
「?」
ライナが指を指した方にはフレイヤが依頼掲示板をジィっと難しそうな表情で見ているのだった。
(この国の者じゃないな…。
恐らく、陽ノ本の
「なにしてるんでしょうね、あの子?」
「…字が読めんのかもしれんな。」
「そっか…じゃあ、手助けしないとね♪」
そう言い、ライナは彼女の元に駆け寄っていく。
アイゼンは一息吐き、呆れる。
だが、嫁と似た、明るくて優しいライナを見て、内心笑っていた。
この時、フレイヤも作業者となったばかり。
最初こそ警戒されていたが、ライナの人当たりの良さとお人好しが功を奏し、徐々に彼女と交流を深めていった。
そして、ライナと共に彼女にも作業者としての働き方をアイゼンは教えていくのであった。
そして、遠方の魔物討伐を完了し、帰路についていた時の事。
夜も更け、3人でキャンプをし、ひと晩明かすことになった日にアイゼン達は自分達の事を話し合っていた。
「おばあちゃんみたいに色んな所を旅して、演奏して…。
そして、色んな人の
「なるほど…だから、ライナは早くランクを上げたいんだな? 他のギルドでも仕事して路銀を稼げるように。」
「うん!そうだよ!」
「ふむ…しかし、ライナは人が良すぎるからなぁ…。
私としては、悪い人間に騙されないとか色々不安だよ。」
「もぉー! フレイヤちゃんはそうやってすぐ私を子供扱いするー!」
「だって…なあ、アイゼン殿?」
「…まあな。」
「むむぅ~…アイゼンさんまでぇ~。」
焚火を囲み、澄んだ星空の下でアイゼンが入れてくれたコーヒーを片手に語る3人。
「あはは! すまないすまない。
何か困ったことがあったら、いつでも頼りに来てくれ。 及ばずながら手助けしよう。
ライナは、私がこの地に来て色々な事を教えてくれた恩人…そして、友なのだからな。」
「フレイヤちゃん…。」
「…俺もだ。」
2人に礼言い、ライナは嬉しそうにコーヒーを一口飲んだ。
「じゃあじゃあ! フレイヤちゃんは何かしたい事とかあるの?」
「私か?」
「そう! 陽ノ本って所から来たんでしょ?
遠い所からわざわざ来たんだから、何かしたいことあるのかなーって思って。」
「私は…そうだな……。 …故郷に、戻りたい……。」
「えっ?」 「…。」
物憂げな表情でフレイヤは答え、ライナとアイゼンは心配そうに彼女を見る。
「あっ…ああ!すまない! 別にこの国にいたくないとかじゃないんだ!
ただ…私がこの国に来た理由は……一時的な避難が理由なのだ…。」
「避難?」
「ああ…少し長くなるけど良いかな?」
「うん」っとライナが返事をして、アイゼンも頷く。
===
フレイヤが生まれ育ったのは、陽ノ本・
春日ノ国を治める春日家に先祖代々から仕えた武士の一族。
それが彼女の姓でもある、朝火華家である。
この時に朝火華家の家督だったのがフレイヤの父、
彼女の父は明朗快活で豪快。
国主である、春日からの信頼も厚く、主である彼とはまるで友人の様に気軽に接する間柄。
春日の者が危機に瀕せば、彼は命を賭して護り抜こうとする…剛の者である。
そんな槍匡がある日、異国の地から来たとある女性に惹かれ、互いを愛し合い夫婦となる。
その2人の間に産まれた子が、フレイヤである。
女人として生まれてきたフレイヤ。
家名を背負う一族として、陽ノ本では第一子に家を継ぐ男児が望まれる。
だが、槍匡は、そんな事など気にも留めない。
我が子を愛しく可愛がり、時代に負けぬように武人の様に強くも育てた。
自身の槍捌きを彼女に教えたのもそういう理由である。
最も、彼は最初、薙刀の扱いを教えるつもりであった。
だが、小さい頃のフレイヤは父の槍を指す。
「父上のやりをおぼえだいのー!!!」
泣きじゃくる娘に折れ、槍匡は自身の槍術を覚えさせるのであった。
そして、年は流れていき、フレイヤが15歳になった年…。
この年から、
最初の年こそ両国、戦況は拮抗していた。
だが、国主・
ある日…槍匡は、フレイヤと妻を呼び出し、妻の母国へと一時避難するように申したのであった。
三嶋の卑劣な策には、人質をとるという行為も多くあり、実際にその影響で三嶋の軍門に降っていった春日の家臣達も大勢見ている。
槍匡は、春日に仕える者であり、生粋の武人。
仮に家族が人質に捕らえられてしまえば、非情の決断をしなければならない。
「一緒に行ってやることが出来ずに悪いな………だが…。」
「国主をお守りし続けるのが朝火華家の武人のお務め…でしょう?」
「っ…!」
「母上…。」
異国から訪れ、15年以上、陽ノ本の地に居続けた、槍匡の嫁でありフレイヤの母。
旧姓を捨て、今では朝火華の姓を名乗る、ヴェローナは真っ直ぐにそう言う。
「ヴェローナ…。」
「武人の考えをすべて理解出来ているわけではありません。
戦争に行き、戦って相手を殺す事や失態や恥を無くすためにお腹を裂く…などという行為もよくわかりません。」
「母上!それは…。」
「だけど…。」
フレイヤが母の過ぎる言葉を止めようとするが、ヴェローナは言葉を続け、微笑む。
「
「……そうか!」
「そのお務めを果たす為に私達が重しになる訳にはいきませんね。
ひとまず、母国に戻ります。」
「そ・そうなんだが…大丈夫か?」
ヴェローナの生い立ちは、槍匡も聞き及んでいる。
彼女は元々、貿易商の娘であり、輸送ついでに父の有する貿易船で親子3人、船旅へと赴く。
だが、その船は夜にやってきた嵐であっけなく難破。
海面を漂っていたヴェローナは運良く陽ノ本行きの船に拾われ、事なきを得たが両親を失ってしまったのだ。
「母国に帰らずにもう、何十年と経ってる。」
「事故の件もあり、故郷でも死んだものとして扱われている。
正直、頼る当てはありません。」
「儂がしようとしてるのは、島流しの様なもんだ…。 それでもいいのか?」
「槍匡様の為になるのなら…。」
三つ指をつき、深々と頭を下げる妻に槍匡は感極まる。
しかし、彼女からしてみれば当然の事であった。
両親を亡くし、悲しみにくれる暇もなく、行った事もない国で強制的に降ろされた。
助けてくれた船の者達は、陽ノ本から仕入れた品や次の航海に必要な食料などを積み込む都合上、例え1人でも余分な食い扶持を乗せておきたくなかったのだ。
船を降ろされ、言葉も知らない異国の地で独り…不安と喪失感で精神が壊れそうになった。
しかし、そんな中で槍匡と出会った。
一目惚れという単純な理由で彼女に話しかけ、屋敷に連れていく。
最初、攫われたかとヴェローナは思ったが、如何わしいことなど何もせず、槍匡は言葉も通じなくても笑いながら話しかけ、彼女の気持ちを少しでも汲み取ろうとした。
孤独感は消えていき、最初は陽ノ本の言葉…そして、文化を覚えていき、この地でもやっていける知識を身につけていった。
そして、槍匡の自分への愛情を感じ、彼女も好きになり、彼の婚姻を受け、娘も授かった。
ひび割れて喪失した、心の中の幸せな水。
それを直し、再び彼は一杯に満たしてくれたのだ。
槍匡には、感謝しかないのである…。
「感謝する、ヴェローナよ…!」
「フレイヤ、貴方はどうするの?」
「えっ?」
両親の話を聞き入っていたフレイヤ。
唐突に自分に質問され、少し面食らう。
「私…は……。」
悲しそうに俯き、しばらく彼女は考え…口を開く。
「父上…私も戦場に立つのは、駄目なのですか…?」
震えた声で父に答えを求める。
「駄目だ。」
「っ…! 女…だからですか?」
「戦場に立たせるには未熟なだけだ、性別は関係ない。」
「私の槍の腕前が未熟だと!?
父上ならいざ知らず、そこいらの有象無象に遅れを取るとは思えません!」
「フレイヤ、お前は戦場をわかっておらん…。
稽古や喧嘩とは違う、本当の戦いの気を感じ、足が竦むかもしれんだろう。」
「…っ!
し・しかし、初めてな事なぞ誰でもあるでしょう!? それを誰しもが通ることでは!?」
「無論、いつか、経験させるつもりではあった。」
「えっ?」
「我が子を…ましてや娘を戦場に連れていく事など、周りから非難されるかもしれん。
だが…お前が望むのなら、連れてってやるつもりであった。
お前は武人なんだからな。」
「父上…。」
「私も了承はしていました。
まあ、もう少し、女性らしい事もしては欲しかったのですが…。」はぁ…
「はっはっはっ!!! 確かにな!
儂はお前を見てて、この娘は妻の体の中に一物を忘れてきたんだろうと今だに思っているからな!」
「笑い事ではありませんよ…。
まあ、ともかく、フレイヤ。
貴方がそうしたいと望むのであれば、そうしなさい。」
「母上…。」
母・ヴェローナの力強い眼差しを見て、フレイヤは再び父・槍匡を見る。
「むう…共に参れ!っと言いたい所だが、此度は母と共に海を渡ってくれ、フレイヤ。」
「ーーーっっっ…! 父上…!」
「これは、お前も避難していろと言っているわけではない。
ヴェローナを…妻を守ってくれ…。」
「っ!?」
槍匡は、胡坐で固めた両手を床に付き、大きく頭を娘に下げた。
そして、その姿を見て、フレイヤは全てを察する。
槍匡からヴェローナを守るように命じられる。
それは、何よりも重要な命を受けているということ。
無論、ヴェローナはフレイヤにとっても大事な家族なので、命令などなくても守りはする。
しかし、自身が尊敬している人物。
その大事な人を守ってくれというその頼みは、誰よりも能力を評価され、信頼されているという証に相違ない。
父の頭を下げる今の姿に、フレイヤは確かに自分が一人の武人として認められている事を受け取り、心が震えた。
「わかりました父上…! 母上は私が必ずお守り致します。」
「うむ、頼んだぞ。」
「それではフレイヤ、いつでも立てるように支度しましょう。」
「はい!」
「ふぅ…陽ノ本の言葉を使いこなせるようになりましたのに…ウエスト語、まだいけるかしら?」
「母上…そんなことよりも心配することが他にあるのでは?」
「わっはっはっはっは!!!」
豪快な槍匡の笑い声。
支度を済ませたヴェローナはその後、夕餉を作り、家族三人で食卓を囲んだ。
しばらく、3人揃って出来ない、家族団欒。
それを夕餉と共に深く嚙み締める。
そして、フレイヤは母と共に大陸に降り立ち、フリーリアという街でアイゼン、ライナと出会うのであった。
◇ちょい記載 設定のお話
ライファンの世界でも、その土地によって様々な言語が存在しています。
ウエスト語 ーーー 大陸の西側で主に使われる言語であり、地方によっては独特な言葉使いをすることもあるが大陸西側に位置する土地では大体これで通じる。