ライファン[LIFE FANTASY]〜抜忍人生第弍録〜 作:モノイクロ
「これぐらいだ…。 俺が知る、フレイヤの事は…。」
アイゼンがひとしきり語った後、コーヒーで口を潤す。
黒四円は黙って話を聞き終えると神妙な面持ちをしたまま口を開く。
「…話してくれて感謝する。」
「彼女の家の事とか故郷の事…お前さんは何か知っているのか?」
「…ああ。 まず、
アイゼンは背を向け、静かに「そうか…」と言う。
その相槌はどこか歯痒そうだった。
「じゃあ、あの娘の父も、もうとっくに亡くなっているということか…。」
「それは…。」
「言わなくていい…戦争している国だ…。
無慈悲な目に遭っている者など…いくらでもいるだろう…。」
「…。」
寡黙だったアイゼンがよく喋る。
それ以上の残酷な現実を聞きたくないのだろう。
「彼女にこの事は?」
「いや…言ってない。」
「そうか…出来れば知らせて欲しい話だが…今は迂闊に語ってやらないでほしい…。」
「…病気の母親が理由か?」
「知っていたか。
あの娘がクワール街に来たのは1年前…。
俺もその時、初めて知らされたが、大陸に渡ってきた1年近く後に病症が出てきてたらしい…。」
「そうなのか…。」
「症状を抑える薬を調合出来る医者がクワール街に住んでいるらしく、フリーリアからこっちに来たんだ…。」
「この街の? 信用出来るのか?」
「わからん…。 一度俺もそいつを見に行ってはみたが、正直微妙だ。
暗くて気の弱そうな医者だったよ。」
「そうか。」
「ただ、見舞いに行ったときにその医者の作った薬を飲ませているのは見ている。
確かに、飲んだ後は少し楽そうにしていたよ。」
「そうか…薬なんて高いんじゃないのか?」
「だから、あの娘は必死に働いているんだ。
薬代やら食べ物など、母親の為に色々と使ってる…。
自分の事に使うことをせずにな…。」
「…。」
「俺も何か力になってやりたいんだが…強く遠慮されるのでな…。
ったく…気を使いやがって…。」
「? なんだって?」
「…なんでもない。」
後半、黒四円に聞こえないぐらいの声量でボソッと呟くアイゼン。
その表情はどこかもどかしそうに見えた。
「色々、教えてくれて感謝する。」 ガタッ…
一通り話を聞き終えた、黒四円。
キリが良いと思い、席を立ち、店から出て行こうとする。
「ああ…。」
「寡黙な店主だと思っていたが、案外喋ってくれるんだな。」
「やかましい…。
念を押すが、あの娘の故郷や父親の事…。」
「わかっている。 安易に伝えたりは絶対にしない。」
「…。」
アイゼンはジッと彼を睨むが黒四円はその視線を受け止める。
接客をするにしては愛想もなく、無骨な態度をとるアイゼン。
だが、その内は、身内を案じ、気を遣える優しさを持っているのだろうと黒四円は感じ取る。
(不器用な男だ。)
そう思うと胸の奥が温かくなり、自然と黒四円の眼差しに僅かな温かさが滲む。
「…。」
そして、その微細な変化を感じ取った、アイゼンは目を伏せ、彼の座っていたテーブルにあるコーヒーカップを片付ける。
背を向けた彼だが、少し安心したように見え、黒四円は頭を下げ、店を後にした。
(あの男は、どういう奴なんだ?)
ドアベルが鳴り響き終わり、出て行った黒四円の事を考える、アイゼン。
アイゼンが初めて彼と出会った時、数多の死臭を感じとり、この男はロクでもない、他国から逃げてきた罪人としか見てなかった。
ライナと入店した時、彼は常に気を張っていた。
彼は、傭兵や作業者時代の時に多くの猛者とも渡り合っており、強者かどうかは見て判別出来る程の実力だ。
店や久方ぶりの友人に危害を加えようものなら、再起不能レベルにまで叩き潰そうと考え、覚悟していた。
しかし、あの時のライナと楽しそうに話している様子を見た。
前にライナを気にかけてくれと言った時に素直に応じたことや理由は分からないが今回のフレイヤの身も案じている事。
そして何よりも実の娘・パーネットが2回目の入店と今回で楽しそうに話してる際の穏やかな彼の雰囲気…。
そのどれもが多くを殺した者のものとは思えない振る舞いだった。
(俺の思っているような奴じゃなかった…?
いや、しかし…。)
自分の判断を疑うがやはり、彼から発せられる血の臭いは今回も感じていた。
彼が危ない人間なのか?そうではないのか…?。
「考えてもわからん事だな…。」
今すぐに答えの出ない事を考えてもしょうがない。
しかし、もし、自分や身の回りの人達に危害が出るようなら、自分は容赦しないと心に決め、娘が食事を終え、勉強に「うーん…。」と唸っているであろう場へと向かうのであった。
ーーー
夜が更けたが、クワール街は活動真っ只中な時刻。
今夜は色々と物思いにふけたかった黒四円は、いつものマラリアが経営する、ポベロンへと泊まろうとし、到着。
ドアベルが響く中、受付台の奥にはマラリア。
そして、見知らぬ2名がいた。
「おや?アンタかい。」
「婆さん、今日も一泊……取り込み中か?」
「「…。」」
入ってきた瞬間、見知らぬ2名は黒四円をジィっと見ていた。
1人は黒い犬型の獣人族。
黒い布地のフード付きの外套を羽織り、焦茶色のベストを着て、革ベルトや留め具で隙なく整えられ、黒革ズボンにブーツ。
細身だが全体的に引き締まった筋肉を宿し、耳を真っ直ぐと立たせるその姿は、獲物を狩る猟犬を彷彿とさせた。
もう1人は只人族に見える女性。
首筋まで伸びたライトグレーの髪。
肌は白く、まるで雪のようであり、服装は白色の羽毛の様に見えるケープを身に纏い、下にはベージュのシャツ。
そして藍色のズボンに革靴。
ピクリとも動かない表情と捉え所のない不思議な雰囲気。
だが、彼女の視線の異様な力強さ。
まるで猛禽類のような鋭さでこちらを窺ってくるように見える。
(
そんな風に好奇心で人物観察をしている黒四円だったが、黒犬の獣人が「グルゥ…!」っと唸り、敵意を向けてきた。
「こら、フリード。 こいつは常連だよ。」
「姐さん、こいつ血の臭いが濃いです。」
「…。」
黒犬の獣人は、フリードと呼ばれた。
自分が威嚇した理由をマラリアに説明するが、彼女は「ふぅ…」と息を吐き、言葉を続ける。
「いいから。
話は自室で聞くから、アンタはルシーヴィラと一緒に奥へ行っときな。」
「わかった。 フリード、行こ。」
「……了解。」
ルシーヴィラと呼ばれた女性は、フリードの服の裾を引っ張り、行こうと促す。
黒四円の姿が見えなくなるまでフリードは睨み、2人は宿屋・ポベロンの奥へと入っていくのであった。
「悪いね、私の家族が。」
「いや、気にしなくていい。
だが、家族ってどうゆうことだ?」
「ああ、まあ、家族みたいなもんってこった。
そんで、今日も1泊だね?」
「ああ、頼む。」
話を流されるが深く聞くつもりのない黒四円は、宿帳に名前を書き、代金を払う。
「毎度あり。
さてと、今日はもう、終わりだね。」
〜現時刻 21:25〜
「早いな? いつも、もう少し開けてるだろう?」
「金ヅルを逃さない為にいつも23時まで受付してやってるが、こうゆう時もあるさね。
あの子等が来て、茶飲み話でもしたいし、アタシの好きなようにやるさ。
道楽でやってるって言ったろ?」
「なるほど。 危うく今日は野宿になる所だった。」
「運が良かったねぇ。
そんじゃあ、よく寝て、明日も働きな。
ああ、部屋の物、壊すんじゃないよ?」
「あいよ。」
「ついでに扉前の立ち看板、閉店にしときな。」
マラリアは、受付台に部屋鍵(24番)を置くと、奥に引っ込んでいった。
何故自分が従業員のように使われるのだろうか?という疑問が黒四円の頭によぎる。
だが、短い溜め息をつくと部屋鍵を手に取り、言われたことを素早く済ます。
(朝に俺と話した様な茶飲み話……なんかではないんだろうな。)
受付所の奥の扉を見つめ、彼は考えを巡らす。
フリード達が黒四円に感じた様に黒四円もあの2人からしっかりと感じ取っていた。
危険な気配…そういった事象を直感で…。
(あの婆さん…本当に何者なのかね?)
少しの好奇心が頭を過るが、彼はすぐにその考えを止める。
何も言ってこない、仕掛けてこない限り関わるつもりは黒四円にはない。
そして、宿屋の主人の正体よりも彼は今、思い馳せたいことがある。
(朝火華…。)
泊まる部屋につき、中へ入る。
扉に鍵を閉め、窓の外を見つめる黒四円。
(槍匡…あんたは昔、感謝してくれたが…。)
遠い目をしながら景色を見る。
いや、景色ではなく、過去を見つめるように…。
「娘さんや奥さんの現状…酷いぞ…。」
ぼそりと呟き、続くように心の中でこう思う。
(あれを見た後もあんたは…感謝できるか?
少なくともあの妻子には…。)
恨まれるだろうな…っと彼は確信するのであった。
◇ちょい記載 設定のお話
【獣人種】
人と獣の中間の見た目をした人族種。
外見は、犬・猫・鳥・馬・牛など多種多様であり、40のお話で記載した、オーク人も獣人種としてカテゴライズされる。